【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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最新話のルビーのアイコスがヤバい。元々色違いのアイみたいな容姿だったけどウィッグ付けたら完全に瓜二つだ。この姿のルビーがアクアを救うんだろうなあ……。

ところで疫病神ちゃん、やっぱりツクヨミの関係者なのかな?


29話

「“銃創を舐める天才子役”、有馬かな。おれは苺プロ所属の星野マリアだ」

「あらぁ、凄いオーラねー。アンタが、あの“天使王子”星野マリアかー」

「この金でお前を雇いたい。1億ある。これは枕金だ、成果を上げれば倍以上稼げる」

「へぇー、こんなに貰えるのねぇ? 悪くないお話かもー?」

 

 

 

 

 

「――よし、完璧。おれの脳内シミュレーションに隙はない。この勧誘ならきっと上手くいく筈だ」

「口に出てるわよ! ってか誰よそいつ!? 私そんなだった!? 金の亡者かよ!? あと私の異名は“9秒で泣ける天才子役”!!」

 

流石はツッコミのプロ。キレッキレのツッコミがテンポ良く入る。聞いてて小気味いいくらいだ。

 

「私はツッコミのプロじゃないわよ!!」

「心を読んだ!?」

 

凄いな。ますます苺プロに欲しくなる。

 

高校を後にして五反田監督の家へ向かうおれたちに執拗に付いてきた銃創パイセン。お兄ちゃんとお姉ちゃんは丁重に……いや、ちょっと鬱陶しそうに追い返そうとしたが、おれ自身は彼女に用があったので監督の所まで引き摺る事にした。

 

用とはズバリ、苺プロへの勧誘である。

おばさん――監督のお母さんの好意でみんなで夕食を取っている最中で話題を切り出そうとしたが、反応からしてどうやらダメっぽい。

 

「おいコラ早熟弟」

「イテッ」

 

隣で飯を掻っ込んでいた監督が一息吐き、おれの頭に軽くチョップ。地味に痛い……。

 

「芸能界で引き抜きは御法度だぞ?」

「え、そうなの?」

「ったく知らねーのかよ? まだまだ勉強不足のようだな。いいか、芸能界にはな――」

 

「アンタたちー! ご飯の御代わりいるかい!?」

 

監督の説明を遮っておばさんが大声で聞いてきた。勿論、答えはYESだ。目指せ身長180cm、男の娘キャラ脱却。

 

「あ、貰いまーす! お兄ちゃんは?」

「そうだな、もう一杯くらい頂くよ」

「じゃあ私も「ルビーはこれ以上は糖質の取り過ぎになる。アイドルになるんだから体型の維持管理を忘れない」――むー、成長期だし良いじゃん、おにいちゃんのケチ~!」

「ケチで結構、お前の為だ」

「わ、私も糖質制限してるので結構です……」

 

「母ちゃん! 今俺が説明してるとこ「泰志、アンタは!?」……貰うよ」

 

この家のヒエラルキーの頂点はおばさんだ。監督は文句垂れるも謎の気迫に圧倒され、素直にお茶碗に2杯目のご飯をよそって貰うしかない。

 

それにしても、おばさんの手料理は絶品で箸がまるで止まらない。気を付けないとお姉ちゃんが許容以上の糖質と脂質を取りかねないので、お兄ちゃんは前世からの推しに目が離せない様子だ。

 

因みにこの賑やかな食事会の参加者はおれにお兄ちゃん、お姉ちゃん、パイセン、監督、おばさん。そして――。

 

「アイちゃん! アンタは大丈夫かしら!?」

 

「あ、じゃあ下さーい!」

 

「あ、アアアアアアアアアアアイさんがいるーーー!!?」

 

我らが苺プロのトップランカー、母さんの計7人だ。いつの間にか苦手な米を克服し、次々と口へ運んでいる。

 

「ロリ先輩がおかしくなった!?」

「気付くの遅くない? ずっと隣に座ってたじゃないか」

「まあ、そんな反応するよな」

「当たり前じゃない、伝説のアイドルにして超人気女優なんだから! あのマルチタレント『不知火フリル』すら凌駕するとまで言われてる相手よ!? そんな凄い人が私なんかと一緒にご飯食べてるなんて現実味がなさ過ぎるわ!」

「そう? えへへ~」

「どうしてアンタが照れてんのよマリア!?」

 

だって母さんが褒められると嬉しいんだもん。

 

「いやー、ホントに久しぶりだね~かなちゃん。『それが始まり』以来だよね? こうしてまた直接会えたのも」

「そ、そうですね。また会えて光栄ですよアイさん」

 

