【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

38 / 160
――数多の外道を働き、因果応報の末路を遂げ魂だけとなった半グレたちが、一時だけ女王を守る騎士団となる。
 
彼らの目的はただ一つ。悲しみに暮れる王子の元へ、女王を導く事――。



※本編20話にてアイが語った彼女を助けた人物が何者か、アイが如何にして生還したのかも含めて今回明かします。

※現時点で生存中の一部原作キャラが本作中時間軸までに亡くなっています。



The Rising First Star

――私はどうなったんだろう?

 

気が付けば全てが真っ暗な空間で横たわるように浮かんでいた。リョースケくんに刺されて、血塗れになって、子供たちに愛してると伝えて……それ以降の事は覚えていない。綺麗な風景を映していたテレビの電源を消した時のように、一瞬で目の前が真っ暗になった。

 

此処は何処なのか。あんな目に遭ったのだから死後の世界? 物も色も何もない黒一色で、なんとも寂しい場所だ。

 

……いや違う。遥か彼方で何かが蠢いている。それは徐々に近付いてきて、やがてハッキリとした輪郭になった。

 

「っ!?」

 

私はそれを……それらを認識した途端、脊髄に直接氷をぶつけられたような寒気を全身に覚えた。

 

深紅に染まったフード。常に露出させている手と時々覗かせる顔は骨だけ。持っている道具は人間なんて一振りで両断出来そうな、大きな鎌。

 

死神。絵本や漫画で見た事のある魂を刈り取る怪物の姿そのものだった。

 

「あ……嫌……」

 

死神の群れが私の元へ来る。明らかに友好的じゃない存在から逃れたいのに、身体が思うように動かない。

 

「待って……やめてよ……」

 

側まで迫った大鎌が天へ振り上げられる。あのまま振り下ろされれば鋭い刃先が私の心臓に当たるだろう。もし喰らえば自分という存在そのものが完全消滅する。そう本能が警鐘を鳴らした。

 

ここで……私は終わってしまうのだろうか?

 

「そんなの、嫌……!!」

 

睨む。大鎌を、それを振り上げる死神を。死神の大群を。欠片も怯まない様子を見て、それでも私は腹の奥から力一杯叫んだ。

 

アクア、ルビー、マリア。私の、私の命よりも大切な、可愛くて、愛しい愛しい我が子たちの姿を、思い浮かべつつ。

 

「私は帰るんだ!! あの子たちの所へ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――君たちの腹の中身、みーせて♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

無情にも振り下ろされた大鎌は、しかしそれを持つ死神ごと両断され、彼方へと消し飛んだ。

 

「あぁ、そっか。骨だけだから中身は空っぽなんだ。……でも“ママ”を傷付けるような奴なんて、全員死ぬべきだよね~?」

 

その近くに集まっていた死神たちも、突如現れた着流し姿の男性に次々と切り捨てられ、消滅する。

日本刀……? そんな物騒な物を軽々と振り回すその人は、何処か飄々としていて掴みどころが無い雰囲気だ。

 

「よし、まずは奴等から貴女を引き離す事は出来たみたいだね。……立てます?」

「えと、あ、はい。ありがとうございます……」

 

刀を仕舞った男の人から差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。いつの間にか私は体を自由に動かす事が出来ていた。

 

あれ……?

 

「あの、その腕……もしかして」

「……あぁ、僕は生まれつき片腕なんだ。その所為でママ共々差別とか酷い扱いを受けてきたけどね」

「あ、ごめんなさい!」

「良いよ良いよ、貴女に悪意や蔑みが欠片も無いのは分かってるから」

 

男の人は右手をヒラヒラさせながら笑うと、そのまま一方向を指差す。目を凝らしてみると、遥か先に小さな光が見えた。

 

「あの光が見えるかな? あそこへ辿り着けば貴女の子供たちの元へ戻る事が出来るよ?」

「えと? それよりも、此処は……?」

「ん? 死んじゃったり死にかけの奴が魂だけになって彷徨う場所……とでも思っとけば良いよ? で、あれは死神。魂だけになった僕らを刈り取りに来た連中」

「へぇ~、まんま見た目通りなんだ」

 

