【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
彼等は葵達を1人の女の子とは見ておらず、彼女等と兵達の間には推しとファンという見えない壁が出来ているのです。葵達も兵達も気付いてませんが。
同時刻。
「どうしよう……緊急事態かもしれないのに」
「いつの間にかウチ等以外の人もいなくなってもうたな……」
「うぅ、まさか私達このままじゃ……ここは建物の何処ら辺なんだろう……?」
アリーナの深淵で、完全に遭難状態となったみなみ、黒川、そして不知火の3人。現在地を聞こうにも人が全く見当たらず、特に前者2人は途方に暮れていた。
「……」
そんな中で唯一不知火だけは、何故かスマホを至る所へ向ける謎の行動を繰り返していた。
「フリルちゃん、どうしたんさっきから? 確か今ってスマホは使えん筈やけど」
「ん、ちょっと試したい事があってね」
「試したい事……?」
「前に出演した雑学王決定戦って番組で偶然知ったんだけど、妨害電波を発する機械はコンパスを使って見つけ出す事が可能なんだってさ。だからスマホのアプリで探してみてるの」
ほら? と見せられたスマホの画面には電子コンパスが映っており、針が狂ったようにグルグルと回転し続けている。
「この針の回転が止まったら、その先に妨害電波の発信源があるんだって」
「成程なぁ。もし見つけて電源を切れば通信が回復するかもしれへん」
「出口を探すのが最優先だけど、他にも出来る事は色々やるべきだと思う。……もしかしたらマリア君の手助けになるかもだからね?」
「よし、ウチもやってみましょう!」
「急にやる気出したねみなみちゃん……」
不知火がいる近くで2台目のアプリを起動させても意味ないのだが、みなみはそんな事はお構いなしにスマホと睨めっこを始めた。少しでも彼氏の力になれると、そう信じて。
「!」
その時、黒川は前方から歩いてくる警備員の女性を捉えた。
「ねえ2人とも、あの人警備員みたい!」
「あ、ホンマやな! 出口が何処か聞いてみましょう! すみませーん!」
みなみの声に、その女性は反応して近寄ってきた。
「……如何なさいましたか?」
女性は笑みを浮かべて尋ねてきた。しかし不知火は何処となく違和感を抱く。
(なんかこの人、笑顔がぎこちない気がする)
まるで極度の緊張状態なのを何とか抑え、無理に取り繕っているような。目尻や口の端が釣り上がった歪んだ笑顔が、不知火の内心に僅かな警戒心を芽生えさせる。
しかし、ふとスマホに目を落とした彼女の目の色が変わる。
(え――)
そこに映る画面が、発現したばかりの警戒心を一気に急上昇させた。
「実は道に迷ってしまいまして……申し訳ありませんが出口はどちらでしょうか?」
「……成程。でしたら私がご案内しましょうか? この建物は広い上に非常に入り組んでますからね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「いえいえ、これも警備員としての責務ですから」
そんな彼女に睨まれているとは露程も気付かず、警備員の女はみなみ達の先導を始める。
「みなみちゃん、あかねさん」
「ん?」
不知火はみなみと黒川をチョイチョイと手招きし、前方を歩く女から少し距離を取らせつつ小声で話し掛ける。
「どうしたんフリルちゃん?」
「さっき電波妨害機の探し方について教えたよね? ――2人も小声で会話して?」
「え、小声?」
「いいから」
「う、うん――覚えてるで? 動き続けていたコンパスが止まって、何処かを指し示したらその方角に妨害用の機械があるって……それがどうしたん?」
「……あの、流れ的に嫌な予感がするんですけど、私」
警備員に聞こえないように意識しながらの会話で、しかもその内容は先の件の繰り返し。この状況から導き出される答えを黒川は察し、冷や汗が垂れる。
