【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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124話

「……“裏切り者”? それは此方のセリフですわ」

 

硝煙立ち昇る銃口を俺にピッタリと合わせたまま、葵は眉をひそめた。

 

「避けた? 葵お姉様みたいに……!」

「信じられないですわね……」

 

夕日や詩織が驚くのも無理はない。Kakabelで銃弾を余裕で回避出来るのは葵くらいで、百合花と雅でギリギリと言ったところだから。それでも常人からすれば非常識極まりない能力だが……

 

と、それよりも。今は葵との会話に集中集中っと。

 

「それよりも”やはり”……? どうやら私達の正体を既に見破ってたようですが、連絡があった兵士が仰ってた拷問で聞き出したのですか?」

(銃撃を躱したのも驚きだけど、明らかに雰囲気が変わった……? 何なの、この子が発する異様な空気は……?)

 

「いや、最初に会った時から直感で怪しいと踏んでいた。こう見えて極端な警戒心の持ち主でな。調べさせて貰ったよ」

 

主にかぐや達が、だけど。

 

大人の出来損ない(外道教師やゴミスポンサー)共が、アンタ等との関係を盾に杠葉胡桃へ様々な搾取を強いた事。あと司法や親族はまるで助けてくれなかった事も把握済みだ」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

驚きを隠せず目を見開く7人。自分達の聖域の、かなり深いところまで侵されていた事実に。

 

「……成程、そこまでご存知だったとは」

 

葵が顔を伏せる。髪に隠れて表情が窺えないが、全身の震えから怒りに耐えている事は分かる。

 

「ならば何故邪魔をした……!! もう少しで、胡桃さんの無念を晴らせるところだったのに!!」

 

我慢は直ぐに決壊し、爆破を阻止した俺に対する咆哮へと変わる。葵の激昂に触発されたかのように、他の6人も続けて怒声を上げる。可憐な表情を般若の如く歪ませて、感情的に。

 

「「胡桃お姉様を救おうと、今日まで頑張ってきたんだよ……!?」」

「私達がこの日をどれ程待ち侘びていたと思っているのです!?」

「貴方の所為で何もかも台無しじゃないですか……!!」

「どう償おうってんだよ、ああ!!?」

「爆弾を設置し直しなさいよ! 今直ぐ……!」

 

その怒りは、教育者や年長者が下の者に向ける叱責とは無縁で、お気に入りの玩具を壊された子供が癇癪を起こしているようにしか見えなかった。

 

「どういう理屈で爆破行為が杠葉胡桃の救済足り得ると判断できたのか、俺には微塵も想像出来んが……」

 

怒声や銃口など意にも介さず、俺は面倒臭そうに頭をポリポリ掻きながら彼女達の異常性を指摘する。

 

「お前達の目的は何だ? 復讐か?」

「……だったら何ですの? 私達に『復讐なんて何も生まないから止めろ』とか、そういう最もらしい綺麗事を説くおつもりで? 先に申し上げますが私達、諦めて泣き寝入りするつもりは御座いませんので」

「安心しろ。寧ろ俺は、報復は正義だと思っている側の人間だ」

 

晴らさねば前に進めない恨みだって世の中ごまんとある。だから復讐そのものを非難するつもりは全く無い。無関係な連中を巻き込まず、当事者だけで勝手にやってろって話。

 

「……意外ですわね。如何にも理想論を信じて疑ってなさそうな外見でいらっしゃる癖に」

 

酷い偏見だ。見た目で判断するなって今まで教わらなかったのか? まあコイツ等の教育事情は端に置いといて。

 

「俺がまるで解せないのは、こんな巻き添えを前提とした大規模な報復を働こうとする、その一点のみだ。まさか何万人もの人間が杠葉胡桃を地獄に落としたとか、本気で認識してる訳ではあるまい」

「……それだけじゃ、ダメだって分かったからですの」

 

ほぅ? それはどう言う意味だね? 互いに警戒を解かないまま、葵は歯をギリッと鳴らす。

 

「例え胡桃さんを直接地獄に落とした連中に報いを与えたところで、芸能界に蔓延る搾取の伝統は消えたりしませんわ。仮にあの子が目覚めて、芸能人として復帰出来たとしても……別の人間が再び彼女を狙いかねない」

 

隣で銃を抜く構えを取っていた百合花が、彼女の言葉を継ぐ。

 

「だから根本から変えなければなりません。搾取文化そのものの終焉――それこそが、私達が胡桃さんの為にすべき使命だと判断したまで」

 

成程な。それで革命と。

 

「全ては杠葉胡桃の為に、か。こんなにも仲間から愛されていて、彼女は本当に幸せ者だな」

 

俺がそう皮肉を溢してやると、

 

「一部違いますわね」

「一部?」

 

葵の表情は憤怒から一転、憐憫の眼差しを俺に向ける。おいおい、何だその可哀想なものを見る目は? 馬鹿にされた事くらい容易く察せるだろ、お嬢様方?