光と反対側の彼方から徐々に接近してくる死神たち。男の人があれだけ倒したのに、まるで減っているように見えない。

 

「アイツ等に切られちゃうと一環の終わり。魂は形を失って崩れ、星の海へと溶けて跡形も無くなる。もう二度と目を覚ますどころか、生まれ変わる事すら叶わない。死んで現世での肉体を失った魂には、その運命しか残されてないんだ……僕みたいに見苦しく抗う以外は。――でも貴女はまだ死んでいない、生死の境を彷徨っている段階。だから貴女は一刻も早くあの光へ走り、家族の所へ帰って下さい。連中は此処から僕が一歩も通しませんから」

 

男の人は私の盾になるように移動し、再び刀を抜いて切り先を死神へ向ける。私には分からなかった。見ず知らずの自分に、何故そこまでしてくれるのか。

 

「どうして助けてくれるんですか?」

「……そうだね。貴女が”ママ”という人間であり、”あの人”にとって大事な人だから、でしょうか?」

 

あの人……? 一体誰の事だろう? 私が母親な事と関係があるっぽいけど。

 

「僕は死んだ後、この世界から生まれ変わった”彼”を見ていたんだ。……どうやら”彼”もママの事で辛い思いをしてきたようで。もし腹を割って話し合っていれば、僕たちは互いに理解者たり得たかもしれませんね……」

 

そう言って上を見上げる男性の姿は、何処かしんみりとしていた。差別を受けていたと言ってたし、相当苦しい過去を経験したのだろう。この人が言う“あの人”も、この人と似た境遇の人物らしい。それだけは何となく理解できた。

すると男性が何かに気付いた様子で此方を振り向く。

 

「――あっ、本当に腹を割る訳じゃないよ? あくまで本音で語り合うべきだったって意味だからね?」

「え、あ、はい?」

 

わざわざ念押しする理由がよく分からなかった。

 

「さぁ、時間がない。さっさと行ってくださいな♪」

「あ、あの……!」

 

私は最後に恩人へ向けて呼び掛けた。

 

「星野アイと申します。お名前を、教えてくれませんか……?」

 

助けてくれた人の名前だけは、ちゃんと覚えておくべきだと思ったから。

男性は糸目の中から瞳は一切出さず、口元だけは形を変えてニッコリと笑い掛けた。少し不気味だったけど、敵意や悪意は感じられない。寧ろ友好的で温和な笑顔だった。

 

「―――――半グレ組織『羅威刃』、”隻腕の小湊”。見ての通りしがない剣士です」

 

「……お腹が空いたんですか?」

「それは”ハングリー”ね? では、失礼。――あの人を、どうか宜しくお願いします」

 

もう私と遣り取りする気がないのか、小湊さんは一瞬で死神の群れに飛び込み、一方的に切り刻んでいく。

 

「……ありがとうございます!!」

 

私は小湊さんに頭を下げると、彼が示した光へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「――素敵なママに恵まれて良かったですね、城ヶ崎さん。貴方は僕みたいに母の願いを履き違えちゃダメですよ?」

 

アイが走り去る姿を時折振り返って確認しながら、小湊は5体の死神を纏めて切り捨てる。自らが相手にしていた100体以上の死神は、それを最後に全滅した。

しかし、まだまだ奴等は残っている。其処は一応同じ組織に所属していた幹部たちに任せようと決める。

 

「ふふ、死んでからやっと人助けらしい人助けが出来たよ。ママが僕に求めてた生き方ってコレで合ってるよね――拷問ソムリエ?」

 

 

 

 

 

 

 

走る、走る、走る。全力で走り続ける。光との距離はまだまだあるけど、アイドルとして鍛えられた体が悲鳴を上げるまでには辿り着けるかもしれない。

 

「え、嘘……!?」

 

その時、両側からさっきの死神が何体も飛び出してきた。小湊さんが相手にしている死神だけじゃなかったんだ……!

