【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
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・製作者:Arusuko様
・出典:https://www.pixiv.net/requests/358164
Arusuko様、大変ありがとうございました!
※クリエイター様の規約に基づき、依頼主本人として出典を明記した上で掲載しております。無断転載・自作発言は固く禁止致します。
白銀スタジオ。応接室。
「榎並詩織のネット上の足跡を洗い出す事に成功しました」
御行の依頼でKakabelの調査を進めていた石上優は、この日関係者含む秀知院のメンバーをかぐやを通じて集めさせた。元生徒会一同に早坂、渚、そして御行の妹の圭もいる。彼等が見守る中、石上はテーブルに置いたパソコンを操作する。
「Kakabelが言っていた“革命”……榎並詩織の過去の検索内容で、これと関係するものが一つだけ見付かりました。とある凶悪犯罪者が残したブログです」
目的のサイトに辿り着いた石上はキーボードを叩く音を止め、仲間達に目配せする。
「気を付けて下さい。ハッキリ言ってこれ、心が弱ってる時に見せられたら狂いそうになる毒物ですから。……だからこそ、彼女達にとっては聖書のような存在に化けてしまったのでしょうけど」
「石上がそこまで言うとは……見るのが恐ろしくなってくるな」
「まあ僕等からすれば狂人の日記以外の何物でもないっすけどね」
そしてパソコン自体をクルリと半回転させ、御行達に見せた。
『――私の革命が道半ばで頓挫した場合を考慮し、此処に私が掲げる信念とその道筋を残す。どうかこれを読んだ者が、私の意思を継ぐ事を願って』
スピーカーから突如として放たれる、何処か鼓膜を直接撫でられるようなゾクゾクとした青年の声。
「わざわざ自分の声を録音したものを再生させてるのか……」
「ある意味凄いっすよね? 自分の主張を何が何でも聞かせようと言う執念……僕的にはコイツ相当なナルシストだと思いますよ」
「どれどれ……松村美津留?」
「聞いた事ない名前ね」
15年も前に消滅した小規模テロ組織など、御行達が知らないのも当然だ。石上は自身が集めた情報を元に彼等に説明する。
「極左過激派集団――通称『日滅軍』。日本の太平洋戦争の責任を国家に取らせる為に、凶悪な犯罪行為を実行したテロ組織。松村はこの組織のトップだった男です」
「凶悪な犯罪行為……?」
「空龍街は皆さんもご存知ですよね?」
「えぇ、日本有数の繁華街の一つね」
「15年前にコイツは其処で爆破テロを起こして、民衆に甚大な被害を与えたのです。コイツ曰く経済侵略者の海外侵攻を阻止する為だとかほざいて。この事件は死者7名に負傷者300名の大惨事となりました」
部屋の空気が凍り付くような錯覚。このブログの主が起こした犯罪は、先の北九州テロ事件をも超える惨劇だった。
「イカれてます!! 下らない妄想で何の罪も無い人達を地獄に落とすなんて、到底許せるものじゃない!」
「しかも、それをあたかも良い事したって感じでブログに声付きで語るなんて……マジでキモいんだけどコイツッ!」
正義感の強い井伊野や圭は特に怒り、声を荒げる。キモいイカれ野郎、か……松村という人間を語る上で、これ程適切な表現は無いだろう。
『君達が流す涙は、世界を浄化する聖なる雫だ。その痛みを、腐った社会への引導に変えよう……』
そんな怒りなど知らぬとばかりに、画面の中の松村は演説の口を緩めない。表面的には”搾取からの解放”や”弱者への慈愛”を装いながら、その実相手の絶望をテロの燃料へと巧みに誘導する呪いの言葉をつらつらと並べていく。
「……っ、うげぇ!!」
「千花姉、大丈夫!?」
「無理……無理ぃ……」
ブログを聞き続けていた藤原は突如として激しくのけぞり、口元を押さえて机に突っ伏した。
