【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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○本作のアイドル(yoasobi)のイメージ

曲のラストで7歳の城ヶ崎少年が、一人で寂しそうにブラウン管テレビを眺めている。

→そこへアクアとルビー(高校生)が近付いて両サイドから寄り添う。驚いた様子で2人を交互に見る城ヶ崎少年。

→最後に背ろからアイが3人に抱き着いて、「愛してる」と囁く。

→振り返る3人。この時城ヶ崎少年は星野マリア(高校生)になっている。

→マリアは母・兄・姉に囲まれながらアクアとルビーと一緒に微笑むアイへ笑みを返す。

→そして家族4人で楽しそうにテレビの続きを視聴し始める。

……こんな感じですね。


さて、今回は番外編となります。推しの子界の東雲?ポジション(厄介信者的な意味で)、45510の「私」が語り手です。長いので前編と後編に分かれてます。


番外編③-前

私の名前は○○○。苺プロダクションに所属する、アイドル『B小町』のメンバーだ。因みに結成当初の最古参メンバーでもある。

 

話題沸騰中の大人気アイドルグループの一人……と言えば聞こえは良いけど、実態は周囲が想像しているのとはかなり違う。

B小町はセンターの”アイ”一人で成り立っているようなもので、私を含む残り6人は彼女というお星様の引き立て役でしかない。さしずめ私は引き立て役B……といったところかな。

 

……いや、最近は引き立て役になれているかも怪しい。もしかしたら”アイのおまけ”とすら思われてないかも。

ファンの中には”アイ”以外要らないと主張する人も出てきて、握手会やグッズ販売でも”アイ”にばかり人が集まり、私たちは半ば存在しない子扱いだ。

 

私にだけ聞こえるように”足手纏い”なんて言われた時は、誰もいないところで泣き崩れたっけ……。

 

それを嫌と言う程実感したのがドーム公演当日。”アイ”がストーカーに刺されて意識不明の重体になった時からだろう。”アイ”が一生目覚めないと知った直後からファンが続々と離れていったのだ。

 

彼らはあくまで”アイ”のファンであり、『B小町』のファンでも、”アイ以外の私たち”のファンでもなかった。

勿論、全くいなかった訳じゃないけど……”アイ”がいた頃に比べてその数は悲しいくらいに減ってしまった。

 

同時に殺到する勢いで入ってきた仕事もパタッとなくなり、過労死寸前の忙しさが嘘のように私たちは暇を持て余した。

お前たちは無価値な存在だと無言で突き付けられたようで、ショックを受けない子は一人もいなかった。

 

どうして”アイ”ばかり…………私たちだってB小町なのに、誰も私たちを見てくれない。

 

思い返せば彼女ばかり贔屓されていた。社長にも、運営にも、企画にも、全てから。全て、すべて、スベテ、すべて――。

 

”アイ”が羨ましい、恨めしい、妬ましい、憎たらしい。

 

私たちのドス黒い感情は自然と注目を浴びる彼女に集中し、”アイ”と”私たち”の間に溝ができるのに時間は掛からなかった。最初期は食事に行く事も数回はあったが、今は真面に話す機会すら殆どない。

 

……でも、同時に私は”アイ”の人気ぶりに納得せざるを得ない。

誰もが目を奪われる圧倒的な魅力に私も脳を焼かれてしまったからよく分かる。あれを見て虜にならない人間なんて存在しない。

 

”アイ”がいたから私たちは地下アイドルから抜け出せた。脚光を浴び、(結局中止になったけど)ドーム公演という一大イベンドにも恵まれた。

到底敵わない高みに立ち、更に上へと昇っていく彼女を嫌いつつも、私たちは”アイ”という少女を崇拝していた。

 

だからこそ私は――きっと他の5人も――”アイ”が昏睡状態という事実を受け入れなかった。

私たちが憧れる完璧で究極のアイドル様は、ストーカーごときに刺された程度で終わるような人間ではないから。

仮に面会可能だったとしても、私たちは一人も、一度も、”アイ”の見舞いへ行くつもりはなかった。

 

薄情だと思うだろう。でも私たちは”アイ”の弱い姿なんて見たくない、認めたくない。

誰にも縋らず、奔放で、孤高で、強くて、後悔なんて一度もせず、無敵で最強で唯一無二。それが”アイ”なんだ。

 