「これ見てチョンマゲ?」
「「!?」」
そして黒川の予想通り――不知火の見せた電子コンパスの針は真っ直ぐ警備員を指していた。偶然ではない。女がどう動こうが、針は絶対に外すもんかと言わんばかりに指し続けている。
「ほぼ間違いない――妨害機はあの女性が持ち歩いている……多分あの中に」
何より仕事中の警備員であれば所持していないような、肩掛けの鞄を身に着けているのだから。鞄は厚みが非常に薄く、何らかの機械が入ってなければ形作れない程に直線的で、ゴツゴツとした膨らみ方をしている。
「知ってる? ナイロンって電波を通しやすいんだよ? ……あぁ、やっぱり」
スマホをピンポイントでナイロン鞄へ向けると、不知火の推測通り針が鞄を――厳密にはその中身をロックオンした。みなみも黒川も驚愕し、無意識に女から更に距離を取る。
「じゃあ……マーくんの勘は正しかったって事なん?」
「多分。直接確かめない限りは断言出来ないけどね」
「ど、どうする2人共? このまま付いて行くのは不味いんじゃないかな?」
因みにだが、この時の不知火達には誤算があった。
「そうだね。さっき見た笑顔も演技っぽかったし、とてもじゃないけど彼女は信用すべきじゃない」
誰も居ない広大な空間では小声だろうとよく響くという事。緊張状態にある人間は周囲の僅かな変化にも敏感だという事。
「あの分岐点で彼女とは別方向へ曲がろう? 直ぐに気付かれるだろうから、そこからは全力で走って?」
「分かったわフリルちゃん」
「うん」
だが何よりも一番の誤算は――、
「早うKakabelがテロに関与しとる可能性を白銀かぐやさんって人に伝えへんと「楽しそうねぇ?」ッ!?」
ここでKakabelの名前を溢してしまった事。
「なッ!?」
(ヤバい! 聞かれた……!?)
「ところでさぁ、Kakabelがテロに関わってるってどういう意味? どうして君達はそう断言出来るの?」
何時の間にか側に寄っていた警備員の女。その顔は張り付けたような笑みを浮かべていて、みなみと黒川はゾッとする。
「ま、待って下さいお姉さん! ウチ等は”もしそうだったら”という話題で盛り上がってただけで……」
「そ、そうです! 実は私達は小説を書いてまして……ネタの一つとして考えてただけです!」
必死に誤魔化そうとする2人だったが、動揺してるのがバレバレである。
「へぇ、そうなんだー。ただねぇお姉さん……」
もっともそれ以前に、
「申し訳ないけど君達の会話、ぜーんぶ聞こえちゃってたんだよねぇ? 此処って静かで音も反射しやすいからさ?」
自分達の革命を把握しているみなみ達を見逃す選択肢など無かったが。
「さぁて、知ってる事を全部話してもらおっかなー?」
「ひ!?」
「じゅ、銃……!?」
「妨害工作やKakabelの関与を知ってる理由……」
――まぁ、しかし。誤算に関してはこの女にもあったのだが。
「他にも仲間がいるのかどうか、洗いざらいゴブッ!?」
不知火フリルの護身術が、想像以上に高レベルだという事を。
「きゅ、うぅ……」
不知火から強烈な蹴りを顎にお見舞いされた女は銃を落とし、仰向けに倒れた。そんな彼女を見下ろす不知火の目は冷めきっている。
「全く、友達に銃向けて脅すとか何のつもりかしら?」
不知火は地面に転がった銃を明後日の方向へ蹴飛ばし、当面の安全を確保する。
「ふ、フリルちゃん……?」
「す、すごいね……私ビックリしちゃったよ」
「ふふん、これでも護身術を学んでる身なの。有名人たる者、いつ何時ヤバい連中に狙われるか分からないからね」
不知火の予想外な強さに驚きを隠せない2人。しかし得意気な彼女が女警備員の所持品を物色する中、2人は思った。
((でもマーくん(マリア君)の方が強かったなぁ……))
流石に俺と比較するのは可哀想ではないだろうか。堅気でこれなら不知火は十分強い。歌って踊れで演技も出来るのに、戦闘まで得意ときた。これが本当のマルチタレントであろう。