散々馬鹿にしていた相手は今や天上のお人。有馬パイセンは強気な態度が鳴りを潜め、少しの気まずさと緊張感をもって母さんと言葉を交わす。対する母さんは古い友人と再会できたかのように、パイセンとの会話を純粋に楽しんでいた。

 

「コホン。あー、そろそろ説明を始めたいんだが、良いか?」

「ん? いいよー、どうぞ監督」

 

監督が咳払いすると母さんとパイセンが口を閉じた。

 

「いいか早熟弟。芸能界には破ってはならない不文律ってものがある。その一つが今お前が有馬にやろうとした事――他の事務所からのタレントの引き抜きだ」

「何で引き抜きがダメなの?」

「考えてもみろ。多額の金と時間を掛けて育てた芸能人があっさり奪われるんだぞ? 事務所にとってはこれ以上ない程の痛手だ。昔、早熟兄に芸能界はビジネスの場だと話した事があったが、そのビジネスの観点から見ればどれだけヤバい事なのかは分かるだろ?」

「あー、確かに」

 

芸能界にとって芸能人は、実質的に商品に近い。彼等を使って金を稼ぐのだから。自社が開発した自慢の商品を捕られたとなれば、損失は計り知れないだろう。

 

「それにタレント側にも問題があった。一例だが、過去に自分の価値を利用して所属事務所に無理な要求を突き付ける奴がいたんだ」

「無理な要求?」

「この家が欲しい、この車が欲しい、と言った感じだ。で、事務所が断った途端、ソイツは要求を呑んでくれた別の事務所に鞍替えしやがったんだ」

「もしかしてタレントと引き抜いた事務所は最初からグルだった……?」

「詳細は分からねえが、件のタレントは『所属事務所から不当な扱いを受けた』と最もらしい理由で誤魔化してはいたな。引き抜かれた側の事務所は経緯を説明したが。因みにそのタレントは引退まで芸能活動を続けたぞ?」

「そんな事をしておいて、よく干されなかったね」

「売れるからな。勿論、その不届き者みたいに憎まれっ子世に憚るな奴は他には出なかったが」

 

印象を悪くするような行為をしても干されない自信があったから、そのような暴挙に出たのか。件のタレントの元所属事務所が不憫である。

 

「そんな事もあるから、引き抜き禁止が暗黙の了解になっている訳だ。今話したタレントは例外中の例外。仮に引き抜き行為をすれば重いペナルティが大多数に課されると思っとけ」

「そういう事よ。まず苺プロと私の事務所の対立は必至。業界内における苺プロの印象と信用は地に落ち、引き抜かれた私含めて事務所ごと干されるわ」

「そっか……強力な戦力を迎える事ばかりに意識を向けてたけど、そこら辺のルールについて知らな過ぎたみたい」

 

危ない危ない。苺プロを大きくするどころか、下手したらおれの所為で滅ぼすところだった。

 

「ふむ、芸能界って極道界みたいなところなんだね」

「何で反社と比較すんのよ? 相変わらず発想が物騒だわ……」

 

パイセンが呆れた様子で見てくるけど仕方ないじゃん。半グレとしての思考が未だ完全に抜け切れてないのだから。おれの前世を知るお兄ちゃんとお姉ちゃんも苦笑いだ。

 

「……だいたい買い被り過ぎよ、“強力な戦力”だなんて。私の事を調べてるなら分かるでしょ? ……大して仕事を得ていない事に。所詮私は過去の栄光だけの元天才子役に過ぎないわ」

 

勧誘なら他をあたって頂戴。そう言ってパイセンはそっぽを向いて食事を続けた。何処となく暗い雰囲気を纏っている。

 

「ん~。私、かなちゃんは才能がある人だと思うけどなー」

 

そんな彼女に母さんがマイペースな様子で話し掛けた。箸を止めたパイセンが母さんを胡散臭そうに見る。

 

「……何故そう思うんです?」

「何と言うか……一緒に仕事してた時とか、まるで輝くような演技をしてたからさ。あの時のかなちゃんには、私も凄く吸い込まれそうな魅力を感じたんだよねー」

「あまりにも具体性に欠ける説明ですね……どういった時に自分が輝けるのかが私には分かりません。第一分かってたらもっと仕事を貰ってた筈です」

 

母さんもパイセンの中に潜むモンスターの存在を感知していたようだ。しかしおれも含めて彼女に輝きを齎す演技が具体的にどんなものかは分かっていない。本人ですら気付けてないのだ。

