【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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早坂VS白銀父


136話

「きゃあああああッ!?」

「と、突風……!?」

 

超武闘派同士の物理的な衝突が爆発のような衝撃波を発生させ、背後にいるKakabelの少女達を容赦なく襲う。

 

(あの殿方とマリア君が、ただぶつかっただけで……!?)

 

風圧に煽られながらも、葵は病み上がりな胡桃がこれ以上傷付かないよう、自らが盾になるようにギュッと抱き締めているのが気配で分かった。

 

だが、俺には背後を気遣ってやれる余裕など1ミリも残されていなかった。

 

(半端じゃないオーラだ。奴の周りの背景が見えないくらいだ……)

 

エリア全域の空気を震わすような、極大の威圧感。一目見ただけで戦闘に慣れた裏社会の人間も、普通の堅気も、老若男女問わず己の本能が強制的に理解させられるだろう。

 

”この男には勝てない。もはや強いという次元で語れる相手ではない”――と。もっともそれが俺を退かせる理由にはならないし、負けるだなんて微塵も考えてはいないが。

 

「シッ!」

 

伊集院の無駄の無い拳が時に俺の顔面を掠め、時に俺の突き出す警棒と重低音を立てて激突する。

 

(……よし! 純粋なパワーだけなら、間違いなく紅林譲りの力を宿す俺の方が上だ!)

 

だが、それ以外――スピード、手数、そして技術。戦闘を構成するありとあらゆる要素で、俺は圧倒的な差を見せ付けられていた。

 

何よりパワーで劣るとは言っても、あくまで俺や紅林のような規格外と比べたらの話だ。伊集院の放つ一撃一撃の重さは、数多の戦闘者すら容易く凌駕している。この小さい肉体じゃ、真面に喰らえば一溜りもないだろう。

 

「これでも喰らってみるがいい……!」

 

俺は距離を僅かに空け、右手の指先から指弾を6つ放とうとする。俺の指弾はただの小石やBB弾でも意識を消し飛ばす程の威力を持つ。これを6連射で完全回避するのは不可能に近い。

 

「ふむ」

 

だが、伊集院は涼しい顔のまま懐から何かを6つ取り出す。

 

(? お手玉……?)

 

俺が疑問を抱きながら指弾を放つ中、瞬時に伊集院も途轍もない速度でお手玉を放り投げ、此方の指弾6発全てへ的確にぶつけてみせた。神業としか言いようのない技術で軌道を僅かにズラされ、俺の必殺の礫は虚しく背後のコンクリートを穿つのみに終わる。

 

「何……!?」

 

目に見えない速度の攻撃をこうも巧みに対応され、愕然となる俺。しかし本物の死神の技はこれだけじゃない。奴の戦法はトリッキーで、それでいて流水の如く連鎖する。

 

「フンッ!」

 

パンッ!

 

「!?」

 

指弾と衝突して破裂したお手玉。その中身である小豆が空中に散らばった瞬間、伊集院は脚に仕込んだ甲冑で一部を鋭く蹴り飛ばしやがった。

 

「グッ、ここで目潰しか!?」

 

散弾のように放たれた小豆が俺の顔面に襲い掛かり、思わず目を細めてしまう。

 

――って。

 

「シャアッ!」

「ボォオオオオオオオッ!!?」

 

その一瞬の隙を突いた伊集院の神速かつ無音の急接近が、俺の全身を強烈な衝撃で揺さぶる。気配すら完全に消されている為、僅かでも視界から目を離せばほぼ完全に見失う。極めて厄介だ。

 

(これで五十路超えとか冗談だろ!? 化け物め!)

 

拷問ソムリエの恐ろしさは、裏社会でも災害レベルの脅威として認識されている。しかし、明らかに噂の方が過小評価だった。腹の痛みに耐えつつも、俺はこの怪物を如何にして仕留めるか脳をフル回転させ、同時に警棒を猛烈な速度で打ち込み続ける。

 

「ふむ。速さ、重さ、共に凄まじいな。流石は紅林君の弟子なだけある」

「素晴らしい師匠だよ、まったく……!」

 

腕だけでなく足技も含めて全身全霊の連撃を繰り出すが、伊集院は流水のように滑らかな動きでそれらすら容易く対応してきた。それどころか冷静にこっちの戦闘力を査定してきやがる。

 

「伊集院、ちょっとお前が石頭か確認させてくれ……!」

「面白い、乗ろう」

 

警棒が弾かれた反動を利用し、俺は伊集院の懐に潜り込んで額を思い切り突き出した。俺の頭突きは今や車のドアすらブチ破る威力だ。

 

「ゴッツンコッ! 頭蓋骨バトルだぁああああ!!」

「フンッ!!」

 

ゴガァアアアアンッ!!