 

「胡桃さん第一なのは確かですわ。……でも、決して彼女だけの為じゃない。アイさんも、ルビーさんも、有馬さんも……貴方だってそう」

 

彼女は俺がこれから遭遇するだろう地獄を想像し、本気で憐んでいる様子。

 

「マリア君。貴方のような美人でモデルとしても人気な子……絶対に汚い大人達から搾取を受けるに決まってる。男の子だからって性的な対象からは外される……などと思わない方が良いですわよ?」

「……確かに俺は可愛いからな」

 

まあ俺を性的に襲おうとするゴミは逆に地獄見るだけなので、何も問題は無いが。

 

「では尚更です。芸能界はルッキズムの権化。その中でも一際存在感を放っている貴方を、悪い大人達が放っておくと思いますか? その心配は最初から無くす。それが私達がこの革命を始めたもう一つの理由なのです」

「そうよ……マリア君、次は貴方の番かもしれないのですよ?」

「私達は君の事だって救いたいのよ! 胡桃さんが戻ってくるのを一緒に待ってくれる友達でしたから!」

「だからこそ未だ信じらません! 友達だった貴方への善意でもある革命を、他ならぬ貴方自身に妨害された事が……!」

 

「……」

 

コイツ等の瞳は何処までも透き通っていて、濁りなんて一切ない。心の奥底から自分達の執り行う虐殺を正しいと信じて疑わず、本気で俺の将来を憂いていた。

 

「……お前等の言い分は分かった。少なくとも今日を迎えるまでに、かなり大変な思いをしてきたのも何となく察せられた」

 

本来であれば家族や仲間を傷付けようとする悪人共など、問答無用で叩き潰すのみなんだけどなぁ……

 

(はぁ、なんかやり辛ぇ……俺ってば随分丸くなったものだ)

 

しかし眼前の女達は短い付き合いとは言え、友達としての関係を築いた存在。故に少なからず芽生えた寂しさが、俺に事情聴取と説得という選択肢を取らせる。

 

「でも矛盾してないか、その論理と現在のお前達の行動が」

「……矛盾? そんな事は御座いませんわ」

 

「じゃあ宮里葵。さっきは何故問答無用で撃った?」

 

俺の声が地下駐車場の静寂を鋭く切り裂いた。

 

「……っ!」

 

葵の肩が、ビクリと跳ねる。救いたい、守りたい。慈愛に満ちた言葉を並べていたその手には、今も俺の命を奪う為の鉄塊が握られている。

 

「救いたいんだろ、俺を? ……にも拘らず、俺が爆弾解体を宣言した瞬間、お前は俺の頭を撃ち抜こうとした。それは果たして救済のつもりか? それとも、自分の思い通りにいかないから殺そうとしただけか?」

 

紺碧の瞳が、激しく泳ぐ。鏡に映った自分の醜い顔を無理やり見せられたような、耐え難い屈辱。

 

「人間、死ねばただの肉だ。そうなっちまったら、もう俺は芸能人として楽しく輝けなくなるだろうが?」

「それは、それは……っ、貴方が、私達の革命を邪魔したから――」

「ふむ、邪魔したから友達でも殺すという事か」

 

化けの皮、剥がれたんじゃねえか?