 

コレは一度しっかり確認した方が良さそうだ。幸い、その機会はパイセン自身が持ってきてくれた事だし。

 

「じゃあ調べてみようよ。おれがパイセンの演技を観察してみるから」

「はぁ? どうやってよ? 此処で演技を見せろとでも言うの?」

「『今日あま』」

「!!?」

 

瞬間、パイセンの不機嫌そうな顔が驚愕に染まる。

 

「大方おれたちに付いてきたのって、お兄ちゃんに最終回辺りで登場する悪役として出て欲しかったからでしょ?」

「な、何でそこまで……?」

「演技関係でお兄ちゃんを意識してたみたいだし、パイセンの今の仕事内容を考えたらそんなところかなって。――監督、良いよね?」

「そうだな、教える事は粗方覚えさせた。そろそろ現場に出て実践といこうじゃないか」

「お兄ちゃん、お願いできる?」

「あぁ、やっと本格的に仕事を始められる。許される範囲でトコトン暴れてやるよ」

「うん、お兄ちゃんの持つ才能がきっと表に出してくれる筈だよ――有馬かなに宿る、モンスターをね」

「も、モンスター?」

「気にすんな。マリアなりの褒め言葉だ」

 

そう。有馬かなは非凡な才覚の持ち主に違いないと、おれの人を見る目が言っている。本人も、そして彼女の所属事務所も気付いていない才覚。

 

今日あまにてパイセンにそれを自覚させ、事務所が理解する前に苺プロへ移籍させる。引き抜きが無理でも、相手事務所がパイセンを手放すように上手く誘導させれば良い。

 

くくく……悔しがる顔が目に浮かぶなあ。可哀想な名も無き事務所よ。ひとえにお前らがパイセンを見る目が無かった所為だが。

 

「……ねぇマ……アイさん。なんかマリア、凄く悪い顔してない?」

「うん、怖いけど可愛いよねー♡」

「まぁ可愛いけどさ……絶対何か底意地の悪い事を考えてそうだよ。天使というより……小悪魔?」

 

後にパイセンの元所属事務所は後悔する羽目になる。“有馬かなを手放すんじゃなかった。新部門を立ち上げて無理にでも在籍させとくべきだった”……と。

 

 

 

 

 

その後、おれは母さんにお兄ちゃん、お姉ちゃん、パイセンと一緒に監督の家を出て帰路に着いた。母さんは正体がバレないように変装している。

 

「久々の出演だ。腕が鳴るな」

「アクアなら大丈夫! きっと凄い演技をしてくれるよ!」

「おにいちゃん頑張れ! 応援してるからね!」

「あぁ、ありがとな。アイ、ルビー」

「その……ありがとうアクア。助かったわ」

「気にすんなよ有馬。俺もそろそろ自分の力を試したかったところだから」

 

会話を弾ませ、楽しい気分で暗い夜道を歩いていたおれ等。

 

「きゃああああ!!!」

 

しかし、公園を通り過ぎようとしたところで状況が一変する。

 

「な、何今の!?」

「女の人の悲鳴だわ!」

「公園の中からだ! 行ってみるぞ!」

 

おれたちは女性の悲鳴が聞こえた公園内に入り…………その中央で衝撃的な光景を目にした。

 

 

「テメエ、この俺に口答えしてんじゃねえ!!」

「ごめんなさい! ごめんなさい……!」

 

 

地面に蹲る母親に、父親が暴行を加えていやがったんだ。

 

「お、お母さん……」

 

その側では幼い少女が震えた様子で立っていた。

 

「アイツなんなの!? 子供の前で女性に手を上げるなんて……!」

「ちょ、ちょっと! 介入する気なの!?」

「当然じゃない、放っておける訳ないでしょ……!」

「アイとルビーと有馬は女性と子供を頼む。俺はあの父親を止める」

 

他人の家の事情など知った事かと言わんばかりに、有馬以外は眼前で繰り広げられているDVを止める気満々だった。

 

「止めて下さ――」

 

いの一番に飛び出そうとする母さんを俺は手で制した。

 

「マリア……?」

「下らねえ。何であんなゴミが存在するんだろうな……?」

「お、おいマリア――」

「お前らは下がってろ、動くな。俺が片付けてくる」

 

アクアたちを睨み付けた俺は、ゆっくりとして足取りでDV親父に近付く。

 

「餓鬼の前で母さんを殴ってんじゃねえよ」

「あ、うぉああああ!?」

 