 

俺と伊集院の額同士が真正面から激突する。再び凄まじい衝撃波が発生し、周囲に転がっていた小道具やゴミが彼方へと飛ばされていった。

 

「ぐぅうううッ! 岩の塊とは予想外……!(少し割れちまったか? 母さん譲りの美顔が傷付いたりしてないよな?)」

「君も思ってた以上の石頭なようだね」

 

チッ、額に痣作ってる癖に能面を保ちやがって!

 

 

 

 

 

――その異次元過ぎる戦闘を、遠目に眺め続けるKakabel達。

 

「アイツ等、本当に人間なのか……? まるでワン○ースみたいじゃん」

「もはや人ならざる者同士の争いにしか見えませんわ……」

 

雅と百合花が、信じられないものを見るような声で呟く。無理もない。繰り広げられている伊集院と俺の死闘は、宛ら閻魔大王へ挑む妖怪に近い図だ。

 

「……」

「葵お姉様……?」

 

胡桃の心配そうな視線。彼女は自分を庇う姉が震えている事に気付いたらしい。

 

「あぁ、ごめんなさい胡桃さん――正直私、あの2人の戦いに恐怖を抱きました。特に……あのバーテンダーの殿方に」

「あの七三のおじ様に……? 一体何者なんでしょう?(戦ってる女の子の事も私知りませんけど……)」

「全く分かりません……ただ」

 

葵の震える声。自分達7人掛かりでも互角以上に戦いを見せ、そして完膚なきまでに打ち勝った俺。葵からすれば俺でさえ十分に規格外の怪物なのに、その俺ですら劣勢に立たされる相手が存在する事実。

 

「ほんの僅かしか観戦してませんが、確信をもって断言出来ます――私達7人総掛かりでも、あの殿方には勝てません。マリア君と戦った時以上の惨敗が私達を待っていたでしょうね……」

「ッ」

「葵がそこまで言う相手なのかよ……」

 

自分達の中でも最強の武闘派である葵の言葉は、鋭利な刃物となって胡桃以外の6人に突き刺さったようだ。冷や汗を流し、息を呑む者も少なくなかった。

 

(そんな恐ろしい人が、お姉様達に何の用なの……?)

 

胡桃の心中は穏やかではいられない。伊集院が葵達に向けていた視線は、明らかに非友好的なものだったから。

 

(いざという時は、私が守らないと)

 

絶望的な状況にも関わらず、Kakabelのセンターは決して諦めるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

一方――、

 

「チィイッ!」

 

俺は伊集院との近接戦の中、隙を突いて衣服に隠し持っていた催涙スプレーを引き抜き、伊集院の顔面目掛けて噴射しようとした。だが伊集院はそれすらも予備動作だけで見切り、手刀で俺の手首を弾き飛ばす。虚しく宙を舞うスプレーを横目に、俺は口角を釣り上げた。

 

(やはりな! しかし弾かれるくらいは想定内だ!)

 

防御されるのを見越した俺は、空いたもう片方の腕に予め装着しておいた予備のスプレーを作動。コンマ1秒以下の間を置かずに至近距離で噴射した。これなら避けられまい!

 

「シュッ」

 

だが伊集院は身体を独楽のように高速回転させながら、着ていた上着を瞬時に脱ぎ捨て、広げたそれを盾にしてスプレーの飛沫を完全に防ぎ切った。

 

(な……)

 

驚く暇すら与えてくれない。次の瞬間には勢いそのままに俺の懐へと突撃し、強烈な体当たりを見舞ってきた。

 

「がッ!」

 

俺の身体が後ろへ吹き飛ばされるが、最悪なのはそれだけじゃなかった。伊集院が盾にした上着――カプサイシンがたっぷり付着したそれが、俺の顔面に覆い被さってきたのだ。

 

「ぐぅううううううううッ!?」

 

目と鼻の粘膜を焼く強烈な刺激を俺自身が喰らう羽目になる。自分の罠で自爆させられるという、屈辱的で最悪のカウンター。

 

「うぉりゃああッ!!」

 

ぶつかる直前、自ら後方へ大きくジャンプしてダメージを抑えつつ、伊集院と距離を取った。上着を投げ捨て、激痛に顔を歪めながら息を荒げる。

 

「ゴホッ! ぐ、はぁ……はぁッ!」

「……」

 

視界の先。俺が肩で息をしているのに対して、伊集院は全く呼吸が乱れていなかった。いくら俺が連戦中の身である事を除いても、あれだけ激しい動きを繰り広げておきながら、その額に汗1つ浮かべてすらいないとは。圧倒的な力の差を、1秒ごとに見せ付けられ続けている気分である。

 

「……マリア君、君が守ってる相手は悪党だ。分かってるのか?」

 

伊集院は上着を失ったシャツ姿のまま冷酷な目で俺を見下ろし、上から目線で問い掛けてきた。俺は顔の痛みに耐えながら、不利な状況下に対する苛立ちも含んだ声色で反論する。

 

「……お前こそ、今まで疑問に思ってこなかったのか? 自分の行動が何の罪もない弱者を傷付け、死を選ぶ程に絶望させてしまう可能性を!」

 

そう、悪党にも胡桃のような純粋な善人と絆で結ばれている者だっている。その善人が地獄の苦しみを味おうと知った事ではないと、お前は本気で考えているのか――拷問ソムリエ!!

