【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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番外編⑤

おれの名前は星野マリア。前世が巨大マフィアのボスだった小学1年生だ。

 

「みんな、良い子でお留守番よろしくね?」

「アイ、防犯グッズは持った?」

「持ったよーアクア。ほらちゃーんと!」

「ママ、頑張ってね!」

「ありがとうルビー。ママいーっぱい活躍してくるから」

「うん!」

 

早朝から仕事の為に出掛ける母さんを見送ろうと、こうして日が上るかどうかの時間帯に起きて玄関に集まる3兄弟。

 

「……マリア、大丈夫?」

 

母さんが心配そうにおれの顔を覗き込む。出掛ける度に泣いて嫌がったのだから、この反応も仕方がない。

だからおれは穏やかな笑顔で母さんを見上げた。もう心配する必要はないと示す為に。

 

「大丈夫だよ、頑張ってきてね母さん」

「……ホントに、大丈夫?」

「今まで迷惑掛けてごめんなさい。でも、あのライブを見てから以前みたいに胸が苦しくなる事はなくなったんだ。母さんのお陰だよ。ありがとう!」

「そっか、良かった……」

 

するとホラ、母さんも笑ってくれた。嬉しさのあまり、おれの表情がふにゃりと崩れるのが分かる。その姿に母さんは「可愛い!」と頬を紅潮させ、お兄ちゃんたち毎まとめて抱き締めた。

 

「今日も必ず帰ってくるからね」

「……うん、信じてる。お兄ちゃんたちと待ってるよ」

「うん。じゃあ、行ってきます」

「「「いってらっしゃーい!」」」

 

ドアが閉まるまで、おれは母さんに手を振り続けた。

 

さて……

 

「……お兄ちゃん、お姉ちゃん。悪いけどまた一緒にいてくれる?」

 

おれが堪らずお兄ちゃんたちの手を繋ぐと、二人は微笑ましそうに答えてくれた。

 

「あぁ。今日は監督の所へ行く予定も無いし、一日中側にいてあげるからな?」

「実は朝早くから面白いアニメがやってるんだ! 早速一緒に見ようよ!」

「ありがとう」

 

訂正。本当はまだまだ寂しいし怖い。流石に前ほど酷くはないけど、心の奥が騒ついて中々落ち付けない。でもお兄ちゃんたちがいるから、一緒に過ごしていくうちに普段通りの状態に戻る事は出来ていた。

 

 

 

 

 

「はい、せんせ。アーンして?」

「行儀が悪いぞさりなちゃん? それに朝からお菓子は……アーン」

 

ソファーに並んで腰掛けながらテレビを視聴中、隣でお兄ちゃんとお姉ちゃんはベタベタと仲良さげにしていた。前世の名前で呼び合い、お姉ちゃんが差し出したじゃが○こをお兄ちゃんは満更でもない様子で口で受け取る。

 

「……」

 

おれはアニメを見るのも忘れてジーとそれを観察していた。それに気付いたお姉ちゃんがじゃがり○を差し出してくる。

 

「どうしたのマリア? じゃが○こ欲しいの?」

「ありがと。はむ……いやそうじゃなくて、前世で想い人だった男女は来世で兄妹になるって聞いた事あるけど、アレってホントだったんだなあって」

「……お前、そういうロマンチックな事知ってたんだな」

 

何だよ、意外だって言いたいのお兄ちゃん? そりゃあ元マフィアのボスで血生臭い日々を送ってた人間の口から出るような話じゃないかもだけどさ。

するとお姉ちゃんがニンマリと口角を上げ、お兄ちゃんに抱き着いた。

 

「分かる!? そうなのよマリア! 実は私たち結婚の約束をしてたんだー!」

「マジ?」

「え、そうだっけ……?」

「惚けないでよ、せんせ。”16歳になったら結婚してやる”って言ったじゃない?」

「いや、”真面目に考えてやる”とは言ったけど!」

「……お兄ちゃん、やっぱりロリコンだったんだね? ちょっと引いた」

「違う、誤解だマリア……!」

 

