【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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138話

屋上の隅からガチャガチャと、長い鉄棒やパイプ椅子が地面と擦れる音。

 

「あうはぁ、今日は晴天、波風高~し!」

「クイッとやって、明日も頑張ってきましょ~!」

「おっ星様キッラキラ~! やっぱ5Gってスゲエなぁ……」

 

加えて目を爛々と輝かせた身なりの良い男達の、支離滅裂な台詞。それらは群衆の喧騒によって容易く掻き消され、真面な人間は1人として異変に気付けないでいる。

 

そんな謎の集団を物陰に隠れなら見守り、邪悪な笑みを溢すテロ組織の参謀。

 

「――行け」

 

短い一言と共に右手を下ろす。

 

「お薬の為~!」

「お仕事頑張っちゃうぞ~!」

「キラッキラの打ち上げ花火ー!」

 

途端に男達は走り出す。得物を携え、最も近かった第3ブロンズステージ(スターステージ)――その壇上でパフォーマンスを繰り広げているアイドル達へと迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『――ありがとうございましたー!!!』』』

 

俺こと紅林二郎が警備員として所属している苺プロダクション。その事務所が誇る2代目B小町の旗揚げが、全て完了した瞬間だった。

 

「……!」

 

突如、俺の第六感が激しく警鐘を鳴らす。猛烈に嫌な悪寒が走った。

 

(この感じ……!? 久々だが、何かヤバい!)

 

俺は即座に控え所のテントから顔を出し、スターステージとお客さん、そしてその周囲に異常が見られないか目を凝らして確認する。

 

(む!)

 

捉えた。観客の丁度後ろ――暗闇に包まれた空間から飛び出してくる複数の人影。俺の鍛え上げられた視力は、100メートル先のアリの数だって直ぐに分かる!

 

「アイドルを~殴って吹き飛ばせば~!」

「美味しいお菓子を貰えちゃう~!」

 

(なんだありゃあ? 見るからに様子が変だ!)

 

虚ろな瞳に、目の下にくっきりと浮かんだ隈、そして口から涎を溢すダラしのない笑顔。恰好だけは裕福そうな10人近い集団は、明らかに場違いな鉄棒や角材といった道具を片手にステージへ向かっている。

 

(こんな場所で鉄棒とか何に使う気だよ!?)

 

「あ!?」

「ちょ、おい紅林さん!? どうした……!?」

 

即座に飛び出した俺。後ろからアイさんやミヤコさん、壱護社長が呼び掛けようとするが、立ち止まっている暇はない。振り返りながら叫ぶ。

 

「社長! 副社長! アイさんを安全なところへ!」

 

「お、おいッ……!」

 

制止を振り切り、全力で掛け続ける。その途中で空気を大量に吸い、屋上全体を震わせんばかりに咆哮した。

 

 

 

「アクア君!! ルビーちゃん達を守れ!!」

 

 

 

「――紅林さん?」

 

轟くその叫びはアクア君は勿論、ステージに立つB小町の3人、そして多くの群衆を硬直させ、俺への視線を集中させた。おいおい、固まってる場合じゃねえぞ!

 

「何をしてる、早くしろ……!!」

 

「ッ!!」

 

漸く緊急事態だと察したアクア君はサイリウムを投げ捨て、ルビーちゃん達のところへ駆け出した。

 

「うぉはァァァア! かけっこだぁああああ!!」

 

狂気に満ちた異常者の群れ。その最前列を走る2人が、観客の最後尾にいた少女――自分の出番を終えてB小町のライブを見に来ていたアイドル、鈴城まな――に向けて、太い鉄パイプを容赦なく振り下ろそうとした。

 

「え? きゃっ……!?」

 

鈴城が恐怖で目を閉じた瞬間。

 

 

ガアァンッ!!

