【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
東雲「稲村の野郎……城ヶ崎さんの右腕だったこの俺を差し置いて、あの人の仲間という美味しいポジションに就きやがって……(殺気)」 プルプル…
秋元「まあまあ東雲ちゃん。本人も言っての通り、今はただの女の子なんだからさ? (あれ? このパターン東雲ちゃん的には、NTRってヤツ……?)」
おまけ②:新生B小町のライブ中。観衆の最後尾では……
鈴城まな「え゛、これで新人……? ダメだ、全く勝てる気がしないや……引退しよ」
地下駐車場の天井を震わせた轟音が、ゆっくりと低い残響へと変わっていく。
「はぁ……はぁ……」
私は戦闘で火照った肉体を冷まそうと、呼吸を整える。
爆発の瞬間。コンクリートの壁を激しく叩いた熱風が、赤錆色の軍服を纏う私達の髪を大きく揺らした。視界を遮るように立ち込める、黒く濃密な硝煙。その煙の向こうには嘗て友人と呼び、そして数分前まで怪物として自分達の前に立ちはだかっていたマリア君が居る筈だ。
……いや、
「……どう、でしょうか?」
「分かりません……けど……」
タブレットを胸に抱き締めている夕日さんの指先は、今も極限の緊張で微かに震えている。自衛隊向けの最新兵器を製造する『穴水重工』の技術を結集し、この日の為に彼女自身が1から組み上げたカスタムUAV。爆破が収まった現在、私達の空を守る3機の小気味良い羽音だけが、唯一のBGMだ。
手乗りサイズのドローンでも運用可能なように、マジックペン程度の規模にまで縮小されたロケット弾。しかし優秀な科学者でもある夕日さんが開発したそれらは、彼女自身の計算すら軽く上回る威力を発揮してみせた。
「……」
「「「「「「……」」」」」」
百合花さんも、雅さんも、夕日さんも、詩織さんも、麻奈さんも、夏海さんも――そして私も。誰1人として言葉を発する事なく一点──爆炎の発生源であり、今は灰色の煙が渦巻く前方をジッと見詰めていた。この沈黙の時間が永遠のようにも、ほんの一瞬のようにも感じられる。
やがて――、
「……やった」
誰かがポツリと漏らした、掠れた声。それが張り詰めていた空間を瞬時に崩した。
『やったあああああああああッ!!!』
地下駐車場を歓喜の波が急速に広がっていく。
「やった……やったわ! 倒したのね!?」
「あぁ! あたし達、勝ったんだッ!」
私達の張り詰めた顔が、パッと大輪の花が咲くような輝きへ戻っていく。それはまさにステージでの過酷なライブを大成功で終えた直後の、トップアイドルだった頃の素顔そのものだった。
「ほら、言っただろ!?」
雅さんが衣服の汚れも気にせずに声を張り上げた。先ほどマリア君にデスクごと殴り飛ばされ、全身に痛みが走っていた筈の彼女だったが、今はその痛みを忘れたように破顔している。
「あたし達7人の連携プレーなら、どんな化け物相手だって絶対にやれるって! あたしは信じてたよ、みんなの事を!」
「はい、雅さん! 本当にその通りでしたわね……!」
「やはり私達は最強のユニットですわ!」
詩織さんと夕日さんが涙を浮かべて雅さんの元へ駆け寄り、その小さな身体を強く抱き締めた。
「やった! やったよ麻奈姉!! 私達の大勝利!」
「うん、夏海! ――胡桃お姉様、見てて下さいましたか? 私達、裏切り者を見事排除してみせました!」
麻奈さんと夏海さんも、まるで鏡合わせのように互いの手を握り合い、無表情だった顔を歓喜に染める。今も眠ったままな愛する姉へ向かって、呼び掛けるように叫んでいる。
「う、あぁ……」
「葵さん! 大丈夫ですか……?」
「ありがとう百合花さん……膝蹴りを諸に喰らいましたが、胡桃さんの事を考えれば何の問題も御座いませんわ」
脳をシェイクされ、安堵から全身の力が抜けかけた私だったが、駆け寄ってきた百合花さんが肩を支えて下さったお陰で倒れずに済む。
「本当に……お気の毒な結果になってしまいましたわね、マリア君。ですがこれで貴方も、もう大人達に汚される心配はありませんよ?」
私の頬を伝う涙。それは勝利した喜びと、友を手に掛けた悲しみ、そして彼を救ってあげられたという慈愛が混ざり合ったものだった。
「ご安心を。貴方の大切なご家族やお仲間も、もうすぐ天国へ送って差し上げますから。直ぐに寂しくなくなりますわ」
「……彼もきっと分かってくれるでしょう――平和になった芸能界が実現さえすれば」
「えぇ、百合花さん。こうなってしまった以上はこの革命、必ず成功させませんとね」
やがて狂熱のような歓喜が少しだけ落ち着きを取り戻し、リーダーである百合花さんが凛とした表情で一同を見回した。右肩の鈍い苦痛に耐えながら、彼女は再び指揮官の顔になる。
「――さぁ皆さん、これで私達の革命の障害は完全に排除されました。ですが、いつまでも感傷に浸っている時間は御座いません」
百合花は腕時計に目を落とし、わずかに眉をひそめる。
「既にフェスタ開始から2時間。とうに予定の起爆時刻は過ぎてしまっています。龍珠組の動きに警戒しつつも、急いで準備を再開しましょう」
「分かりましたわ、百合花さん」
「「はい、百合花お姉様!」」
百合花さんの言葉に全員が力強く頷き、まだ煙が立ち込める空間の中で革命の軌道修正を始める。
「ではこれより2手に分かれましょう。1組は夕日さんを中心に解体されてしまった爆弾の再設置」
私達の聖戦は、ここからまた始まる。誰もがそう確信し、次なる一歩を踏み出そうとした。
「そしてもう1組は、あちらで倒れている工作部隊の皆様の救助作業を──」
その瞬間だった。
シュッ!
