【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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3話

俺の名前は城ヶ崎賢志。日本最大のマフィア、『羅威刃』のボス……だった男だ。

 

アイドル、星野アイの息子として第二の人生を送る俺だが、赤ん坊の体というのは不便極まりない。転生の恩恵か自力歩行と喋る事は可能だったが、それ以外は通常の赤子と同じ事しかできない。

 

まず食事は固形物を全く受け付けない。胃の機能が不十分だからだ。故に日々の献立は専ら哺乳瓶か柔らか過ぎな離乳食、あとは控え目に言っても美味しくない母乳くらいだ。

 

(全く、本当に酷い味だな、母乳ってやつは)

 

俺の肥えた舌にはあまりにも合わなかった。一度味あわされてから二度と飲みたくないと思ったが、あのアイ(馬鹿)が俺用の哺乳瓶を失くして、それにすら気付かなかったせいだ。この体が異様に腹を空かせていた事もあり、やむを得ず不味い母乳で腹を満たすしかなかった。

 

お陰でルビーからはギャーギャーと文句を言われる始末。まぁそれも俺の“姉さん”呼びであっさり陥落してくれたが。餓鬼ってのは自分より年下の奴に持ち上げられると気分が良くなるからな。

 

「オムツ交換したいから……二人とも向こう行って!」

 

他に問題があるとすれば……そう、一人では用も足せない事だろう。トイレに行けたところで便座の位置が高過ぎて手が届かないし、仮に上れても体格が小さいから便器に落ちる可能性もある。こればかりは大人の協力が必要不可欠だった。

 

「はいはい……」

「フン」

 

アイが社長と出掛けた後、俺とアクアは一丁前に恥ずかしがるルビーの意向に沿い、その場を離れる。彼女は少し態とらしい泣き声を上げてミヤコを呼び出した。

 

「うあああああん!!!」

「……はぁ」

 

赤子を3人も相手にするのは相当キツいのだろう。ミヤコは見るからに疲れていた。

 

「……何で私がこんな事を。一応私、社長夫人じゃないの?」

 

死んだ魚の目をしていた奴から沸々と怒りが湧き上がってくるのを感じた。そりゃあ関係者とは言え他人の子供のベビーシッターを無償でやるのは負担しか無いよな。

 

「美少年と仕事出来ると思ってアイツと結婚したのに、与えられた仕事は16歳アイドルの子供の世話……? しかも父親不明の片親とか……闇過ぎだろ!!」

 

だが今は少し同情し辛かった。コイツ、下心がありまくりなのだ。

 

「そもそも私は、ベビーシッターやる為に嫁に来たんじゃねええええええええ!!!」

 

ミヤコは取り替えたオムツをゴミ箱へ叩き付け、怒りを露わにした。それに対してルビーが心底理解出来ないって顔をしやがった。

 

「……は? ママに尽くせるのは幸福以外の何物でもないでしょ? 頭おかしいんじゃない?」

「いや、意外と彼女の言っている事に正当性が見受けられる」

「……ルビーもそうだが、お前も大概だなアクア」

 

二人の母親に対する信仰の厚さに呆れていると、ミヤコから黒いオーラが溢れてくるのを捉えた。

 

「……って言うかコレ、不祥事の隠蔽よね?」

 

……おい、このアマ。何を考えてやがる?

 

「そうだ、週刊誌とかにこのネタ売ったらお金持ちに……」 

 

やはりこの女、俺等にとって良からぬ事を思い付いたらしい。俺たちは存在自体が特大級の爆弾だ。暴露されれば大爆発は確実。育児ノイローゼで思考が変な方向へ行っちまったんだろうが、そんな破滅一直線な真似をみすみす逃す訳にはいかない。

 

「もう、全部どうでも良い!! やったるかーー!!!」

 

冗談ではない。何時かは破滅するとしても、その時が来るのが早まるのだけは勘弁である。普段は馬鹿なアクアやルビーも流石に大慌てだ。

 

「やっば……どうする? 殺す!?」

「無理だ、体格差があり過ぎる……」

「こっちは冗談で言ってるんだけど……もしかしてそっちは本気?」

「幸いこの身体でもナイフは持てる。3人がかりで足を切り裂いて、出血多量に持ち込めばギリギリいけそうか……? いや、それでもリスクは高いな。俺たちが襲ったと知られたまま逃げられる可能性がある……」

「マリアは本気な上に内容が具体的過ぎ! 怖いわよ!!」

 

