【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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本作でアイが助かったのは、マリアの行動で致命傷をギリギリ避けられたからだけではありません。

・マリアの叫びで事態を察知したアクルビが直ぐに駆け付けた事
・それによりルビーだけが玄関に行けなくなるような事がなくなり、2人掛かりでアイに応急処置を施せた事
・救急車も原作より数分早く呼べた事

という複数の要因が絡んだ結果です。

なのでマリアだけでなく、三つ子達全員でアイを救ったようなものです。


120話

「助けて頂きありがとうございました」

「我々は職務を遂行したまでだ。寧ろ危害を加えられそうになるまで駆け付けられず、大変申し訳ない」

「あ、頭を上げて下さい! 皆さんのお陰でこうして無事に立っていられるのですから!」

「そう申して頂けると、本当に有り難い」

 

リーダー格だろう目付きの鋭いお姉さんが、フリルちゃんとあかねちゃんからのお礼に謙遜する。

 

「私等だけでなく……彼女? にも礼を言ってやってくれ。私等は彼女に案内されて此処まで来れたのだからな」

 

彼女の視線の先には、地面に降り立って毛繕いに勤しむ1羽のカラス。視線に気付いたカラスはジッと此方を見て、

 

 

カー

 

 

確か大人のカラスって、人間の6歳児くらいの知能を持つんやったな?

 

「そうだったのですね――ありがとう、カラスさん?」

 

 

カー!!

 

 

……いやホンマ賢過ぎひんか、このカラスさん? フリルちゃんのお礼に翼を広げて即座に返事しとるし、まず彼女が近付いても全然逃げへんし。神様の使いとか、そんな大層な存在だったりする?

 

 

 

一方――、

 

 

 

「おい女ぁ、知ってる事を全部話して貰おうか? ――言っとくがあたし等に嘘は通じねえ。誤魔化さない方が身の為だぞ?」

「は、はい……」

 

(よく生きとったなぁ、あの女の警備員さん。あれだけ派手に地面に叩き付けられたら普通に死ねると思うんやけど……)

 

ウチは怖いお兄さんお姉さんが、襲ってきた女性に圧を掛ける様子を遠巻きに眺めていた。どうやらフリルちゃんに蹴られた顎の部分以外に大した怪我は負ってないように見える。

 

「で、何で拳銃なんか持ち歩いてたんだ? それにこれはジャマーじゃねえかよ。こんな物を使って何が目的だ?」

 

彼女の尋問を主に担当しているのは、さっきウチ等を助けてくれた縄使いのお姉さん――確か名前は菖蒲さんやったな? 小柄で少女のような愛くるしい外見とは裏腹に、非常にドスの効いた声色で女性を睨む姿はギャップが凄まじい。

 

(まるでマーくんみたいや)

 

まぁ、あの子の方が普段と戦ってる時の差が凄まじいんやけどな。特に冷酷で傲岸不遜なところとか。

 

「え、えっと……」

 

暫く口籠っていた女性だったが、強烈な圧に耐えかねてとうとう語り出す。その内容はあまりにも残酷過ぎた。

 

「じ、事態発覚を遅らせて警察介入までの時間を稼ぐ事と……爆破による犠牲者の数をなるべく増やす為、です……」

 

「……あ??」

「なん、だと……!?」

 

(ば、爆破!? じゃあマーくんの勘はやっぱり当たっとったんか!)

 

誰もが絶句する。アイドル達が集う祭典の裏で、途轍もなく恐ろしい計画が遂行されている事実に。そして女性の証言を聞いた菖蒲さんは怒り心頭で、彼女の胸倉を掴み上げた。

 

「テメエ!」 

「おい菖蒲! 気持ちは分かるが乱暴し過ぎるな!(堅気の前で暴力沙汰は余り見せるべきじゃない……!)」

 

上司だろう若い男性が静止するも菖蒲さんは止まらない。

 

「ふざけんなよ! 一体何のつもりで爆破なんて目論んでやがる!?」

「そ、それはその……搾取を終わらせる革命の為には、より多くの犠牲でないとインパクトが――」

 

女性が言い切る前に、菖蒲さんは彼女を掴んだまま壁に叩き付ける。

 

「がはッ!?」

「何が”革命”だ!? 何が”インパクト”だ!? 命は世直しの為の必要経費じゃねえんだぞ! テメエがやろうとしてんのはなぁ、タダの虐殺だ!!」

 

……彼女の言う通りや。人をいっぱい殺して達成する革命なんて、あって良い筈がない。碌でもない結末しか待っていないに決まっとる。そもそも命を奪うという行為自体が最も酷い搾取やないか。この人は自分の言動と行動が矛盾しとる事に気付いとらんのか?

