【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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23話

愛されたかったか? 当時、俺のその質問に分からないと答えた母さん。

 

 

――お母さん、釈放されても迎えに来てくれなかったんだ。顔見せすら一度も無かったよ……

 

――良いんだけどね。殴られるよりも施設の方がマシだし。

 

 

だが、その時の顔はとても寂しそうに見えた。愛し愛される時の感覚を理解出来ないだけで、本当は母親の愛を求めていたのかもしれない。

 

改めて思う。母さんは俺のifだ。社長夫妻や俺達に出会うまで誰にも愛されず、独りぼっちで寂しく辛い日々を送っていた、ただの少女だった。俺が悪魔の仮面で本心を奥へ押し込んでいたように、彼女のまた己の弱い部分をアイドルの仮面で隠してただけ。

 

「なっ……!!?」

 

そんな娘の言葉に出来ない想いを踏み躙るかのように、俺等の前に現れたクズはふざけた事を抜かしてきやがった。反射的に吐いた暴言が3人同時で内容も一緒なのは、きっと三つ子だからだろう。

 

そう、俺たちは一瞬で沸騰するような怒りを覚えた。4つの白星が黒く染まり、クソ女に対して拒絶の光を放つ。

 

「い、いきなり何よアンタら……!? 初対面相手にそんな暴言! 躾のなってない餓鬼ね!」

 

ソイツは一瞬だけ怯んだが、すぐに化けの皮が剥がれて声を荒げた。全くブーメランも甚だしい。

アクアはルビーの前に立ち、その更に一歩前に俺は出る。

 

「躾がなってねえのはテメエの脳味噌だろうが。いきなり出てきて金の無心とはマナーがなってないな」

 

怒りのあまり羅威刃の城ヶ崎が溶けて混ざり合った人格から顔を出し、クズの行動を威圧的な態度で咎める。

 

「う、うるさい! これは私と”あれ”の問題よ! 部外者には関係のない事だわ!」

 

するとコイツは大人げなくギャーギャーと喚くだけ。

部外者? んな訳ねえ、俺たちはあの人の子供だ。バリバリの関係者なんだよ。まぁ教えてやらねえけど。

 

「ねぇマリア、コイツ何なの? マ……アイの母親を自称してるけど」

 

アクアに盾になるように守られているルビーが顔を出し、聞いてくる。そういえばこの二人は詳細を知らなかったな。

 

「幼い頃のアイを虐待し、最後は捨てて姿を晦ました母親という名のクズだよ。本人から直接聞いたから間違いない」

「な、何ですって……?」

「虐待? 捨てた? アイを……?」

 

「……チッ。”あれ”ってば、そんな事を周りに吹聴してたのね。余計な真似を」

 

あ? 今なんつったコイツ? ……ていうか。

 

「おい、さっきから聞いていれば”あれ”だの何だの、アイを物扱いしてねえか?」

「は? 当たり前でしょ? 私の意思を無視して、勝手に私の中で作られたような物なんだから」

「……何だと?」

 

クソ女はそのまま下らない自己弁護を俺等に聞かせてきた。

 

「私は女としての幸せを享受していたかった。でも好きな男も出来て、さぁこれからだって時に”あれ”が出鼻を挫きやがったのよ。突然出来た”あれ”の所為で男は逃げ、堕ろす金も工面できなかった私は”あれ”を産むしかなかった!」

 

女の声が再び荒く乱暴なものに変化していく。溜まった鬱憤を八つ当たりの如く吐き出す。髪の毛もボサボサになり、まるで山姥だ。

いや、山姥は子供に優しい母親としての特徴も持つ妖怪だ。こんな母親の形をした何かと比べるのは失礼か。

 

「それだけなら兎も角、母親になった私を男どもは面倒くさがって、誰も近付いてこなくなってしまった! まだまだ女でいたかったのに、”あれ”の所為で私の人生は台無し! 分かる……!? 私は被害者なのよ!! それを我慢して10年くらいは育ててやったんだ! だから恩を返すくらい当然だろうが……!!」

 

奴の台詞はどこを拾っても反吐の出る論理ばかりで、聞いていたアクアとルビーは絶望にも似た表情を浮かべていた。

 

(……知らなかったよアイ。君は小さい頃、地獄にいたんだね)

(母親って子供を大事にするものじゃないの……? 何なのよコイツ、これで本当に人の母親なの……!? ママを道具呼ばわりしやがって!!)

