【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

29 / 160
毒親の設定をちょっと変えました。アイの母親なので実年齢に対して若く、40代後半でありながら30代半ばに見えます(因みにアイなら40代後半でも20代後半に見えると考えている)。
22話の描写を一部変更しましたので、ご連絡致します。


長らくお待たせして申し訳ありませんでした。続きになります。


24話

唐突な話だが、俺たちは母さんの子供だ。

 

……今更何を言い出すんだって? まぁ先ずは聞きやがれ。

 

「アクア、ルビー……ちょっと耳貸せ」

「なんだマリア? いきなり小声で話すとか」

「って言うか、ちゃんと”お姉ちゃん”って呼びなさいよ」

「偶には名前呼びしても良いだろ姉さん……」

 

つまり、母さんの持っている特徴が少なからず遺伝している。アクアは演技、ルビーはダンスといった具合に。

あと二人とも状況把握能力が高めだ。これはどのカメラが回っているか分かったり、周囲にある小道具や演者を上手く利用した演出を作る際に役立つ。母さんはステージ上の数多あるカメラから動いているものを即座に把握し、自らを可愛く撮らせる事が出来る。これは並の天才でも難しい、最早モンスターの領域だ。

 

要するに何が言いたいかというと。

 

「俺、あの女がマジで許せなくなった。徹底的に懲らしめてやりたい。だから二人とも協力してくれないか?」

「急にどうしたんだ? ……まぁ俺もその考えには賛成だけどさ」

「私もOKだよ。アイツ、ママを侮辱しやがったし。それで何すれば良いの?」

「あぁ、一緒にやって欲しい事がある」

 

7年も星野マリアとして生きて分かった事だが、俺は二人ほど突出していないものの、演技やダンスも常人よりは得意みたいだ。俺はこの人並み以上に優れた演技力でクズ女をより窮地へ追い遣りたい。

 

「大人たちは俺等に状況説明を求めてくる。その時にな……」

 

快く協力してくれた兄姉に具体的に説明する。どんな演技を披露すべきかを。

 

 

 

 

「どうしてお二人が此処に?」

 

一方、紅林たちは俺等の作戦会議に全く気付かず、合流して子供たちの盾になりつつ言葉を交わしていた。

四面楚歌……どころか蚊帳の外に立たされた女は次の行動に悩んでいる様子で、その場でオロオロと狼狽えるばかりだ。

 

「B小町の人気を妬む不特定の人物から脅迫状が届いたんでね。3年前に同じグループの女の子がストーカーに襲われた前例がある。運営は万全を期す為に武闘派と名高いウチに護衛の依頼をかけた、という訳だ」

「案の定、先ほど別の芸能事務所に雇われた半グレ共の襲撃を受けた。此処の反対側でな。最もそいつらは既に撃退済み。件の事務所も警察へ匿名で証拠を送り付けたから、捜査が入るのも時間の問題だろう」

「このドームに半グレが!? そうだったんですね!」

「というか君を雇った『獅子王セキュリティ』。アレ、ウチの系列の会社だぞ?」

「……だから警備員は全員鍛えてそうな人間ばかりだったのか」

「獅子王組の教育プログラムの一部を取り入れてある。警備員一人でチンピラ二人位なら余裕で撃退できる程度には鍛えられてる」

 

現在、獅子王組は警備関係のシノギに力を入れている。ドーム公演の警備を無事完遂すれば、彼等の関連企業の需要が増し、より大きな収入に繋がるのだ。

 

「さて紅林くん、そろそろ俺たちに現状を教えてくれないかい?」

「実は俺も今来たばかりで、まるで状況を把握しきれてないんです。……すまないが君たち、何故あの女は君等にナイフを向けてきてるんだ?」

 

紅林たちが俺等に説明を求める――。

 

「わ、ちょっ……!?」

 

それに対して俺たちは紅林にしがみ付く形で答えた。

 

「ぐす……」

「うぅ……」

「ひっく、うっく……」

「だ、大丈夫か!? しっかりしろ……!」

 

顔を上げた子供たち(俺等)は目から涙を溢し、大声で泣くのを必死に堪える。そのまま涙声で事情を話し始めた。

 

「この人、アイのお母さんなんだって。でも僕はアイから聞いたんだ。お母さんに何時も殴られて、最後は捨てられたって……!」

「それでこの人、アイにお金を借りに来たみたいなんだけど……そんな悪い人はアイに近付いて欲しくないから止めようとしたんだ……」

「そしたらナイフを出してきて言ったの! 邪魔するなら殺してやるって……!! 私、怖いよ……」

 