 

しかし、現れてすぐに怪物たちの一部が炎に包まれて吹き飛ぶ。その後ろから現れた死神も私との間に滑り込んできた人影に遮られ、一瞬で切り裂かれるか頭蓋に穴を開けられる。

 

「ふぃ~、やっと見つけたぜ。お前が例のアイドルで間違いないみてぇだな?」

「うぉー!! 本物のアイちゃんだ!! 噂に違わぬ絶世の美女!」

「喧しいぞバーテンダー野郎。ってか貴様、その女のファンだったのか……」

 

窮地を救ってくれたのは3人の男性。みんな派手な格好をしていて、小湊さんのように死神を一瞬で倒してしまった。きっと私では手も足も出なさそうな怪物なのに、凄い人たちだなあ。

 

「あの! 俺、間宮恭平って言います! デビュー当時からファンでした!! サイン下さい!」

「えと、は、はい!」

「何でこんな場所でも持ってんだよお前……」

 

間宮さんというバーテンダーの男性は私のファンだった。目の前に突き付けられたサイン用紙とペンを戸惑いながらも受け取り、サラサラと流れるように書いて返す。アイドルとしての本能である。

 

歓喜の声を上げている間宮さんを眺めていると、そこへ長い銀髪の男性が私の顔を観察するように見下ろしてきた。

 

「……あの、何か?」

「フン、こんな小娘があの男のお気に入りとはな」

 

上から降り注ぐ鋭い眼光が私の綺羅星を捉える。五反田監督にも似たような事されたっけ。相手を値踏みするような目をしていた。

 

「貴方は……?」

「俺が誰かなど貴様には関係のない事だ。……それにしても教養の欠片も無さそうな顔だ。仮にもこの俺を下に付けた男がこんな餓鬼にうつつ抜かす奴だとは思わなかった。はっきり言って失望した」

「あ゛? アイちゃんを侮辱しやがって何様だ設楽テメエ?」

「……お前はお前でここまで面倒臭い奴とは思わなかったぞ?」

「んなら何にしに此処に来てんだよ設楽? ――あぁ、俺は『羅威刃』の神原ってんだ。別に覚えてくれなくて結構だぜ?」

「あ、はい。星野アイです。助けてくれてありがとうございました」

 

間宮さんに設楽さん、そして神原さん。この人たちも小湊さんと同じ所から来たらしい。

設楽さんは私から少し距離を取って不機嫌そうに鼻息を鳴らす。

 

「……別に。ただ毎月1億は流石に貰い過ぎたからな。もう一仕事くらいしないと気分が悪いだけだ」

「素直じゃねえ奴だな。まっ、そんな訳で俺等が道を作るからよ、嬢ちゃんは難しい事は考えねえで、ただ真っ直ぐあの光を目指しな?」

「――奴等集まって来たな……アイちゃん、連中には君へ指一本触れさせないからね!」

「は、はい。ありがとうございます神原さん、間宮さん」

「間宮お前、”あの人”の事は良いのかよ……」

「勿論、アイちゃんを助けるのは城ヶ崎さんの為でもあるさ!」

 

設楽さんたちは私の盾になるように前に出て、行く手を塞ぐ死神の大群に物騒な道具を向ける。あれはまさか……拳銃? 日本刀といいナイフといい、そんな危ない物を持っていたら”じゅーとーほー”で捕まっちゃうよ?

 

それにしても、”あの人”は城ヶ崎って名前なんだね。彼らが私を助ける理由はその人の関係者だからみたいだけど、そんな人に会った事あるかな……?

……ううん、やっぱり何となく会ってる気がする。それも物凄く沢山。どうしてそう思うのだろう?

 

「羅威刃としての最後の仕事だ。道を開けろ化け物ども」

「文字通り一体残らず、頭蓋を粉々にしてやらあ!!」

「アイちゃんと城ヶ崎さんの邪魔をするんじゃねえ! 鉛弾をプレゼントしてやるから其処で死んでろ!」

 

考え事に耽っている内に3人が動き出した。間宮さんが両手の拳銃から放った銃弾で死神を次々と打ち倒し、その合間を縫って設楽さんと神原さんが大群に肉薄する。すっごい速い、まるで雷みたいで全然見えなかった。

 

「フンッ!」

「ザクザクザクザクッ!! シャア専用ザクぅ!! おっと、その鎌ヤベエみたいだからな! 当たってあ~げない!」

 