 

そして、それは二人の中の母親像を粉々にするには十分過ぎた。

 

「……よーく分かった」

「あら? 分かってくれたのね? じゃあさっさとアイを呼んで「断る」――!?」

 

俯いて拒否の意思を示した俺に驚愕する女。俺はゆっくりと顔を上げ、鋭い眼光を奴にお見舞いする。

 

「テメエが俺の最も憎い人間と同じだって事が、改めて理解出来たよ。お前みたいな奴を会わせたら、アイは間違いなく苦しむ。それにもうじきライブの開始時間だ。テメエみたいな奴に構ってる程、アイは暇じゃねえんだよ」

「ぐ……!」

 

視線だけで人を殺せそうな目に圧倒される奴に、すかさずアクアとルビーも畳み掛ける。

 

「そういう訳なんで、お引き取り下さい。忙しいアイの邪魔になりますので」

「そうだそうだ! 帰れ帰れ!」

「五月蠅い五月蠅い!! ……良いわよ、別にアンタたちに頼らなくても。”あれ”の居場所くらい大体見当が付くし」

 

埒が明かないと判断したのか、女は俺等に構うのを止めて立ち去ろうとする。だが――。

 

「おい、マリア。あそこは……」

「まずいわよ、アイツまさか……!」

「あぁ、させねえよ」

 

奴が歩く通路の奥には一枚の扉。其処を通過すれば母さんたちが待機中のステージまで容易に辿り着ける。本来其処から先は関係者以外立ち入り禁止だが、今の女は躊躇なく侵入するだろう。

不運にも其処を守る警備員やスタッフは見当たらない。一般人も全員観客席へ移動しており、この空間にいるのは女と俺等だけ。

 

「……どきなさいよ」

 

俺たちは女と扉の間に入り、通せんぼする。当然奴は睨んでくるが、数々の猛者を相手してきた俺からすれば可愛いものだ……いや、全く可愛くないけど。

 

「行かせる訳ねえだろ。とっとと家に帰れ」

「――さっきから偉そうに説教垂れたり邪魔したり……生意気な餓鬼ね!! 良いからさっさとアイに会わせなさいよ! こっちは時間が無いっつてんだよ!」

 

此方に向かって切れ散らかす様は見るからに焦っているようだが、無論俺たちには関係のない事。

 

「ダメだ。お前を行かせて騒がれたらライブが台無しになる。絶対に通さない」

 

母さんたちは必死の努力の末、漸く此処まで戻って来れたんだ。そして、これ程の大規模イベントも彼女たちにとっては前哨戦に過ぎない。ライブを成功させ、より高く羽ばたいていく。それに水を差すような事が、3年前のような悲劇が……あっちゃいけねえんだよ。

 

これは母さんが傷付くだけじゃない。”アイ”は金と男にだらしのない女の娘。そんな話が世間に拡散されれば、面白おかしく騒ぎ立てて叩く連中も必ず出てくる。そうなれば母さんの経歴に消えないしこりを残すだろう。より高いところに上り詰めるまで、不名誉な称号は絶対に避けなければならない。

 

「何よ、ただ金に困ってる母親が娘に金を借りに来たってだけでしょ!? ライブがどうとか知らないわよ!」

「母親だぁ? アイに散々暴力を振るいまくった挙句最後は捨てた人間が、今更どの口が言うんだ? 醜い……吐き気がする……」

 

何処までも自分本位な奴だった。この屑女と同じ血が俺たち4人の中にも流れてると思うと、俺は気が狂いそうになる。アクアとルビーも完全にゴミを見る目をしていた。

 