……勿論これは演技だが、鋭い観察眼を持つ筈の猛者3人は一切疑う事なく驚き、耳を傾けていた。

やはり俺たちは母さんの子供だ。演技の質が途轍もなく高い。”星”の子たる”宝石”たちもまた、生まれついてのモンスターだった。

 

この時の俺等の瞳の中の星は白に戻り、しかし怪しく光っていた。

“嘘”を“真実”と相手に認識させる、魔法のような不思議な力を秘めた綺羅星の瞳。他者を魅了し、惹き込み、終いには虜にしてしまう天性の能力。母さんも持っている役者としての最高位の資質だ。俺みたいな特殊能力を持つ人間でもなければ、ほぼ確実に騙される。

 

あ、因みに泣く演技は銃創……有馬かなを参考にさせて貰った。

 

「な、何よコイツ等……さっきまで生意気な態度だった癖に……」

 

そう。泣く演技で俺等の被害者ぶりを強調し、クズ女をより凶悪な悪党に仕立てようという訳だ。俺等の素顔を知っている奴からすれば、大人を騙して味方に付けようとする卑しい餓鬼にしか見えないだろう。

 

「……そうか、事情はよく分かった。間に合って良かったよ」

「おじさんたちが来たからには、もう大丈夫だ」

「君たちは後ろに隠れてなさい。後は我々に任せたまえ」

「うん……」

「ありがとう、おじさんたち……」

 

紅林たちも例外なく俺等の星の光の魔力をモロに受け、あっさりと信じてくれた。最も、話の内容そのものに偽りは一切ないので、仮に騙せなかったとしても受け入れてくれただろうが。

3人は優しい言葉を俺たちにかけつつ女に鋭い視線を向ける。逃げ遅れた奴はビクッと体を震わせた。

 

「――おい女、アイさんの母親らしいが……彼女に酷い扱いをした癖に金を借りに来るとか、随分と都合の良い話だな?」

「な、何よ……その餓鬼共の言葉を信じるって言うの……!?」

「この子たちは嘘を吐いていない。目を見れば分かる」

「そ、そんな事、分かる訳ないでしょ!?」

「……じゃあ、その手に持ってるナイフは何だ? 幼い子供たちにそんな物騒な代物を向けてる時点で身の潔白を訴えても説得力がないぞ?」

 

全身に怒気を纏う3人。その中でも特に怒っているのは犬亥で、今にも隠し持っている赤ドスを抜きかねない勢いだ。

この男は一人娘を溺愛する親でもある。母さんに対する所業、俺たち子供に刃物を向けた行為。これらを自分と同じ“親”という人種がやっている事が許せないのだろう。

 

「わ、私はアイに金を借りに来ただけ! ホントにそれだけなの! 用が済んだら帰るから、早くアイに会わせて頂戴……!」

「アンタ、許可証は持ってるのか?」

「きょ、許可証……?」

「俺たち獅子王組は本公演の警備担当として、運営責任者から正式に依頼を受けている。その際、許可証を持たない者はB小町に決して会わせるなと言われている。アンタがそれを持ってるなら通してやっても良いが、無ければお断りだ」

「最も……ナイフを所持しているような人間を、女の子たちの所へ案内する訳にはいかないがね。お前さん、自分の娘が3年前にストーカーにナイフで腹を刺されたのを知らないのか? おそらく彼女は刃物に対して強い忌避感を持っている。それを見られたら、娘さんが当時の事を思い出して苦しむ可能性を考えなかったのかい?」

 

伊武の言う通りだ。母さんはあの事件以来、ナイフを含む切れ味の鋭い物に対して若干トラウマを抱くようになった。俺等や斉藤夫婦の家にある刃物は、全てプラスチックやゴム製の物に変わっている。母さんを少しでも事件で受けた苦しみから守る為に。

 

「うっそぉ……ドームの警備ってヤクザがやってたの?」

「暴対法機能してないのかよ……」

 

俺の後ろでアクアとルビーが何か言っているがさておき、母さんをゴミ同然に捨てた女にその様な配慮がある筈も無い。

 

「……え? 刺された……? そんな事、あったっけ……?」

 

しかもコイツは例の事件について全く知らなかったのだ。おいおい、日本中であれだけニュースに取り上げられたんだぞ? 知らないとか普通に有り得ない。大方見聞きはしたがすぐに興味を失って記憶の彼方へ消えたとか、そんなところだろう。

 

3人の顔に血管が浮き出る。

 