殆ど一方的だった。死神の群れの攻撃は2人に掠りもせず、逆に2人から反撃を喰らって倒されていく。設楽さんのナイフで切り裂かれ、銃で撃ち抜かれ。神原さんの漫画みたいなパンチラッシュは何故か当たったところが穴だらけになる。

 

呆然と眺めている私に、設楽さんの声が飛んできた。

 

「何を突っ立ってやがる? 俺の好意を無駄にする気か? さっさと行け女」

「わ、分かりました! ありがとうございます!」

 

私は再び駆け出し、3人が死神を倒して出来た道を全力で進む。途中で横から飛び出してきた伏兵に襲われそうになったけど、それも間宮さんに遠距離から支援して貰い、遂に死神の群れを突破する事に成功した。

 

城ヶ崎さんについて詳しく聞きたかったけど、今は急ぐべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

「――あ~あ、城ヶ崎さんの関係者じゃなけりゃあなぁ。あんな超が付くレベルの美人、風呂に沈めちまえば相当儲かりそうなのに。勿体ねえ」

「おいコラ、アイちゃんにそんな真似したら脳天に風穴開けるぞ神原ぁ?」

「厄介ファン過ぎるぞテメエ……」

「しかしあの女、俺の至近からの威圧を何とも思ってなかったな。馬鹿なだけなのか肝が据わってるのか……意外と大物なのかもしれん」

 

アイを助けたのは決して善意でも正義に目覚めた訳でもない。何処まで行っても彼らは半グレ。自分たちが惚れ込んだ男のお気に入りでなければ、堅気の女性だろうと容赦なく食い物にする。そんな極悪人でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい走っただろうか。最初は小さかった光も、今は十倍以上大きく見えている。ゴールは近い。段々息が荒くなってきたけど、そんな自分の体を応援しつつ私は足を動かす。

 

「う、嘘ぉ……また?」

 

しかし再び死神の大軍勢が私の前に立ち塞がり、無数の大鎌を高く掲げる。声を発してはいないが、雄叫びでも上げているように見えた。何が何でも私を消すつもりらしい。

でも諦めるつもりは全く無い。今も私の帰りを子供たちが待っているんだ。絶対に戻ってみせる。

 

その決意が幸運を呼び寄せたのか、新たな助っ人が死神の一部を吹き飛ばした。

 

「テメエが大将の女か?」

「高城さん、その言い方誤解されかねないっすよ? あ、怪我とかは大丈夫かい?」

「えと、はい。ありがとうございます」

 

現れたのは2人の男性。一人は”熱血”なんて言葉が似合いそうな人で、もう一人は逆立った緑髪に眼鏡を掛けた人。

 

「あの、もしかしてお二人も小湊さんや設楽さんたちと同じ所から来た人ですか?」

「へぇ、他にも羅威刃の幹部が集まっていたんだ。設楽さんなんか人助けとかしなさそうな人なのに、意外だね」

「そんなところだ。俺は高城、コイツは相棒の秋元だ。かつては『破亜裂火(ばーさーかー)』って組織を率いていたんだが、今は『羅威刃』の幹部をやっている」

「星野アイです。宜しくお願いします」

「別に自己紹介は必要ねえ。お前とは今回ばかりの関係でしかないからな」

「じゃあ何でこっちは自己紹介したんすか高城さん……」

 

高城さんも秋元さんも、話している最中も近付いて来る死神から決して目を離さない。明らかに今までより数が多い。光に近付く程増えているように感じた。

 

「ひゅー、すごい数っすねえ高城さん。軽く500はいるんじゃないかなぁ」

「コイツ等は鎌を叩き付ける攻撃は兎も角、1体1体は脆い。例え1000体でも物の数じゃねえよ」

「そうっすね。俺と高城さんのコンビネーションなら5分もあれば容易い」

 

立ちはだかる軍団を前にしても高城さんたちは涼しい顔。寧ろ不敵な笑みすら溢していた。強がりとかじゃない、当然の事実を述べているだけだと私は直感で理解した。

 

「行くぞ、秋元!」

「えぇ、右は任せましたよ高城さん! 嬢ちゃん、俺たちの後ろから付いてきな!」

「は、はい!!」

 

