【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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131話

「夕日さん! 詩織さん!」

 

葵の悲痛な叫びがフロア全体を響かせる。彼女と仲間達の視線の先には、白目を剥いたまま壁の傍で重なるようにして倒れる後方支援の2人。7人揃って初めて成り立っていたフォーメーションが、一瞬で崩れた瞬間であった。

 

そして夕日達が戦闘不能になったのを境に、崩壊は連鎖的に加速していく。

 

「夕日お姉様、詩織お姉様!!」

「よくも!!」

 

姉2人をズタボロにされた事実は、未だ無垢な末妹から成長出来なかった神宮寺姉妹を激昂させ、一斉に俺へ飛び掛かるという暴挙へと至る。

 

当然、感情的かつ無策で猛者へ突っ込むなど自殺行為。愚の骨頂だ。迅速に残った5人で集結と防御メインの陣形の再構築を行い、ダウンした2人を連れて撤退すべきだった。

 

「麻奈さん、夏海さん! ダメ!!」

「罠です2人とも!! 一度フォーメーションの組み直しを……!!」

「戻って来い!!」

 

だからこそ最年長の姉3人が怒号に近い声で制止するも、頭に血が昇った双子には届かない。やはりというか、強過ぎる仲間意識が戦闘において最大の足枷となっていた。

 

「「死ね、悪魔!!!」」

 

「誰が悪魔だ。ただの人間だぞ俺は」

 

俺は改造巫女服の袖口に仕舞っていたスイッチを取り出し、突撃してくる神宮寺姉妹に敢えて見せ付ける。

 

(何あれ……?)

(注意して、夏海! アイツ何をしてくるか分かんないから!)

 

どうやら少なからず冷静さは残っていたらしい。俺の行動を訝しつつも、先のトラップを思い出して警戒を高める。

 

……しかし、その意識は完全に俺と俺が持つスイッチに集中していた。

 

(愚か者が。戦場の全てに視野を広げないでどうする?)

 

特に相手が繰り出したものには注意を払い続ける事が肝心だぞ?

 

そして姉妹の進行ルートの両サイドに転がっている――正しくはワザとその位置に来るように転がしといた玩具の手りゅう弾の近くまで、彼女達が接近してきた刹那。

 

「ポチッとな」

 

俺はスイッチのボタンを押し込んだ。

 

「え?」

「へ?」

 

すると電波を受信した玩具の手りゅう弾が、眩い光を姉妹の直ぐ傍で炸裂させた。

 

 

カッ!!!

 

 

「「!!?」」

 

凄まじい閃光が2人の網膜を焼き、真っ白に染める。

 

「「ぎぃいいいいいいッ!!?」」

 

眩し過ぎる輝きは神宮寺姉妹の視力を一時的に喪失させ、とても美少女とは思えない悲鳴を上げさせた。

 

「きゃあ!?」

「な、何が起きた……!」

(さっきの手りゅう弾から光!? 玩具じゃなかったの!?)

 

少し離れた位置にいた葵達から見ても強烈な光量を、ほんの2、3メートルという近場から浴びてしまったのだ。一溜まりもないだろう。

 

「あ、あぁ!? 目が、目が……!?」

「見えない! 何も見えないよ……!!」

 

まさか単なる模造品に別のトラップが仕掛けられていたなど夢にも思わず、閃光を諸に喰らってしまった姉妹はその場で停止し、目を抑えてパニック状態に。

 

「俺が本物じゃないと言ったのはあくまで手りゅう弾としてだぞ、神宮寺姉妹ー?」

 

もっとも、ほんの数十秒で回復する程度の光だが、俺の前ではデカ過ぎて隙ですらなかった。閃光弾発光を目を閉じて防いだ俺は一瞬で間合いを詰め、2人を挟み込むように両腕を突き入れる。

 

「「ッ!?」」

 

そして左手で神宮寺麻奈、右手で神宮寺夏海、それぞれの側頭部を鷲掴みにして、互いを激突させた。

 

「あしゅら男爵になぁああれッ!!♪」

 

「「ガバッ!!?」」

 

勿論、死んだり後遺症が残らないように、それでいて確実にダウンする絶妙な力加減で。

 

「か、う……」

「あ、あぁ……」

 