 

「それにさ、さっきはアイやルビーに有馬も救いたいと言ってただろ?」

「も、勿論じゃないですか!」

「彼女達もこのJIFに来ている。ルビー達新生B小町の旗揚げを、アイやアクア達が今も見守っている」

 

瞬間、ただでさえ寒苦しい地下空間の気温が下がったような気がした。

 

「な……」

「アイさん、達が……?」

「そんな……」

 

葵達は驚愕し、狼狽えている者もいる。一見すると友人達を手に掛けようとしている事実を認めたくないようだ。

 

(でも、いや違う……なら俺を躊躇なく撃つ筈がない)

 

何だろう……もっと身の毛がよだつような本質を彼女達から感じずにはいられないんだが……

 

嫌な予感の前振りを覚えていると、俯く7人の肩が微かに震えているのを捉えた。啜り泣きのような音が、コンクリートで囲まれた静寂に混じり始める。

 

(……おいおい、泣きたいのはこっちだ。まだ被害者の面をする気か?)

 

俺が眉をひそめたその時。

 

「それは――、

 

葵がゆっくりと顔を上げた。その頬には涙が伝っているが、その目は――先ほどよりもずっと、純粋で、透き通った狂気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大変お気の毒ですわ」

 

 

 

 

 

……

 

…………

 

………………はあ???

 

 

 

 

 

「……でもよく分かりましたわマリア君……これが、私達の背負うべき業なのですね」

 

「おい」

 

「アイさんも、ルビーさんも、アクアさんも、有馬さんも……そして貴方までも。大切な御友人や、胡桃さんの憧れの人にまで手に掛けなければならない……」

 

「あの」

 

「これほど残酷な試練を、松村さんは私達に……そして胡桃さんに与えたのですね」

 

「ちょっと」

 

葵の言葉に他の6人が力強く頷く。しかし悲しげな態度だったのはここまでだった。突然自分達だけの世界で楽しく談笑を始めるKakabel。情緒がジェットコースターのように変貌していく様は、流石の俺も少々ゾッとした。

 

「うふふ、アイさん達がいらっしゃったのは想定外でしたけど、まあなったからには仕方ありませんわ。私達は止まる訳にはいかないんですもの」

「ですが、ご安心をマリア君? 貴方もアイさん達も、私達は決して無駄にはしませんので」

 

「ねえ」

 

「私達の目的は芸能界に蔓延る搾取の排除。ルビーさん達もその礎として選ばれたのです。大変名誉な事ではないですか!」

 

「聞いてます?」

 

「なあに心配すんなって! アイさんやルビーさん達も、平和になった芸能界をあの世で見て喜ぶに決まってるさ!」

 

「おーい」

 

「「大丈夫だよ、マリア君? 私達に任せて!」」

 

「……」

 

明日のオカズ、母さんのハンバーグが食べたいなあ……。熱々のお肉にデミグラスソースがたっぷり掛かってて、ナイフで切ると肉汁がジュワって溢れる様子が食欲をそそるんだ~。

 

……

 

…………ん? ちょっと待って。

 

「松村って誰? アンタ等のボスの名前か?」

 

俺の投げやりな問い掛けが、Kakabel7人の表情をパッと花が咲いたように輝せた。

 

「あら、マリア君。貴方も松村さんにご興味が御座いましたとは。嬉しいですわね!」

 

「いや、別にそういう訳じゃ」

 

「ただ日滅軍トップは松村さんではありません。確かにあの方がリーダーならもっと良かった事でしょうけど」

 

葵は両手を頬に当て、少女のような初々しさで頬を赤らめる。周囲では百合花に雅、夕日、詩織、神宮寺姉妹までが、ステージの出番を待つ時のような高揚した溜息を漏らしていた。

 

「今は亡き崇高な革命家にして、私達の先駆者……私達に”道”を示して下さった、神様のようなお方ですわ」

 

んん??? え、神? はうえ? てか、もう死んでる……?

 

脳内が困惑で敷き詰められる。続けて強烈な拒絶感に支配されそうになる。

 

「松村さんのブログを読んだ時は、雷に打たれたような衝撃でしたわ……」

「だよな! あの人がいなかったら、あたし等は今頃ただ泣いてるだけの弱者だった……」

「暴力は、誰もが生まれながらに持っている原初の力……松村さんのお陰で漸く知る事が出来たんですもの!」

「「松村さんの描いた理想郷に、マリア君も連れて行ってあげるね?」」

 

「………(何なんだよ、一体?)」

 

目の前の女達は今、自分達が神と崇める死人の為に、かつての友人や憧れのアイドル、そして5万人の観客を皆殺しにしようとしている。それを、まるで初恋の相手を語るような熱量で肯定してやがる。

 