二人は爆発的な速さで死神へ突撃する。死神たちは一瞬気圧されたように見えたが、すぐに迎撃態勢を取って巨大な鎌を彼らに振るう。しかし設楽さんたちのようにあっさり躱され、容赦のないお返しを受け取っていく。

 

高城さんのパンチ1発で10体以上天高くぶっ飛ばされ、秋元さんの目にも止まらないナイフ捌きが襲い掛かる死神を一瞬でバラバラにする。

何より特筆すべきは二人の高い連携力。一人が背後から襲われそうになると、もう一人は見えてないにも関わらず正確な銃撃で撃ち倒し、相方を助ける。元々二人は一人の人間だったと言わんばかりに、互いに相棒の状況が手に取るように分かっているのだ。この息の合った動きはアイドルとして参考になると思い、私は二人の戦いを観察させて貰った。

 

「――秋元、強くなったな。もう俺なんか足元にも及ばねえかもしれねえ」

「そう言いつつ高城さんだって涼しい顔で付いて来てるじゃないっすか。貴方も十分過ぎるくらい強いっすよ」

 

戦いながら楽しそうに笑い、互いに褒め合う高城さんと秋元さん。……親友ってこんな感じなのかな? 何年も一緒に過ごしてきた仲なのがよく分かる。

今のギスギスしているB小町の状況を考えると羨ましく思う。何時か私も彼女たちと仲直りして、この二人みたいな関係になれたら良いのに……

 

そして私は二人の協力で死神の群れを抜けた。二人は其処で立ち止まり、後ろから追い掛ける死の軍勢と対峙する。私の方を見ずに、彼らが話し掛けてくる。

 

「コイツ等は俺等が抑えとく。さっさと行きな、女王様。王子がアンタの帰りを待ってる」

「城ヶ崎の大将を、宜しく頼むぜ」

 

王子? 秋元さんは私の事を”女王様”って呼んでるし、もしかして子供たちの事を言っている……?

アクア? マリア? 息子たちのどっちかが城ヶ崎さんの関係者って意味なの? う~ん、もう少しで何かが分かりそうなんだけどなあ……。

 

「おい考え事してんじゃねえよ嬢ちゃん? あの怪物どもはアンタを行かせない為に、あの光の側まで集まっているみたいなんだ。東雲ちゃんがアンタの為に今も必死に狩りまくってる。ちんたらしてたら余計面倒掛けちまうぞ?」

「わ、分かりました! 本当にありがとうございました!」

 

どうやら東雲ちゃんって女の子が死神相手に一人で戦ってるっぽい。確かに早く行ってあげないと迷惑だよね。

 

私は高城さんと秋元さんにお礼を言い、ゴールへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「――しっかし、あの悪魔王子にも人の心があったなんてね」

「根っからの悪党かと思ってたが、そうじゃなかったんだな。驚きだぜ」

「それよりちゃっちゃとコイツ等倒して援軍に向かいましょう? あの赤い点の群れ……奴等一体どれだけいるのやら。東雲ちゃんだけじゃ限界を超えるかもしれないっすよ?」

「そうだな、1分で全滅させちまう」

「りょーかい!」

 

高城の宣言通り、二人は僅か1分で死神を全て殲滅。

狂戦士(ばーさーかー)の如き実力は、死後魂だけの存在となっても健在であった。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

…………おんなのこ?

 

「死神共が!! 何万体来ようが、この東雲竜政を狩れると思うなっ!!!!」

 

東雲”ちゃん”って秋元さんが言ってたから女性かと思ってた。けど全然違う。物凄い筋肉の大柄な男性で、体の半分くらいはある巨大な斧で何百もの死神を相手に無双していた。

 

彼から少し離れた場所には巨大な光の柱。小湊さん曰く、あれに辿り着けば子供たちの元へ帰れる。

 

「むんっ!」

「!?」

 

東雲さんが私に気付き、序とばかりに死神を切り飛ばしながらズンズンと迫ってくる。

 

「……おい女。テメエがそうなんだな?」

「え……?」

 

滅茶苦茶ガン飛ばしてくる。何故……?