前世のお兄ちゃんとお姉ちゃん――吾郎とさりなは片方がアラサーでもう一人が12歳。今はタメだから良いけど当時は社会的に100%アウトである。

 

「冗談だよ、あくまでお兄ちゃんはお姉ちゃんを意識してるだけだもんね。気になった女性が偶々自分よりずっと年下だったってだけ。分かってるよ」

「お、俺は別に……」

「正体分かってから散々恋人みたいな距離感だった癖に今更誤魔化す? おれに嘘は通用しないの知ってるでしょ?」

 

ちょっと自覚が足りないんじゃないかな。自分を強く求めてくる女性を普通に受け入れてる時点で、特別な想いを抱いているのは間違いないのに。

 

「あの時、お姉ちゃんが亡くなった後のお兄ちゃんの落ち込み具合は尋常じゃなかったよ? おれには愛する人を失って消沈してる人間にしか映らなかったね」

「そうなのマリア?」

「お姉ちゃんの良いところを沢山おれに聞かせてくれたよ。それ見て思ったんだ。『あぁ、この二人互いの事を強く想い合っていたんだな』って」

「……そりゃ想ってないと言ったら嘘になるけど」

「ほらやっぱり」

「嬉しい! 私の事そこまで愛してくれてたんだね、せんせ! 今すぐ結婚して!!」

「まだ7歳だぞ、さりなちゃん。そもそも血の繋がった兄妹は法律的に結婚は無理なんだが……」

「別に男女の仲や内縁の妻を禁じられてる訳じゃないでしょ? いい加減正直になりなよお兄ちゃん。折角母さんが二人を導いてくれたんだからさ」

 

まだ16歳だったあの人は中絶の選択もあった筈なのに、おれ等を迎え入れる事を選んでくれた。それが奇跡的な再会へと繋がったのだ。

 

「二人の想いが強かったからこそ、こうして転生後も一緒になれた。そう考えると素敵な話じゃないかな?」

「……せんせと同じ事言うけどさ、数年前だったら言わないような事を言うようになったね、マリア」

「今まで封印していた感情に素直になった結果だよ」

 

母さんたち3人のお陰で自分に正直に生きれるようになった。本当に感謝している。

 

「――まぁ兎に角。お兄ちゃんもお姉ちゃんも頑張れ! おれ、二人の恋路を全力で応援するから」

 

二人にとっての幸せの形がそれなら、おれはその力になるつもりだ。家族が幸せでいる事は、おれの願いでもあるから。

 

「ありがとう我が弟よー! 良い子良い子!」

「いたいいたい。もう少し優しく撫でてよお姉ちゃん」

「あっ、ごめんごめん」

 

感極まった様子でお姉ちゃんがおれの隣に移動し、抱き締めて強めに頭を撫でてくる。嬉しいけど、もう少し丁寧にやって欲しい。

……ん? お兄ちゃん、なんでそんな思案顔なの?

 

「……想いの強さが転生後も一緒になる条件なら、マリアはどうなんだ?」

「おれ?」

 

ここで話題の中心が二人からおれに移った。

 

「そっか。マリアも私たちにそれだけ強い想いがあったって意味だよね? そこんトコどうなの?」

「ん~……」

 

どうだったかな? 大体お兄ちゃんたちと前世で会ったのは1日、それも1時間と少しくらいだ。二人に対してそんな感情を抱くところって――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あった。あの時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、限界……か」

 

京羅戦争終盤。一条と死闘を繰り広げて致命傷を負った俺は、母さんに己の死を悟らせないよう敢えて突き放した後、誰もいないアパート街の路地裏で力尽きて倒れた。

既に多くの血が俺の身体から失われ、切り裂かれた内臓が次々に活動を停止し、二度と復活する事はない。完全なる死は目前だった。

 

「おい、俺が通って行ったルート上……地面に血が付いている。掃除しとけ……今すぐ、だ……」

 

部下に血痕の後処理を指示したところで腕の力が抜け、硬く冷たい地面にすとんと落ちる。転がっていったスマホから部下の動揺する声が聞こえた気がしたが、それもすぐに聞こえなくなる。電話が切れたのか、耳の機能が完全停止してしまったのか。確かめる術はないし、もうどうでも良い。