姉妹仲良く意識を飛ばし、その場で崩れ落ちていく。

 

「テンメェえええええええええええええええええええッ!!!」

 

ここで遂に雅も理性を失い、俺に向かって猛烈な速度で突貫を始める。怒りで肉体がブーストされてるのか、ガチでオリンピックレベルの脚力を見せ付けてきた。

 

「雅さん!?」

「ちょ、待って!!」

 

葵と百合花も先の姉妹の二の舞を防ごうと慌てて飛び出す。俺がいつどんな罠を出してくるか分からない以上、雅単独で特攻させる訳にはいかない。

 

「更にポチッと」

 

しかしながら俺のトラップはこれだけじゃない。さっきとは別のスイッチを目にも止まらぬ速さで押し込んだ。

 

するとさっきの玩具が今度は大音量を放ち、地下の冷たい空気を激しく揺さぶる。

 

「「ッ!!?」」

「ぐぅううううううッ!!」

 

警戒しようにもトラップの詳細が分からない3人は、その繊細な鼓膜に轟音を叩き付けられた。

 

「いっつ、耳が……」

「う、ぷ……気持ち悪、い」

 

耳の奥にある内耳のリンパ液も振動し、平衡感覚は狂い吐き気を催す。

 

「へ、きゃあッ!?」

「百合花さん!?」

 

百合花がバランスを崩してその場に転倒。葵は何とか彼女の体を支えて介護をするが、それは雅との分断を意味した。雅は圧倒的な根性と怒りのアドレナリンだけで肉体を襲うダメージを力付くで捻じ伏せ、遂に俺の元へと辿り着いてみせた。

 

「舐めんな、この卑劣漢め!! あたしがこの程度で倒れると思うか!! 今からそのヘラヘラした顔をボコボコにしてやる!!」

「この美顔を傷付けるなんて何と罪深い女だ、千代田雅ー?」

「テメエだってあたし等の顔に傷を入れただろうが……!」

 

あ、因みに俺は耳栓を付けてます。音響弾対策もバッチリです。

 

「のぁあああああ、よくも可愛い妹達を!! くたばれクソガキャあああああ!!!」

「ほぉおお!? ヤバいヤバい! さっきよりパワーが練り上がってねえか!?」

 

始まった拳同士の打ち合いは、その質の高さに思わず驚いてしまう。こりゃ当たったら今の俺の肉体ではそれなりにダメージになっちまうかも。

 

だが密度なら俺の方が断然上。隙間を縫ってスイッチを構えても互角以上な程度には。

 

「俺の引き出しはまだまだあるぞ~?」

「ッ!? またそれかよ……! (背後の玩具にも警戒しねえと! 葵と百合花は大丈夫なのか……!?)」

 

ここまで模造品を起点にトラップを発動させられてきたのだ。雅は意識をそちらの方へ割きつつも、俺との攻撃を続行する。

 

(へぇ、やるなぁ)

 

学習と警戒、そして戦闘。少ない実戦経験でここまでのマルチタスクをこなす様は、彼女達に天性の武術の才がある事を雄弁に物語っていた。順当に回数を重ねていけば、間違いなくトップアサシンとして名を轟かせていただろう。

 

しかし残念なのは俺と今日この場でぶつかってしまった事で、その未来が訪れる可能性が半永久的に潰えてしまった事。

 

「目潰しな野田」

 

「ッ!!?」

 

牙を剥いたのは模造品ではなく、俺が片方の拳で握るように持っているスイッチそのものだった。雅に向けられたスイッチ本体の極小の穴から、暴漢撃退用の催涙スプレーが勢いよく噴霧された。

 

「がぁああああああああああ!!?」

 

当然、大の男を無力化する為に作られた防犯装備(の改造版)だ。強大な打撃の連打は強制的にストップさせられ、雅は瞳と鼻の粘膜から感じる激痛でのた打ち回る。

 

「いぎぃ、いでえ、いでえよぉ!? このヤロ、卑怯だぞテメエええええッ!!」

 

はぁ? さっきから何言ってんだコイツ。

 

「素人。”卑怯”なんて言葉が――」

 

俺は地面に転がり、痛みに苦しみながらも罵倒する彼女に呆れつつも、

 

