【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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118話

既に俺は集中状態。

 

(――ここだ)

 

向けられた銃口から弾道を予測し、一瞬で生存への最適解を導き出す。形成されるだろう弾幕の中で、人間が1人以上立っていられる空間へ滑り込んだ。

 

「シュッ」

 

すると数十発も放たれた弾丸は――1発も俺を掠らず後方へ消え去り、コンクリートを穿つ断続的で重厚なメロディーが闇に木霊する。火薬の焦げ臭い煙が鼻腔を刺し、耳元でかすかな風切り音が残る。久々の感覚の中、俺は内心安堵する。

 

(ふぅ。本物を躱すのは今生では初、実に16年ぶりだが……技術は衰えてないようで一安心だ)

 

きっとお手玉訓練が俺のブランクを解消してくれたのだろう。感謝するぞ、拷問ソムリエ。

 

「な……」

「嘘、でしょ……?」

「アオさんみたいな芸当を何故子供が!?」

 

蜂の巣を確信していた兵隊共は動揺せざるを得ない。しかし、俺のような超戦闘者を前にそれは大きな隙となる。

 

「ぎゃば!」「ぐべ!」「がッ!?」

「ごッ!」「ぼッ!?」「ぶッ!?」

 

俺は両手を使って計6発の指弾を放ち、銃を構えている兵士の額にピンポイント攻撃を実施。紅林に鍛えられたパワーで撃つ指弾は凶悪な威力で、6人が後ろ向きに宙に浮いてから地面へ転がった。

 

「申し訳ないが俺は忙しい身なんだ」

 

突然派手に倒れた6人に意識を向きかけた連中へ、俺は瞬時に間合いを詰める。例え此方を見たところで異次元の超高速は捉えきれない。

 

「頼むから簡単にやられてくれ」

 

「ぐぼへッ!!?」

「ぎゃッ!?」

 

1人につき1発の拳。接近を許した数名が叩き込まれたパンチで変顔を浮かべたまま彼方へ吹き飛ぶ。

 

「舐めるな小娘が!」

「たった1人で50人に勝てると思わないでよね!」

 

「お前等この惨状でよく言えるな? 虚しいだけだろ?」

 

再び飛んでくる銃弾を最小限の動きだけで外し、右手で指弾を放ちながら同時に左手の警棒で鳩尾を刺す。

 

「ホイホイホイッと!♪」

 

「バッ!」「ビッ!」「ロンッ!!」

 

更には両脚も加え、全身という全身を駆使して近場の兵隊共をぶちのめす。あっという間に先頭集団は壊滅だ。子供とは思えない圧倒的な戦闘力を見せられた指揮官は歯軋りする。

 

「くそッ! 次弾装填を急げ!」

「で、ですが神薙さん、味方が子供の周囲に集まってます! 今撃ったら流れ弾が……!」

「ならばナイフや警棒で仕留めるぞ……!」

 

接近戦用の武具に持ち替えた5、6人が一斉に飛び掛かってきた。それを見た俺は意外にも感心してしまい、無意識に眼鏡を正す仕草をする。

 

「――ほう、平均以上のスピードだ。しっかりとした訓練を受けてやがるな」

 

自衛隊に入れば幹部自衛官も十分狙えるだろう実力者集団。一介の半グレやチンピラが相手なら優位に立てた筈だが――まだまだ俺には届かないようだ。

 

「よっと」

 

『ッ!?』

 

俺は地面を軽やかに蹴り、連中の刃が腕や腹に当たるギリギリのタイミングで宙を舞い、一回転して後ろに着地する。

 

「密集し過ぎだ」

 

『だぁあああああッ!!』

 

振り返られる前に横凪ぎな蹴りを一閃。直に蹴られた一番右側の男が砲弾と化し、左隣の同胞達を巻き込む。

 

『ごがッ!?』

 

まるで肉の塊のように集まった状態で壁に激突。特に左側に立っていた奴ほど受けるダメージは深刻だろう。それでも死なないように計算した上で攻撃したが。

 