 

 

 

 

世を震撼させた事件より2ヶ月。今日もアイを除く私たち6人はレッスンに励む。

 

とはいえ数ヶ月前と比べると、みんな消極的な様子だ。お互いの会話も少ない。

 

だって仕事が殆ど入ってこないのだ。汗水垂らして血の滲むような努力を繰り返しても、それが発揮される機会が訪れる可能性は低い。どうしてやる気など出ようか。

 

「はぁ……」

 

流れる汗をタオルで拭き取り、精神的にも肉体的にも溜まった疲労から溜め息を漏らす。少し休憩しようと思い、トレーニングルームの端に設けられたソファーに近付いた。

 

「ん? あの子たちは……」

 

其処には小さな先客たちがいた。アクアくん、ルビーちゃん、そしてマリアくん。ミヤコさんに連れられて此処に来た、彼女の3人の子供たちだ。

 

(そういえば事件当日はアイの家に泊まってたんだよね、この子たち……)

 

ミヤコさんもミヤコさんだ。自分の子供を“アイ”にばかり預けてさ。そんなに私たちは信用できないって言いたいの……?

 

(……やめよう。考えるだけで憂鬱になる)

 

持参した携帯ゲーム機で対戦でもやってるのだろうか? それなりに盛り上がってるように見える。

 

「――ごめんね3人とも、私も座って良いかな?」

「あ、すいませんでした。どうぞ」

「ありがと」

 

アクアくんがルビーちゃんとマリアくんの方へ寄り、私が座る分のスペースを設けてくれた。短くお礼を述べて腰を下ろし、ソファーに体を預ける。

 

フウッと一息吐いてから子供たちを横目に観察すると、すぐに大きな変化に気付いた。

 

(……マリアくんって、あんなに幼い感じだったっけ? いや、4歳なんだから幼いのは当たり前だけど……)

 

その中でも小柄な男の子の様子が明らかにおかしく、アクアくんとルビーちゃんが寄り添って元気付けている様子だ。

前に会った時のマリアくんは上の二人よりずっとクールで大人びている印象で、こんな風に誰かが寄り添ってくるのを嫌がる節があった。

 

(初めて会った時も、メンバーの一人が伸ばした手を叩かれて、背筋も凍るような目付きで睨まれてたなぁ……)

 

まるで猫みたい。そう例えたのは私だけじゃない筈。

 

しかし今はどうだろう。吹けばあっさり消えてしまいそうな儚さで、とても弱々しい。アクアくんとルビーちゃんが居なかったら一人で何処かへ行って、そのまま事故や事件に巻き込まれそうな危うさを感じた。

 

「あ、ごめんマリア。ちょっとお手洗いに行ってくるね?」

「る、ルビーもか? 悪い、俺も……」

「えぇ、嘘っ!? お兄ちゃんまで!? ど、どうしよう……我慢出来そうにないかも……」

 

だからだろう。アクアくんとルビーちゃんが同時に尿意を抱いた時、二人とも困り果てた顔でマリアくんを見ていた。

 

「二人とも行ってきなよ? 私がマリアくんを見ててあげるから」

「い、良いんですか?」

「良いって良いって。それよりも我慢すると体に悪いわよ?」

「す、すいません! どうか弟をよろしくお願い致します!」

「お、おねがいします……!」

 

どうせ私は暫くこの場から離れるつもりはない。幼い子供の一人くらい、ちょっとの間なら面倒を見れる。私が助け舟を出すと二人はペコリとお辞儀して廊下へ飛び出した。

 

「……」

「………」

 

この沈黙はちょっと嫌だな。折角だし、色々と話題を振ってみよっか。

 

「ね、ねぇマリアくん? 今は何のゲームをしてるのかな?」

「……スマ○ラ」

「そ、そう。楽しい……?」

「ん」

「そっか……お兄ちゃんとお姉ちゃんはおトイレだから、それまでお姉さんが一緒にいてあげるね?」

「ん」

「……」

「……」

 

か、会話が続かない……

 

思えばアクアくんたちと話している時も殆ど喋ってないよね? 話し掛ければ反応してたけど、自発的には全くなかったと思う。

 

というよりマリアくん暗過ぎだ……。以前も何処か闇背負ってそうな雰囲気あったけど、ここまで酷くはなかった。一体全体何があったのよ?