「ホンットマジでキモい! ドン引きです! 吐き気がします! 何ですかこの自分の私欲を正義のオブラートで100枚くらい包んだような、ヘドが出るほど甘ったるい文章と声は! 目が潰れる、耳が腐る、心が汚れる……!」
松村の信奉者が居れば、逆上して襲い掛かってきそうな程にボロクソに罵る藤原。しかし数百人の人生を踏み躙った男が受けて然るべき罵倒である。
「分かったから藤原さん。ほら、口直しに私の淹れた紅茶でも飲んで静かにして?」
「ありがとぉ、かぐやさん……!」
かぐやから受け取ったカップの中身をガブ飲みする藤原。夏向けに氷を入れて提供したので、火傷する心配はない。
「それで石上、この松村って凶悪犯は現在も逃亡中なの?」
「多分な。空龍街爆破テロから1週間後に、コイツ含む構成員が全員行方不明となってるみたいだし」
「……こんな真似をしといてのうのうと逃げてるなんて。絶対に司法の場に引き摺り出してやる!」
指をポキポキと鳴らし、黒いオーラを発する井伊野。司法に立つ人間として、松村率いる日滅軍の完全撲滅を宣言する。しかし、そんな彼女の決意と努力は徒労に終わるだろうと、かぐや、早坂、渚の3人は半ば確信している。
(((間違いなく天羽組に消されたんだろうなぁ(でしょうねぇ)……)))
空龍街はコロシの天羽組のシマ。大規模テロで堅気を傷付けられた彼等が、日滅軍を野放しにする訳が無い。想像を絶する報復が予想出来た。
「はふぅ……かぐやさんの紅茶のお陰でやっと吐き気から解放されました」
「いくら何でも大袈裟過ぎではありません事?」
「全く大袈裟じゃあありませんよ! まるで脳に直接、それも撫でるような感覚に襲われたのは本当ですし!」
頭を指で何度もコツンコツンと突く藤原。かぐやも彼女の気持ちが分からないまでもない。
「まあ、聞いてて気分が悪くなりそうなのは確かですわね」
「でしょう!? ……うぷ、また吐き気が」
「お願いですから此処で吐かないで下さいね? ――石上君。このままだとカーペットが汚れそうなので、もう十分ですわ。止めて下さいまし」
「了解です、四宮先輩」
「む、やっぱ無理……御手洗い行ってきます……」
誇張なく藤原は本当に吐き気を催したようで、顔を蒼褪めながら応接室を飛び出してトイレに駆け込んだ。勘の鋭い彼女の大袈裟な、しかし本能的に悪を察知したリアクションに、室内の空気は一層重くなった。
「……藤原さんの反応が何よりの証明ですわね。これこそがマリア君が言っていた”焦げ臭い匂い”の正体」
かぐやが吐き捨てるように断じる向かい側のソファーで、サイトを閉じた石上が更なる情報を付け加える。
「榎並詩織がこのサイトへ最初にアクセスしたのは約4年前――杠葉胡桃の自殺未遂報道からおよそ2ヶ月後ですね。そこから3日前までに、実に5万回以上もアクセスしています」
「ごッ!?」
「5万、回……」
4年未満で5桁台を優に超えるアクセス数。1日に30回以上はこの気が変になりそうなブログを読んでいたという事実に、秀知院一同は身の毛がよだつような恐怖を抱く。最早それは”洗脳”の範疇に感じたから。
『――弱き他者を喰らう事しか知らない者達を目覚めさせる。その使命を胸に私は同志達を募り、動き出したのだ』
「流石は松村さん! 素晴らしい偉業ですわ♡」
おそらく榎並詩織だけじゃない。他の6人も同様にこの特級呪物に嵌っている可能性が濃厚だった。彼女達の胡桃への愛情は、かぐや達の想像すら絶するところかもしれない。
「Kakabelは、こんな猛毒を毎日聖書のように読み耽っていたという事……? それ程までに、胡桃さんが受けた地獄がショックだったのね……」
かぐやは想像する。もし御行が自分を守る為に地獄へ身を投じ、その結果壊れてしまった場合。果たして自分は正気を保つ事が出来ただろうか? そこへこんなブログに出会い、愛する者を苦しめた元凶への復讐を促されたら……?