衣服が擦れるような、あるいは鋭く空気を引き裂くような極小の音。それが黒煙の中から突き破って現れた。
その音は空中を静止飛行していた3機のドローンへ突き刺さり、不自然に激しく揺らす。強化プラスチック製の外殻が、次の瞬間にはクモの巣状のヒビだらけと化し――かと思えば電子基板がショートする嫌な音を弾きながら、遠く離れたコンクリートの壁に叩き付けられていた。
「――へ?」
私達が異変に気付いたのは、ドローンが残ったロケット弾の引火で粉微塵に吹き飛ぶ直前だった。
ズドンッ!!!
地下駐車場の天井に届きそうな程の爆炎と、耳を聾する爆音がビッグバンの如く生まれる。
「キャァアアッ!?」
「何、何が起きたの……!?」
当然、想定外の展開に私達はパニック状態。たった今まで手を取り合って笑っていた7人の戦乙女は、爆発の威力から自分達の身を守ろうと必死に防御態勢を取る。
「ど、ドローンが……」
「銃……? いや、まさか……」
私達は銃を持っているが、夕日さんのドローンを落とす意味も必要もない。となれば犯人は1人だけ……そして、そこから考えられる撃墜手段は――おそらく指弾。先程、百合花さんと雅さんを傷付けた凶悪な攻撃だと、私は確信する。
「総員、警戒!!」
百合花さんが叫ぶ。未だマリア君が健在だと判断して、全員に怒号のような指示を飛ばし、警戒を促す。
(あの爆発を喰らって生きてる……どころかドローンを落とす余裕がある? そんな馬鹿な、有り得ない……!)
それでも本能から来る警鐘が疑問を塗り潰し、私達に煙を睨み付けるという動作へと導く。相手は単騎で60人の兵隊を無力化し、私達7人相手にも優位をもって戦っていた化け物なのだから。
「そこにいるんでしょ!? 出てきなさい、星野マリア……!」
私は銃を構えながら声を荒げる。まだ晴れぬ煙の奥。光の届かない漆黒の深淵から、言葉にならない冷徹な圧がじわじわと駐車場全体を侵食し始めていた。
しかし、肝心のターゲットは煙の中から一向に姿を見せないでいる。
「百合花さん」
「はい、葵さん――全員、一斉射撃」
持っている銃でハチの巣にしようと動く前に、礫とは違う何かが飛び出してきた。数は2つ。それらは緩い放物線を描きながら宙を舞い、コンクリートの地面へ虚しい音を立てて転がった。
カラン、カラン
「……え?」
自分達の至近に落ちたその物体の正体を、私は瞬時に分析する。
形はパイナップルのようで、しかし色は深い緑。鈍い光を放つ金属質のゴツゴツとした、禍々しい雰囲気を醸し出しているそれら。最頂部には安全ピンが引き抜かれた形跡のある、フックらしき部品が付いており──……
「グレネードッ!!」
「「「「「「!!?」」」」」」
そう。その2つの物体の正体は――手りゅう弾! しかも既にピンが抜かれている!?
「全員、柱の影に……!!」
私の叫声に僅かに遅れ、百合花さんも表情を驚愕に染めて指示を飛ばす。訓練を積んだ私達の身体はバネのように反応した。手りゅう弾から一刻も早く距離を取るべく、四方散開してそれぞれ最も近いコンクリート柱の影へと滑り込む。
「くっ!」
「あんな物騒な物を投げ付けてくるとは……!」
「ちいッ! あのガキぃ、ふざけやがって!」
柱の背後に身を潜めると同時に、顔などの急所を腕で覆い隠した。更には爆風による鼓膜の破裂を防ぐため、両耳を強く塞いで口を大きく開け、容赦なく襲いかかるであろう凄絶な爆発に備える。
革命実現の為に散々頭に叩き込んできた軍事知識と、これまでの実戦経験。これらが私達に完璧な対処法を取らせてくれた。
……しかし。
「……」
「「「「「「……」」」」」」
いくら息を詰めらせ構え続けても、その瞬間の来訪は一向になかった。静まり返った地下駐車場に、外から流れ込んだであろう僅かな風音が虚しく響くだけ。
(……あれ? 故障?)