 

「もし、その可能性を無視して今日まで生きてきたのなら……俺はお前を心底軽蔑する」

「!」

 

俺の言葉に伊集院の目が僅かに見開かれたが、その動揺もほんの一瞬。

 

「……時間が惜しい。そろそろ決着を付けよう」

 

伊集院の声が一段と低く、絶対的な宣告へと変わった。

 

カラン……カラン……

 

「ッ!?(何時の間に……!?)」

 

気が付けば俺の足元に煙玉と閃光弾が転がっていた。催涙スプレーで自爆し、粘膜にダメージを受けて視界と嗅覚が鈍っていた俺は、伊集院がいつの間にかそれらを転がしていた事に気付くのが遅れてしまう。

 

カッ!!! シュゥウウウウ!

 

「くっそッ……!」

 

強烈な閃光と、周囲を覆い尽くす分厚い煙幕。俺は伊集院の姿を完全に見失ってしまった。

 

(落ち着け、ヤツの歩法は無音だ。気配を消して近付いてくる筈……)

 

目を閉じ、全神経を聴覚と肌の感覚に集中させる。

 

 

 

――カサッ

 

 

 

「!」

 

その時、煙幕の右斜め前方から、微かに小さな衣擦れの音。

 

(……いや、待て)

 

相手は心理戦の化け物だ。ここまで完全無音で動ける男が、ここぞという場面で態とらしい音を立てるとは考え難い。無音だと認識させておいて、意図的に音を立てる。つまり、これは俺の意識を右へ向けさせる為の囮だ。

 

(本命は逆方向、あるいは背後からの奇襲だ!)

 

俺は瞬時に別方向からの襲撃を警戒し、体を捻った。

 

……だが、その瞬間。

 

 

 

「全周警戒を怠るな。そしてどんな手を使われても最適解で対応できるよう精進しなさい」

 

 

 

俺の頭上から、冷たい死神の声が降ってきた。

 

「なッ――」

 

音のした方向からの急接近ですらなく、況してや背後や反対面でもなく――直上!

 

「しまっ……!」

 

なんと伊集院は、あの短時間で俺の真上へと跳躍し、そこから奇襲を仕掛けてきたのだ。心理戦の更に裏の裏。上空からの完全な死角。

 

対応が1歩遅れた俺の至近に、死神がスタッと舞い降りた。

 

(不味い、間に合わ――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八極拳――ドカァアアアアアアンッ!!!」

 

「ボォオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹に力を込める暇すら与えられず。震脚を利用した一撃必殺の発勁が、俺の華奢な腹に深く、深く突き刺さった。

 

(ちゅ、中国、拳法……!)

 

猛烈な威力の打撃を諸に喰らい、俺の身体はくの字に曲がりながらピンボールのように弾け飛び、後方のコンクリートの壁に激しく叩き付けられた。

 

「ぐぉおおお……!!?」

 

壁が俺を中心に大きく凹み、周囲に巨大なクモの巣状の巨大なヒビ割れを形成する程のパワー。全身の骨が軋み、内臓が破裂しそうな激痛が走る。肺から空気が強制的に押し出され、視界が明滅する。通常であれば即座に意識を刈り取られる程の、致命的な一撃。

 

……しかしだ。それでも俺は耐えてみせた。

 

「ぐ、ふ、フハ、ハハハハッ! 生憎だが伊集院……俺は生まれて1度も打撃で意識を飛ばした事は――」

 

俺は口端から涎を溢しながらも、狂ったように笑いながらヨロヨロと立ち上がった。舐めるな厄災め。この城ヶ崎賢志――いや星野マリアは、打撃によるブラックアウトなど断固として拒否する!

 

「そうか」

 

そう意気込む俺の強気な言葉が紡ぎ終わる前に。

 

 

 

トスッ

 

 

 

「――な、い……え?」

 

いつの間にか俺の真横、完全に死角となるサイドに無音で接近していた伊集院。そして気が付いた時には、既に首筋の頸動脈へ正確無比な手刀を喰らった後だった。

 

「ッ――」

 

抗う間も無く俺の思考は遠のき、急速に深い闇へと沈んでいく。最後に見たのは、此方を見下ろす伊集院の冷徹で鋭い三白眼……やはり濁りの有無は全く分からない。

 

「――キュウ」

 

俺は2つの人生で初めて、打撃により意識を飛ばすのだった。




はい、という訳で戦術的には大敗北です。

次回、気絶したマリアを余所に、伊集院とKakabelが対峙します。果たして伊集院はどんな決断を下すのか。お楽しみに。
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