 

(……気付いとったらとうに止まっとる筈や)

 

あるいは承知の上でやっとる? この女性、さっき”搾取を受けた経験もない癖に”ってキレとったし。まさか革命を建前に自分の鬱憤を晴らしとるだけ? 尚更ダメやんけ。もはや八つ当たりなんてレベルですらない。

 

ウチは胸の奥がざわつくのを感じてると、フリルちゃんがスッと前に出ようとする。

 

「……貴女ね。そんな恐ろしい事したら、それこそ自分の人生を棒に」

「待ってやフリルちゃん、ストップ」

 

説教したくなる気持ちは分かるで? でもこの女性相手にフリルちゃんの説得の仕方は多分合わへん。だからこそ、さっきも激昂して襲い掛かってきたんやろう。

 

「みなみちゃん?」

「フリルちゃん、さっきみたいに正論だけの説得はあかんよ? 搾取を受けて人生に絶望した人からしたら、神経を逆撫でにさせるだけや――ここはウチに任せてくれへん?」

「みなみちゃんが……? どうやって?」

「あかねちゃんも、よう見といてな? ああいう人を落ち着かせるには共感がまず大切なんやって」

 

言うて、自分も他人を説得するのは初めてやからなぁ……上手くいきますように。ウチは友達2人に見守られながら、今尚締め上げられている女性の元へ向かう。

 

「ちょ、ちょっと君! 危ないから離れておけ!」

「すんませんお兄さん。ちょっとあの人に言っときたい事があるんです」

 

ウチの身を案じる男の人の制止を振り切り、遂に女性の前へ躍り出た。

 

「待ってやお姉さん? 一旦ウチにその女の人と話させて貰えます?」

「え、何を……?」

「分かっとります、普通に考えて銃を向けてきた相手の近くに居るのが危険な事くらい。……でも、どうしても伝えたい事がありまして。ほんの少しでええので、どうかお願いします」

「ッ」

 

強く懇願すると、菖蒲さんは一瞬だけ目を見開いた様子でウチを見詰め返す。やがて溜め息混じりに女性の胸倉を離した。

 

「……不審な行動の兆候を感じたら、その瞬間叩きのめすからな?」

「ひっ……は、はい」

 

菖蒲さんの鋭い警告と共に、地面に崩れ落ちるように座る女性。その瞳には計画を邪魔された怒りと、自分より年下の少女に屈した惨めさが、ドロドロとした憎悪となって渦巻いとる。

 

「な、何よ……? わざわざ無様な私を、笑いに来たわけ?」

 

震える声で吐き捨てた彼女に対し、ウチは静かにその場でしゃがみ込んだ。視線を同じ高さに合わせ、真っ直ぐに瞳の奥を見据える。先ほどまで銃口を向けられていた恐怖など微塵もない。ただ、この人の痛みを静かに分かち合うような、深淵で、慈悲に満ちた光を宿らせる。

 

「いいえ。ただ一つ、指摘したい部分があるんよ」

 

ウチは柔らかく、しかし鋼鉄のような硬度を持って声を響かせた。

 

「ウチ等はこう見えても芸能人でな? お姉さんの言う『搾取の被害』なんて、とっくに受け取っとる身なんや」

「ッ……!?」

 

女性が息を呑む。背後で見守るあかねちゃんとフリルちゃんの存在、そしてウチが放つ圧倒的な『格』の前に、言葉を失う。

 

「『世間知らずの子供』? ……失礼やな。ウチ等がどれだけのプレッシャーの中で『夢』を追っとると思てる?」

 

一言一言、噛み締めるように言葉を紡ぐ。

 

「ウチ等がおる芸能界も、一皮剥けば酷いところだらけや。勿論、それが全てやないけどな」

 

