【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
反町「一本電話したい。そのために少し早く出た」
鳳崎「おぉ、彼女さん?」
反町「明日死ぬかもしれんマフィアと付き合う奴はいない」
千尋「……」
みなみ「……」
今回投稿する話に合わせて、前話の内容を一部修正しました。
「――!」
ベンチに腰を下ろし、みなみと次のデートの約束をしていたおれだったが、その直ぐ前を通過した1人の警備員が纏う不審なニオイを嗅ぎ付けた。しかもその警備員、何やら怪しげなリュックを背負っている。
(これってまさか……)
前世で散々関わってきた……というより使ってきたからこそ分かる。爆発物に使われる軍用火薬のニオイ。
何故アイドル達の祭典でそんなものが……? 場違いにも程がある。強烈に嫌な予感しかしない。
(それに、このニオイ……)
ねえ、ちょっと……嘘だよね?
「マーくん、どうしたん?」
「!」
みなみは立ち去ろうとする警備員を睨むおれにキョトン顔。パチパチと瞬きしながら此方を伺う様子はなんとも愛くるしい。癒される仕草と表情である。
内心溜め息。
(……もう少しこの子とデートを満喫したかったのに)
そう本音を溢したくなるが、おれの第六感は絶えずけたたましい警鐘を鳴らしている。もし警備員から感じ取った違和感を放置すれば、大変な事態に発展すると。そんな嫌な確信がおれの全身を駆け巡り、頬から一滴の冷や汗を流す。
(みんなを……何よりこの子を守らないと)
「?」
ずっと追い求めていたんだ。家族を、仲間を……そして恋人を。どれ程の金と地位があろうと決して手に入らなかった大切な宝物。
絶対に失ってたまるか。奪われてたまるもんか。その為にもう一度強くなったんだ。
「ま、マーくん、ホンマどうしたんです? そんな凛々しい目で見詰められたら、その……困ってまうやんけ」
「………」
はうッ!? そうじゃん、好きな人を見詰め続けるとかメッチャ恥ずかしいシチュエーションじゃん! いや今はそれを気にしてる場合じゃないんだけどさ……!
「あ、ごめんみなみ! もしかしたら大変な事が起きてるかもしれないんだ……」
「大変な事……? それって、ついさっきマーくんが睨んでた警備員さんと関係あるん?」
「うん。これはおれの勘でもあるんだけど……」
おれは手短に説明しながら、立ち止まって無線を打っている警備員を観察する。奴から感じる不審なニオイ、気配。何より……
「おれさ、あの男のニオイに覚えがあるんだ。
――Kakabelのお姉さんと最初会った時にもね、彼女達から同じ火薬のような焦げたニオイを感じ取ったから」
「――え? 火薬のニオイ?」
みなみは一瞬固まったかと思うと、次の瞬間には驚愕で目を見開いた。桜色の瞳が全て外気に晒され、照明の光を強く照らして輝いている。
「というか、Kakabel!? ど、どういう意味なんです……!?」
無理もないだろう。この不穏な状況下で、仲良くなった元トップアイドルのお姉さん達を話題に挙げられたのだから。
「確証はまだ無い……でもおれ、こう見えて自分の直感には自信があるんだ。過去に何度か危機が遭った時にも、それで助かった事があるくらいだし――だから信じたくないけど……あのお姉さん達が何か恐ろしい事を企んでるんじゃないかって、そんな気がしてならないんだよ」
「そんな……だってKakabelさん達はあんなに素敵なお姉さんやったのに……」
当たり前だがみなみは信じたくないといった反応だ。本音を言えばおれ自身も気の所為であって欲しい。あの人達は胡桃さんの覚醒を健気に待ち続ける優しい人間性の持ち主なのは、僅か2回の交流で肌に感じていたから。
(寧ろみなみはおれに対して嫌悪感を抱いたかも……)
そんな人達を証拠も無く直感で疑うおれの方が、周囲からすればどうかしてる。かぐやさんや早坂さんですら最初は呆れていた程だ。それでもおれを信じて協力してくれたのは嬉しかったけど――でも。
「……おれの専属カメラマンと、その友達のお兄さんお姉さんから教えてもらったんだ」
実は彼女達には不審な点が幾つか見受けられていた。伝聞という形ではあるが。それはおれが自らの勘を信じるよう後押ししてくる。
――革命の時は来た!!