 

「言っておくがな、俺はテメエみたいな奴を一切認めるつもりはねえ。この俺を差し置いて城ヶ崎さんの一番になりやがって……あの人の一番は、この俺だった筈なのに」

「えと……何の事ですか?」

「だが、俺はあの人に顔向けできない事をしちまった。あの人から受け継いだ羅威刃を結局ダメにしちまった。だから認めたくねえが、あの人のお気に入りになったテメエをあの人の所へ送る。それが今の俺が城ヶ崎さんにできる、唯一の詫びなんだ」

 

東雲さんは私を無視して再び死神と相対する。その大きな体格がわなわなと震えていた。

 

「うぉらぁああああああああ、ちくしょぉおおおおおおおおお!!! こんな筈じゃなかったのにぃいいいいいい!!!」

 

そして雄叫びを上げて迫る死神を数十体単位で切り捨てていく。

 

「あの人を超えて闇社会のトップに君臨する! それが俺の野望で、夢半ばで倒れたあの人への弔いだった!! なのに野郎、よくも台無しにしやがって!!! 絶対許さねええええええええええ!!!!」

 

よく分からないけど、誰かに対して泣く程怒ってるみたい。悔しい、腹立たしい、悲しい。そう言った感情が強烈に、激烈に、私含む全てにぶつかってきてるようだった。

 

「この俺を! 羅威刃を!! 舐めるなぁあああああああああ!!!!」

 

野太い怒声に合わせ、アイスの棒のように軽々と操られた大斧が描く軌跡。それを境に死神の身体は二つに割れ、それらは永遠に再会する事なく違う方向へ飛んでいった。

 

振り終わりの隙を狙い、サイドから切り上げようとする別の死神。

 

「危ない……!」

「ぬうっ!?」

 

東雲さんが気付いた時には、切り先は彼の身体のすぐそばまで迫っていた。

 

「ボンボヤージュ♪」

 

が、直後に頭蓋に穴を開けられ、死神は体ごとガシャガシャと崩れ落ちた。

 

「東雲ちゃ~ん、生きてるー?」

「既に死んだ奴にそれを言うのかよ秋元。だが助かった。すまねえ」

「良いって事さ」

 

さっき私を助けてくれた秋元さんが、拳銃を片手に立っていた。その彼の元へ高城さんも追い付く。

 

「向こうの敵は全て片付けてきたぜ。やはり怪物どもは此処に集結してきているみたいだな?」

「高城……あぁ、あの大鎌と数だけは厄介な連中だ」

「あれ喰らったら俺等も完全消滅だからねえ。掠っただけでもマジでヤバいみてえだし」

 

光の柱を囲むように何千体もの死神が並び、此方をジッと見詰めている。私たちの動きを少しでも見逃すまいと。

その一角が突如として爆発する。その爆炎の中から4人の人影。

 

「んだよ、まだこんな場所にいたのかよ嬢ちゃんさあ。折角時間稼いでやったのに徒労じゃねえかよ」

「フン、コイツ等が無能なのが原因だろ? たかが骸骨如きに何を手間取ってやがる」

「アイちゃーん! また会えたねー!」

「「うるせえ」」

「わお、羅威刃幹部が全員集合ですか。生前では結局一度もありませんでしたね」

 

それは神原さん、設楽さん、間宮さん、そして小湊さん。自分たちが相手をしていた敵を全て片付け、私に追い付いてきたらしい。これで私を助けてくれた全員が一堂に会した。

 

「敵がどれだけ増えようが関係ない。羅威刃の邪魔をする奴等は全て潰す、それだけだ」

「東雲ちゃん真面目過ぎ~。でも、折角ここまで守り抜いたんだし、仕事は最後まで完璧にやり通さないとね」

 

7人はそれぞれ武器を構えて私の前に立ち、死の軍団と睨み合う。

 

「……どうして、そこまで?」

 

ふと何度も抱いた疑問を溢した私に東雲さんたちは一斉に振り返る。

 

「勘違いするなよ女? 欠片もお前の為なんかじゃねえ。本来なら貴様自身の生き死になど、俺たちには知った事じゃない」

「ふむ、どうしてねえ……まっ、君に関係のある言葉で表現するなら――」

 

秋元さんは肩を鳴らし、死神の群れの向こうに昇る光の柱を注視する。……其処に何かあるのだろうか?