「あぁ、もう!! 何でこんな面倒な事になるのよ……!!」

 

それはこっちの台詞だ。頭を掻き毟りながら怒り狂う女を、俺たち三人は冷めた目で見上げる。

 

すると急に女が静かになった。腕をだらんと下げて、大きく溜息を吐く。

 

「……はぁ、今となっては捨てるべきではなかったわね」

「え?」

 

そして意外な事を言い出す女。俺とアクアの後ろでルビーが少しばかり希望を抱きかけるが、当然この状況で都合の良い話に繋がる筈がない。

 

「でも分かる訳ないじゃない」

 

……頼む。頼むからこれ以上喋るな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――金食い虫が実は金蔓だったなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お前さえいなければもうちょいマシな生活なのによ。この金食い虫が!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのクソ親父の醜い顔が脳裏に蘇った。

 

「…………このアマぁ」

 

怒りで我を忘れて俺は実力行使に出ようとした……だが。

 

「フンッ!!」

「だっ……!?」

 

「な……」

「さりなちゃ……ルビー!?」

 

ルビーの方が早く動き、女の足に蹴りを入れたのだ。蹴られた箇所を手で押さえて苦悶の表情を浮かべる奴に、ルビーは怒髪天を突く勢いで叫んだ。

目尻に涙を浮かべながら……。

 

「アイはお前の道具じゃない! お前に金を出す為に生まれてきたんじゃない! お前みたいな最低女が、アイの母親を名乗るんじゃねえ!!」

 

彼女の凄まじい怒気に、アクアだけでなく俺も一瞬気圧された。ルビーが代わりに怒鳴ってくれたお陰で、幾分か落ち着く事が出来たので感謝だ。

 

「二度とアイの前に姿を現すな! とっとと失せろ……!!」

 

部外者の前で”ママ”と呼ばない辺り、ルビーも意外と冷静なようだ。

 

「こんの……」

 

しかしその行為は火に油を注ぐ結果となってしまった。女の鋭い目付きがルビーを捉える。

 

「ルビー!」

「くそっ!!」

 

それに気付いた俺たちが咄嗟に割り込んで彼女の盾になる。

 

「何すんのよクソ餓鬼が!!!」

「「「がっ!?」」」

 

直後に襲う強烈な衝撃と痛み。女とは言え大人の力は子供の身体を蹴り飛ばすのに十分足りた。俺とアクアはルビーを巻き込んで扉に叩き付けられる。

 

「いつつ……」

「お兄ちゃん、マリア! 大丈夫……!?」

「あぁ、大丈夫だ。ルビーこそ、怪我は?」

「ううん、平気。ちょっと身体痛いけど、それだけかな……」

 

アクアとルビーの身体を観察する。……見たところ二人に怪我はなさそうだ。良かった。

 

……さて。

 

「――おいコラ? 誰に手ぇ出しやがったこの野郎……」

 

自然と全身を殺戮オーラが纏う。コイツ、俺の大好きな兄と姉を蹴り飛ばしやがった。大事な家族を傷付けられた怒りで、頭がどうにかなりそうだ。 

 

「うっさい!! その餓鬼が蹴ってくるのが悪いのよ! いい加減其処をどきやがれ……!!」

「ダメに決まってるだろうが。お前こそいい加減諦めろ」

 

それでも俺は努めて冷静さを保つ。感情に任せて襲ったところで子供の身体では大人に敵わないし、仮にどうになかったとしても殺す訳にはいかない。母さんを悲しませる真似はしないと、固く誓ったから。

 

しかし、ここで女がとんでもない暴挙に出た。

 

「どけって……言ってんのよ!!」

 

「な……」

「ひ……」

 

女が取り出したそれを見てアクアは驚愕し、ルビーは顔を蒼褪めて悲鳴を上げる。

 

「時間がないって言ってるでしょ!! 邪魔するなら殺してでも通ってやる!!!」

 

何とコイツ、ナイフを隠してやがったのだ。

 

「……おい、俺たちを殺すだ? それをしたら本末転倒だぞ?」

 