「”そんな事”……だと? アンタ、娘が襲われた一大事だったんだぞ!?」

「本当に自分の子供はその程度の認識って訳か。同じ人の親として恥ずかしくなる」

「その癖金が必要になったら娘にたかる……その腐りきった性根、羨ましくないねえ」

 

全くだ。こんなクズが母さんみたいに素敵な人の母親だなんて、何かの冗談としか思えない。

 

「く……あ、アンタたちには関係のない事でしょ……!?」

「だが今は俺たちが護るべき対象だ。刃物を所持する許可証を持たない人間。そんな奴をアイさんに会わせる訳にはいかねえ。――今ならまだ間に合う。子供たちに謝罪してドームから立ち去れ。そしたら見逃してやる」

「う、ぐぅ……」

 

紅林に最終警告を突き付けられた女は歯軋りする。

奴の目論見はこれで完全に潰えた。裏社会でも名の知れた猛者3人を相手に一市民が勝てる筈がない。紅林の指示した内容以外の行動に走れば、それだけでゲームオーバー。3人を突破して扉をくぐるどころか、逃げる事すら敵わなくなる。

 

最早万事休す。

 

「…………ふ」

 

(……ん?)

 

そんな状況下で口元を歪める様子を俺は見逃さなかった。一瞬だった為か、俺以外の誰一人気付いていない。

 

「……分かった。諦めれば良いんでしょ、諦めれば」

 

女は心底不満そうな表情で溜息を吐き、俺たちに恨めしそうな視線を送る。

 

「悪かったわね。今日は大人しく帰る事にするわ」

 

ヘドロみたいに酷く濁った目だ。悪いなんて欠片も思ってないだろテメエ。謝罪に心が籠ってないのは感じ取れたのか、アクアもルビーも不快感を露わにしたままである。

 

「アイも公演で忙しいみたいだし、後日改めて出直させて貰うとしましょう」

 

そう言って去って行く女。うるせえ。一昨日来やがれ毒親め。

 

だいたい他の奴等を騙せても、俺の目は誤魔化せられないぞ?

 

(――フン、馬鹿な奴等。私が完全に出ていくのを追って確認すらしてこないなんてね。こう見えてドーム内の構造はとっくに把握済みなのよ。反対側にもステージに行ける入り口があるのは分かってる。そっちから”あれ”と接触して金だけ受け取ってトンずらよ)

 

奴は全く諦めていなかった。帰る振りをして母さんがスタンバイしているステージ脇まで向かうつもりだ。事実、奴は最も近い出口である南口に向かわず、わざわざ現在地から最も遠い西口を目指しているように見えた。

 

紅林や犬亥、伊武ならそう遠くない内に違和感に気付いただろう。だが、敢えて俺から指摘してやる。

 

「嘘だ。あのお婆さんは嘘を吐いてる」

 

外見30代半ばの女性に対する呼び方じゃない事にぎょっとする大人たちだが、一応……いやマジで不本意だが、奴は俺等の祖母だ。何も間違ってはいない。

犬亥は俺の発言を頭ごなしに否定せず、屈んで俺と目線を合わせる。その顔は極道ではなく、娘に対するものと同じ親としての慈愛に満ちていた。

 

「何故そう思うんだい、少年?」

 

……正直俺は父親という生き物が心底嫌いだ。だがこの男は少なくとも目の前のクズ女やあのクソ親父とは違い、子を大事する優しい親だと確信している。だから辛うじて平静を保って話す事ができた。

 

「アイツ、歩く方向がおかしいもん。僕たちに近い入り口から離れているように見えたんだ。確かドームって……右と左が同じ作りになってるよね? 此処と同じ扉って反対にもあるんじゃないかなって」

 

実際は嘘を吐く人間を目で見て判別出来る能力で気付いた事だが、無論教えるつもりはない。理屈を並べて上手く誘導する。

女の意図に気付いた紅林たちは即座に声を上げる。

 

「――おい女。そっちは出口から遠いぞ? 何処へ向かうつもりだ?」

「! くそ……!」

「あ、おい待て!!」

 

ここで上手く誤魔化すか、俺等の姿が見えなくなるまで南口に歩いて行けば目論見通りにいけたかもしれない。最も、帰る発言の嘘を俺に見抜かれているので、無駄でしかないが。

だが奴はよりにもよって指摘された直後に全力で走り出すという、最も不審な行動を取ってしまった。当然それは母さんとの接触を諦めていない証明となってしまう。

 

「ここで逃げるという事は反対側の入り口からアイさんの所へ行くつもりだな!?」

「そんな事、させる訳にはいかないねえ!」

「逃がすか! 止まれ!!」

 