妻を殴る事ばかり意識していた男は俺に気付けず、襟首を掴まれて盛大に地面を転がされた。

すかさず母親へ駆け寄る少女。

 

「お母さん、大丈夫!?」

「う、うん。何とか」

 

「女、子供に見せるな。目を覆え」

 

「え、あ、はい……」

 

母親は俺の忠告に従い、抱き締めた娘の顔を己の胸に埋めた。よし、これで幼子にショッキングな光景を見せずに済む。

 

「いてて……何しやがんだこの餓鬼ぃ!!?」

 

対峙した俺を起き上がった男が威嚇する。無駄だとは思うが俺は奴に質問を投げ掛けてみた。

 

「おい、どうして自分の妻を殴ってたんだ? それも子供の前でよ」

「あぁ!? あのアマが酒がもう無いとかふざけた事を抜かしたからに決まってんだろ!? それに一番偉い奴は誰かを餓鬼に仕込む良い機会だと思ったんだよ! 教育って奴だ、テメエには関係ねゴボェエエエッ!!!?」

 

聞いた俺が馬鹿だった。取り敢えず紅林から授かったワンインチパンチを腹にお見舞いする。男は意識を彼方へ飛ばし、砂場の上で大の字に倒れて泡を吹いた。

 

「フン」

 

そこで俺は拳を下ろした。子供に暴力行為を見せるのは悪影響だし、何より――。

 

「これ以上殴る価値もない」

 

振り返ると母娘はアクアたちに介抱されていた。携帯式の救急セットで女性の傷の治療を施し、泣いている少女を母さんが優しく撫でていた。

 

唯一有馬だけが、俺を見て固まっていた。

 

「……な、何あのアンタ? ジキルとハイド?」

 

失礼な奴である。

とはいえ暴力沙汰を見られたのは不味い。少し軽めに釘を指しておこう。猛烈な殺気と共に彼女へ至近まで近付く。

 

「有馬」

「ひ、な、何? ってか近くない……?」

「選択権をやる。俺が奴を殴った事を自主的に忘れるか、強制的に記憶を無くすか――どっちが良い?」

「(ひぃいいいい、目がマジじゃん! コイツ本当にあの”天使王子”なの!? まるで悪魔……!)……わ、分かった。誰にも言わないから、その怖い目は止めて頂戴」

 

よし、これで陽東高校への入学取り消しは避けられそうだ。

 

あとは――。

 

「おいアンタ」

「あ、はい何でしょう……?」

「悪い事は言わねえ。娘を連れてあの男の前から姿を消せ。このまま一緒にいたらアンタも娘も悲惨な未来しか無いぞ? 良いな?」

「わ、分かりました……」

 

部外者でしかない俺に出来る事と言ったら、これ位だ。後は母親自ら選択するしかない。娘と共に男の元を去るか、このまま留まって母娘ともども破滅するか。

 

……あるいは、父親に逆らえず娘だけ捨てて去るか。少女がそうならない事を祈るばかりだ。

 

「マリア……」

「ごめんなさい、アイ。暴力沙汰を起こしてしまった」

「んーん、君は困ってる人たちを助けただけ。よくやってくれたね」

「……ありがと」

 

母さんは謝る俺を逆に褒めて、頭を撫でてくれた。

 

(俺を捨てた母さんは……今、何をしてるんだろう?」

 

「え?」

 

あ、途中から口に出てたらしい。

すると母さんが誰にも聞かれないように小声で聞いてきた。

 

「マリア、お母さんに会いたいの?」

「俺の母さんは貴女だけだ、他には存在しない」

「え、でも――」

「あの女は俺を捨てたんだよ? 子供を失うより、自分が殴られる方を嫌がったんだ」

 

自分がどれだけ窮地でも俺たちを守ろうとした母さんを見てると、結局保身で俺を捨てた前世の母親を俺は母と認める事が出来なくなった。

 

「……もう良いかな? この話はしてて気分が悪いんだよ」

「あ、うん、ごめんね?」

「良いよ、母さんの所為じゃないから」

 

少し悲しそうな母さんをどうにしかして笑顔にできないか思考を巡らせつつ、前世の母親の事も考える。

 

(――母さん、アンタが選んだ人生だ。あの時俺は、そう言った筈だ)

 

一人で生き、野垂れ死ぬ。それが俺を捨てたケジメなんだよ。




因みにマリアくんにアイコスさせたらルビー以上にアイそっくりになります。身長ほぼ同じで瞳の色も紫なので。
男だけど……。
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