 

「あれ、母さん……?」

 

その時、マリアくんが急にソファーから立ち上がった。その拍子で持っていたゲーム機が手から離れ、床と強めのキスをする。

 

「どこ……?」

「ま、待ってマリアくん……!」

 

さっきより更に異常な様子のマリアくんを放置は出来なかった。フラフラとした足取りで歩き出そうとする彼を止めようと咄嗟に肩を掴む。

 

「一体何処へ行くつもりなの?」

「……母さんのところ」

「母さん? ……あぁ、ミヤコさんの所ね? 私、携帯持ってるから呼んであげようか?」

「……違う。アイのところ」

 

……ん? 今なんて?

 

「えっと、マリアくん? ちょっと確認なんだけどさ、マリアくんの言う“母さん”って…………アイちゃん?」

「ん」

「……………」

 

…………ちょ!? え、い、イヤイヤイヤイヤイヤ!!? ななな何言ってるの、この子!? だってアイはまだ20歳だよ! そんでマリアくんたちは4歳でしょ!?

 

あれ? 確かアイって16歳の時に半年くらい活動休止してたよね? え、いや、まさか……そんなバカな。

 

(……いや待った。前にミヤコさん、マリアくんたちはアイをもう一人の母親みたいに慕ってるって言ってたじゃないか)

 

あぁ、なんだぁ……“母さん”ってそういう意味か。いやぁ私ったら、何変な事考えてるんだろう。

 

(……じゃあ目の瞳が星みたいなのは何故?)

 

ミヤコさんの子供なのに、何で三人ともアイと同じ特徴の目をしてるのかな?

 

イヤイヤ! ホント何考えてるの私! そんな事、ある訳ないじゃない!!

 

マリアくんたちの本当の母親が、“アイ”だなんて……!!!

 

「すー、はー……」

 

……よし、落ち着いた。

 

「……離してよ、邪魔しないでくれる?」

「いや、そういう訳にもいかないよ。アクアくんとルビーちゃんから、マリアくんを頼まれてるし」

「おれは母さんに会いたいだけなの」

「……アイちゃんはまだ病院だよ? 行ったところで面会謝絶だし、会うのはまず無理だよ」

「………会えない、の?」

 

き、急にそんな泣きそうな顔しないでよ……。これじゃあ私が泣かしてるみたいじゃん。と、兎に角ここで肯定は不味いから何とかして元気付けよう。

 

「あ、会うのは難しいけど大丈夫よ。待っていれば必ずマリアくんの所へ帰って来てくれるって。何せアイちゃんは、最強で無敵のアイドルなんだから!」

 

そう。”アイ”は万物全ての中で最も絶対的で、完全無欠の人間。弱点も欠点も存在しない唯一無二。

ストーカーにやられて一生昏睡状態? ナイナイ、そんな弱そうな姿のままで在り続けるなんて”アイ”らしくない。そう遠くない内に目を覚ますに決まってる。

 

「……母さんは最強でも無敵でもないよ」

 

そんな私の信仰心を、マリアくんは正面からバッサリと切り捨てた。

 

「え、いや、なんて……どうしてマリアくん?」

「本当に無敵だったら、ナイフでお腹を刺されてずっと眠ったままな訳ないじゃん。お姉さん、言ってる事おかしいよ?」

「いや、でもさぁ……あのアイちゃんだよ? これくらいで負けるような子じゃ――」

 

 

 

 

「それはアンタの中の母さんの話だろ?」

 

 

 

 

「!?」

 

雰囲気がガラリと変わった。自分とマリアくん以外、時間が止まったような気がする。

 

「おい」

「っ……!」

 

今まで幼かった筈の声は、大の男が憤った時の低い声みたいで。その短い一言で私は悲鳴すら上げられず、身体が硬直してしまった。

 

「確かに母さんは強い人だ。だがあの人だって無敵じゃねえ……刃物で突かれれば血が出るし、下手すりゃそのまま死んじまうかもしれねえし……死ぬのが嫌で、俺たちと別れるのが嫌で涙を流すんだよ。あの人はとても凄いアイドルだが、それ以前に人間だ。ドジで、結構抜けてて、見てて危なっかしくて……」

 

そうアイについて語る時のマリアくんの顔は打って変わって少し悲しそうだ。

 