大人たちが女を捕まえようと駆け出す。

一先ずこれで安心だ。脚力では完全に紅林たちの方が勝っている。逃げる事など不可能。捕まって摘まみ出されるオチしかない。

 

……そう思っていた俺だったが、ここで想定外の事態が発生する。

 

「あ、パパったらこんな所にいた! おーい、パパ~! もうじきライブが始まるよー! 一緒にアイちゃんを応援しようよー!」

 

女が走る先の曲がり角から中学生程度の少女が現れ、明るい笑顔で犬亥に手を振る。母さんのファンであり、今日のライブを見に来ていた犬亥の実の娘『犬亥梨香』だった。

これには犬亥も驚き、声を張り上げた。

 

「梨香! こっちに来るな! その場から逃げろ!」

「え……? どうしたのパパ――きゃあっ……!?」

 

父の言葉の意味を梨香が理解した時点で手遅れだった。

 

「来るな! 来たらこの餓鬼が只じゃ済まないよ!!」

「ひ、ひぃ……」

 

クズ女は梨香を捕まえ、その首筋にナイフを突き立てる。人質にされた少女は顔面蒼白になり、涙目で父に視線を送っていた。

 

「いやあ!」

「くそっ……!」

 

ルビーが悲鳴を上げ、アクアも冷や汗を流す中、俺は完全に呆れていた。女の愚か過ぎる所業に対して。

 

(アホが……コイツ等相手に人質なんて悪手以外の何物でもないぞ?)

 

況してや人質の対象が子供で、しかも獅子王組きっての武闘派の娘となれば尚更。事実、3人を完全に怒らせてしまった。

 

「……おい女、俺の娘に何する気だ? この外道が」

「子供を躊躇なく人質にするその精神、羨ましくないねえ……!」

「梨香ちゃんは関係ねえだろ! 離しやがれゴラ゛ぁ……!!」

 

「だったらアイを此処に連れてきなさい、300万円の現金と合わせて! そしたら餓鬼は解放してあげる! 少しでも妙な真似をしたらコイツの喉を掻っ切ってやるからね……!」

「パパ、助けて……!」

「黙れ! ――全く、これだから餓鬼は嫌いなのよ。喧しくてイライラする」

 

やってる事が完全に強盗と変わらない。まさかここまで外道とは思わなかった。

 

……なら、もう容赦はいらねえな。

 

 

 

 

「あ! ダメだよアイ!! こっちに来たら危ないよ……!!」

 

 

 

 

俺は女と梨香の後方に視線を向け、慌てた様子で叫んだ。まるで本当に其処に母さんがいるかのように。

 

「え?」

「アイ?」

 

俺の演技を真に受けた全員が視線を動かす。当然其処には誰もいない。

女は後ろを振り返った事で俺たちへの注意が疎かになった。その隙を逃す程、紅林たちは馬鹿ではない。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

最初に動いたのは紅林だった。彼は一瞬で女の懐に潜り込むと、目にも止まらぬスピードで梨香を奴から奪い返した。

 

「うおらぁ!!!」

「ひゃあっ!?」

「な、しまった……!」

 

女が俺の意図に気付いた時には遅かった。人質は奪還され、今まで以上に窮地に立たされる。

紅林が奴にぶつける鋭い眼光は、正に紅鬼の異名に相応しい鋭さを持っている。赤い頭髪からも黄色い稲妻が走っているように映った。

 

「……テメエ、子供を人質とか卑怯な真似しやがって。もう絶対許さねえぞ?」

「くそが……くそがあああああああああああああああ!!!!」

 

この期に及んで女は無駄な抵抗を試みた。ナイフの切っ先を紅林と梨香へ躊躇なく突き出す。

 

「っ!」

「な、なにコイツ……固ッ」

「いてえなコラ。俺じゃなかったら大怪我だぞ? ――先に手を出したのはお前だからな?」

 

梨香の盾になった紅林の腕をナイフが突き刺さる。しかしあまりにも頑丈過ぎる筋肉により、深さ1㎜も刺さらなかった。当然、紅林にとってはこの程度の傷、ダメージの内に入らない。

 

「おい外道、歯を喰いしばれ。コイツは滅茶苦茶魂に響くぞ?」

「え、ちょ、私は女よ! 冗談でしょ!?」

「関係ねえ。俺は外道には容赦しない。覚悟しろ」

 

紅林が拳を固める姿に焦る女だが、もう此処まで来たからには運命からは逃れられない。

 

 

 

 

 

「子供は宝なんだよ!!! もっと大切に扱いやがれぇえええええええええ!!!!」

 