(私はKakabelの事を頭ごなしに批判出来そうにありませんわね……)
愛する者を理不尽に傷付け奪われるというのは、時として激しい絶望と憎悪を生み出す。周囲を気遣う余裕なんて、場合によっては無くなってしまうもの。それがテロという最悪の形で放出されるかもしれないのだ。
「外れて欲しかった……。こんなの、胡桃さんと美津子さんに何て説明すれば良いのよ……」
渚の顔は悲しみに満ちて、今にも泣きそうになる。あの日聞いたKakabelの革命宣言。彼女達の内に秘められた狂気がほぼ間違いなく本物である事が、未だに受け入れがたかった。
そんな渚に寄り添い、背を擦るかぐや。
「渚さん、まだ彼女達が凶行に走ったと決まった訳ではありません。今すぐ彼女達と会って、真意を確かめるべきです」
もしそれで……本当にテロを目論んでるのだとすれば。
「場合によっては力ずくで抑える必要もありますけど……」
「……残念だけどかぐや。彼女達はほぼ間違いなく”黒”と見て良い」
「愛……?」
どういう意味? という視線を親友から向けられた早坂は、スマホに届いたメールを確認しながら苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
「協力してくれた情報屋から調査結果が送られてきた。北九州アイドルフェスタで起きた爆破テロ事件……そこで宮里葵が例の自爆男を会場内へ侵入させたという目撃情報があったと」
渚にとっての僅かな希望すら奪われた瞬間だった。彼女の声は震え、とうとう涙を溢す。
「そん、な……」
他のメンバーも辛そうに表情を歪める。Kakabelはもう搾取された被害者ではなく、罪無き命を搾取する最悪の加害者に成り下がってしまった。胡桃の件で地獄の苦しみを味わった女の子達を犯罪者として捕まえ、裁く。その未来が確定してしまった事に、自分がもっと早く動いていればと後悔する者が続出する。
だが、現実は感傷に浸る余裕を彼等に与えようとしない。容赦なく緊迫した状況を突き出してきた。
プルルルル
「あら、電話が……」
かぐやのポッケに収まっていたスマホが振動する。表示されたのは登録のない番号。
「誰かしら――もしもし?」
『あ、もしもし! そちらは白銀かぐやさんの番号で間違いありませんか? 突然のところ申し訳ありません。私、星野マリアさんの友人の寿みなみと申しますが――』
相手は俺からの依頼でかぐやに連絡してきたみなみだった。
「寿……あぁ、確か貴女は昨年のサマーウェアで、アイさんやマリア君と一緒に撮影したグラドルの……どうかしましたの?」
『実は――』
話を聞いていたかぐやの表情がみるみる険しくなっていく。
「何ですって!?」
「かぐや、どうした急に!?」
「かぐ姉!?」
白銀兄妹が身を乗り出す。かぐやの叫びは、室内にいた全員の心臓を跳ね上がらせた。
『地下で不審者と遭遇したところをマリアさんに助けて貰ったっていう女の人達から、証拠の映像を頂きました。今からかぐやさんの携帯へ送信致します! これを使って警察に通報を……!』
「ありがとう、みなみさん! 助かるわ!」
そして通話を終え、送られてきたデータを開いた彼女の瞳が氷の如く冷たくなった。妻の僅かな機微の変化を察した御行には、もう嫌な予感しかない。
「……かぐや、一体どんな内容の電話だったんだ? まさか――」
「御行さん、皆さん」
かぐやはスマホを全員に見えるようにして、再生ボタンを押す。
「……たった今、マリア君の勘が100%正しかった事が証明されました」
『しかし、これで本当に上手くいくのか?』
『狙った柱に爆弾を仕掛けて破壊すれば、自重でこの巨大な建物は崩壊する。当然中に居る人間は無事じゃ済まないわね。原型すら留めないかもしれない』
『へぇ、そいつは良い。俺達の革命に相応しいインパクトだな――』
