【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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22話

控え室に到着したおれたちを、母さんたちB小町が出迎えてくれた。

 

「アイ、来たよ」

「やっほー、ママー!」

「母さん!」

「待ってたよー、愛しの我が子たち〜! みんな、こっちにおいで~!」

 

腕を広げる母さんに近付き、3人纏めて抱き寄せられる。あぁ、あったかくて気持ちいい……。

 

「母さん、よしよししてくれる?」

「いいよーマリア、よしよし~」

「♥」

「あ、マリアだけずるいっ! ママ、私にもやって!」

「ちょっと待っててねルビー、順番にやってあげるから。――アクアも撫でてあげようか?」

「いや、えっと……まぁ、いっか。お願い」

 

頭を撫でて貰うと、それだけで癒されていく。移動で溜まった疲労なんて一瞬で吹き飛んじゃった。

 

……キャラ変わり過ぎだって? 別に良いじゃないか。あの事件以来、誰かに甘える事に全く抵抗がなくなったんだよ。

 

おそらく元の精神が幼い肉体相応に変質したのだろう。言い方を変えるなら城ヶ崎賢志と星野マリアの境がほぼ無くなり、混ざり合った状態となったのかもしれない。しかしそれ自体は別に悪い事じゃなさそうだ。

 

もう我慢なんかしたくない。前世で出来なかった分、家族とのスキンシップを大切にしていくつもりだ。

 

そんなおれらの様子をミヤコ、そしてB小町のメンバーは微笑ましそうに眺めていた。両手で口元を隠して恍惚とした表情を浮かべる人も何人か見られる。

 

「はぁ〜、見てるだけで癒される……この親子マジ尊い!」

「くっ、こんな素敵な光景を記録に残せないのが唯一の不満ね……」

「間違っても撮影は駄目よ? アイに子供がいる事は世間には極秘。バレるリスクは少しでも回避しないと」

「分かってますってミヤコさん。コレは私たちだけが堪能できる特権ですよ」

「眼福眼福~。これで今日のライブも頑張っていけそう」

 

何時の間にか母さんはメンバーにも話していたらしい。おれたち三兄弟が星野アイの実子だという秘密を。

事実を知った彼女たちはこの極秘情報を第三者に漏らすでもなく、普通に受け入れていた。最近だとおれ等の家に遊びに来ては、よく可愛がってくれている。

 

「ママたちすっごくキレー! その衣装初めて見るけど、それで公演に出るの?」

「公演だけじゃないよルビー。この姿は謂わばB小町の新時代バージョン。他の出演先でもこの格好で参加するつもりなんだ」

 

母さんたちが着ているアイドル衣装は今までのそれと全く違う。全体的に薄色だったドレスが赤や藍色、茶色といった濃い暖色をベースとしたより動きやすい服に変わり、色ではなく一人一人の衣装の形状を変える事で個性を出している。履物だけ見ても、母さんはフリルも含めて全て暗灰色のスカートで、他のメンバーはフリル部分のみ白だったり、そもスカートではなく短パンだったり。

 

後にこれらの衣装は、お姉ちゃんが立ち上げる新生B小町のメンバーにも受け継がれる事になるが、閑話休題。

 

「B小町さん、そろそろ時間です! 準備の方、お願い致します!」

「「「「「「「分かりました!」」」」」」」

 

呼びに来たスタッフに一斉に返事をした母さんたちが、移動の為に動き出す。

 

「いよいよだね、アイ」

「うん。3人とも見ててね? ママ、頑張って来るから」

「ママ、ファイトー!」

「おー、なのですよ!」

「アハハッ」

「――じゃあ母さん、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

 

子供たちとミヤコに見送られ、母さんとB小町のメンバーは控室を後にする。

おれたちも母さんたちの雄姿を見届ける為、関係者専用の観客席へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13時50分。14時の公演まで、あと10分に迫ったところで。

 

「ごめん、ちょっとトイレ」

 

観客席でワクワクしながら待っていた俺を、突然尿意が襲った。折角の楽しい気分を害されて若干不愉快になるが、こればかりは生理現象なのでどうしようもない。

幸いまだ10分もある。手洗い場まで向かって戻る程度なら、始まるまでに十分間に合うだろう。

 

……でも一人で行くのはなぁ。

 

「あ、待ってマリア。お姉ちゃんたちと一緒に行きましょう? マリアを一人にさせたくないし」

「え、でも……流石に悪いよ。ただ付いてくるだけでしょ?」

「そんな寂しそうにチラチラ見られたら、待っている訳にもいかないだろ?」

「むぅ……ごめん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。何度も迷惑掛けて」

「それは言わない約束よ? さ、行きましょう?」

「……うん、ありがと」

 

母さんに置いて行かれる経験を二度も味わったおれは、以降一人でいる事が怖くなってしまった。こうして手洗いに行く時も親しい人間が常に側にいないと、安心できなくなる程に。

 

特に母さんが出掛ける時は辛い記憶がフラッシュバックして、涙が止まらなくなる。引き留めるのは悪いと思っても、身体は寂しさのあまり言う事を聞いてくれない。その所為で母さんたちに迷惑を掛けてしまうと思うと、申し訳なさで胸が苦しくなる。

 

だから一刻も早くあの悲劇を克服したいけど、魂に刻まれたトラウマは簡単には消えてくれない。

 

(どうしたら良いんだろう……?)

