【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
Liberation of Great Arina! これより、ライブの平穏を奪還する! ……なんつって。
「散開! 訓練通りに目標を撃破します! フォーメーションA!!」
『了!!』
背負っていた荷物から薙刀を取り出し、叫ぶ百合花。葵は空いたもう片手に煌びやかなナイフを、雅はフロアの端に偶然積まれた資材置き場へ駆け出し、詩織と夕日は柱の影へ飛び込み、神宮寺姉妹は鏡合わせのようなナイフの持ち方で俺の後方へ回ろうとする。
(全方位から攻めて退路を断ち、かつ死角や安全圏から隙を突いた一撃を放つ……千代田雅の行動だけ不可解だが、概ねこういう感じかな?)
なんと一切の無駄がない、洗練された戦闘者の動きか。全員優秀と言わざるを得ない。
(羅威刃時代だったら是が非でもスカウトしたいところだ。3000万から1億円払うだけの価値はある)
俺は敵集団を高く評価しつつも、裏社会トップクラスの空間把握能力で1人残らず捉え続ける。これ程の人数の武闘派を、同時に単独で相手にするのは今回が初めてだ。総合力はさっき叩きのめした60人より間違いなく上。気を引き締めていく必要がある。
――おっと。
ズドンッ!!
「ふぅううッ!」
軽く体を屈めながら斜め後方にスライド。直後に頭があった位置を2方向から、合計3発の弾丸が鋭く通過した。舐めて掛かるつもりは欠片も無いが、俺は相手の感情が昂る事を狙い、敢えてヘラヘラと笑ってみせる。
「あっぶないなぁ、一度に3発もかよ! そんなに俺を肉にしたいのかー?」
全く、人気者は辛いねえ。
「チッ!」
「なんという反射神経……!」
3発が1発に重なる銃撃を華麗に躱され、不愉快そうに整った顔を歪める葵と百合花。残念、さっきの射撃で撃つ仕草は
「どれ、俺もお返しといこう」
瞬時に取り出した礫を指先で放つ。3連射だ。標的は7人の中でも戦闘力が高いと判断した3人――雅、百合花、そして葵。
「シュッ!」
「いっ!」
「っつ……!」
葵は指弾の軌道を完璧に読んで回避に成功。だが百合花と雅はギリギリ頬を掠めてしまい、薄ら横一文字の切り傷が描かれた。
「回避が遅れた……!」
「いってえな、アイドルの命たる顔を狙いやがって……償わせてやる!!」
驚く百合花に振り向き睨む雅。ツウっと流れる血を拭き取ろうともせず、より戦意を高める。
(今のは、指弾……!? 馬鹿な!? 速さ、威力、正確性の全てが異常過ぎる! この子、どんな虜力とコントロールをしてるのよ……!?)
葵は一見冷静に振る舞っていたが、内心では激しく驚愕していた。紅林直伝のパワーを獲得した俺の指弾は、ただの小石やBB弾ですら相手を吹き飛ばし、昏倒させられる。
(もう確定だ。あの日動きを追えなかった踵落としは私の勘違いではなかった! この子は紛れもなく……一流の戦闘者!)
「さぁまだまだだぞぉKakabelぅー!? 貴様等のラストダンスをもっと見せてみろ!」
今宵は俺がお前等の審査員だ。俺は辛口だからな。全身全霊を掛けて俺を唸らせてみるがいい、元トップアイドルの諸君ッ!
そう豪語した次の瞬間――百合花の左瞼が瞬時に2回瞬いた。
(――おや?)