「嘘、でしょ……? 5人以上を纏めて蹴り飛ばした……?」

「あの小さな体の何処にあんな力が……?」

 

誰が小さいだ誰が。こんな女の子みたいにキャワワなリアル男の娘はそういないぞ? 失礼極まる。

 

「……で、部隊は半壊しちまったけどどうする? 降伏するか?」

 

俺は上から目線全開で健在な奴等に言い放つ。日滅軍の諸君、今までの戦いでもう分かっただろう? 単騎にて全ての盤上をひっくり返す。これが世界にも通じる猛者の実力だ。

 

「う……」

「うぅ……」

 

僅か1分で戦力5割を喪失。しかも外見美少女の子供たった1人に、完全武装の自分達が一方的にやられていく冗談みたいな現実。狙い通り、それは恐怖として残った彼等の闘争心を蝕み、後退りさせる程だ。

 

「……降伏だと?」

 

しかし神薙という指揮官の男だけは両拳を震わせ、俺に向かって怒鳴り散らすように叫んだ。不甲斐ない部下達を鼓舞する意味も兼ねて。

 

「舐めるなよ餓鬼が! これは強者が弱者を喰らう腐り切った社会を正す為の革命だ! 何より――クルミさんの無念を晴らし、彼女が再び表舞台へ返り咲く為にも必要な事なのだ!!」

 

……あぁ、よーく知ってるさ。つい先程お前等の仲間がベラベラと吐いてくれたからな。

 

「……そうだ。俺達の推しの子を地獄に落とした連中を許してたまるか」

 

指揮官の熱の籠った言葉を受け、兵士達の士気が回復していく。何故自分達が日滅軍として革命に参加したのか、その目的を見直したが故に。

 

「今ものうのうと生きて別のアイドルを搾取してる奴等をぶっ潰すのよ……そうじゃないと、クルミさんが安心してステージで歌えない……!」

「アオさん達が悲しむ姿をこれ以上見たくねえよ……!」

「推しの為にも絶対に成功させるんだ! 部外者が邪魔すんな……!」

 

 

 

……

 

 

………

 

 

…………なぁにが”推しの為”だ。愚か者が。

 

 

 

「……そうか、あくまで戦い続けると?」

「当然だ。お前みたいな社会の理不尽さも知らない未熟な餓鬼に、俺達の苦悩と覚悟が分かってたまるか!」

「……はぁ、分かった」

 

俺は心底呆れた。

 

ダメだ、コイツ等は”革命”とやらに酔ってやがる。こっちが正論を唱えたところで馬の耳に念仏でしかない。

 

「ならば仕方ない。これだけやっても諦めないお前等に敬意を表して、ギアを2つくらい上げてやろう」

「何?」

 

俺は駆け出した――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――かと思えば、とある兵士のサイドに現れていた。

 

「へ?」

 

そいつが俺の存在に気付いたのは……俺が放った拳が顎に触れる直前。

 

「ぐぼへぇ!!?」

 

首が不自然に捻れ、頭部が強制的に上へと向けられた。男は白目を剥いて倒れ、泡を吐きながら痙攣する。

 

「次」

 

俺は瞬時に別の標的へ移動し、同じく叩きのめす。

 

紫のオーラが体を包み、視界がわずかに歪む。敵の動きが全てスローモーションに見える。前世の感覚が完全に蘇り、俺はゾーンに入っていた。

 

「さっきよりもずっと速く……!?」

「撃て! 撃て撃て撃てぇええ!」

 

指揮官が叫び、再び銃弾が集中する。だが、今の俺にはもう意味がない。体を低く沈め、ジグザグに進む。奴等には俺が瞬間移動してるように見えるだろう。

 

弾丸が頰の至近をかすめ、熱い風が髪を揺らすが、俺は無感情なまま淡々と敵を屠り続ける。コイツ等に時間を掛けるだけ無駄、そう言わんばかりに。

 

「こんの、クソガキがぁあああああ!!」

 

