【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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129話

――信じ難い話だが、私には前世の記憶がある。

 

とは言うものの、自分と連続性があるという実感がイマイチ湧かない。一応理屈では『この男の人は有馬かなとして生まれる前の私なんだ』って分かるけど、感覚的には殆ど他人の記憶が自分の体内にあるような気分。

 

そう、前世では男だった。創作物ではありふれた“TS転生”というヤツである。もっとも、生まれ変わった瞬間から性自認は完全に女の子になってたけど。

 

……まあそれ以前に、出来ればこの男が自分の前世だと思いたくないだけ。

 

『化石ヤクザが調子に乗ってんじゃねえ!! その土手っ腹で穴掘り体験してやらぁッ!!』

『ぎゃあああああああッ!!?』

『ギャハハッ! ピーマン埋めてやるから良い具合に育ちやがれ!!』

 

ゴフッ……はっきり言おう、お手本のようなクソ野郎だった。……親は今世以上に屑で、家庭はあっさり崩壊。必然的に裏社会入りし、ゴロツキとしてやりたい放題暴れまくっていた。

 

『もうヤクザの時代は終わった! これからは俺等半グレの天下だ!!』

 

ただ、私には組織運営の才能があったらしい。立ち上げた組織は何百人もの構成員を持つ巨大なものへと成長させる事が出来た。組織名は確かラ……らい……ライ麦? うーん、この辺の記憶は欠けてるみたい。

 

ひたすら最低な仕事で弱い人からお金を巻き上げ、傷付け、ヤクザを殺しまくって、色んな半グレ組織を併呑していく日々。でも当時の私は……そんな日々が充実していて結構楽しかった。

 

今の感性だと心底軽蔑する程の、清々しいまでの害悪っぷり――それが稲村という男だった。

 

『お前が城ヶ崎だな? うちに来る気はないか?』

『いったい誰だアンタ?』

 

ある日、私の元に転機が訪れる。城ヶ崎賢志……この男を路地裏で見かけた瞬間、私は途轍もない才覚を感じ取り、組織の飛躍させてくれるだろうと信じて迷わず勧誘した。

 

『舎弟と一緒に来れば幹部からのスタートだ。銃も手に入る』

『俺は指図されるのは好きじゃない。自由にやらせて貰いますよ?』

『あぁ、良いぜ?』

 

初対面からふてぶてしい態度な奴だったけど、それもまた組織にはなかったタイプで魅力的だった。裏切り者へのエゲツない粛清に関しても、自分に黙って好き勝手してる部下を代わりに始末して、組織の引き締めを図ったくれたと、寧ろ感謝してたくらいだ。

 

『今月分のあがりです。お納め下さい』

『こんなにも……お前いったいどうやって……?』

 

驚きなのは毎月の上納金が1000万だったのに、城ヶ崎は1億も2億もポンポン出し続けてきた事。戦慄すると同時に、やはり自分の観察眼に狂いはなかったと確信した。

 

『城ヶ崎は紛れもなく天才だ! 野郎の商才、そして俺の運営力! これらがあれば関東最大……いや、日本最大の半グレ組織だって夢じゃねえ!』

 

クソッタレな人生に、例え悪名でも大きい業績を残したい。きっと当時の私はそれに固執していたのだろう。

 

『いずれは彼奴を……俺の右腕に』

 

だから私は気付けなかった。私が特にライバル視していた敵対組織を城ヶ崎が潰した直後から、自分に対する人望が徐々に薄れていった事に。『さっさと城ヶ崎にトップの席を譲れ』と、そんな目でみんなが見てきた。

 

思えば当然だろう。規律や上下関係を重んじるヤクザと違って、半グレは徹底した実力主義の世界。ボスよりも圧倒的に強い人間が居るなら、部下がそちらに従うのは自明の理だ。

 

挽回の為、なんとか結果を出そうと躍起になったが、それも長くは続かなかった。

 

『オラァ京極組じゃあ!!』

 

最後のあの日。私はヤクザの利権を犯した事で彼等の怒りを買い、襲撃してきた変な髪型の男に喉元を切られて命を落とした。

 