 

「推しの幸せを願うのは、ファンとして当然の事っしょ?」

 

推し……それが私じゃない事は分かる。この人たちが話す内容から考えると、彼らにとっての推しの子は私の子供たちの誰か。それはほぼ間違いない。でも、子供たちと城ヶ崎という人にどんな関係があるんだろう。

 

 

――俺はな……前世の記憶があるんだよ。

 

 

「……マリア?」

 

マリアは誰かの生まれ変わりだ。その誰かが秋元さんたちの言う城ヶ崎さんを指しているのなら、全て説明が付く。

私の呟いた言葉が正解だと言わんばかりに、秋元さんはニヤリと笑った。

 

……成程、そっか……そうなんだ! 私は両手をパンッと叩いて目を輝かせる。

 

「――つまり皆さんはマリアのお友達なんだね!」

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

そうかそうか。マリアの前世のお友達が助けに来てくれたんだー。あ、じゃあ母としてきちんと挨拶しとかないとね! 私はペコリとお辞儀をする。

 

「改めまして、マリアの母です。いつも息子がお世話になっています。――えへへ、言ってみたかったんだーこれ!」

 

「いや、俺たちは部下であって友達じゃねえんだが……」

「この状況でよくそんな呑気な事が言えるな」

「マジで大物だねえ、この子。色んな意味で」

「だからこそトップアイドルにまで上り詰められたんでしょうね……」

「笑ってるアイちゃんホントに素敵だー!」

 

若干一名を除いて何故か呆れられてしまった。どうして……?

 

「おい、どうやらもう時間は残されてないみたいだぞ?」

 

状況はより緊迫化していた。私の背後からも死神の軍勢が出現し、じわじわとにじり寄ってくる。最早後退する事は勿論、この場に留まり続ける事も叶わない。

 

「女ぁ、しっかり付いて来い。餓鬼共との永遠の別れを数十年後に伸ばしたければな?」

「……分かりました。どうか宜しくお願いします!」

 

元より前進しか選択肢はない。そして私一人ではこんな大群を抜けるんて無理だから、この人たちの手を借りるしかない。東雲さんの指示に私が答えると、7人は一斉に動き出した。

 

「羅威刃に牙向く奴は誰だろうと死ぬ!! さぁ地獄へ行けぇえええええええええええ!!!」

「ほらよぉ、吹き飛べ化け物が!」

 

何人かが緑の塊を投げ付けると、それらは大群にぶつかった途端破裂し、群れの最前列が吹き飛ぶ。あれは爆弾かな? そこへ畳み掛けるように銃弾の嵐が襲い掛かる。

 

「私の弾は当たりやすいよー! 逃げて逃げてー!」

「さあさあ、女王様のお通りだ! 邪魔する奴はみーんな殺しちゃうよー!」

 

それでも全く意に介した様子もなく雪崩のように迫ってくる怪物たちと、全力疾走した東雲さんたちが正面衝突する。

 

「ただ襲う事しか能の無い愚か者どもが。貴様らのような小物に用はない。さっさと道を開けるが良い!」

「君等全員、腹の中身みせてー♪」

「良いねえ、掠ったらそれだけでゲームオーバー! やっぱ戦闘はこうでなくちゃなぁあああああああ!!」

 

秋元さんのナイフ、高城さんのパンチ、設楽さんのナイフと拳銃、間宮さんの拳銃、神原さんのパンチ、小湊さんの日本刀、そして東雲さんの斧。

ありとあらゆる武器が誇張もなく目にも止まらない速さで秘めた力を解放し、死神たちは鎌を振るう暇すら与えられず砕かれ、吹き飛ばされ、倒れる。

 

「すごいなぁ……」

 

走り続けながら私は感嘆の声を漏らしていた。この人たち、本当に自分と同じ人間なのだろうか。漫画や映画から飛び出してきた登場人物だとしても不思議じゃない。それ程までに、私はこの人たちから途轍もない才能を感じ取っていた。

 

あ、だからなんだ。この人たちの名前を全員、すぐに覚えられたのは。

 