何を言っているんだルビー? 秘密をバラすクソなど死ぬべきだろう。俺は完璧主義なんでね。不安要素は一つも残らず排除しないとな。

 

「待てマリア、ルビーが怯えているだろ? ――寧ろこれはチャンスかもしれん。俺に考えがある。殺し云々はその後にしてくれないか?」

「……チッ。まぁ俺も出来るなら穏便に済ませたい。お前の提案に乗ってやろうじゃねえか、兄さん」

「アンタ等、いい加減物騒な話題から離れなさいよ!!」

 

流石に餓鬼の目の前で血を見せる趣味など俺には無い。癪だがアクアの指示に従うとするか。

 

 

 

 

 

「ふふふ……これを売ったお金で、本担を月間一位に押し上げるのよ……」

 

その間にミヤコは母子手帳を何回も撮影し、壊れた玩具の様に笑っていた。そこへ……

 

「――哀れな娘よ。貴様の心の渇きはシャンパンでは癒えぬ」

 

ミヤコの背後から聞こえる、周囲を響かせる様な高い声。

 

「誰……!?」

 

振り返ったミヤコはその正体を捉え、固まった。

 

「わ、我らは、神の使いである。貴様の狼藉、これ以上見過ごす訳にはいかん!」

 

其処にはテーブルの上に王の如く鎮座する赤子が3人。腰を下ろしている彼女を見下ろしていた。

 

「え、赤ちゃんが……しゃべ……」

 

赤子が喋るという事実にミヤコは見るからに混乱状態だ。

 

アクアの提案はこうだ。敢えて自分たちが普通の赤子ではない姿を見せると共に、自分たちを神の使いとしてミヤコに認識させ、上手くいけば彼女を使って行動範囲を広げる。赤いペンライトによる後光でそれなりに様になっている。

 

一見すると悪くはなさそうな考えだが……

 

「貴様の常識では赤子は喋るのか? 信じよ」

「いやいや、流石に神とか言われても……私、そういうのは信じないし……」

 

(ま、そうなるよな)

 

アクアが必死に語り掛けるが、当然ながらミヤコは信じようとしない。挙句ドッキリかと疑う始末だ。

 

(……やはり殺した方が早い。この位置なら心臓を狙える)

 

俺は背中に忍び込ませたナイフを掴み、隙あらば何時でも飛び掛かれるようにしておく。これ自体も極めて危険な賭けだが、どの道やらなきゃ俺たちは終わりだ。それに裏切り即ち死……それが俺のルールだ。

 

だが、この刃が女の身体を切り裂く事は無かった。

 

「ほらほら、ルビーちゃ~ん? テーブルに乗ってたら危ない――」

 

パシッ

 

「慎め。我は天照の化身。貴様らの言う、神なるぞ?」

 

何故ならミヤコの手を弾いたルビーが、荘厳な雰囲気を纏って彼女を黙らせたからだ。

 

「貴様は目先の金に踊らされ、天命を投げ出そうとしている」

 

「天……命……?」

 

まるで本物の神とやらに取り憑かれたかの様に、彼女の並外れた演技力を前にアクアもミヤコも言葉を失っていた。

 

(ほう……この餓鬼、まさかこれ程とはな)

 

そんな中で俺は感心していた。いくら前世持ちとは言え、幼くして周囲を完全に引き込むずば抜けた演技力……成長すれば途轍もない天才として化けるだろう。裏社会の人間の戦闘力で例えるなら……正にモンスターだ。最も、”モンスター”よりもルビーが言う”神”と表現した方が正しそうだが。

 

(きちんと育ててやりゃあ、かなりの稼ぎ頭になるだろうな)

 

俺の持つ優秀な経営能力が、そう判断した。まぁだからって彼女に何かしてやろうとは思わなかったが。

 

それにしても……

 

「星野アイは芸能の神に選ばれた娘。そしてその子等もまた、大いなる宿命を持つ三つ子……。それらを守護するのが、汝の天命である」

 

(……宿命、か)

 

俺は今まで神とやらは全く信じた事が無かった。前世での地獄の日々の中、そんな奴等に助けられた覚えなど一切無いから。

 

だが転生と言う現象に見舞われた今、簡単に眉唾物だと切り捨てる事も出来なくなった。同じ現象を越えて一人の女の元に集った俺たち3人。一体誰が、何の為に、俺たちを此処へ誘ったのだろうか。こればかりはいくら考えても……答えが出なかった。

 

「その行いは神に背く行為。このままでは天罰が下るであろう」

 