 

 

「……え?」

 

骨の砕ける音ではなく、分厚い岩を叩いたような鈍い音が屋上に響いた。彼女が恐る恐る目を開けると、そこには自分の身代わりとなって鉄パイプを頭部や肩で受け止めた、大柄な警備員の背中があった。

 

「いてえなコラ――先に手を出したのはテメェ等だからな?」

 

ちょっと頭から血が滲んできちまったが、俺にとってこの位は濡れた手拭いを投げ付けられたようなもの。痛みに顔を歪めるどころか、鬼神の如き怒気を放ちながら睨み付ける。

 

「な……」

「邪魔をぉぉおお、するなぁああああ!!」

 

一瞬怯むも後続の奴等が追撃を仕掛ける……勿論、そんな暇など一切与えなかったが。

 

「神聖なライブ会場を血で汚そうとすんじゃねぇぞ!? 全員、眠っとけぇえええええ!!」

 

『おごぼぉおおおおおおおおおおおおおッ!!?』

 

凄まじい風切り音と共に放たれた右ストレートの連続射撃。次々と男達の顔面を捉え、そのまま後方の仲間ごとボウリングのピンのように吹き飛ばした。

 

「あに、こでぇ……?」

「ぐべべ、べ……」

 

俺は驚異的なパワーとスピードで、残る不届き者へ瞬く間にラッシュを叩き込む。僅か5秒。悲鳴を上げる間もなく、10人の男達は文字通り宙を舞い、白目を剥いて地面に沈んだ。一方的で圧倒的な蹂躙劇。

 

「え、え……?」

「なんだ……何が起きたんだよ……?」

「あの警備員が、一瞬で10人も……?」

 

まるで漫画やアニメみたいな展開と光景に、鈴城を始めとする観客達は半ば思考停止したまま、倒れ伏した不審者共と俺を見ていた。

 

一方、俺の叫びを受けてステージへ駆け上がったアクア君。ステージに近い側の観客達は何事かと彼に注目するが、当然そんなものは気にも留めない。アクア君にとっては、己の命よりも大切な妹とその仲間達のピンチかもしれないのだから。

 

「ルビー! 有馬、MEMちょ!! 俺の後ろへ下がれ!!」

「おにいちゃん!?」

「アクア……!?」

「アクたん、どうしたの!?」

 

息を切らしながら3人の前に立ち塞がったアクアだったが、彼の視界の端――俺が制圧した場所から一番遠い、ステージの逆サイドの暗がりから、嫌な足音が響いた。

 

「アハハハハッ!! いっちゃぁあああくッ!!」

「2ぃいいばぁああああん!」

 

「!」

 

やはり俺の懸念通り、他にも不審者が居たようだ。そいつ等は別方向からアプローチを仕掛ける事で、何の妨害も受ける事なくアクア君達が居るステージに登壇してきやがった。その数は全部で6人。先程と同じように理性を失い、角材やパイプを持った連中が狂った笑い声を上げ続ける。

 

「チッ……! 俺が相手をする。お前らは絶対に離れるな!」

 

アクア君が拳を握り締め、奴等を迎え撃とうとしたその時。

 

「――ダメだよ、おにいちゃん。私も一緒に戦う」

「ルビー!?」

 

アクア君の隣に、なんとルビーちゃんが並び立った。彼女は背後にいる有馬さんとMEMさんを庇うように両腕を広げ、真っ直ぐに狂人達を睨みつけている。

 

「かなちゃんもMEMちょも――そしておにいちゃんも、私が絶対に守ってみせる。おにいちゃん1人だけに無茶はさせないからね?」

「……悪目立ちしてしまうぞ? お前はアイドルなんだから」

「守る力があるのに何もしないアイドルなんて、それこそ私の望むアイドル像じゃないよ!」

 

ルビーちゃんはアクア君に向けて、ニヤリと不敵に笑ってみせた。これは何を言っても無駄だろうと判断したアクア君は溜息を一つ。

 

「1人だけ突出して無理すんなよ?」

「もっちろん、おにいちゃんもね?」

 

星野アクアと星野ルビー。固い絆で結ばれた兄と妹が、互いと愛する仲間を守る為、狂気に満ちた暴漢達へ立ち向かおうと身構える。戦力差3倍など、ものともせず。

 

「お菓子~! お菓子ぃいいいいい!!」

「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞぉおおおおお!!」

 

男共が一斉に動き出した。得物を振り上げ、目を血走らせ、口から涎をだらしなく垂らし、子供相手だろうと容赦なく襲い掛かる。

 

「今はまだ夏なんだけど!」

 

襲い掛かってくる6人の狂人に対し、兄妹は同時に動いた。

 

