【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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番外編⑥-1

俺の名前は斉藤壱護。

大人気アイドルグループ『B小町』を擁する芸能プロダクション、『苺プロ』の社長だ。

 

「アイの母親だと……?」

 

ドームライブの翌日。現在俺は事務所の社長室で、妻のミヤコと共に三つ子から衝撃的な報告を受けていた。それはドームに前触れもなく現れた三つ子たちの祖母――アイの実母に関してだった。

 

「うん。アイに金を要求しようと強引にステージまで行こうとしてたんだ」

「まぁ、それは私たちと、あと凄く怖くて強いおじさんたちが止めたけどね」

「で、最後は追い付いてきた闇金の人たちに連行されていったよ。今頃は海の上でカニでも捕ってるんじゃないかな、多分」

 

詳細に耳を傾けてみれば胸糞悪いものだった。多額の借金を背負った奴は闇金から逃れる為に海外へ高跳びしようと、その資金調達の目的で昔捨てた娘に金をたかりに来たという。しかもその道程で無関係な少女を人質に取るという非道っぷり。クソ人間、ここに極まりだ。

 

「そいつ、今更どの面下げて現れたかと思えば金の無心だぁ!? ふざけやがって……!!」

「……最低な奴ね。本当に血の繋がった親子なのかしら? アイとは似ても似つかないじゃない」

 

ミヤコの言葉に赤べこの如く頷きたくなったが、その前にマリアが懐から取り出したスマホを俺たちに見せてきた。

 

「……残念だけど、他人の可能性は限りなく低いと思うよ?」

「「ぶふっ!!!?」」

 

画面に映る写真に思わず噴き出す俺とミヤコ。驚きと面白さ、二つの意味でインパクトがありまくりだ。

 

「ブハッ……!? ま、マリアお前、何時の間にこんなものを撮ったんだよ!?」

「ポッケからカメラレンズだけ顔を出してコッソリとね。万が一の時に証拠として使えるかなって」

「ぷ、くく……ヤバい、改めて見るとメッチャ笑えるわコレ……だ、ダメだアハハハハッ!!」

 

アクアとルビーも画面の覗き込んで表情を崩しかけた。ルビーに至っては我慢出来ず屈んで床をバンバン叩いて大笑いする。

 

「ほ、本当にアイとそっくりね……ぷくく」

「く、くふ……あ、あぁ、認めたくねえが」

 

件の女はアイと非常に似た顔立ちだった。相当年を重ねている筈なのに、それよりも10年以上若く見える。はっきり言って美人だ。

しかし、それを台無しにしてしまっているのが片方の頬に付いた拳の跡(クレーター)。一体どんな事になればここまで顔面が凹んでしまうのか、皆目見当も付かない。

 

「ボイスレコーダーも撮ってあるよ?」

 

少しだけ重かった場の空気が緩んだが、スマホから流れてくる音声で再び怒りが湧き上がってきた。

 

「……母親失格どころか人間失格だな、コイツ」

 

声が低くなる。拳を握る力が強くなる。

 

11年前のスカウト時、アイは母親についてざっくりとだが俺に話してくれた。虐待され、母親が窃盗で捕まったのを境に捨てられた事を。

その時のアイの表情は暗く、とても寂しそうに映っていた。一歩間違えれば壊れてしまいかねない程、彼女の心は既にボロボロだったのだ。あのままではどんな悲惨な未来が待ってたか…………今のアイドルとして、そして母親として心から幸せそうな彼女を見ると、あの時スカウトして本当に良かったと思える。

 

だがアイをあんな風にした元凶は反省するどころか、自身の不始末を娘に押し付けに来やがった。都合の良い道具ぐらいにしか思ってないのは、スピーカーから流れる最低発言のオンパレードで十二分に分かる。

 

産んでやったんだから恩返しは当然だの、金食い虫が金蔓と分かってたら捨てなかっただの、反吐が出る内容ばかり。

 