俺はそれを見逃さず、更に周囲への警戒心を高める。Kakabelリーダーの謎の行動の意味は、直ぐに答えとなって襲い掛かってきた。
「よくも百合花お姉様と」
「雅お姉様を――」
「「傷付けたなッ!!」」
銀色の髪を靡かせ、背後から斜め左右に出現する美少女2人組。ナイフを携え迫りくる彼女達は無表情だったが、愛するお姉様方の御顔を傷物にされた怒りが、その透き通るような声色に乗っている。
「ほぅ! 流石は息ピッタリだ!」
俺はその場で右踵を軸に急速ターン。同時進行で警棒を取り出し、0.1秒で迎撃態勢を完了させる。
「「ッ!?(速い……!?)」」
一瞬驚くも、神宮寺姉妹は直ぐにポーカーフェイスに戻る。そして俺と双子達の剣戟が始まった。
「「死ね死ね死ね! この裏切り者ッ!!」」
「素晴らしい連携力だ! 神宮寺麻奈、神宮寺夏海! 事前に何度もシミュレーションしたところで、お前等のような真似は誰にも出来まい!」
一方が放つナイフの軌道やタイミングを、もう一方は最初から理解しているかのように上手く隙間を埋めた連撃を繰り出してくる。何よりナイフ捌きもプロ級だ。並大抵の戦闘者では単独どころか、4~5人掛かりでも勝つのは難しいだろう。
……しかし、2人が描く軌跡は濃厚だが、数度やり合ったところで腕一本分通せる空間が短時間だけ現れるのを把握する。
「今ここ空いたな?」
「「ぐッ!!?」」
だからタイミングを見計らって打突を両者の顔の間に放ってみた。
「「こ、コイツ……!」」
俺の一撃は軽自動車が全速力で衝突してくるレベル。軽く掠っただけでも、風圧と合わせて相手の頭を横向きに出来る。
態勢を崩された姉妹は俺の前で1秒間無防備に。だがその1秒だけで、俺は奴等に意識喪失級の打撃を10発以上は放てるのだ。
「麻奈、夏海!」
「「!?」」
デカ過ぎる隙を突いてまずは2人……とは簡単にはいかないらしい。俺より小さな女が空中から助太刀に現れやがった。
「「はぁ!!」」
呼び掛けられた姉妹が”彼女”の攻撃を察し、後ろに飛んで離れる。そして間を置かず残っていた俺目掛けて大質量が降り注ぐ。
「ぶっ潰れろ!!」
「ほぉおお!! えっぐいなぁ!!」
資材置き場にあった大型デスクを軽々と両手で持ちながら跳び上がり、俺が避けた場所のコンクリートの地面を粉砕する千代田雅。お前、その小さな体格で紅林や佐和田みたいなパワータイプかよ。
「よくも可愛い妹達の顔に傷を入れやがったな!? テメエには死ぬ前にデスクの可能性を教えてやるよ!」
「この状況でボケる必要はあるのか?」
「ボケをやってる訳じゃねえ! あたしは家具メーカーの令嬢だコラ!!」
やっぱボケ役だろ、お前?
「そのまま壁に埋もれてろ!!」
雅は地面に着弾させたデスクをそのまま横に滑らせ、俺を場外ホームランしようと目論む。
「凄まじい威力だな――フンッ!!」
取り敢えず足を地面にめり込ませよう。今の華奢な肉体じゃ本当にブッ飛ばされかねないし。
「くたばれ小僧!!」
「ぼぉおおおおおおおおッ!?」
そして巨大な家具が高速で俺に衝突する。コンクリートの地面を破砕する威力を持つ攻撃は、衝撃波と化して周囲の空気を激しく揺さぶった。
討ち取った。そう確信し思わずにやける雅だったが……晴れた煙の中から現れた獲物の様子に、一瞬で笑顔が凍り付く。
「……は、え??」
「――なぁんてね」
千代田雅は確かにパワータイプだ。だがそれでも紅林や肉蝮……そして俺の方が間違いなく上だと断言出来る。
「奇遇だな千代田雅ぃ? 実は俺もパワーファイターなんだよ」
この程度の質量攻撃、吹っ飛び対策さえ用意すれば普通に片手で受け止められる。ぬか喜びだったなぁ、家具使いさん?
「そんな……雅さんの攻撃を止めた!?」
「あの細い体の何処にあんな力が……?」
俺が攻撃を止める一部始終を見ていた他の6人も驚きを隠せない。
(詩織さん!)
「ッ!(はい、百合花お姉様ッ!)」
んん~???
なんか穂波百合花がまた瞬きを連発してるが、視線の動きで誰に指示してるかバレバレだぞ~?
(捉えた! 死になさい、この化け物ッ!!)