「ハロウィンしたいなら――2ヶ月後に出直して来い!!」

 

「ごばぁああああッ!!?」

 

ルビーちゃんが素早い動きで1人の男に肉薄し、角材を振り下ろされる前に強烈な剛拳を相手の右頬へ叩き込んだ。俺の訓練のお陰でもあるとはいえ、堅気の女の子とは思えないパワーとスピードを獲得していた。

 

そしてそれは、アクア君も同じ。

 

「アヒャヒャ! ぶっ殺――」

 

「フンッ!」

 

続いて近付いてきた男の腕をアクア君が掴む。力任せじゃない。突進してくる男の勢いをそのまま利用し、人体の重心を完璧に崩す、理にかなった見事な体捌きだ。

 

「セイッ!!」

 

「がはッ……!?」

 

ステージの床が軋むほどの、完璧な背負い投げ! ルビーちゃんとは違って相手に怪我を最小限に抑えつつ、且つしっかりと無力化させるスマートな一撃。医者か武術の達人かと思う程の、無駄の一切無い制圧術だ。

 

「打ち上げの時間だぁあああ!」

「たぁまやぁあああああ!!」

 

「たまやぁ、じゃねえよ!」

「妹達の邪魔をするな」

 

「「どげばッ!?」」

 

アクア君もルビーちゃんもホントにすげえ。あの年で裏の中堅武闘派にも喰らい付けそうな戦闘力を持つに至るとは。自惚れる訳じゃねえが、俺の師匠としての修行の賜物だろう。

 

……いや、それだけじゃない。あのアイさん譲りの天性が、2人をあそこまで強くさせてるのかもしれないな。

 

「ふんッ!!」

 

「ぐべッ!?」

 

アクア君が投げ飛ばし、ルビーちゃんが殴り飛ばす。恐るべき身体能力と決死の覚悟を持った最強の兄妹。またたく間に5人もの暴漢がステージ上で沈められた。

 

「2人共流石だ! それでこそ俺の愛弟子!」

 

だが、乱戦は一瞬の隙を生む。

 

「ヒャハハハハッ!!」

 

兄妹の死角をすり抜けた最後の1人が、狂った笑い声を上げながら無防備な有馬さん達へと躍り出たのだ。

 

「ひぃッ!?」

「ちょ、不味い不味い不味いって!」

 

彼女達は迫りくる男から逃れようとするが、ステージの端で有馬さんがバランスを崩した。

 

「きゃッ!」

「かなちゃ、わッ!?」

 

それにMEMさんも巻き込まれ、仲良く尻餅を付いてしまう。

 

「大日本帝国、ばんざあああああい!!」

 

男が太い角材を頭上高く振り上げる。

 

「ヤバいッ! 逃げろ……!」

「かなちゃん、MEMちょ!!」

 

アクア君達が急いで追撃に入るが、どう考えても間に合わない。

 

「……?」

 

その時だった。ふと有馬さんがステージ台の端に視線を落とすと、片付け忘れであろうスコップが立て掛けられていた事に。

 

「!」

 

有馬さんは一瞬で目を見開くと、素早くそれを掴んで拾い上げる。自分とMEMさんの命の危機に火事場の馬鹿力が働いたのか、その動きはとんでもなく速かった。

 

(前世の私! ちょっと位は役に立ちなさいッ!!)

 

その時の彼女の瞳にはアイドルらしからぬ、修羅場を潜り抜けた裏の人間のような鋭い光が宿っていた。

 

 

ガキィイイインッ!!!

 

 

「……はにゃ?」

 

攻撃した男が間の抜けた声を漏らす。

 

なんと有馬さんは振り下ろされた角材を、スコップの柄を自分の前に突き出し、ギリギリのタイミングで完璧に受け止めたのだ。

 

「あっぶなッ! マジあぶなッ!」

「かなちゃん、すっげぇッ!?」

 

等身大の悲鳴を上げる有馬さんと、目を丸くしてドン引き……いや、驚愕しているMEMさん。アイドルがスコップで暴漢の角材を捌くって、どんなカオスな状況だよ!?