「直線的な攻撃が俺に当たるかよ」

 

「がッ!?」

 

単純な突きを首を傾けるだけで避け、無防備な敵の腹にお返しの突きを繰り出す。痛みで顔を歪める相手へ続けざまに追撃。

 

「ごばッ!」

 

”く”の字に曲がったまま遠く飛んでいく兵士に一瞥もせず、次に向かって来た奴等のナイフ捌きを後ろに飛んで回避する。

 

「フンッ!」

 

後方の柱に足を掛け一気に跳躍。空中で回転しながら警棒の突きと礫をばら撒く。滑り込むような着地で、そのまま勢いを利用しバネのように加速。トリッキーに動き回る事で敵を翻弄し、照準をブレさせる。

 

それにしても……

 

「ひゅう! 体が軽いとはなんと素晴らしい! 生まれ変わって更に強化された俺の力、とくと味わってくれ給え!」

「ゴバッ……!?」

「足元がお留守だ! 足払いしてやるから大人しく転んでろ!」

「キャッ……!」

 

お陰でジャンプキャラ並みの三次元機動もお手の物だ。この圧倒的な機動性と速さ、そして常識外のパワー……これらが今生の俺の戦闘能力の根幹を成している。

 

「な、なんだ……なんなんだよコイツはぁ……」

 

無秩序に攻撃する部下を洗練された華麗な動きで次々と潰していく様は圧巻で。神薙はもう思考停止して譫言を呟く事しか出来ない。

 

「わぁ、すご……」

「ん。まるで踊ってるみたい……」

 

同じく俺の戦いを隠れて眺める梨香と彩綾も。彼女達の目には、俺が自分達という群衆のエールを受けながら魅力的なパフォーマンスを見せる、アイドルそのものに映っていた。

 

そう、今まさにこの場は俺にとってのライブ会場。兵士諸君も梨香も彩綾も、俺のライブに大人しく魅了され、翻弄れ、圧倒される他ないのだ。それ以外の道など無い!

 

「ぎゃばッ!」

 

おらよ、49人目。

 

「……最後は貴様だけだ、リーダーさんよぉ?」

 

既に此処は俺の支配下――全員ひれ伏するが良い。

 

「な、舐めるなぁあああああ!!」

 

神薙は激昂してナイフを抜く。もう一方の手にはチャカ。鬼のような形相で、奴の咆哮が木霊する。

 

「負ける訳にはいかんのだ!! 全てはクルミさんの為、そしてKakabelの皆さんの為! 推しへの愛で俺に勝てるとブッ!!」

 

「叫ぶ暇があったらさっさと掛かってこい。もう俺の拳がテメエの顔面に入っちまってるじゃねえか」

 

「ぐ、がか……」

 

両手に持った拳銃とナイフがカランと落ちる。脳を激しく揺さぶられた神薙は意識を失い、その場で崩れ落ちた。

 

「”推しへの愛で俺に勝てるか”……だと? そんなもん、当然勝つに決まってんだろ?」

 

母さん達家族や、有馬達仲間――そして恋人のみなみ。みんなを推す想いは俺の方が1那由他倍も強いんだよ。推しへの愛でテロを正当化してる貴様等なんかよりも。

 

「この星野マリアを舐めるな」

 

 

 

 

 

「……ふぅ、しかし風見組よりは手古摺らせてくれる相手だったな」

 

無事な敵が1人も居ない事を入念にチェックし、俺は漸く一息吐いた。とはいえ折角の可愛い衣装が汗で濡れ、煤汚れだらけである。

 

「……これじゃ俺の可愛さが半減しちまうぞ?」

 

クリーニングで落ちるかな、これ? といけない、それよりも……

 

(あの女兵士の話じゃ、爆弾の設置作業をしてたのはこの部隊だけ。それが全滅したとなれば敵の計画は大きく狂ったに違いない)

 