「……ビンゴだね。ホラ」
「あ、これってもしかして……」
「ネットで見た機械にそっくり!」
ナイロン袋から取り出されたそれを3人の視界が共有する。掌の倍近い大きさを持つ直方体の機械と、そこから伸びる複数のアンテナ。ジャミング装置だ。不知火は本体に付いた赤いランプを発しているスイッチをカチリと押し込む。
「よしっと。ちょっとどっちかスマホを調べてみて?」
「待ってなフリルちゃん……あ、やった! 圏外表示が消えたわ!」
「こっちも大丈夫みたい!」
「良かった。きっとこの辺り一帯なら電話が使える筈」
無事に電源はOFFとなり、沈黙していた通信やネットが復活した。もはや俺からの依頼を果たすのに、わざわざ外に出る必要はない。
「ならこの場で白銀さんに連絡出来るな? ちょい待ってて」
早速みなみがかぐやへ事態を報告しようと画面を操作しようとして……それは遮られた。
「いつつ、何してくれんのよ……」
「「「!?」」」
なんと先程不知火にノックアウトされた女警備員が覚醒し、むくりと起き上がってきたのだ。しかし銃は手元にない。それでも彼女はもう一つの武器を取り出した。
「何故は知らないけど……バレちゃったからには口封じするしかないわねぇ」
固い警棒を携え憤怒に満ちた表情を浮かべる女。対する不知火はみなみと黒川を守るように前に一歩出て、女を説得する。
「殺しなんて余計に貴女の人生を台無しにするだけよ。今ならまだ間に合うわ、止めて頂戴?」
「はぁ!? 世間知らずの子供が偉そうな事を! 搾取を受けた経験もない癖に!」
子供に諭された事が癪に障った……というより惨めな気分になったのだろう。女は癇癪を起こす子供のように激昂する。
この女警備員はかつてブラック企業に勤めていた。安月給で酷使され、パワハラやセクハラを毎日受けて……やがて耐え切れなくなった彼女は仕事を辞めた。しかしトラウマから次の職にも中々就けず、それどころか外そのものに怯えて部屋に引き籠りがちとなる。
そんな中、ネットを漁っている時に偶然遭遇した日滅軍加入の募集。彼女にとっては天からの救いそのものだった。
当然、テロを起こしたところで彼女の立ち場が改善される訳がない。不知火の言う通り、寧ろ悪化するだけだ。
「私達の邪魔はさせない! もうさっきみたいな不意打ちは通じないからね……!」
しかし女は一切止まらない。搾取を終わらせる為……という体で、自分の中の鬱憤を晴らしたいが為に。その邪魔をするみなみ達を排除しようと襲い掛かる。
そこへ1羽のカラスが彼女達の頭上を通過する。
「――何してすんかお前?」
直後、女警備員の右腕に縄が絡んだ。
「へッ?」
驚く女だったが、縄の発生源を確かめる前に体が宙を浮く。
「「「!?」」」
勿論、みなみ達の表情も驚き一色となる。
「武器片手に子供襲おうとしてさぁ……何のつもりかって聞いてんだろうがぁあああああああ!!!」
「ひゃああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」
全く別の女性の声が響き渡り、女警備員は成す術無く放物線を描き、
「ガバッ……!!?」
地面に叩き付けられた。
「な、何なん……? 縄……?」
「ふぅ……大丈夫っすか皆さん?」
呆然と立ち尽くすみなみ達の元へ駆け寄り安否を尋ねる警備員の女性。背は低めで可愛らしい印象を受けるが、彼女こそが女警備員を倒した張本人である。
「菖蒲ー、よくやったー!」
「怪我は無いか、君達!」
「兄貴! 姉貴! みんな! 子供達は全員無事そうっすー!」
そこへ現れた警備員の男女が複数。彼等に女性は屈託のない笑顔で手を振る。
みなみ達を助けた楠木菖蒲に、後から駆け付けた雪河宗弥。そしてリーダー格の澤本楓。彼等の含む8名の集団――龍珠組の近衛兵団”龍の蹄”に属する超武闘派極道だ。