そして遂に、私たちは光の柱のすぐ近くまで辿り着く。

 

「こっから先に敵の姿はない。あとはアンタだけで向かいな」

 

秋元さんの言う通り、確かに死神は一体もいない。包囲網を無事に抜けたようだ。

此処から東雲さんたちは進もうとせず、私の殿として追手の対処に当たると言ってきた。

 

「皆さんは行かないのですか?」

「俺たちは君と違ってもう死んでるからねー。無事な肉体が無いからあの光に入っても無駄なんだよ」

「そう、なんですね……」

 

私は少し寂しい気分になる。

つまり此処で彼等とは永遠にお別れ。短い間だったけど、私を此処まで導いてくれたこの人たちには、感謝しかない。なのに一方的に恩だけ貰って何も返せない事が申し訳なく思った。

 

「あー、そんな顔するんじゃねえよ? 俺等はあくまで半グレ。アンタを助けたのもアンタがそれだけのモノを持っていた。つまりは偶然に過ぎない。次会えたとしても今度は躊躇なく襲うだろうから、恩返ししようなんて考えは捨てな? ――ほら、さっさと行けよ」

「……はい」

 

「おい女ぁ!!」

 

その時、東雲さんの怒声が飛ぶ。

 

「悔しいが城ヶ崎さんはテメエを求めてる! だから貴様にはあの人を支える重要な役目があるんだ! それを放棄してあの人をこれ以上困らせてみろ! 俺が化けて出て貴様を真っ二つにしてやる!!」

 

最期に物騒な事を言われたけど、それは東雲さんなりのエールだと私は思った。ここまで言われちゃったら、私も何時までもウジウジしてる訳にはいかない。気持ちを切り替えなくちゃ。

 

私はコクリと頷いて、光へ向かって一人で走り出す。

一度だけ背後を振り返って、満面の笑顔を向ける――あの子の友達であり、ファンである彼らに。

 

「ありがとう! マリアのお友達ー!!」

 

だから友達じゃねえって。そんな声が後ろから聞こえた気がしたけど、それ以上は振り返らずに真っ直ぐ進み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「『マリアライト』ねぇ。凄い名前付けられちまってまあ……」

「酷いネーミングセンスだ。その餌食になった点だけはあの男に心底同情する」

 

マリアの名前について語る他の幹部たちを尻目に、東雲竜政は己の役目を託した女の背を見詰めつつ、小声で呟いた。

 

「…………城ヶ崎さんを頼んだぞ、星野アイ」

 

その後、魂だけとなった男たちはどうなったのか。死神の物量に押し切られ消滅したか、それともしぶとく運命に抗い続けているのか。それを知るのは当人たちだけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて私は光の中に掛け替えのない宝物がいる事に気付いた。

 

「あ……」

 

中心で体育座りしている幼い子供たち。アクア、ルビー……そして二人に挟まれ、優しく寄り添われている末っ子のマリア。

 

「アクア! ルビー! マリア!!」

 

私の叫びに最初はアクアとルビーが気付き、二人に肩をポンポンと叩かれてマリアも此方へ視線を向ける。

 

マリアの虚ろな瞳に光が宿り、目尻から溢れた大粒の涙が頬を伝い落ちる。アクアとルビーも大声で泣きそうな表情をしていた。

 

私は彼等に勢いよく飛び付き、3人纏めて抱き締めた。久しぶりの、愛し子たちの温もりを全身で感じ取る。

そして腕の中で泣きじゃくる3人に、私も泣きながらこの言葉を伝えた。

 

 

 

「――ただいま! 愛してる!」

 

 

 

直後、私たちは強烈な光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ねえマリア。

 

君の友達が、君の所へ私を導いてくれたんだよ?

 

何時か必ず、あの人たちのお墓の前で”ありがとう”を伝えに行こうね?




そもそも墓なんて存在しないから不可能なんだよなぁ……



アイ「私、才能あるなって人の名前は覚えられるよ佐藤社長?」
斉藤「俺の名前は『斉藤』だクソアイドル(怒)」

↑なのでアイは羅威刃幹部全員の名前をすぐ覚えました。





次回からいよいよ最終章となります。サブタイトルは『母の光』です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。