 

「私の仲間達に、何してんだッ!!」

 

「あべぇぶッ!?」

 

男が有馬さんの防御に手古摺った僅かな隙をルビーちゃんが突く。猛ダッシュで追い付いた彼女が跳躍しながら渾身のパンチを男の顔面に叩き込み、見事に沈めてみせた。

 

「2人共、大丈夫!?」

「え、えぇ。何とかね」

「かなちゃんのお陰だよぉ……死ぬかと思ったぁあああ!」

 

静まり返ったステージ上。息を切らしながらも、誰一人欠けることなく立ち尽くす4人の少年少女(?)。

 

「……店長。アイドルって歌って踊れるだけじゃなく、戦う事も出来るんすね」

「まあ世の中には島開拓したり重機動かしたり出来るアイドルもいるからな……これが本当のマルチタレントってヤツか」

 

さっきまで推していたアイドル(とそのファンの1人)の意外過ぎる姿に、誰もが別の意味で目を奪われていた。

 

しかし、脅威はまだ去っていない。

 

「ッ!」

 

倒れている男達から立ったある匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。

 

(これは……火薬!?)

 

即座に俺は一番近くの男の側へ駆け寄り、奴の持ち物を調べる――すると。

 

「まさか、これか!?」

 

チッチッチッ……と小刻みに音を立てるブランド物の腕時計。その辺りで火薬の香りがもっとも強かった。間違いない、この時計は――爆弾!

 

「チイッ!」

 

俺は電光石火の動きで男達が腕に装着している腕時計を全て剥ぎ取り、同時にアクア君達へ再び声高く叫んだ。

 

「アクア君、ルビーちゃん!! 倒れてる連中の腕時計を外して一箇所に集めろ!!」

 

「ッ!」

「わ、分かった!」

 

直感が叫ぶ。おそらく逃げる暇はない。ならば此処に居る全員を守るには、これしかない。

 

俺の指示に従い、素早い動きで腕時計を外していく兄妹。それらを一箇所に集め終えた段階で、俺もステージ上に飛び乗った。

 

 

 

「全員――伏せろぉおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

『!!?』

 

有無を言わせない強烈な命令がアクア君達や観客を動かす。アクア君は地面にうつ伏せで伏せたB小町の3人の上から庇うように覆い被さり、お客さん達もタダ事ではない雰囲気を察して同じく耳を塞ぎ、その場にしゃがんだ。

 

そして俺は自分とアクア君達が外した腕時計16個を全て回収し、その剛腕を駆使して天高く放り投げた。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

腕時計はアリーナのはるか上空へ達した瞬間、予め設定された時間に従って内蔵された爆薬に火を入れた。

 

 

 

次の瞬間、約50mの高さで巨大な爆炎の花が咲き誇った。距離を取った事で減衰したとはいえ、それでも突風レベルの爆風が真下の俺達に襲い掛かる。

 

「わぁああああ!!?」

「きゃああああ!?」

「うっぐぅうう……!?」

「アクア、ルビー、かなちゃん、MEMちょ!!」

「アイ、ダメだ! 伏せろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――同時刻。

 

夜の帳が下りた首都の幹線道路を、けたたましいサイレンの轟音が切り裂いていた。

 

『左へ寄せて停車しなさい!! 緊急車両が通ります! 進路を空けろ!!』

『そのまま止まれ! 動くな!!』

 

拡声器から怒号を飛ばしながら、猛スピードで先陣を切る10台以上の白バイ隊。夜風を真っ向から受けながら、鍛え上げられた技術で一般車両の波を左右へと強引に割り退け、中央にモーセの十戒の如く広大な1本の道を切り開いていく。彼等は後続の巨大な車列を1秒でも早く現場へ送り届ける為の、命懸けの露払いだった。

 

その後方、白バイ隊が切り開いた道を弾丸のように突き進むのは、アリーナ近くで合流を果たした100数十台にも及ぶ公権力の大車列だ。

 

『こちら警視庁本部。湾岸署および応援部隊は現在地を報告せよ』

『機動隊第1中隊から第5中隊、目標まであと3km!』

『SAT突入班、重火器の使用許可を再確認。テロリストの武装は自動小銃および爆発物の可能性あり!』

 

飛び交う無線の怒声と、アスファルトを削るタイヤの摩擦音。青と白の分厚い装甲に身を包んだ機動隊大型輸送車の群れ。銃眼を備えた漆黒の特型警備車。そして赤い車体をギラつかせた消防車や救急車。

 

「到着まで――残り5分!」

 

1500人以上の国家権力を乗せた赤色灯の大河が、東京の夜を血のように赤く染め上げながら、巨大な龍となってうねっていた。

 

無論此処だけでなく、他の方角からも警察や自衛隊の車両がアリーナへ集結しつつある。

 

その時……

 

 

 

――ドゴォォォォォォオンッ!!!