私は塞いでいた耳からゆっくりと手を離し、目を開く。
あまりにも不自然な沈黙。変ね、とっくに爆発していても可笑しくはない筈なの――………
……
………
(し、しまった……!!!)
「――馬鹿なのお前等?」
この攻撃の真を狙いを察した時には、もう手遅れだった。地下の静寂は、自分達が仕留め損ねた美少年の、挑発的で底抜けに明るい声によって叩き割られた。
「高校生が本物持ってる訳ねえだろ!!」
「ぎゃッ!?」
「ゴォオオッ!?」
他の5人とは全く別の、死角となった柱の影に身を潜めていた夕日さんと詩織さん。その2人目掛けて、とうに煙から脱出済みのマリア君が強烈な跳び蹴り浴びせ、空気を爆裂させる程のパンチを寸分の狂いもなく叩き込んだ。
「ごがあああああ!!?」
「ゴハアアアアッ!?」
骨の軋む鈍い音。我が軍自慢の科学隊長と諜報隊長のしなやかな肢体が、成す術もなくコンクリートの壁へと激しく叩き付けられた。
「……俺の可愛さ引き立てる衣装を汚しやがって」
千代田雅が使っていたデスクの影に隠れて爆発を凌いだ俺は、玩具の手りゅう弾で敵を攪乱。バラバラに身を固めた隙を突いて飛び出し、厄介な後方支援者2人を真っ先に沈めた。
「ふぅ、残るは5人と」
夕日と詩織が崩れ落ちる衝撃音が、コンクリートの壁を鈍く震わせた。煤汚れ塗れな改造巫女服の袖を無造作に払い、彼女達が隠れていた柱に背を預けて思考を巡らす。
(さっきの戦いで凡そ察しは付いた──コイツ等は鉄火場での実戦経験が乏しい)
この7人は確かに強い。お嬢様学校で叩き込まれたという武術の才、そしてアイドル時代に培われたあの完璧な連携力と戦闘力――それら
……だが、彼女達の戦い方は、良く言えば名家の令嬢らしくお上品で、悪く言えばマニュアル通り。臨機応変な対応力が不足している。故に安全ピンが抜かれただけの精巧な模造品を本物と誤認し、揃いも揃って
(もっとも、さっきの手乗りドローンによるロケット弾発射は意表を突かれたけど。千代田雅がデスクで攻撃してくれなかったら、流石の俺もヤバかった……)
一般的な半グレや極道なら兎も角。俺が前世で渡り合ってきた裏社会の名だたる猛者達なら、あの物体が転がった音や金属の質感だけで偽物だと見抜き、厳戒態勢を解かずに身構えていただろう。
『流石だねぇ……発想が小物と全然違うや!』
それこそ、此方を嘲笑うかのように涼しい顔で佇んでいたり、あるいは子供のように楽し気に笑いながら此方の次の出方を窺ってたに違いない。戦場という底なしの泥沼を這い回ってきた本物の怪物共と、復讐という甘美な大義名分に踊らされているKakabel。この両者は死線に対する解像度が、決定的に違っていた。
「Kakabelー? お前等の重大な勘違いを正してやろう」
柱の影から歩み出る俺の足音が、静寂の戻った駐車場に不気味に響く。
「俺の強さは意味不明なパワーや、圧倒的なスピードだけじゃない」
かつて関東裏社会を恐怖と金で支配し、巨大マフィア『羅威刃』のボスとして君臨した城ヶ崎賢志。
「こういう搦め手や、相手の心理を逆手に取る卑劣な戦法も大の得意で……大・大・大好きだって事を」
前世で”悪魔”となどと称され、周辺の猛者達から強烈に警戒されていた訳。それは凄まじい武力もさることながら、目的の為ならどんな手段も厭わない底無しの冷酷さがあったからだ。
「お前等みたいな温室育ちの御令嬢には、少し刺激が強過ぎたか~?」
そう、俺はまだ全力全開じゃない。余力を残していたと聞かされた彼女達、一体どんな気持ちだろうね~? 怒り? 屈辱? 絶望? まあどれでも良いけどさ、こっちを本気で殺しに掛かってきたんだ。どんな手を使われようが文句は言わせねえ。
黒く染まった星の瞳をギラつかせながら獰猛な笑みを浮かべ、敢えて執事っぽい話し方で殲滅を宣言する。
「さぁお嬢様方? そろそろ御片付けの御時間で御座います」
ルール無用で何でもありな半グレの鉄火場というものを、その無垢な五臓六腑に染み渡らせてやろう。
マリア(勿論、殺したり重症を負わせたりはキッチリ避けるけどね♪ キャハッ♪)