「革、命……?」
「あの日、胡桃さんの病室に現れた看護師が居たでしょ?」
「確か、田沼渚さん……やったな? 経団連理事の孫娘さん」
「そう。彼女は偶然聞いてしまったんだよ。おれ達が帰った後にKakabelが、一斉にそんな言葉を発してたって」
まるで何かを決意するような、確固たる信念を宿したかのような、強い声色で。
「他にも”外道スポンサー”をどうこうするとか、言ってたみたい」
「え、ちょっと待って下さい。その外道スポンサーってまさか……」
「彼女達に関係があるとすれば……一つしか考えられない」
美津子さんから聞かされた、胡桃さんが自殺未遂した直接的要因――多数のスポンサーや教師からの性的搾取。みなみもおれも、それしか連想出来なかった。
ここからは完全におれの妄想かもしれないが……葵さん達7人は、胡桃さんを地獄に落とした下衆共へ報復するつもりでいる――しかもそれを”革命”という大義名分をもとにして。
更に言えばその手段が――立ち止まって無線を打ち続けている警備員から感じた火薬のニオイから察するに――爆破による粛清を目論んでいるのだとすれば……いやちょっと待って。
(爆破って、このアリーナで……?)
5万人を優に超える人間が集結している。もし爆破なんて起こせば被害は下衆共だけでは絶対に済まない。あの聡明そうなお姉さん達が、そんな簡単な事も分からない訳がない。
外れて欲しい。でもマフィアの”俺”が警戒しろと訴えてきている。おれは一体どうすれば……ここにきておれは葛藤してしまいそうになる。
その時だった。
「……マーくん。正直、ウチは君が挙げた仮説そのものにはまだ半信半疑や」
みなみの真っ直ぐな視線を捉えた。正面からおれを見据える。
「けど、マーくんが自分自身を信じて動く事が最善やというのなら……そうすべきやないかな?」
「みなみ……」
「マーくんは冗談でこんな話をする人やないからな。ウチはよく知ってます」
ニッコリと可憐で、包み込むような温かい笑顔を見せる。
「だからウチもな――マーくんを信じて動こうと決めました」
「……ありがとう、嬉しいよ」
この子は本当に良い女だ。しかし恋人を危険な目に遭わせたくはない。彼氏としてそこは線引きさせて欲しい。
「でもちょっと待ってて? 師匠やかぐやさん達に今回の件について一報入れたいから」
おれは最善へ動き出す。まずは紅林を筆頭に、頼れる大人達に救援を要請。同時にみなみや母さん達非戦闘員を、このアリーナから迅速に避難させる。敵が焦って爆破を早めるかもしれないから、慎重さも重要だけど。
しかし……
「――REDリーダーより、RED
『ネガティブ。全機異常はありません。ご命令あれば何時でもいけます』
「了解致しました。では予定通り作戦を始めて下さい。全
『了解、
この巨大なアリーナが、より大きな電子の檻に閉じ込められた瞬間だった。
『おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていない為――』
「あれ? 繋がらない」
その異常を、おれはスマホから聞こえるアナウンスで初めて知覚する。電話を切り、画面を見直してみると――、
「圏外?」
ここはネットワークが完備されている。普通に考えたら圏外になる事自体考えにくい。
「ちょい待ってマーくん。ウチの携帯も圏外になっとるわ」
「え、みなみのも……?」
携帯の故障か? そう一瞬考えたおれは、みなみのスマホも同様に使えない事実から即座に取り下げる。
それだけじゃない。
「あれ? どういう事だ? 通話が出来ないぞ?」
「あらホント。こっちも圏外になってるわ」
「おいおい、人が多過ぎてパンクしちまったのか?」
「お母さーん、ネットが開けないんだけどー!」
「え、ヤダ、こっちもじゃない」
周囲の人間も使えなくなった携帯に困惑している。これ程の同時多発的な携帯の不調……おれの脳裏に”妨害”の二文字が浮かぶ。
「……みなみ、お願いがあるんだけど」
「なんやマーくん? 何でも言うてや」
おれはみなみに伝える。この異常な通信障害は人為的な妨害工作の可能性が高い事。それを解消する為にはアリーナの外に出る必要がある事。
そして外に出たら、かぐやさん達に連絡を入れる事。おそらく会場内に居る紅林や母さん、社長達とは電話が通じないだろうから。
「便宜上ここでは敵と表現するけど、おそらく敵はあまり出力の高いジャマーは使用してないと思うんだ。そんな事をすれば総務省の電波監視網に引っ掛かってしまうからね」
外へ異常が漏れ難く、かつ広大なアリーナ全体に電波妨害を起こしてると考えるならば……