 

もう3年。3年もこの調子だ。それでもこんな自分を鬱陶しいと欠片も思わず、寄り添ってくれる家族たち。3人の底無しの優しさが余計におれの中の罪悪感を募らせ、焦りを生み出す。

何時までも彼らにおんぶに抱っこではいけない。何れはおれも大人になる。自立しなきゃいけない日は、嫌でも来るんだ。

 

目標でも出来れば変われるだろうか……?

 

 

 

 

 

おれはお兄ちゃんと一緒に男子トイレに入り、女子であるお姉ちゃんはすぐ外で待機していた。

 

「――ごめんなさいね、ちょっと良いかしら?」

 

其処へ近付く、一つの不穏な影。

声を掛けられたお姉ちゃんはスマホを弄る指を止め、目の前に現れた人物の顔を確認する。

 

「はい? 何でしょ――」

 

お姉ちゃんの顔が目を見開いたまま固まった。相手の顔に何処か既視感を覚えたからだ。

 

「お嬢ちゃん、さっきB小町の控室から出てきた子よね? もしかして、社長夫人の娘さん?」

「えと、はい……そうですが」

 

それは女性だった。紫の線が混じる黒髪を後ろ手に結い、無地の上着と丈の長いスカートを履いた彼女は、一見すると人当たりの良さそうな、おっとりとした人物である。

しかし、そんな特徴などお姉ちゃんにはどうでも良い。重要なのは寧ろ女性の顔だ。

 

「あら良かったー、”あれ”の関係者に出会えて。時間がなくて困ってるところだったけど、これなら話が早く済みそうで助かるわ」

「”あれ”……?」

「いやぁ、それにしても……まさか”あれ”がここまで化けるなんてね。こんな事ならあの時捨てずに利用しとけば良かったかも。――まぁでも唯一の肉親のピンチなんだし、流石の”あれ”も私を無下にはしないでしょう」

 

自分だけの世界に入り込んで不穏な事を言い続ける女性に、お姉ちゃんは不快感と不気味さを同時に感じていた。正直言って関わりたくないと思ったが、その特徴的な顔の所為で無視できそうにない。第一お兄ちゃんとおれはまだトイレの中。この場を去る訳にもいかないのだ。

 

「……あの、すいません。どちら様でしょうか?」

「あぁ、そうね。自己紹介がまだだったわ」

 

おれたちにとって最も近しい人間を多少更けさせたらこんな顔になるだろうか。彼女の関係者故か若そうな容姿をしており、40代後半にも拘わらず30代半ばに見える。いや、彼女だったら目の前の女性よりもっと若い姿になっているに違いない。

 

何よりお姉ちゃんの目を引いたのは、彼女の持つその瞳だ。

 

「ルビー、お待たせ――」

「どうしたの、お姉ちゃ――」

 

トイレを済ませて出てきたおれとお兄ちゃんも、その女性の顔を見て愕然とした。

おれたちの心情を知ってか知らずか、女性は名乗りを上げる。

 

「――私の名前は星野◆◆」

 

両目に宿るは――黒く塗り潰されたかのような綺羅星。その綺羅星が打算に満ちた怪しい光を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”あれ”……じゃなくて、アイの実の母です。時間が無いから単刀直入に言うけどさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん? なんか一瞬目が濁わなか――

 

 

 

 

 

「アイに金を貸してくれって伝えてくれない? 取り敢えず300万円ほど急ぎの用で必要なの。それぐらい人気アイドルならポンと出してくれるわよね?」

 

――て。

 

「「「は? 死ねよババア」」」

 

俺を虐待し捨てた忌々しい親父と同種のクズ。幼い母さんを捨てた最低女であり、俺たち3兄弟の……今世の母方の祖母だった。

 




最期に3人が発言した直後にメフィストが流れたら合いそう……

それはさておき、ドーム編のアンタゴニストが登場です。

初っ端なから子供に暴言を吐かれた虐待女はどう反応し、そしてどういう末路を遂げるのか、お楽しみに。
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