金を得て借金を返せたところで、すぐに警察に捕まって一生牢獄暮らしだ。女がこれから取ろうとしている行動は、あまりにも愚か過ぎた。

 

「黙れ黙れ!! さっさとどけ!! 臓器売られて一生肉体労働なんて、絶対御免よ!!」

 

だが頭に血が上っているのか、それともヤバい金貸しに狙われて焦っているのか、そんな事すら分からないと言った様子だ。

 

(まずいな……)

 

このままだと俺たちはおろか、ドームに来ている人間にも危害が及びかねない。今ここで何としても女を無力化する必要が出てきてしまった。

しかしどうやって? 子供の身体で、しかも武器らしい武器もない状態で武装した大人を倒す術なんて――。

 

ん? 武器らしい武器もない? 

 

……あ。

 

「そうだ、肉体そのものが武器の奴がいるじゃねえか」

「マリア……?」

「どうしたの?」

 

とはいえ、あの男は近くにいない。ならどうするか。

 

(一か八かだが、これしかない)

 

「すー……」

「?」

 

俺が深く息を吸う姿を女は怪訝な表情で眺める。今にして思えば、奴は呆然と突っ立ってないでさっさと動くべきだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かぁああああああああ、助けてぇええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が喉を張り裂けんばかりに叫んだ時点で、奴の望む未来は完全に潰えたのだから。

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

コンクリートの壁で反響した俺の声が消える前に、一人の男が全力疾走しながら現れた。

 

「え、え、何?」

 

「え、まさかあれって……」

「あの人、あの警備員さんじゃん! はっや、チーター並かよ……!!」

 

女もアクアもルビーも困惑しながら接近してくる男を見続ける。

 

「来たか――紅林」

 

お前は正義感に溢れる男だ。きっと子供が助けを呼ぶ声を聞き逃さないだろうと思ったよ。

 

「大丈夫か、君たち!!?」

 

紅林は電光石火の勢いで俺等と女の間に滑り込み、俺等の安否を確認しながら奴に鋭い眼光を浴びせる。

近付いて来る段階で女が俺等にナイフを向けているのが見えたのだろう。誰が悪人かは既に識別が付いている様子だ。

 

「な、何なのよコイツ……?」

 

狼狽える女。

 

だが、ここで全く予想外な奴等が増援として現れた。

 

 

 

 

 

「――おやぁ? 子供の叫びが聞こえたから来てみれば……半グレ以外にもドームを無茶苦茶にしようする輩がいたみたいだねぇ?」

「女、その手に持っているナイフは何だ? 何故子供にそんな危なっかしい物を向けてやがる……?」

 

 

 

 

 

見るからに普通じゃないオーラを纏った二人の男が、ゆっくりとした足取りで近付いて来る。一人は長く重そうな鉄棒を軽々と持ち、もう一人は顔に横一文字の傷が入っている。

俺はソイツ等をよく知っていた。羅威刃時代にもマークしていた連中だったから。

 

(まさか……奴等もいたなんてな)

 

流石に一瞬だけ女に同情したが……やめた。母さんを苦しめ、侮辱しまくり、仕舞いにはアクアとルビーに手を上げやがった下衆だ。寧ろ存分に懲らしめてくれとすら思った。

 

「なっ!? 伊武さん! 犬亥さんも!」

「久しぶりだね紅林君。まさか君も警備員として此処にいたとは。相変わらず逞しそうな体付きで、羨ましいねえ」

「どういう状況か説明してくれないか?」

 

武闘派極道、”鉄棒の伊武”こと伊武隼人、そして”赤ドスの犬亥”こと犬亥鳳太郎。

 

彼らが属する獅子王組が、今回のドーム公演警護の元締めであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「???????」」

 

尚、アクアとルビーは事の展開に付いて行けず混乱していた。




さぁ、アイの母親よ。己の子を人とも見ぬロクデナシよ。報いを受ける時間だ。

小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?



……まぁ直接手を下すのは紅林だけですが。
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