【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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17話からマリアの一人称が“俺”から“おれ”になり、口調も幾分か柔らかくなっていますが、これはアイの件で強い精神的ショックを受け、「悪魔」としての仮面が完全に崩壊。封印されていた、母への愛を渇望する幼子の心が解放されたからです。

実は原作アクアのような肉体による精神の浸食は、10話時点で始まっていたりします(11話でそれを仄めかす内容をマリアが地の文で語っており、事件前でもところどころ言動が幼くなっている描写があります)。

ただし「悪魔」としての振る舞いが完全に消滅した訳ではなく、状況によって態度や喋り方が変わります。


長くなりましたが第4章『ドームライブ』、開幕です。


20話

私の名前は星野アイ。大人気アイドルグループ、『B小町』の一人だ。

 

リョースケ君に刺され、子供たちに愛を伝えてからずっと昏睡状態だった私。このまま永遠に眠り続けたままかと言われてたけど、こうして意識を取り戻して仕事にも復帰している。

あれからもう3年くらい。時の流れとは早いものだ。

 

当時はみんなにどれだけ迷惑を掛けてしまった事か。特に子供たちには沢山寂しい思いをさせてしまい、本当に申し訳なく思う。

 

……不思議な話なんだけどね、意識を失った後の私は誰かに導かれて子供たちの所へ帰れた気がする。

何でそう思うのかは分からないけど、自力で帰ってこれたって感じがしないんだ。

もしかしたら神様が助けてくれたのかも。

 

さて、ここで私の周りで大きく変わった事が2つある。

 

 

 

まず一つ目は、B小町のみんなと仲直りした事だ。

 

 

 

意識を取り戻して暫く経ったお昼頃。子供たちは幼稚園で過ごしている時間だ。入院中のベッドで社長たちを待っていた私は、前触れもなく病室を訪れたメンバー6人に驚いた。

ベッドから転げ落ちかけるところだったよ。メンバー数人が咄嗟に支えてくれたお陰で固い床とのキスは避けられたけど。

 

動揺したのも束の間、直後に抱いたのは”なぜ?”という強い疑問。私はみんなから妬まれ、忌み嫌われている。だから見舞いには来てくれないと、そう思ってたのに……

 

『『『『『『ごめんなさい!』』』』』』

 

でも更に私を驚かせたのは、6人が開口一番に謝ってきた事だ。

詳しい話を聞くと、どうやら初期メンバーで設立した共有アカウントに投稿した私のブログを読んだらしい。それで私とちゃんと話そうと思って来てくれたのだ。

 

……あれを見てくれたんだ。そう思うと何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。

 

私はみんなに謝った、ごめんねって。そして今まで纏っていた“嘘”の仮面を外し、ポツリポツリと自分の本音をみんなに伝えた。本当はもっと仲良くしたい。昔みたいな関係に戻りたい。7人全員で頑張っていきたいと。みんなショックを受けている様子だった。

みんなもポツポツと話してくれた。妬んでいた事、憎んでいた事……でも私の本心を知って、ギスギスした関係のままB小町をやっていくのは嫌になった事を。

 

それを聞いた私は涙を溢しながらまた謝り、そして頭を下げて言った。

 

『お願いします。どうか……もう一度みんなとやり直させて下さい』

 

すると、○○○ちゃん――最初期からの仲間であり、ブログを見てみんなを集めたのはこの子だった――が私の手を取る。

 

『私たちも……アイの本音を知った時、貴女とやり直したいって思ったの』

『◯◯◯ちゃん……』

『それにさ……貴女だけが輝くよりも全員で輝けるようになれば、今なんかよりもっと凄いグループになれそうな気がするのよね』

『じゃあ……』

 

そして真っ直ぐ私を見据え、目尻から涙を溢しながら笑顔で答えてくれた。

 

『うん、今度こそ一緒に! こっから私たちB小町の本領発揮といきましょう!』

 

他の5人もそれに合わせて力強く頷いてくれた。私は嬉し過ぎて涙が止まらなかった。

 

結局、ここまでメンバー間が険悪になったのは、互いにきちんと話さなかった事が原因の擦れ違いでしかなかった。もっと早く話し合っていれば、こんなに拗らせる事もなかったのに。