「――命を取り合う鉄火場にある訳ねえだろ!!」

 

「ごぼぉおおおおおッ!!?」

 

容赦なく腹に蹴りを入れて宙を舞わせた。どうやら彼女はパワーこそ凄まじいが、俺に似て吹っ飛び率は非常に高いらしい。加えて俺と違って耐久値は肉体相応に低いようだ。

 

「がばッ!!?」

 

結末は夕日や詩織と全く同じ。コンクリートの固い壁に高速で叩き付けられ、体内の空気を無理矢理吐き出させながら気を失った。

 

「用意した罠が玩具の手りゅう弾だけとか、俺は一言も言ってないぞ? あらゆる可能性を常に意識しとくが良い。プロを目指すなら尚更な?」

 

なぁんて、意識を飛ばした奴に指摘したところで何も聞こえてないだろうけど。

 

「しっかし情けないねえ。たった2個の玩具で5人も戦闘不能になっちまうとは。ちゃんと訓練したのか、お前等?」

 

あ、訂正。6人に増えたわ。葵の介抱も虚しく百合花は気分を悪化させ、とても戦えそうにない状態となっていた。

 

「葵、さん……すみません。大事な場面なのに……」

「いえ、ゆっくり休んでいて下さい。百合花さん」

 

葵は百合花を柱へ寄り掛からせると、ゆっくりと此方へ視線を向ける。その表情は仲間を悉く叩きのめされた事で……怒りに染まっていた。声色も氷の如く非常に冷たい。

 

「……星野マリア。貴方を見てると怒りと屈辱で頭がおかしくなりそうだわ」

「つまり5秒後には発狂するって宣言か?」

「ッ!」

 

ふざけた返答に激憤したのか、即座に拳銃を引き抜く葵。

 

 

ズドンズドンッ!!

 

 

しかし狙いは俺ではなく、未だ地面に転がったままな2個の模造品。銃弾を喰らったそれらは大破しながら、何処か遠い場所まで盛大に飛び散っていく。

 

「ふー、ふー……」

「……ほう? 見事な対応だ、宮里葵」

 

それを見た俺は感心し、ニヤリと笑ってみせた。

 

「そうだ。相手の出した道具なぞ、何が仕掛けられてるか分かったものではない。安全圏から飛び道具で場外へと排除する……これで俺は更なる罠を張る事が出来なくなっちまった」

 

でも、と俺は続ける。

 

「もっと早く判断すべきだったなー? それこそ柱の影に隠れた段階でよぉ?」

 

一定時間を過ぎても起爆しないのであれば、基本それはフェイクである。百歩譲って俺の急接近を対処できずとも、神宮寺姉妹が飛び掛かる直前で模造品に銃撃し、自分達の危害範囲外まで飛ばす。こうすれば銃声で姉妹を抑えつつ、俺の搦め手を一部封じる事も可能だった筈だ。

 

「えぇ、貴方の事も腹立たしいけど……それ以上に自分自身に腸が煮えくり返ってる」

「おいおい、怖いなぁ。そんなに睨まないでくれ給え。綺麗な顔が台無しになるぞ?」

「黙れ。……もう私に卑劣な手段は通じないと思いなさい。今度こそ私達の革命を邪魔した事を、あの世で後悔させてやる」

 

一見冷静そうな物言いだが、今にも怒鳴り付けてきそうな勢いで此方を睨んでいる。手りゅう弾を破壊した銃も、既に俺の眉間をピンポイントで照準していた。

 

――あ、そうそう。忘れてた。これだけは先に言っとかねえと。

 

「なあ宮里葵、戦う前に一つだけ質問があるんだけど?」

「は? 何をいきなり? 今更貴方の話なんて聞く耳持ってないわよ、こっちは?」

 

葵は苛立ちを隠そうともせず、引き金に掛けた指に力を込めようとする。だが、その前に飛んできた衝撃的な台詞が、彼女の行動を大きく阻害した。

 

 

 

 

 

「お前等ってさぁ――――本当に杠葉胡桃の仲間?」

 

「「!?」」

 

葵と、そして気絶から免れた百合花の顔が、一瞬で驚愕に満ちたものとなった。




次回、いよいよ決着。
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