「敵は低出力タイプのジャマーを複数に分けて運用している筈。なら外に出れば連中の妨害から抜け出せられると思ったんだ」
おれを信じて動くと決めてくれた少女は、その話に真剣な面持ちで耳を傾け、そして頷く。
「……分かった。かぐやさん?という人に助けを求めたらええんやな? 任せて下さい」
「ありがとう。お願いね?」
「それでマーくんは……これからどうするんや?」
「おれは彼処にいる警備員の男を尾行しようと思う」
おれの勘だけで逃げるよう周囲に促しても、誰も耳を貸してはくれないだろう。強烈な圧をぶつけて強引に避難させる方法もあるが、余計なトラブルに発展しかねない。
それにおれ自身、具体的にどんな脅威が迫っているのか掴めてすらいないのだから、現段階では納得のいく説明が出来ない。ならば警備員の男を追尾し、動かぬ証拠を確保する必要がある。
「危険やない? ……と言いたいところだけど、それがマーくんにとっての最善なんやな?」
「うん。彼奴を見逃す方がもっと大変な事になりそうだからね」
「……無茶だけはせんといてな? マーくんは確かに強いけど、不死身やないのですから」
みなみの声には不安げな感情が宿っている。少女連続失踪事件のように、敵側の武闘派や武装した戦闘員とぶつかるリスクもあるのだから。
「勿論。必ず無事に帰ってきてみせるから」
そんな彼女におれが出来る事は、絶対に死なない事だけだろう。
さて――、
「……ところで」
「マーくん?」
さっきから感じた覚えのある気配が2つ、結構近くにありますね。おれはベンチから立ち上がり、観葉植物に隠れて此方を窺う女の子達へ視線を向ける。
「何時迄も其処に隠れてないで出てきなよ? 黒川さん、不知火さん?」
「え? あかねちゃん、フリルちゃん……?」
「ふぇええッ!!?」
「なん……だと……」
あぁ、やっぱり君達だったか。
フフフ……尾行に盗み聞きとは趣味が悪いですねぇ? 人の恋愛模様を間近で拝めるのはさぞ楽しかったようで。
「あかねちゃん……? 何で此処に……?」
「ご、ごめんなさい。どうしても気になっちゃって……」
「お陰で目の保養になりました。感謝致します」
あ゛あ゛ん゛???
「ほら、フリルさんも謝る!」
「むぐ……ごめんなさい」
……はぁ、全く。普通ならマフィアモードで軽く説教したいところだけど。
「今は急いでるんだ。この際だから尾行したり盗み聞きしてた件については問わない。その代わりみなみと行動を共にして貰うよ、2人共?」
「……マリア君、また危ない事に首を突っ込むつもりなの? なら私達も――」
おれは心配してくれる黒川さんを制し、首を横に振る。
「ダメだ。相手の正体が分からないのに、戦闘力の無い3人を連れて行く方がリスクが高い」
相手に武闘派が居たら確実に足手纏いになる。人質にでもされたら目も当てられない。まあ、おれなら人質が傷付く前に敵を無力化出来るが、それでも可能なら敵の狙いをおれに集中させたい。単騎の方が都合が良い場合もあるのだ。
「君達は君達に出来る事をやってくれ――じゃあ頼んだよ?」
おれは不知火さんと黒川さんにみなみを任せ、足早に群衆の中へと飛び込んだ。
大勢の人間を隠れ蓑にしつつ、自然な立ち振る舞いで目的の警備員に接近。どうやら無線を終えて移動を始めるようだ。おれは不審を抱かれないよう、それでいて見失わない絶妙な距離感を維持して追跡する。
(やはりあの男、怪しいな。電波妨害が判明した後も無線を使っていた)
通常であれば無線も使用不能に陥る筈だ。しかし警備員の男は何事もなく無線での遣り取りを続けていた。妨害されてない特定の周波数を使用していると考えられる。
(ほぼ間違いない。あの警備員は黒だ)
尚の事逃がす訳にはいかなくなった。おれは奴の背中を睨み付けながら、なるべく気配と音を遮断して付いて行く。
むぅ……やはり伊集院のように完全遮断は難しいな。
(紅林、お兄ちゃん……母さんとお姉ちゃん達の守りは任せたよ?)
通信妨害の中、おれは心の中で師匠と兄を信じつつ、自分に出来る最善を尽くしに掛かるのだった。
(そしてみなみ。君も無事に脱出していてくれ)
この時のおれは知る由も無かった。
「――ねえみなみちゃん、フリルさん。此処ってどう考えても地下だよね?」
「うん。おかしいわぁ、ウチ等は外を目指してた筈やのに」
「やっばぁ、これってもしかしなくてもさ……」
まさかこのアリーナという建造物自体が、敵としてみなみ達を襲っていた事を。
「「「迷子になっちゃった~!」」」
次回、いよいよマリア(マフィアモード)が暴れ出します。まずは追跡中の警備員+αが地獄を見ます。