「普通じゃないけど、普通なんだよ。あの人は全てを愛そうと、常人なら並大抵どころではない事を誇張無しにやろうとしている。その意味では普通じゃないけど、みんなを愛したくて、俺たちを愛したくて……その為に一生懸命頑張っている――そんな誰もが当たり前に持っている人の心を胸に努力を続ける、”普通”の人間でもあるんだ」

 

それも一瞬。直後、マリアくんの顔に般若が宿った。身の毛もよだつほどの怒りが私に容赦なく向けられる。私という、分からず屋な女に。

 

「母さんと8年も一緒にいて、そんな事も分からなかったのか? いや違うな……分かろうとしなかったんだろ? 母さんの才能に嫉妬して憎悪して……それを自分好みの偶像に置き換える事で誤魔化してただけじゃないのか?」

 

「!」

 

図星だった。

妬みが、憎しみがない訳ない。だからこそ”アイ”には完璧でいて貰いたいと思った。強くない彼女なんて許せなかった。強いから、完璧だから……自分たちが彼女に敵わないのは仕方ないと、ライバルにすらなれないのは仕方ないと、そう納得出来なくなるから。

 

「……アンタは少しでも母さんの本音を聞いた事があんのかよ? 母さんの何を知ってるんだ? 言ってみろよ? あぁ、アンタの頭の中の話は抜きでな」

「あ、アイちゃんの……? え、えと……」

 

”アイ”と私はB小町結成初期からの最古参メンバーだ。結成直後に他2人も含めて4人で一緒に共同アカウントを作って、そのあとは…………………………………あれ? あれ?? 

 

 

 

 

私ってアイのナニをしってるんダッケ……?

 

 

 

 

「ほら、何も分かってねえ。ずっと母さんを見ようとしてこなかったアンタに――アンタたちに、何が分かるって言うんだよ?」

「い、いや分かる。分かるわよ! だって8年も同じアイドルユニットとして切磋琢磨してきた仲だから「嘘吐き」……!?」

 

私の目を見詰めるマリアくんの目は私の全てを見透かしているかのようで、そして酷く冷たく感じた。

 

「何も知らねえクソガキが……」

 

直下から浴びせられたのは、押し潰されそうな程に重いプレッシャー。

 

「テメエの中の偏った、下らなく不愉快な妄想を俺に垂れてきてんじゃねえよ。――肉になりてえのか? あ゛ぁ゛?」

 

「す、すびません……」

 

こ、怖い。怖過ぎる……。この子本当に4歳児なの……? なんだかヤクザやマフィアにでも睨まれてるみたい……

 

「あ、マリア! ごめんお待たせ!」

「ミヤコさんが事務所に戻るから、帰ろうだってさ。行こう」

「……ん」

 

そこへ現れたアクアくんとルビーちゃん。今の私にとっては正に救いの神様たちだった。

あの重苦しいプレッシャーは一瞬で霧散し、私は一気に全身の力が抜けてソファーへ腰を落とす。

 

「マリアを見てくれてありがとうございました。僕たちはこれで失礼しますね?」

「え、うん……お疲れ様」

「ありがとうございます! ――ほら、マリアもちゃんとお礼を言って?」

「…………」

 

マリアくんが無言で私の側に寄る。思わず身構えてしまったが、先程のような強烈なプレッシャーを受ける事はなかった。

 

「少しは勇気を出して歩み寄るべきだよ。……何もかも手遅れになって、後悔する前に」

「……マリアくん」

 

私の耳元にそう言葉を残すと、マリアくんはアクアくんたちと一緒にトレーニングルームから去った。

 

「…………はぁ。まるで大きな猛獣を相手にしてるみたいだったなぁ」

 

休憩するつもりが、余計に疲れが溜まってしまった。もうちょっとだけ休んでからレッスンに戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豹変したマリアくんの姿が、囁かれたあの言葉が、繰り返し頭の中で過ぎる。レッスンも終わり、帰路に就いてからも。ずっと、ずっと、ずっと――。




母(アイ)について自分の中の妄想を垂れてきた「私」に切れ、一時的に羅威刃の城ヶ崎に戻ったマリアでした。厄介信者に植え付けられた恐怖(+忠告)が、どんな結果をもたらすのか。

今回の番外編は前後編に分かれています。次は後編です。
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