(……主食は何かなぁ? ある程度克服したとはいえ、母さんはまだまだ米が苦手だし。やっぱりパンかな? それもお肉に合う、柔らかくてフワフワの丸パンが食べたいなぁ)

 

あぁ……この世に生きる~、喜び~♪ 明日を~、生きる~、喜び~♪

 

……

 

…………

 

………………はぁ、もう面倒くせぇ。

 

狂人に説得なんて真似した俺が馬鹿だった。時間の無駄でしかない。

 

「ほらマリア君、貴方もこれを聞いて下さいます? 松村さんの素敵な演説ですわ!♡」

 

そう言って百合花が取り出したスマホを操作し、此方に画面を見せる。距離がある為内容は見辛いが、誰かの写真とその下に連なる文章らしい。

 

(怒ったり泣いたり笑ったり……忙しい奴等だな)

 

もういい加減力付くで無力化しようと動きかけた俺は、スマホから最大音量で発せられた男の言葉に鼓膜を揺さぶられた。

 

『――君達が受けた地獄は、清浄なる世界を築く使命を帯びた者達の試練でもある。その地獄を糧に、この世に大輪の花を咲かせてみせるのだ』

 

 

 

 

「何そのクソキモポエムっ!!?」

 

 

 

 

ズトンッ!!

 

「おおっと!?」

 

地下駐車場の淀んだ空気を、再び鋭い銃声が引き裂く。葵の放った弾丸は俺の頬を掠め、背後のコンクリートを爆砕させた。

 

「……侮辱したわね。私達の救世主を」

 

拳銃を持った葵の目付きは鋭く、氷の如く冷たい。先程まで俺に向けていた慈愛の心など、微塵も残ってなかった。他の6人も今までとは打って変わって静かに、しかし射殺せんばかりに睨み付けてくる。

 

「テメエ……あたし達がこの方にどれだけ救われたと思ってやがる」

「全くもって残念ですわ。貴方なら私達の気持ちを理解して下さると思ってましたのに」

「「松村さんを馬鹿にするな!!」」

 

あらら、相当殺気立ってやがる。俺を救いたいんじゃなかったのか? それとも今の反応で救う価値が失せた? まあどうでも良いか。

 

あーあ、思わず言っちまった。状況的に相手を刺激するだけなのは分かりきってたのに……でも今の俺は思春期真っ只中な15歳の少年。多感な年頃のこの肉体は、あんな汚物を投げ付けられて黙り込む事など出来ない。言わずにはいられなかったが、後悔は微塵もしてない。キモいものはキモいんだよ。

 

「そもそもお前等、俺の家族と仲間を殺すんだろ? そんな連中の主張なんて聞く価値も無い。兎に角、俺はお前等の計画を徹底的に潰す。これ決定」

 

堂々と宣言すると、一層空気が冷えていく。濃密な殺意が充満する。

 

「……そう。胡桃さんの救済を台無しにすると? 胡桃さんの苦しみなんて、知った事ではないと!!」

 

ちげえよ――と言いたいが、もうアンタ等は聞く耳を持ってないんだろうな。

 

「ならば星野マリア。もはや貴方は救うべき友人ではない」

 

7人全員が衣装の襟元を掴み、乱暴に脱ぎ捨てる。

 

 

「――我々の”敵”と見做す!!」

 

 

舞い降りる衣装の雨の中。現れた女達は赤錆色の軍服を纏っていた。

 

「全く問題ない。その方が俺もお前等を気兼ねなくブチのめせるんでね」

 

こっちの話なんて一切聞かず、大事な人達の命を軽く扱われ続けて、無性に腹が立ってきたところだ。

 

「……ところでよぉKakabel?」

 

大きく溜息を吐き、俺は紫のオーラを立ち昇らせた。

 

ルビー(姉さん)の初デビューに、水どころか爆弾を差してんじゃねえぞ?」

 

ライブは開始寸前。仮にコイツ等を叩きのめしたところで俺はもう間に合わない。この日をずっと楽しみにしてたのに……どう落とし前付けてくれんだぁ??

 

「総員、戦闘開始!!」

 

百合花の号令で武装したKakabelが一斉に動き出す。各々の得意分野で眼前の邪魔者を排除する為に。

 

「さぁて――」

 

 

 

 

 

 

天使とダンスだ!(Go dance with the angels!)




次回。天使王子VS堕天使

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