「……『子供を守れ』なんて言葉が散々叫ばれてるのに、この業界は未だにウチ等みたいな子供にすら容赦なく牙を剥いてくる。しかも何か問題が起きれば『自己責任』とスルーする酷い有様や」

 

背後の友達に視線を送り、2人の痛みも代弁した。

 

「あかねちゃんは先月まで謂れのない誹謗中傷で死ぬほど苦しんだ。フリルちゃんやって、人気者やからこそ無茶な要求を上から押し付けられてきた……そしてウチやってそうや。スポンサーに無理やりお酌させられたり、胸や体を舐め回すように観察されたり……モデル続けんの嫌やと思うた事も、一度や二度やない」

 

ここで女性はハッとなり、ウチ等3人の顔をそれぞれ見た。どうやらウチ等の正体に気付いた様子。

 

「……嘘。アンタが寿みなみ? 今ガチで炎上して、ヤクザに臓器売買狙いで拉致られたって言う……それにあっちの2人があの黒川あかねと不知火フリル……? なんでそんな有名人が、此処に……?」

 

「えぇ!!? こ、この子があの不知火フリルッ!!? 歌って踊れて演技も出来るマルチタレントのゴブッ!?」

「静かにせんか菖蒲!」

「何も殴る事ないでしょ澤本の姉貴~!」

 

なんか女性より菖蒲さん達の方が滅茶苦茶動揺しとるみたいやけど、今それは気にする事やない。

 

「ウチ等が此処に居る理由なんて今は関係あらへんやろ? ここで大事なのは――ウチ等だって搾取は受けてきとるという事です」

 

女性の目が泳ぐ。彼女の中にあった『世間知らず子供』というイメージが崩れ、実は眼前の女の子達が自分と同じような地獄を歩んできた事実。その傷跡に、今さら気付かされたのだ。

 

「現実は綺麗なだけやない。汚い部分も山ほどあるのを、早うに知ってもうた子供なんや」

「……アンタ達も、私みたいに?」

「せや」

 

きっと今の女性には、ウチ等が同胞のような存在に映っとるのやろうなぁ。

 

……申し訳ありませんけど、そこは一緒にしないで頂けます?

 

「……でもな、お姉さんとウチ等では、決定的に違うところが一つだけある……何か分かります?」

 

ウチは瞳から僅かに温度を消し、女性に問い掛ける。

 

「受けた苦しみや屈辱を――無関係な他人にぶつける事で発散せえへんところや」

 

言葉に詰まり、目を逸らす女性。しかしウチは彼女の逃げ道を更に塞ぐように、純粋で残酷な問いを突きつけた。

 

「なぁお姉さん。昔、ウチ等はお姉さんに何か酷い事したんかな? もしそうやったら是非教えてくれます? ちゃんと謝って、償いたいんよ」

 

勿論、さっきの件はノーカンでな?

 

「え、えと……それは……」

 

冷や汗を流し、口籠るだけ。この人、ホンマは分かっとる筈や。

 

「答えられへんのやろ? 当然や。ウチ等から搾取された事実なんて、最初から存在せえへん」

 

JIFを楽しんでいるアイドルやお客さんだってそう。一度だって女性に悪事を働いてなんかおらん。何なら彼女に関わった事すらない筈。

 

「お姉さんが今日まで受けてきた苦しみには同情します。……でもな、その怒りの矛先を間違えたらあかん」

 

もう一歩、震える彼女へと踏み出す。菖蒲さん達が警戒して身構えるが、ウチは構わずに言葉を続けた。

 

「ウチ等みたいな子供を殺して、アリーナを壊して……それで明日からお姉さんの人生、バラ色に変わるん? 違うやろ。ただの”人殺し”になるだけや。お姉さんを地獄に落とした奴等と同じ、最低の”搾取する側”に回るだけなんよ」

「ッ! う、うるさい……! 私がどれだけ、どれだけ惨めな思いをしてきたか……!」

「分かっとる! 分かっとるよ。ウチ等がいる世界は理不尽で、無茶苦茶で……なのに折れたら終わり。折れた人に世の中は酷いくらい優しくしてくれんもん」

 

ウチは割れ物を扱うかのように女性をそっと抱き寄せ、背中をポンポンと優しく叩いた。震えていた彼女の体が、ほんの少しだけ収まったような気がする。

 