「ぐべぼぉおおおおおおお!!!?」

 

 

 

 

 

信念と魂の籠った強烈な一撃が女の顔面を潰し、大きく一回転させてから地面に叩き付けた。

 

「いぃ!? な、何あれ凄……!」

「在り得ないだろ、人体が出せるパワーじゃない……!!」

 

それを目の当たりにして動揺するアクアとルビー。俺も奴のパンチを見た時は、その規格外過ぎる威力に内心驚愕したっけなぁ……。

 

「パパ……!」

「梨香! 無事か、怪我は……!?」

「大丈夫、赤いおじさんが守ってくれたから」

「すまないな紅林。娘を助けてくれて」

「いえ、梨香ちゃんが無事で何よりっすよ」

 

梨香に抱き着かれた犬亥が紅林と遣り取りする中、

 

「……なん、でよ」

 

冷たい床で伸びていた女が弱々しく声を漏らした。アレを喰らって喋る元気が残っているのか。堅気にしては凄い耐久力だな。

 

「私は……産みたくもないのに産んでやったのに……なら産んでくれた恩を返すくらい……別に良いで、しょうが……」

 

顔面を凹まされても尚、この女は自己正当化に走っていた。それを呆れながら見下ろす俺たちの中で、唯一紅林だけは怒りを交えて説教した。

 

「産んだから良いだと……? ふざけるな! 例え望まない妊娠だろうが、産まれてくる子に親は責任を持たなきゃいけねえんだよ! 子供に罪はねえんだから!!」

 

世の中の酷い親たちに是非とも言ってやって欲しいくらい、紅林の言葉はこの場にいる者たちの心に強く響いた。

 

「なのにアンタはアイさんに虐待ばかりしてたんだろ!? 最初から親としての責任を放棄しておいて、都合の良い時だけ母親面してんじゃねえ!!」

 

そして紅林は悲しそうな表情で、俺の気持ちを代弁してくれた。

 

「アイさんはきっと……アンタに愛して欲しかったに違いない。アンタは娘さんに愛情を注いであげるべきだったんだよ……」

 

母さんが享受すべき幸せの形とは何かと聞かれたら、母親の愛を受けて育つ事だろう。それは俺たち3兄弟が生まれてこない事を意味するが、それでも母さんが普通の幸せを得られるなら、別に構わなかった。きっとアクアやルビーだって同じ考えかもしれない。

 

推しの幸せを願うのは、ファンとして当然だと思うから。

 

「そ、そんな無茶な……できものを愛するなんて……どうかしてる」

 

「まだ言うか」

「分からず屋め」

 

紅林の為になる説教も、結局この女には殆ど通じてなかった。根本的に母親としての要素が欠落しているのだろう。これでは何を言っても無駄でしかない。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おいおい、これは一体何の騒ぎだ?」

「どうやらターゲットを無力化してくれたみたいだね? 手間が省けて助かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処へ新たに現れた二人の男たち。初めて見るな。誰だ?

 

「おや、お前さんたちも此処に来てたのかい?」

「あぁ、其処で寝てる女に用があってな」

 

紅林たちは警戒すらせず、逆にその二人組と友好的に接する。どうやら知り合いらしい。

 

「ひ、な、何で此処が……?」

「お前の所持品にGPSを取り付けておいた。見るからに高跳びする気満々だったからな」

「ウチから借金しといてホントに逃げられると思ってたのかな? 随分と舐められたもんだね」

 

一人は成金っぽさを感じるスーツの男。もう一人は薔薇の柄を入れたシャツを着込んだチャラそうな男。どちらも紅林たちに負けない強いオーラを携えていた。

 

「なぁ、マリア。これってまさか……」

「お前の想像通りだよアクア。あの女、闇金に莫大な借金をしてたみたいだな。だから母さんに金を借りに来てたのか」

「確か内臓売られるとかどうとか言ってたわね、あのババア」

 

強者5人に囲まれ、紅林の一撃で真面に動けない女。あ~あ、こりゃ詰んだな。ご愁傷様。

 

「さぁ、星野さん」

 

『三門一郎太』と『部南忠志』。

 

 

 

 

「貴様がウチから借りた金が2000万に膨れ上がってるんだけど…………どう返すつもりだ?」

 

 

 

 

『ナツメ金融』の社長とそのパートナーの圧が、倒れている女に容赦なく向けられた。

 




次回、毒親破滅。

アイに300万を借りに来たのは外国へ高跳びする資金調達の為です。ナツメ金融への返済に充てる気すらありませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。