「すぐにでも奴がいるカニ漁船に乗り込んで、無事なもう片方の頬に強烈な一撃を叩き込んでやりたい気分だぜ……!」

 

あれから11年。側で支え活躍を見守ってきた俺にとって、アイは娘も同然――いや、娘そのものだ。父親として肩書だけ母親のクソ女が愛娘を貶す様は聞いてて腸が煮えくり返るばかりである。

 

「あの女に関してはさっき言った通り、2000万の借金返済の為にカニ漁行きになった筈だよ? おそらくおれ達の前に現れる事は二度とないだろうね」

「仮に現れてもアイへの面会は断固拒否だ、そんな外道女」

 

もしアイが奴と会ってしまったら苦しむのは明白だ。全く愛されておらず金だけの関係と突き付けられれば受けるショックは計り知れない。傷付いた精神状態でライブに挑めば確実に大失敗だっただろう。奴を止めたアクアたちと、名も知らない警備の男たちに感謝だ。

 

「……すまないなアクア、ルビー、マリア。辛い役目をさせちまった」

「母さんを守れたんだ。子供冥利に尽きるよ」

「うんうん」

 

マリアが笑みを溢し、アクアとルビーも頷く。

相変わらず子供らしくない、見かけ以上にしっかりしている子供たちだな。何ならアイ(母親)の方が子供っぽいまである。

 

「――寧ろ問題はそこじゃないんだ」

 

アクアが真剣な眼差しを俺に向けてくる。他の2人も同様だ。

 

「社長は3年前にアイを襲ったストーカーの件についてどう思う?」

「どうって……可愛い娘を酷い目に遭わせたクソ野郎だ。2、3発はぶん殴ってやりてえよ」

「それに関しては同意だけどそうじゃなくて……ストーカーはどうやって星野家の住所を特定したかって話だよ」

「……何だって?」

「どういう意味かしら?」

 

俺とミヤコはアクアたちの考えを聞かされた。

ストーカーの田島リョースケに住所を教えた共犯者――もとい黒幕の存在。その正体が三つ子の実の父親かもしれない事。そしてリョースケとアイの母親が所持していたナイフが同一な事から、アイの母親を嗾けた人物がその黒幕と同一人物である可能性。

 

「アイの奴……父親に連絡入れてたって事かよ」

「断言は出来ないから推定の範疇だけどね。でも俺たちは存在自体が爆弾。世間にバレれば大爆発だ。そんなリスクを冒してまでアイが住所を教える相手は誰かと考えたら……俺たちの父親くらいしかいないよ」

 

アクアの推論は筋が通っていた。当時のアイが極秘情報を教える相手は限られている。3年前まで他メンバーと不仲だったのでB小町の誰かの可能性は低いし、身寄りや親族もいないからそちらの線も薄い。特別仲良くなった人物もおらず、そうなるとアイが相手をした男くらいしか候補は残らない。そしてアイの交友関係の狭さを考えれば、その男もまた芸能界の人間。

 

「スキャンダルの発覚を恐れて殺しに掛かったと?」

「ならもっと早く仕掛けてきても良い筈なのに、間隔が空き過ぎてるのは変じゃない? 最初の襲撃は俺たちが生まれてから4年後、その次が3年後だ。おまけにアイを確実に殺せるかどうかも怪しい人間を嗾けてきた。黒幕の狙いがいまいちハッキリしてなくて、俺たちもどう対策を立てようか悩んでるところなんだ」

「……確かに不満の種を潰したがってるにしては、やり方が雑に見えるな」

 

成程。それで俺たちに相談に来たって訳か。

 

「敵の正体が判明していれば対応しやすいんだが……」

「結局あのストーカーは共犯者について何も話さなかったんでしょ?」

「あぁ、警察からその手の情報は来てないし、報道も田島リョースケ単独による犯行って結論付けだ。証拠不十分なのか、そもそもストーカー野郎自身に殺人教唆された自覚がなかったのか」