 

……ううん、寧ろみんなから近付いてくれるのを待つんじゃなくて、自分からみんなの所へ行くべきだったんだ。なのに私は拒絶されるのを恐れて、見て貰える可能性なんか殆どないアカウントへ、自分の本音をチョビッと記したものを投げ込んだだけ。なんて情けない奴だろうか。

 

『みんな、ごめんね……ありがとう……!』

『私たちこそ、勝手な偶像をアイに押し付けて……ちゃんと貴女自身を見てあげなくて、本当に御免なさい』

『アイは人一倍頑張り屋さんで……でも寂しがり屋でみんなと仲良くしたい普通の女の子だって、もう分かってるから』

『う゛ん゛……!』

 

泣き崩れた私に、みんなが寄り添って慰めてくれた。

 

その後、みんなは次の仕事の時間まで病室に留まり、私と談笑しながら過ごしてくれた。蟠りが解消したお陰で誰もが気を張る必要がなくなり、心から笑い合えたと思う。久々に仲間とお喋りができて、本当に楽しかった。

 

『なあミヤコ、これって一体どういう状況だ……?』

『知らないわよ……私だってこんなに仲の良いB小町、初めて見たわ』

 

仕事の関係で遅れて到着した社長とミヤコさん、そんな私たちを見て凄く困惑してたなあ……。

 

『ほらほれへ~……』

 

『しゃ、社長!』

『気をしっかり……!』

 

加えて私が子供たちとの関係をブログで暴露していたと知った社長は、その場に崩れ落ちて抜け殻と化してしまった。みんなから慰めつつ秘密にすると言われて、やっと気を取り直してくれたけど。

 

『……アイ。俺はあれほど肝に銘じろって言ったよな? 忘れたとは言わせねえぞ?』

『みんなが帰ったらちょーっとお話しましょうか?』

 

『は、はい……』

『あ、アイ……』

『取り敢えず……ガンバ?』

 

無論、私は社長夫妻から凄く怒られました。夢に出そうなレベルで怖かったのを覚えてる。

 

 

 

そしてもう一つ。これは子供たちに関してだ。

 

 

 

目が覚めてから1ヶ月後、私は無事に退院。病院の人たちやB小町の仲間、佐藤社長、私の退院を聞き付けたファンの人たちから祝福を受けつつ帰宅した。

 

『アイ!』

『ママ!』

『母さん……』

 

家では子供たちがミヤコさんと一緒に待っていた。私が中に入るとルビーが飛び付き、アクアがマリアを伴って側に寄ってきた。

 

『ママぁ! 本当に良かったよぉ!」

『心配掛けてごめんね、ルビー?』

『アイ、後遺症とかは大丈夫?』

『問題ないよアクア。この通りピンピンしてまーす』

『そうか、一安心だね。――ほら、マリアも何か言ってあげなよ?』

『ん。――母さん、おかえりなさい』

『うん。ただいま、マリア』

 

私たち家族は、数ヶ月ぶりに平凡だけど楽しい日常を再開した。その中で子供たちの変わりぶりに私はすぐ気付いた。

 

まずはアクア。あの事件後も未だ防犯意識の緩い私に代わって対策を徹底するようになった。ドアチェーン関係は特に掛け忘れが無いよう口を酸っぱく言われている。

他にもとっくに怪我の治った私を労わるように接し、よく気遣ってくれている。その様子は単なる世話焼きなお兄ちゃん……というよりも、まるでゴローせんせを連想させた。

……もしかしてこの子の中身、実はせんせだったりして。まさかね。

 

次にルビー。この子は大怪我した私を気遣ってお手伝いを沢山するようになった。お料理だけじゃなく、力仕事を伴う家事全般でも私の負担を少しでも軽くしようと、小さな体で出来る事をやってくれた。

マリアの件もあって、徐々に頼れるお姉さんへと成長していく愛娘。母として喜ばしい事である。

 

……その中でも目に見えて変わっちゃったのは、末っ子のマリアだろう。

 

『母さん』

『どうしたのー、マリア?』

『……頭撫でて欲しい』

『うん、良いよ。よしよし』

『ありがとう……えへへ』

 