成程、榎並詩織がスナイパーか。とはいえ足が地面に食い込んでいるんだった。このままだと脳天か心臓を貫かれちまうところだが……
「ありがとう、わざわざ盾を持って来てくれてよぉ!」
「うわぁッ!!?」
俺はデスクを掴み、雅ごと引っ張って榎並詩織の射線を塞ぐ。
パンッ
発砲! しかし固いデスクが盾として機能した結果、弾丸は表面に食い込んで停止してしまった。
「て、めぇ! ふざけやが――「さよなら~!」どあああああッ!!?」
怒鳴る雅を無視してデスクを思いっきり拳でぶん殴る。ぞれによって俺は無事地面から脱出を果たし、対する雅は自慢の家具ごと無様に反対側へ飛ばされていく。
「あまりKakabelを舐めないで下さいませ!!」
そのデスクを飛び越えて、薙刀を構えた百合花が前線に躍り出る。赤錆色の軍服に薙刀とは珍しい組み合わせだが、彼女自身の美貌と抜群のスタイルが違和感を消し飛ばしていた。
「薙刀使いか。初めて相手するな」
ちょっと緊張。
「いいだろう! その長い得物、どう捌くか見せて貰おうか!」
俺は警棒を低く構え、重心を落とした。目の前の穂波百合花は、赤錆色の軍服を翻しながら、流れるような動作で薙刀を中段に構える。
「シッ!」
鋭い呼気と共に、銀光が走った。速く、重く、それでいて軽やかな刀捌き。刃先が空気を切り裂く音を立てて、俺の喉元を掠める。
「おっと!」
俺は首を微かに傾けてそれを躱すが、百合花は休む暇を与えない。勢いそのままに薙刀の石突をコンクリートの地面へ突き立てた。
(予備動作が大きい。一つデカいの来るな)
突き立てられた石突を軸にして、遠心力を乗せた刃が、地を這うような高さで俺の足元を猛烈な速さでスピンする。
「このタイミング!」
俺は足裏に力を集中させ、バネのような瞬発力で刃の真上へと跳躍。
「今ッ!」
宙に浮いた俺を、百合花が見逃す筈がない。彼女は旋回の勢いを殺さず、空いた左手で懐から拳銃を抜く。照準は逃げ場のない空中へ躍り出た俺の心臓を正確に定めていた。
……俺のパワーを甘く見るなよ?
「ふぅうう!!」
即座に俺は空中で真横に左手を放つ――それも掌を放った先へ大きく開いた状態で。誰も何もない空間で一撃を繰り出した俺を訝しむも、百合花が引き金に掛けた指は予定通り引かれる。
ズドンッ!
「大成功!」
「なっ、空中で……!?」
とうに俺の脳内演算は射線を予測済み。さっきの張り手で空気を押して体を横滑りさせ、弾丸の通過を左腕の下から僅か数センチの距離でやり過ごす。
「左側に意識が向いたな?」
驚愕してる暇など百合花には無い。何故なら警棒を持った俺の右手指に礫が装填済みだったから。
「おやすみなさいませー!」
「ぐッ!?」
何とか射的を察知した百合花が緊急回避。それでも右肩に直撃弾を喰らい、骨と筋肉が痺れて薙刀を持つ手の力が緩む。
「ではまずは指揮系統を潰すとしよう。軍隊戦の常識だ!」
無論、俺は態勢を立て直すまで待ってなんかやらない。そのまま着地と同時に、長物の死角である彼女の懐へ、弾丸のような速度で潜り込んだ。
「しまっ……!(サイドの動きが恐ろしく速い……!? もう懐まで!)」
警棒を百合花の横顔へ叩き込もうとしたその時――、
パパンッ!!
「おっとヤバい!」
真横から、鋭い牽制の銃弾が俺の足元を弾いた。そのまま進んでいたら歩行能力を奪われるところだった。危ない危ない。
「しゅっ!」
反射的に俺の動きが止まる。そのコンマ数秒の隙を見逃さず、百合花は薙刀を杖のように使い、俺を蹴り飛ばす勢いで後方へと大きく跳んでいく。
「百合花さん!」
「ありがとう葵さん!」
退避した百合花の残像と入れ替わるように、硝煙の匂いを纏った影が割り込んでくる。Kakabelの、そして日滅軍の最大火力、宮里葵だ。
彼女は着地すら待たず、右のナイフと左の拳銃をクロスさせ、獣のような俊敏さで俺の間合いを侵食してくる。
「さあマリア君。次は私と踊って下さる?」
逃げ場のない至近距離のドッグファイト。俺は警棒を握り直し、不敵に口角を上げた。
「良いねえ! 審査員を飽きさせないでくれよ? エースのお嬢様!」
そして日滅軍と苺プロダクション。互いの最高戦力が得物を手に轟音を立てて衝突した。
「素晴らしい戦闘力だ、宮里葵! あんまり刺さねえでくれよぉ??」
「お断りです! 私達の救済を邪魔した貴方は串刺し、切り刻んでくれます!!」
……凄いなぁ。神宮寺姉妹2人分を超えるナイフの技術。嵐のような打ち合いの中で俺は確信した――コイツはあの設楽や、東北から来た名も知らぬ男にも匹敵する猛者だと。
「お嬢様ってヤツがこんなにも強いとは思わなかったよ! 社交界はそんなに修羅の世界なのか?」
「有力者とその関係者は狙われやすいですからね! 自衛は必須って事ですわ!」
「やれやれ、どの業界も血の気が多くて大変だなぁ」
城ヶ崎だった頃の自分がこれを知ったら、数億入ったスーツケースを片手に社交場へ踊り出てたかもしれない。純粋に異次元な戦闘者を求めて。
「さぁ俺を刺してみろ!? 貫いてみろ!」
「その余裕は今の内よ……!(皆さんッ!)」
荒れ狂う大剣戟の隙を突いてハンドサインを送る葵。援護射撃の要請だ。しかし――、
(く、ダメ! 狙えない!)