信頼していた男に居場所を侵食され、趣味の悪い髪型の男にあっさりと殺され……なんとまあ絵に描いたような、因果応報で無様な末路か。本当に、最初から最後まで碌でもない人生だったわ。

 

 

 

……だからやり直しのチャンスを得られた事が、何よりも嬉しかった。

 

 

 

『流石はかなちゃん! 見事な泣きっぷりだったね!』

『えへへ、当然よ! かなは天才子役なんだから!!』

 

前世の一件もあって、暴力の世界で暮らすのはもう懲り懲りだった。というかお母さんの意向により、私の人生はそれと真逆の世界へ強制的に突き進む事となる。

 

『かなは本当に凄いわね! 私も母親として誇らしいわ?』

『ありがとうお母さん! かな、もっといっぱい頑張るから褒めて褒めて~!』

 

そんなに面白いのかと半信半疑で始めた子役が、まさかの大ブレイク。私は”10秒で泣ける天才子役”として、一世を風靡する人気芸能人となった。

 

しかも実際にやってみて漸く気付いた。どうやら私には役者の才能があって、演技をする事が大好きなんだって。血生臭い世界に身を置いていた所為で、前世ではその事に全く気付けなかったようだ。

 

『かな、あの子より全然演技出来なかった……!!』

 

当時2歳だったアクアに負けて、泣く程悔しがった程に。

 

『ちょっと演技が出来るからって、素人が調子に乗らないでよね!?』

『な、何よいきなり!? これがあのかなちゃんだって言うの……!?』

 

同じく幼かった黒川あかねがオーディションで披露した演技力に、言いようのない焦りと対抗心が芽生えた程に。

 

兎に角役者の世界に自身の価値を見出した私は、全力で演技を堪能する毎日を過ごしていった。これまで過ごしていた中でも一番で、心底楽しかった。

 

 

 

……まっ、これも子役としての旬が終わるまでだったけど。

 

 

 

『かなちゃん……? あぁ、でも小学生に上がったんだよね? 悪いけどウチが求めてる子役は園児だから』

 

散々自分を褒めてくれた大人達が続々と離れていく。お前はもう用無しだと言わんばかりに。

 

『どうして!? どうしてもっと頑張れないの……!? 貴女は私の子なのに! こんなに無能とは思わなかった……!!』

『ごめんなさい、ごめんなさい……次はもっと上手くやるから……』

 

あんなに優しかった両親も掌返し。前世と違って真面な親に恵まれたと思っていた私にとって、両親の――特にお母さんの豹変は悲しい位にショックだった。

 

『じゃあかな? 悪いけど1人で頑張ってね?』

『うん。私ももう中学生だし、大丈夫だから』

 

全然大丈夫じゃない。

 

『……何で、またみんな私から離れていくの?』

 

フラッシュバックしたのは、前世の自分を見る部下達の目――さっさとトップから降りろ、お前はもう組織を率いる器じゃないと語ってくる目。あの嫌な時の繰り返しだ。

 

やっと……やっとやりたい事を見付けて、幸せになったと思ってたのに。

 

『誰か、私を見て……』

 

それだけを十数年、叫び続けてきた。

 

『私が必要と言って……』

 

それさえ言ってくれるなら、私はどれだけでも頑張ってみせる。

 

『あの子は使えるって言って……』

 

そしたら馬車馬のように働くよ。

 

『頑張ったねって褒めて……』

 

そしたらもっともっと頑張るのに……

 

 

 

 

 

誰か……

 

 

 

 

 

誰か……

 

 

 

 

 

 

私はここに居て良いって言って……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

そう願った私の視界に飛び込んできたのは、群衆の最前列で3本ものサイリウムを天高く掲げる、1人の美少年の姿。

 

星野アクア。伝説のアイドルにして国民的大女優のアイの実の息子で、隣で一緒に踊るルビーと、ちょっと苦手なマリアの実の兄でもある男。

 

(へあッ!?)