 

仮に後者なら厄介だ。上手い事自分の存在を匂わせずに他人の殺意を煽り、犯罪へと誘導する。そんな小説やドラマの中だけでやれそうな事を現実で出来る奴とか恐ろし過ぎるだろ。

 

「……何れにしろ敵の正体も狙いも不明な以上、こっちから反撃する事すら難しい。警備を強化して、不審人物がアイに近付かないように徹底するしかないな」

「うん。今の段階だと黒幕が母さんを諦めてない可能性を否定できない。これまでは偶々運が良かっただけで、何の準備もしないでいたら今度こそ母さんが殺されるかもしれない……そんなの嫌だ、絶対」

「マリア……」

 

マリアの声が徐々に小さくなっていき、その幼い顔立ちは今にも泣きそうで。ルビーに頭を撫でられて慰められる様は、かつての良く言えば大人びた、悪く言えば生意気な態度から大きく逸脱していた。

それだけアイが襲われた事件は、マリアにとって辛く苦しいものだったのだ。当時の彼の姿はあまりにも弱々しく可哀想で、見る者全ての心を締め付けんばかりなのを覚えている。

どんな目的があるにせよ、アイ()三つ子(孫たち)の心身に深い傷を負わせた野郎を、俺は絶対に許すつもりはない。

 

(今だけは受け身に徹してやる。だが、実像を掴んだ暁には……俺の手で叩き潰してやる)

 

覚悟しとけよ。娘を孕ませやがった何処の馬の骨とも分からん男め。

 

「……ねぇ社長。警備を強化するんだよね?」

 

俺が内心そう決意していると、マリアが涙を拭き取りながら話し掛けてきた。

 

「あぁ、そうだな。現状で出来る事と言えばそれしかない。監視カメラの強化とか、そんなところから始めようと思ってる」

「警備員も増やすの?」

「そのつもりではあるが……」

「じゃあおれ、とっておきの人材を知ってるよ」

 

そう言ってマリアがスマホの画面を見せてくる。それは最初に見せたやつとまったく同じ画像。

 

「ぶ、く、や、やめろ……急に見せんな。結構つぼってんだぞそれ……」

「この状況を作った人間なら、母さんを守る警備員に相応しいと思わない?」

「何? こ、これ、人間がやったって言うのかよ?」

「うん。パンチ1発でこうなったよ」

「「はぁ!?」」

 

俺とミヤコは同時に驚く。あんな交通事故に遭ったような状況を人間が拳一つで作り出したって言うのかよ……!?

 

「すごかったよ! 駆け付けた時もチーター並の速さで走ってきたし!」

「女にナイフを当てられても殆ど刺さらなかったし、アレはもう人間辞めてるね、うん」

 

ルビーやアクアも絶賛する程の人間離れした力を持つ人物。なんと控室前で会った、あの赤髪の警備員がそうらしい。何故か見ていて実家のような安心感を覚える、不思議な男だった。

 

「母さんの事を自分の事のように怒ってくれたし、短い時間だったけど人柄も凄く良い人だった。もし誰か雇うつもりなら、おれはこの人を推薦するよ」

「まぁ、雇うかどうかは面接してからだが……連絡先とかは分かるのか?」

「お姉ちゃん、確か梨香さんと連絡先を交換してたよね?」

「うん。梨香お姉さんのお父さんが、あの警備員さんの関係者だった筈だよね? ちょっと聞いてみるよ」

「お願い」

 

ルビーが自身のスマホを取り出し、ドームで知り合った犬亥梨香という少女に連絡を取る。

 

 

 

 

 

それから1週間後、獅子王セキュリティを通じて紅林二郎という男が苺プロを訪れた。




カミキの襲撃は三つ子が生まれた当初、吾郎が殺された時が最初ですが、そこら辺を社長夫妻に話すとややこしくなるので誤魔化しています。
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