この子は今までのクールさが嘘のように鳴りを潜め、私やアクアたちに凄く甘えるようになった。私たちの後ろを付いて回ったり、抱き付いてきたり。あれだけ名前で呼んでいたアクアとルビーをお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ぶようになったり。あれだけ固そうだった雰囲気や表情はとても柔らかくなり、明るい笑顔を見せてくれる。子猫みたいで凄く可愛い。

 

 

 

……でもマリアがこうなっちゃったのは私が原因だ。私が本来のこの子を殺してしまったようなもの。だから素直に喜べと言われたら、それは難しいかも。

 

 

 

あの事件の爪痕は、マリアの心に深く深く刻まれていた。身体的な被害なら私が一番大きいけれど、精神的なものではマリアが最も被害甚大だった。

 

「じゃあ行ってくるね?」

「母さん、今日の仕事はどれくらい掛かりそう……?」

「えっと……7時くらいかな? それまでには帰って来るから」

 

それが顕著に現れるのは、仕事の為に子供たちを置いて出なければならない時。

マリアは私を見送りに玄関まで来て、必ず帰宅時間を聞いてくる。勿論、アクアとルビーも一緒だ。

 

「……そっか」

 

天使みたいな可愛い笑顔に暗い影がさす。

 

「マリア、大丈夫?」

「……大丈夫だよ母さん。お兄ちゃんたちがいるから寂しくないって」

 

マリアは私に迷惑を掛けまいと問題なさそうに振る舞う。でも目から光はどんどん失われていき、今にも縋り付きたくなるのを我慢して震えていて。

 

「だから……だ、だいじょう、ぶ……いって、らっしゃい……」

 

虚ろな目から沢山の涙を流していた。無理矢理笑顔を保ちつつ泣く姿はあまりにも痛々しく、強い罪悪感に襲われた。

私は必ずマリアを抱き締めてあげた。するとこの子は腕の中で本音を溢しながら、もう放さないと言わんばかりにギュッと抱き締め返してくる。

 

「やだ、おねがい……おいてかないで……」

「ごめんね。ホントにごめんね……絶対に帰って来るから」

「大丈夫だアイ。今日も俺たちがマリアの側に付いているから」

「安心してマリア? ママは必ず帰って来るから、それまでお姉ちゃんたちと一緒に過ごそう?」

「うん……」

「アクア、ルビー、本当にありがとね? ――じゃあ3人とも、行ってきます」

「……行ってらっしゃい」

 

必ず帰る。それを私は自分の目を見せながら言うようにしている。

マリアは目を見る事で、その人が嘘を付いているか否か分かる能力を持っている。私の偽りなき本心を確認して、寄り添うアクアとルビーの優しい声掛けで、マリアはやっと落ち着いた。そして涙を拭きながら、寂しそうな表情で私を送り出す――そんな日々が3年近く続いていた。

 

「……ごめんね、マリア。私の所為で」

 

マリアの悲しむ姿を思い出して胸が苦しくなる。こうなってしまったのも、私の不注意が招いた結果だ。

あの子はお母さんを失う地獄を2度も経験してしまった。そのショックでこうなってしまったと、私が意識を失っていた時のマリアの状態をアクアから聞かされた時は、自分の不用心な行為を深く後悔した。

 

あの時、マリアの叫びを聞いて扉を開けなければ。チェーンをしっかり掛けてさえいれば。私があの子に一生消えない傷を与えてしまった。

表には出さないだけでアクアとルビーだって同じだろう。血に塗れて意識を失う私を目の当たりにした子供たち。その時受けたショックは如何ほどのものか。想像を絶するものなのは間違いない。

 

「こんな状態じゃ、またみんなに気を遣わせてしまうなぁ……」

 

その影響でコンディションは常に万全とは言い難いが、だからって社長たちやB小町の仲間に迷惑は掛けられない。何より私の復帰を喜び、応援し続けているファンたちがいる。いい加減な歌やダンスを披露する訳にはいかない。

 

幸い事情を知る仲間たちが元気付けてくれるお陰で、私は何とか様々なイベントやライブをこなす事が出来ていた。

もしB小町との関係が劣悪なままだったら、私は酷いパフォーマンスをファンの前で晒し続け、アイドルとしても自滅していただろう。

 