(あの子、わざと葵さんが射線の間に来るように調整している……!)
仲間を傷付ける可能性がある故、詩織と百合花は攻撃を躊躇ってしまう。
(――そうか、私を盾にして射撃を抑えてるのね……分かってるのに攻撃が激し過ぎて、思うように動けない……!)
外野の横槍を警戒しない訳ねえだろ?
「「葵お姉様……!」」
(くっそ、さっきの攻撃のダメージが残って……てか仮に万全でも、葵のナイフに巻き込まれちまう!)
ならば神宮寺姉妹と雅が近接武器で手助けを……と言う訳にもいかない。俺と葵が織りなす攻撃が濃密過ぎて、下手に加わっても足手纏いにしかならないと判断したが故だ。
「ほらほらほらほらぁああああ!!」
「そんな大振りが私に当たるとでも!?」
横凪ぎの連撃。それを葵は大きく体勢を下げて避ける。
――ふふ、そう躱してくれたか。ならアレをやってみよう。
「はいお膝。偶々足生えてるんだよ俺」
「ごがッ!!?」
京羅戦争最終決戦。一条が俺の動きを読んで放った予想外の攻撃――体を低くした俺の顔面目掛けての膝蹴りを葵にお見舞いしてやった。
「く、あ……(い、意識が……でもまだまだッ!)」
脳を激しくシェイクされるも、葵は踏ん張って耐えようとする。
「しぶとい奴だ」
すかさず無慈悲な追撃を突こうとした俺だったが、そこへ予想外の敵襲を受ける。
ブゥウウウウン……という耳障りな羽音が、3つくらい?
「葵お姉様!!」
「ッ!」
柱の影からの叫び声に、葵は素早い動きで俺から距離を取る。間を置かず、今度は人ではない存在が空から奇襲を仕掛けてきた――マルチコプター型のドローン部隊である。
「これ以上は貴方の好きにはさせませんわよ!? 制空権は此方に御座いますので!!」
綾瀬夕日。彼女はタブレットで3機ものドローンを巧みに操り、3方向から波状攻撃を仕掛けようとする。
「ち、こんな狭い地下空間で航空兵器とはな……」
榎並詩織のような援護射撃を一向にしてこないと思ったら、この編隊の離陸準備に進めてたって訳か。ていうかドローンをどう使うつもりだ?
(爆弾の存在を考えるなら、隙見ての神風アタックか? となるとあのドローン全てが自爆用と考えるべき――)
ズドンズトンッ!!
「ッ!?」
空のドローンへ意識を割いた瞬間、その隙を突くように葵と百合花、詩織の3人が合計4発の弾丸を放ってきた。
「てか宮里葵! お前かなりの速射技術だなぁ!」
2発の弾丸が1発に重なる程の連射は、裏社会でもそうそうお目に掛かれるものではない。俺は全射撃を巧みに回避し、不規則かつ高速機動で照準をズラし続ける。
「それはどうも、マリア君」
俺の褒め言葉を、葵は優美な笑みで返す。まるで貴様の負けだと言わんばかりの、忌々しい不敵な笑顔。
(フン、どうせ次はドローンの特攻だろ? 向かって来たら指弾で撃ち落とし――特攻してこない?)
寧ろ距離を取り機体を傾け、本体上部を此方の視線に晒す……て。
(なんだアレ?)
3機のドローンは、それぞれ小さくて細長い円筒状の物体を2本ずつ背負っていた。それらと本体のドローンを繋ぐ部分は、まるで戦闘機や爆撃機のハードポイントに酷似しており……
「マジかよ……!?」
自爆型ドローンじゃなくて攻撃用UAV!? 確かに軍事の世界じゃ普通だけどよ! 手乗りサイズの無人機にロケット弾装着とか聞いた事ねえぞ!?
「最初っから”コレ”の為の時間稼ぎって訳かぁ!」
即座にある場所へ全力で駆け出す。そんな俺を嘲笑うかのように、夕日はタブレットの画面をタップする。
「木端微塵になれッ!!」
直後、後方から火が噴いてロケット弾が飛び出す。1機につき1本ずつ、計3本の鋼鉄の矢が時速数百キロで迫る。
「冗談じゃねえ、俺はまだまだ肉になりたくねえんだよ!!」
俺の悲痛な叫びは、着弾したロケット弾が搭載するTNTの爆炎に搔き消された。
夕日「ロケットラン――ちゃ~♪(井口ボイス)」
マリア「マジかよ(ゆみりんボイス)」
次回、場面は変わって外に出たみなみ達と、B小町のお話です。