「天罰……!? 天罰って何ですか!? 具体的には……!!?」

 

おいおいミヤコ。アンタ、神は信じないんじゃなかったのか? いや、それだけルビーの演技力に目を見張るものがあったという意味か。完全に彼女のペースに飲まれた奴は激しく動揺していた。

 

「具体的……? 具体的には――」

 

「死ぬ」

「若しくは、肉になる」

 

「そう、どっちか!!」

 

「どっちにしろ死ぬじゃないですかー!!」

 

ミヤコは絶望に満ちた表情でテーブルに突っ伏した。滝の様に流れる涙が、俺たちの元まで広がる。

 

「私……どうすれば……?」

 

「簡単な事。母と我々の秘密を守る事じゃ。 そしてこの子等を可愛がり、言う事全部聞くのじゃ。――そうすれば、イケメン俳優との再婚も夢ではないぞよ?」

 

……くっくっくっくっくっ。恐怖を植え付けた上で此方の要求を全て呑ませる。まさかこの餓鬼、そんな芸当を躊躇なく行うとは。裏の人間の才能もあるんじゃないか? 俺は面白過ぎて内心笑いが止まらなかった。

 

「やります! 何でもやらせて頂きます!! 靴の中敷きだって舐めます!!」

 

「……そこまでせんで良い」

 

一転して上機嫌になったミヤコは鼻歌混じりに掃除へ取り組んだ。

 

ま、何はともあれ全面協力してくれる奴を俺たちは手に入れた。ミヤコ、アクアとルビーに感謝しとけよ? 俺は首を傾げる様に曲げ、ミヤコの背中に向かって絶対零度の視線を注いだ。

 

(此処で天命とやらに背いてたら……本当に肉になるところだったんだからな?)

 

俺は3人に気付かれない様にナイフを元の位置へ戻した後、アクアとルビーに合流した。二人で何か話し込んでいる様だ。

 

「――しかし、中々迫真の演技だったな? 何処かで演劇やってたのか?」

 

その話題は先のルビーの演技に関してだった。

 

「ううん、初めてやった」

 

初めてあのレベルか……コイツはマジものの天才な様だ。

 

「初めて? 学校で劇とかやってなかったのか?」

「…………私、ちょっと変わった所で育ったから」

 

アクアの質問に対し、ルビーは顔に暗い影を落としてそう答えた。

 

(成程……やはり予想通りみたいだな)

 

アクアは気付いてないみたいだが、ルビーが餓鬼の年齢でくたばったのはほぼ間違いないだろう。子供が早死にする理由は二つ。事故や事件に巻き込まれたか、若しくは……不治の病に冒されたか。ルビーの発言から考えると、後者の可能性が高い。

 

そうなると変わった所というのは病院の事を指すのだろう。病で真面に学校にも行けず、当然劇なんてやりたくても出来ない。ずっと病院で過ごすだけの毎日を送り、最期は治療も虚しく亡くなった――こんなところか。

 

(まぁ、どうでも良い事だが)

 

コイツ等の前世が何者で、どんな末路を辿ったかなど俺には関係ない。俺が自立するまでの一応の協力者たち、俺にとってはその程度の認識だ。俺の第2の人生計画を狂わせる真似をしたら……その時は容赦はしねぇ。

 

だが……

 

「止めておけアクア」

 

気が付けば俺は、アクアの服の襟を引っ張っていた。

 

「マリア……?」

「互いの詮索は無しだ。人間誰しも知られたくない事の一つや二つはあるもんだろ?」

 

そう。俺だって……母さんの事を誰にも知られたくない。自分の思い出に他人が土足で踏み込んでくるなど、腸が煮えくり返る。殺したくなる程に。

 

「そう……だな。ごめん、ルビー。俺が浅はかだった」

「ううん、気にしてないよ……あ」

 

アクアはルビーに謝り、その髪を優しく撫でる。その姿は正しく妹を想う兄そのものだった。心なしかルビーの頬が緩んでいる。それを遠目に見ていた俺はふと疑問を抱いた。

 

(俺、こんなキャラだったか。わざわざ餓鬼同士の仲を取り持つ様な真似をするなんて……)

 

どうも俺は餓鬼に対しては強く当たれないらしい。おそらく忌々しい父親と同じになる事を心の底から拒絶しているからだろう。

 

(……それとも、コイツ等に同族意識でも抱いたのか?)

 

何処となくコイツ等は俺と同じ人間の様な……そんな気がしてならなかった。

 

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