『か、Kakabelは日滅軍の幹部として、アリーナの外で現在待機しています!! クルミさんが自殺未遂した元凶のスポンサー達がJIFにVIPとして訪れてるので、連中の粛清も兼ねて爆破テロを起こすつもりなんです! 本当です、信じて下さい……!!』
映像の中に収められていたのは、この世に地獄を生もうという明白な証の数々だった。
「ちょ、ちょっと待ってよかぐ姉。日滅軍って、さっき聞いた変なブログに出てきた……」
「……えぇ。Kakabelは松村という狂人の思想を継いだ組織を復活させ、JIFで大規模な爆破テロを起こそうとしています……。そしてマリア君がそれを阻止しているそうです――現在進行形で!!」
全身をハンマーで叩かれたような衝撃が、メンバーを駆け巡る。
「なっ……!」
「そんな、Kakabelがテロ組織の幹部……!?」
「どうして……どうしてこんな……」
石上が、井伊野が、そして圭が絶句する。先ほどまで語り合っていた”15年前の亡霊”が現代に蘇り、女の子達を介して数多の命を飲み込まんとしている。現実が想像を遥かに超える速度で、襲い掛かってきたのだ。
「てか待って下さい! そこでどうしてマリア君が……!?」
「爆弾を設置中のテロ集団を壊滅させて、爆弾をその……解体中だそうで」
「「「「「「はぁ!!?」」」」」」
今度は別の衝撃が秀知院メンバーを襲った。大口を開けて、目ん玉が飛び出る勢いで。スタジオが揺れる程の絶叫だ。
「ちょ、まるで意味が分かりませんよ、かぐやさん!」
井伊野が驚愕するのも無理はない。テロリストを潰して爆弾解体まで行う高校生なんて、聞いた事がない。
「私だって訳が分からないですよ! マリア君がそんな技能を持ってたなんて、初耳ですし!」
(伊集院さん、子供に何を教えてるんですか……!?)
かぐやの中では拷問ソムリエの仕業だと定義されてしまった。自分の与り知らぬところで濡れ衣を着せられた本人が聞けば「解せぬ」と答えるだろうが。
「って考察は後です! アリーナへ向かいませんと!」
驚愕の波。だが、かぐやは即座にその混乱を断ち切った。今は明らかな緊急事態。
「JIFって、あそこには5万人以上の人間が集まってるところですよ!」
「こうしちゃいられない!! ――かぐや!」
「はい御行さん! この情報を元に、警察庁及び警視庁へ出動を要請します!」
「私は経団連を通じて政府に緊急通達を! VIP席のスポンサー達の安全確保を名目に、国家権力を強制介入させます! 場合によっては自衛隊も!」
「お願いしますね、渚さん!」
遂に秀知院の天才達が慌ただしく動き出し、それぞれの持つ巨大なカードを次々と場に叩き付けていく。
(――Kakabelのみんな、これ以上罪を重ねちゃダメ! あの母娘の為にも、お願い……!)
渚の脳裏に、昏睡状態の胡桃の前で談笑する杠葉美津子とKakabelの姿が浮かぶ。もうあのような日々を彼女達は享受出来ないかもしれない。でも、今ならまだ可能性はゼロじゃない。故に田沼渚は――柏木渚は、暴走する葵達をどんな手を使ってでも止めると誓う。
「マリア君、待っていて!」
「もう、全くあの子ったら! 特攻はダメだってあれ程言ったのに!」
かぐやと早坂が祈るような、そして怒りを込めた眼差しで走り出す。次の瞬間、応接室に居た全員が弾かれたようにスタジオを飛び出していった。
……その数分後。
「――ふぃ~、すっきりー……ってあれ? 皆さんは何処に?」
戻ってきた藤原千花を迎えたのは、もぬけの殻となった白銀スタジオ。
「お~い、かぐやさ~ん、会長~、皆さ~ん! かくれんぼですか~! 返事して下さーい!」
哀れ彼女、トイレ中に置いてけぼりにされてしまった。
次回、いよいよKakabelとマリアが対峙します。