 

城ヶ崎賢志は此処で終わる。誰にも看取られず、一人寂しく永遠の眠りに就く。

 

「俺の人生、なんだったんだろう……?」

 

その疑問に答える者は当然存在しない。

親父に殴られ、母さんにも捨てられ、嘘付きばかりで誰も信用出来ない毎日。心から面白い事も、楽しい事も、何一つ経験する事はなかった。

 

「……いや、1回だけ、あったな」

 

その時、俺の脳裏に浮かんだのは二人の人間。4年前、敵対組織を潰す途上で訪れた宮崎の地方病院。そこで出会った医者の男(雨宮吾郎)患者の少女(天童寺さりな)の姿。

 

思い返せば不思議な奴等だった。ほんの1時間程度の他愛もない会話。にも関わらず俺は彼等と一緒に過ごす時間を心の底から楽しんでいた。只の城ヶ崎として、血生臭い日々を一時でも忘れる事が出来た。

 

俺にとって真の意味で”楽しい”と思えた、唯一の時間。気が付けば俺はとんでもない願望を呟いていた。

 

「また、会いたいな……」

 

直後に俺は自身の発言を疑った。何を馬鹿な事を。寂れた片田舎で偶然出会った堅気たちに、そんな特別な感情を向けている自分が信じられなかった。

 

そもそも少女の方は既に亡くなっていて、もうこの世にはいない。あの医者がそう言ってたではないか。医者の方も、ちょっとした来客程度でしかない自分の事など忘れてるに決まってる。向こうからしたら、いい迷惑だ。

 

……そう自分に言い聞かせても、二人の姿が頭の中から消える事はなかった。

医者と少女の仲慎ましい会話、少女のアイドル”アイ”に対する熱弁、昨日は今日は何を食べたのか……細かいところまで俺は二人と話した内容を覚えている。

 

「ゴフッ! ……く、ははは……ホント何考えてるんだろうなぁ、俺」

 

哄笑。

予想以上にあの二人組を意識していた事実に、俺は吐血しながら笑うしかなかった。

 

でも、最早永遠に叶わぬ願いだ。だって俺は……もうじき死んで只の肉になる運命だから。

 

「母さん……遅い……遅過ぎ、た……ゴホッ……!」

 

薄れゆく意識の中、俺は後悔の念を口にし続けた。

 

貴女がもっと早く、俺を迎えに来てくれていれば……少しだけでも、愛してくれていたら………おれは、こうはならなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

……あのふたりにも…………もっとはやく……………………………会いに、いけたかも………しれないの、に………―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんて死に際に思ったからかも。わっ!?」

 

話し終えた途端、お兄ちゃんとお姉ちゃんが両側から包み込むように抱き着いてきた。お姉ちゃんに至ってはポロポロと涙を流して泣きじゃくってる。

 

「う゛ん゛……! また会えたね、マリア……!」

「今度は1時間だけじゃない。何日も何ヶ月も何年も、ずっと一緒だからな?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」

 

ちょっと待ってよ。おれまで泣きたくなってきちゃったじゃないか。

 

おれは二人の腕の中で静かに涙を溢した。再会できた事が嬉しくて。おれとの再会を二人が喜んでくれた事が、嬉しくて。

あの時、再会を心から願った二人の弟として生まれ変われた事が、嬉しくて。

 

「ねぇ、二人とも」

「ん?」

「どうしたの、マリア?」

 

「愛してるよ」

 

「――うん! 私もせんせも、マリアの事を愛してる!」

「あぁ、これからも宜しくな?」

「うん。えへへ」

 

おれ等を転生させた誰かさん。そしておれ等を産んでくれた母さん。

 

この二人にまた会わせてくれて……本当にありがとう。




個人的にはアクルビが一番です。


もうマリアはお兄ちゃんもお姉ちゃんも母さんも大好きっ子です。ブラコン、シスコン、マザコンと言っても過言ではありません。略してブラシスマザコン。
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