 

しかし直後の彼の行動があまりにも予想外で、あまりにも衝撃的だった。なんと無表情のまま両手に携えた6本をサイリウムを激しく振り回し、キレッキレなヲタ芸を披露し始めたのだ。

 

『『『客席(ヒト)が居ようが居まいが関係ない♪ 会場(ハコ)が大きい小さいとか気にしない♪ ちゃんと見えてる♪ 君のサイリウムー♪』』』

 

当然、超が付くレベルのイケメンがそんな事をすれば嫌でも目立つ。観客は唖然とした様子で注目し、ステージに立つ私達も吃驚仰天である。

 

(ちょちょちょ、アクたん……!? 何してんの……!?)

(あははっ! 派手に応援するってそういう意味!? もう、せんせーったら御茶目なんだから!♡)

 

無論、ステージ脇から私達を見守っていたアイさんも興奮状態。スマホでヲタ芸をするアクアを連写しまくる。

 

「きゃわー♡♡ アクアが必死になって応援してるの可愛過ぎるー!♡」

「アイ……あれがマジで可愛く見えるのかよ? あまりにもシュール過ぎるぞ……」

「もうアクアったら、完全に悪目立ちしてるじゃないの……」

「アッハッハッ、まあまあ社長もミヤコさんも、元気があって良いじゃないっすか!」

 

(――ぷっ!)

 

バッカみたい! 澄ました顔して、何してんのアイツ! そういうキャラだったの!? ドルヲタなのは聞いてたけどさ!

 

っていうかご丁寧に3人のサイリウム振って、箱推し気取りか? この浮気者め!

 

(……でも良かった。私、ちゃんと見て貰えてるんだね)

 

アクアが私を応援してくれている。ルビーはさっき私を元気付けてくれた。一緒に居たいと願っている人達が、私を有馬かなとして見てくれている。

 

(――あ)

 

心に余裕が生まれ、視野が広がった事で気付く。アクア以外にも沢山の人が、私を示す白のサイリウムを振っている事に。

 

(ほんっとに大馬鹿者ね……私ったら)

 

近い所ばかりに目が行って、それが世界の全てだと勘違いしてさ。もっと周りを良く見なさいってば。

 

『『『あ・な・たのアイドル♪』』』

 

……よーし、決めた!

 

『『『サインはB♪ chu♪』』』

 

この会場の全てを真っ白に染めてやるくらい、アイドルにも全力で打ち込んでやる!!

 

『『『うりゃほい♪ うりゃほい♪ うりゃほい♪ うりゃほい♪』』』

 

覚悟しなさいアンタ達! そして星野アクアマリン!! 今ここで宣言するわ!!

 

『『『うりゃほい♪ うりゃほい♪ うりゃほい♪ うりゃほい♪』』』

 

 

アンタ達の推しの子に――なってやる!!!

 

 

『『『フー、フー、フーゥウウウウ♪!!』』』

 

 

 

ワァアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

「店長、あの子もなんか良くないすか? 1曲目より表情も良くなってきて、正直推せる!」

「………」

「3人とも他のグループなら、エース級の容姿。特に真ん中の子はオタ受けど真ん中だし、歌も上手い!」

「人気出るかもなぁ」

 

 

 

 

 

(良かった……かなちゃん元気になってる)

 

せんせーのヲタ芸のお陰か、普通の女の子らしく良い笑顔でお客さんに手を振っている。

 

『みんなもまだまだ、声出せるよねーー!!』

 

(ねえ、かなちゃん? 君は気付いている? かなちゃんって、泣く演技をする時よりも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――笑っている時の方が可愛くて、何百倍も輝いてるって)

 

 

 

『『『『『『アンコール! アンコール!!』』』』』』

 

『アンコールありがとうございまーす! では初代B小町の最後の大ヒット曲、いっくわよーー!!』

 

 

 

ワァアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

こうして、私達新生B小町の初陣は大成功。華々しい形で幕を閉じるのだった。




有馬かなの転生ネタは、あくまでオリジナル設定に過ぎません。ただ、ノンデリ発言が多かったり口が悪いのも、根っこの魂にゴロツキだった頃の感覚が残ってると考えれば違和感ないかなと思いました。
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