「……でも勘違いせんといてな? それは”折れっぱなし”の人には優しくないっていう意味や。お姉さんだってまだやり直せる。前を向いて生きようとするなら、世界はいつか必ずお姉さんにも優しく手を差し伸べてくれる……ウチはそう信じたいんよ」

 

女性の腕が力なく落ち、嗚咽が漏れる。彼女の”正義”という名のメッキが剥がれ落ちていく。

 

「……でも、私はもう戻れない……Kakabelの皆さんの為にも、こうするしか……」

「ううん、そうじゃない。環境の所為にしとる内は、一生その地獄から抜け出されへんよ?」

 

今も爆破を阻止しようと動くマーくんの小さな背中を思い浮かべるように、ウチは天を仰いで言い放った。

 

「どれだけ環境が地獄であっても――結局怪物になるかどうかは、自分の選択や」

 

静かな声が、殺風景な空間の冷たい空気に溶けていく。女性の瞳から、初めて――本当に初めて、怒り以外の感情がこぼれ落ちた。

 

「ごめんなさい……私、本当は……ただ、こんな風に、誰かに認めて欲しかっただけで……」

 

しゃくり上げながら漏れる、掠れた本音。それは”搾取された被害者”という聖域に閉じこもり、他人の命を奪おうとした醜悪な自分自身と、初めて正面から向き合った瞬間だった。

 

そんな彼女を、ウチももっと強く、優しく抱き締める。

 

「……大丈夫、きっとやり直せる。お姉さんが、自分の足で”人間”として歩こうとするならな?」

 

彼女を許す甘さではなく、”地獄を生き抜く覚悟を持て”という厳格な想いを込めた言葉を添えて。

 

だからな、お姉さん。

 

「もう止めましょう? 怪物なんて”役目”、お姉さんには全然似合ってまへんから」

 

長い間忘れていたのかもしれない。誰かに”やり直せる”と優しく言われた瞬間の、温かい揺らぎ。

 

「なんでも……話します」

 

女性は漸く、それを思い出してくれた。

 

 

 

 

 

(――なんという子だ。本当に高校生か?)

 

私、澤本楓は、寿みなみという少女に内心驚愕している。ただの堅気の子供に、ここまで圧倒されるとは思わなかった。

 

「みなみちゃん凄いね……私なら今みたいに寄り添うような説得は出来なかったと思うから」

「いやいや、フリルちゃんの説得と合わせたから意味があったんやで? ウチのだけやとただの綺麗事に過ぎんかったやろうし。いやぁ、緊張しましたわ~」

「お疲れ様、みなみちゃん。凄くカッコよかったよ!」

「えへへ。おおきに、あかねちゃん」

 

菖蒲達の尋問に積極的なまでに応じる女を尻目に、寿みなみは友人達と言葉を交わしている。その様子は先ほどまで凶悪犯を説得していた人物と同一とは、到底思えない。

 

(芸能界とは……これ程までに幼子に自立を強制させる場所なのか。でなければ未だキラキラと輝ける子供が、酸いも甘いも知り尽くした大人に変貌する訳がない)

 

裏社会とはまた異なる修羅の世界。其処へ身を置き揉まれ叩かれつつも生き抜こうとする少女達に、私は心の底から敬意を抱いた。

 

 

 

 

 

カー!

 

「ん?」

 

そんな時だった。ずっと黙って私達を見ていたカラスが、片翼である方向を指し示したのは。




○Kakabelの誤算その3。

マリアの恋人があまりにも良い女過ぎた事。




アニメ推しの子最新話でいよいよアイの隠し子がバレてしまいましたね。原作で見たアクルビの決裂シーンをアニメで再び見るのか……胸が苦しくなりそう。


ふと思った疑問。

Q:原作でアクアも誰も犠牲にならずにハッピーエンドを迎える為には?

A:ルビーが撮影の仕事で出会ったかぐやと個人的にもっと仲良くなり、秀知院の力を借りてカミキを潰す事。

司法でも止められない方法で他人を殺す奴を無力化するには、権力者の力が不可欠だったのかもしれません。でなければ、誰かが汚れ役に徹する他なかったでしょうし。
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