 

 

 

 

 

「――はぁ」

 

午前の仕事が終わり、私たちB小町は昼食の為に街中の有名店へ訪れていた。

私以外のメンバーもかなり有名人となり、ファンが押しかけて来ないよう個室で食事を取っている。

 

「どうしたのアイ? マリアくんの事で悩み?」

「うん、そんなところ……」

 

溜め息が大き過ぎたようだ。隣に座る○○○ちゃんが食事の手を止めて心配そうに見詰めてきた。続いて他の子たちからの視線も私に集まる。

……彼女もだけど、最近みんなの瞳はキラキラと輝いている。私の星型の光とは違う、夜空をそのまま持ってきたかのような星々が散りばめられた目。”私を見て”という、強い主張を感じる目だ。

 

仲直りしてからの彼女たちの努力は凄まじいものだった。私に追い付け追い越さんばかりに練習に打ち込む様になり、中には私より優れた技能に磨きを掛ける子もいた。『めいめい』はダンス、『ありぴゃん』と『きゅんぱん』は歌といった具合に。

ファンたちはそんな彼女たちの頑張りをしっかり見ているもので、ここ3年でみんなもどんどん人気になっていった。”B小町は7人で一人”――そう言ってくれる人も出てきている。

そんな彼女たちの支えを受けながら私も負けじと努力を続け、今やB小町は事件直前より遥かに多くの注目を集めていた。

 

仕事は順調。仲間との関係も極めて良好。ファンや大御所の人たちは私たちを見てくれて、アクアとルビーはお兄ちゃんお姉ちゃんとして立派に成長してくれた。

誰もが上手くいっている中……たった一人、マリアだけがあの事件から取り残されているような状況だ。早く何とかしてあげたいけど、妙案が思い付かない。

 

「私が出掛ける時は何時も泣いちゃってさ……アクアとルビーがいなかったらどうなってた事か……」

「ん~、どうにかして元気付けてあげられないかなぁ? マリアくんには恩があるし……」

 

後にブログを見た経緯について○○○ちゃんが話してくれたけど、マリアに凄い剣幕で怒られた事が切っ掛けなんだって。その時の○○○ちゃん、病人みたいに顔が真っ青で冷や汗ダラダラだった。マリアって怒るとそんなに怖かったっけ?

 

「――あ、そういえば。遂に”アレ”のオファーが入ったじゃない?」

「え……? あ、うん。3年も掛かっちゃったけど、いよいよだね。でも、それがどうかしたの?」

「ほら、もうじきアクアくんたちの7歳の誕生日でしょ? 社長たちに掛け合ってさ、何とか”アレ”の開催日を3人の誕生日に持ってこれないかなって……それでね、ちょっとみんな耳貸して?」

 

テーブルの上で頭を寄せ合う私たち。お店の音楽以外に○○○ちゃんのか細い声を遮る音はない。

 

「……○○○ちゃん、それナイスアイディアかも」

 

なんと素敵な提案だろうか。みんなと仲直りしなかったら再び出る事は叶わなかっただろう、”アレ”。そこでちょっとしたサプライズをやろうと言うのだ。

個人的な都合で予定を決めて貰うので、上手くいくかは未知数だけど。

 

「良いですね、それ! 難しいけど試してみる価値はありますよ。アイ先輩のお願いならお偉いさん方も無下には出来ないでしょうし」

「ここは全員で直談判といきましょう。そうすれば確実だわ」

 

その提案にみんなも乗り気で、続々と協力の声を上げてくれた。嬉しくて自然と笑顔が柔らかなものになる。

 

「うん。ありがとう、みんな」

 

忘れかけていた。

そうだ、私はアイドルだ。歌やダンスを使ってファンを魅了する、それが私に出来る数少ない特技。

 

――なら、それを最大限利用して元気付けてあげよう。生まれた時からずっと側で見てくれているあの子を……私の一番のファンの一人でもある、マリアを。

 




アイ以外のメンバーの瞳は、演技を披露している時の重曹ちゃんと同じ目をしています。
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