【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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本作における有馬かなの、意外な(オリジナル)設定を明かします。


128話

「ふぅ、大分見たいところは回り切ったな」

 

アリーナ屋上を訪れていたとある一般客の男性3人組。その中でも最年長で手拭いを頭に巻いた男はパンフレットを眺めつつ、推しのグループを全て観終わったので帰宅を考え始めていた。

 

「あ、店長。このまま次のステージ見てって良いですか? MEMちょがJIFに出てるんすよ!」

 

しかし、隣を歩いていたネズミ面の男が撤収の引き延ばしを望む。理由は単純。彼の最推しが関係していた。

 

「MEMちょ? 名前だけなら聞いた事があるが、何の子?」

「ほら、人気YouTuberの! 最近『今ガチ』にも出てた!」

「今ガチ……? あぁ、メンバーの炎上に、誘拐事件まで起きた番組ね……」

 

3人目の黒髪の男が眉を顰める。やはりというか大半の人々にとって、今ガチは炎上した挙句、風見組に誘拐された参加者が出た番組……というイメージが強かった。

 

「しっかしニュース見た時は鳥肌ものでしたよ。臓器売買目的で女の子を何十人も誘拐するとか……下手したら寿みなみと黒川あかねも腎臓を奪われてたかもしれないって話ですよ?」

 

黒髪の男は嫌悪感に満ちた様子で吐き捨てる。

 

「仁義だの任侠だの偉そうな事を謳ってる癖に、所詮ヤクザもロクデナシの集まりでしかなかった訳ですね」

 

その言葉を否定する者は此処にはいない。若き日々を暗黒時代で消費した店長の顔にも、深い失望と諦念が混じった色が浮かぶ。

 

「……昔はもう少し弱い立場の人間に寄り添う連中ではあったんだよ。でも金が無いからって他人の人生を徹底的に踏み躙ろうとするとはな……全くもって残念で仕方ねえ」

 

かつて極道は一種の自警団として地域に根ざし、堅気から一定の信頼を得ていた時代もあった。しかし風見組が引き起こした仁義外れな所業は、長年築かれてきた信頼を焼き払うには十分だった。治安の守り手としての恩恵を知らない若い世代を中心に、彼等は半グレやマフィアと大差ない社会の害悪となりつつある。

 

その余波は、皮肉にも裏社会そのものをも浸食していた。今や裏社会の過半を占めるようになった任侠集団達の、風見組――というより、その元凶である風見健次郎に対する恨み辛みは凄まじい。一組織の暴走が業界全体の格を地に落とし、大なり小なりシノギに悪影響を及ぼしたからだ。

 

「まあまあ、今はヤクザなんかよりもMEMちょの話をしましょう! 実はあの子は最近アイドルになって、B小町ってグループに入ったんすよ!」

 

ネズミ男の必死な熱弁に、店長と黒髪の男は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

 

「それもそうですね」

「しかし、あのB小町の名前を久々に聞く事になるとはな。あの伝説のアイドル『アイ』の後継者に相応しい連中かどうか、古参ファンとして見極めてみるのも良いかもしれん」

「じゃあ早速行きましょう? もう直ぐ始まるそうですし!」

 

3人は背後に設けられたブロンズ(スター)ステージの1つへ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

私の名前は星野ルビー。

 

「ほらルビー、さっさとしなさい」

「早く早くー!」

「待ってよ2人共~!」

 

本日、最高に素敵な仲間達と一緒に本格デビューを果たす、新進気鋭のアイドルだ。

 

(いよいよ始まるんだ、今までの努力の集大成が)

 

私、有馬かな先輩、MEMちょの3人は、初代B小町の最終衣装を纏った姿で袖から出てステージへ駆け上がる。大勢のお客さんが見守る中、各々の立ち位置へと着いた。

 

ステージ上から観客席を見渡す。私達が出て来た瞬間から大きな歓声が上がったのを耳にして、改めて今の自分達が大舞台に立っているのだと再認識させられる。

 

(……やっぱインフルエンサーって凄いなぁ。こんなに沢山の人々が集まってくれるなんて)

 

内心でMEMちょに深く感謝をしつつ、私はある人を探そうと目線を激しく動かす。そしてお客さんの中でも妙に目立つ男の子を視界に捉えた。初代B小町のグッズTシャツを着た超絶金髪イケメンなんて、この世に1人しか存在しない。

 

(居た! せんせー!!)

 

思わず手を大きく振ってしまった。みんなには自分達全員に挨拶しているように見えたけど……ごめんなさい! 今だけは私の最推しだけを見させて下さい!

 

「!」

 

せんせー……おにいちゃんは私の意図に気付いてくれたようだ。一瞬驚いたけど、直ぐに穏やかな笑みを浮かべて小さく手を振ってくれた。

 

ドキッと鼓動が強く高鳴る。

 

(きゃーー♡♡ せんせーせんせー雨宮吾郎♡! 星野アクア♡! おにいちゃん♡!!)