 

 

 

「「!?」」

 

空を裂くような重低音が、車列の轟音すらも掻き消して響き渡った。

 

「あれはッ……!」

「アリーナ上空に、爆炎が!?」

 

その爆発は、今まさに接近中だった彼等にもはっきりと視認出来た。

 

「まさか、間に合わなかったのでしょうか……?」

「……いえ、ちょっと待って。今のは明らかに建物のずっと上で爆発してる。おそらくアリーナそのものへの被害は少ないと思うわ」

 

最前列を走る1台の覆面パトカーでは、刑事の芹澤警部と部下の幡野巡査部長が爆発について考察する。

 

「いずれにしろ一刻の猶予も無くなった――幡野、スピードを上げて!」

「りょ、了解……!」

 

芹澤達を乗せるパトカーを筆頭に、全緊急車両が加速を始める。同時に上空からは警察のヘリが地上部隊を追い抜いてアリーナへ向かう。

 

これ以上、誰も傷付けさせない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――何なんだよあの警備員は!? あのアイドルは!? ドルヲタ野郎は!?」

 

一方、物陰から事の顛末を見ていた日野崎は予想外の妨害に苛立ちを募らせていた。無理もない、警備員は龍珠組の関係者(実際は全くの無関係な苺プロ専属だが……)と考えれば納得出来るが、人数差をものともせず中毒者共を蹂躙した少年少女の存在は、コイツにとっては意味不明な展開だったのだから。

 

「ふざけんなよ……俺の復讐に泥を塗りやがって。お前等が大人しく吹き飛ばされてくれないと、城ヶ崎の野郎に死体蹴り出来ねえだろうが」

 

紅林やアクア達に対する理不尽な逆恨みを抱きつつも、日野崎は第2陣の出撃命令を下しに掛かる。奴の背後に控える、8人の中毒者達に。

 

「さっきの時限式と違って、コイツ等に仕掛けたのは遠隔操作型だ。奴等が近付いた瞬間に木端微塵にしてや――」

 

しかし、その目論見は完全に失敗する。

 

 

 

 

「――お前だな? みんなを不幸にする下衆野郎は?」

 

 

 

 

その命令が下される直前、

 

「ぎゃばッ!?」

「どえッ!?」

「ぼほぉッ……!?」

 

「!?」

 

背後に現れた紅林とは別の警備員により、第2陣があっという間に壊滅させられたから。

 

「な、お前はガッ……!?」

「その装置も押させねえ。不幸が増産されちまうからな」

 

怯んだ隙を狙い、日野崎が持っていたスイッチも一瞬で破壊してしまう。これで奴が浮浪者達を自爆させる手段は永遠に失われた。

 

「くっそ……ここに来て見付かっちまうとは。そのまま無能でいてくれりゃあ良かったのによぉ!」

「……お前等をむざむざ内部へ侵入させちまったのは、完全に龍珠組(ウチ)の落ち度だ。その責任はしっかり取らせて貰う――お前等テロリストを取っ捕まえる事でよ」

 

慌てて距離を取った日野崎。忌々し気に睨み付けてくる奴に対し、警備員の男は冷やかな表情を崩さない。しかし、その瞳は人々の幸せな日常を壊さんとする外道への怒りと、そんな相手から人々を守り抜くという使命感で輝いていた。

 

「みんなを幸福に満ちた明日へ導く。その為に俺は此処へ来たんだ!」

「龍珠、組ぃ……!」

 

龍珠組の近衛兵団、”龍の蹄”に属する若き超武闘派の極道――雪河宗弥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城ヶ崎賢志に恨みを持つ者と救われた者が、遂に対峙した。




情けは人の為ならず。
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