だが直接の脅威が去った訳ではない。ピッピッピッと鳴る電子音は、爆弾の時限タイマーがとうに起動している明確な証。時間的に爆弾処理班を待っている暇はない。俺の手で片付けなくては。

 

「おーい!」

「君ー、大丈夫ー!?」

 

「ん?」

 

柱の陰からお姉さん方が飛び出してきた。どうやら怪我はないようで一安心。

 

「アンタ等こそ平気か?」

「君のお陰だよ! 冗談抜きに命の危機だったんだもん! 助けてくれてありがとう!」

「どういたしまして」

「……それにしても強いね君? たった1人でこれだけの数を相手に勝っちゃうなんて」

 

周囲に散らばって倒れる50人に視線を送る彩綾。もっと驚いたり恐れたりすると思ったが、意外にも比較的落ち着いていた。

 

「まさかパパみたいな事が出来る子供が現実にいるとは思わなかったよ?」

「分かる、分かるわぁ。私のパパもメッチャ強いからねー」

 

「アンタ等の父親何もんなんだよ……」

 

「極道」

「元アサシン」

 

「……マジでぇ?」

 

思わず変な声が出た。なんとアウトローの関係者で御座いましたとさ。常人なら気が狂いそうな状況でもある程度平気そうなのは、それが関係してるのだろうか。

 

……ん? ちょっと待てよ。茶髪の方の女に見覚えがあるんだが、もしかして――。

 

「……犬亥梨香?」

「え」

 

漸く気付いた。この女が獅子王組の超武闘派、犬亥鳳太郎の愛娘だと。俺に名前を当てられた彼女も此方を凝視し、やがて目を見開いて驚愕した。

 

「まさか……星野マリアくん?」

「そうだが、やはりあの時会った女子中学生だったか」

「わぁー、久しぶりじゃん! すっかり大きくなっちゃって! 確か今は”天使王子”ってモデルで活躍してるんだよね? その衣装、凄く似合ってるよー!」

「そう? ふふ、ありがとう」

 

実に9年ぶりの再会だが、向こうも俺の事を思い出してくれたようで。にしても似合ってる、か。嬉しくて頬が緩んじまいそうだ。

 

「え、何なの梨香? この子と知り合い?」

「うん! 初代B小町のドーム公演で偶然ね! 実はこう見えて男の子なんだよ?」

「……うっそぉ、どう見ても女の子じゃない。それもとびっきりの美人」

「だよねだよね! 顔面偏差値半端ないよー、羨ましいねぇ!」

 

その”羨ましい”発言。自分の父の後輩の受け売りですかね……?

 

(この女とルビーがコネを持ったお陰で紅林が俺等の師匠になってくれたんだよな)

 

それが俺は勿論、アクアとルビーが強くなる事に繋がり、みなみ達を肉蝮や風見組から救う結果を齎した。ある意味、彼女もまた俺達にとっての恩人の1人だ。その恩人を窮地から救えて何よりである。

 

「……それよりも時間が無い。俺の頼み事を聞いてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外へ出るルートを教えてから梨香と彩綾を送り出し、俺は肩を鳴らして次の作業に移る。

 

「皮肉なもんだ。散々他人を傷付けた技術が来世で役立つ時が来るなんてよ」

 

羅威刃時代から爆破のプロでもあった俺。転生し肉体が変わっても知識と技術は健在。解体作業くらい余裕である。

 

「……おや? 何故羅威刃仕様に酷似した構造になってるんだ、この爆弾?」

 

まあ今はそんなの考えても仕方ない。ブービートラップも仕掛けられてないようだし、これなら解体に左程時間は掛からないだろう。

 

俺は兵隊共が持参していた荷物から設計図に工具を取り出す。それらを両手に構えて悠々と起爆装置の前に立った。

 

起爆までのカウントダウンを始めていたそれは、デジタル基盤で残り20分を示していた。同様に起動済みの爆弾が広い範囲に……ふむ、あと8個ってところか。

 

「10分も要らねえな」

 

俺は不敵な笑みを溢しながら、最初の装置にドライバーを突き立てた。

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