 

湧き立つ喜びに大声で叫びたい気分だけど、ここではグッと我慢。心の中で頬を両手で挟み、悶えながらゴロゴロ転がるだけに留める。

 

「なんかあの金髪の女の子? 凄く可愛くね?」

「分かるわー。笑顔がメッチャ魅力的過ぎるし」

 

どうやら喜びが少し漏れていた様子。黄色ばかりなサイリウムに、ほんの少しだけ赤のサイリウムが混ざった。

 

(せんせーが見ている手前……絶対に成功させないと。物凄く嬉しいけど、緊張感も半端ないや……)

 

でもせんせーなら多少失敗しても、『ちょっとドジったさりなちゃんも可愛いね』って言ってくれそう。そんな優しい人だからこそ、一層素敵なところを見せてあげたい。

 

星野ルビーは――天童寺さりなは、もう不治の病で死を待つだけの女の子じゃないんだって。せんせーが私を救ってくれたように、私もアイドルを通じてファンに本当の愛を注いで、明日を前を向いて生きる糧にしてあげたい。

 

そう決意を固めていると、1曲目のイントロが流れ始めた。

 

(さぁ始まり! 集中集中!!)

 

今回歌う曲は2つ。どちらもママ達初代B小町の代表曲にして、大ヒットソングだ。

 

『『『We! Are! STAR☆T☆RAIN♪ Check! Now! Come on! Come on! Come on! Come on!♪ We! Are! STAR☆T☆RAIN♪』』』

 

『『『B小町!!』』』

 

お客さん達もイントロに合わせて一斉に歌詞を叫ぶ。ママ達がライブをする時は必ずと言っていいくらい見られた光景だ。

 

『STAR☆T☆RAIN』。地下アイドルから脱した初代B小町の為に作られた最初の曲。私達が歌っているのは、それに一定の手を加えた『STAR☆T☆RAIN -New Arrange Ver.-』である。

 

『難しいこと考えるよりも♪』

『もっとスウィートな愛を感じてたいの!♪』

『良いも悪いも見た目じゃね?(見た目じゃね?)♪』

 

よし、順調順調! 歌もダンスもママ達のスパルタ訓練で良い感じになってる! このまま一気に――え?

 

(先輩……?)

 

その時気付いた。私の少し前で踊る先輩の表情が固くなっている事に。

 

 

 

 

 

(――はぁ、またネガティブになってきてる。アイさんやルビーに元気付けられたばっかだって言うのに……)

 

一度ステージに上がれば、別に緊張とか無い。寧ろ冷静過ぎる自分が居て、今の状況をよく見る事が出来た。

 

……でも、前寄りの客が振ってる色は黄色ばかり。うちの客はMEMちょ目当てで、誰もがあの子を見たくて来てる。

 

(やっぱりあの子がセンターの方が、客は喜んだだろうな……)

 

 

 

 

 

「どうすか! B小町古参ヲタとしては!」

「まだまだ足りてねえよ! 確かに新人にしては結構高いレベルではあるけど、あのグループはアイっていう大スターと、他の6人が共鳴し合ってたから成り立ってたんだ。あの伝説のドーム公演が、正にそうだった」

 

一方の観客エリアでは、店長が新生B小町のパフォーマンスに辛口評価を下していた。

 

今のルビー達の動きは新人とは思えない程に洗練されてはいたものの、やはり憧れの先代には届いていない。他のアイドルユニットなら兎も角、少なくとも初代B小町――そしてKakabel第8期生には程遠く感じた。

 

「これじゃ『B小町』とは到底言えねえ。木っ端を3人集めたからといって……っ?」

 

突然店長の言葉が止まり、目を見開いた。

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

ルビー……?

 

(先輩、笑顔も踊りも固くなっちゃってるよ? ほら、笑って笑って!) ニコ!

 

「ッ!!」

 

言葉には決して出していなかったけど、この子が何を伝えたいのかがすぐに分かった。

 

(この子、この状況で私の状態を見抜いて、パフォーマンスを崩さないようにしながらアドバイスまで……)

 

信じられない。私なんかよりよっぽど周りが見えているじゃないの。

 

それと同時に、今のルビーの笑顔がB小町だった頃のアイさんのそれと重なった気がした。実の娘だからとか、受け継いだ遺伝子がどうこうとかの理屈じゃない。

 

正にアイさんそのものとなっていた。

 

 

 

 

 

『『『We! Are! STAR☆T☆RAIN♪ Check! Now! Come on! Come on! Come on! Come on!♪ We! Are! STAR☆T☆RAIN♪』』』

 

「…………(何だあの子は? まるで……)」

 

ルビーの振る舞いに琴線が触れた店長が、赤のサイリウムをブンブンと激しく振り出した。ドルヲタらしく、キレッキレだ。

 

「て、店長!?」

 

まるで豹変したかのような店長の動きに、ネズミ男は驚愕の声を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

(――この子は眩しいなぁ)

 

『ありがとうございましたー!! 今お送りした曲は、『STAR☆T☆RAIN』でーす! みんなー! 覚えてくれたー!?』

 

(アイさんの娘だからじゃない。この子は紛れもなく、スターとしての天賦の才を持っている……きっと、この世の誰もが敵わない程の)

 

今この瞬間も誰かの心を奪って、どんどんファンを増やして。

 

こういう子が上っていくんだろう。

 

『じゃあ次の曲行くねー!次はみんなお待ちかねの、あの大ヒットソング――――『サインはB』!!』

 

(……良いなぁ。羨ましい)

 

みんなに見てもらえて、求められて。

 

私の事を見てくれる人は誰も居ない。お母さんもマネージャーも、私の事ほったらかして。

 

ファンですら見てるのは、昔の私の面影だけ。

 

(本当……私の人生って――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ゲスは最短距離で死ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――前世の時から碌でもない事ばっか)

 

僅かに残っていた断片的な記憶が、私の心を更に締め付けてくる。

 




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