【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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30話

「はーい、星野くーん。そのままそのままー」

 

担当カメラマンの『白銀かぐや』さんがシャッター音を切る。おれは彼女の指示通りにジッと固まり、壁に寄り掛かって笑顔を浮かべる。

 

「よし、今日の撮影はここまでにしましょう。お疲れ様、星野くん」

「ありがとうございました、かぐやさん」

 

撮影は恙なく終了。今日の仕事は午前だけだ。

 

「それにしても、今日は一段と楽しそうに笑ってましたね。もしや午後から何か予定でも?」

「はい、家族みんなでちょっと出掛ける予定があるんです」

 

陽東高校に兄弟全員無事に合格し、卒業式も終えて春休みが始まった。今日は4人とも午後からの仕事がオフなので、とある街まで一緒に買い出しへ向かう。それが楽しみで仕方なく、撮影中もその時の様子を想像しながら笑顔を作っていたのだ。

 

すると、かぐやさんが驚くべき提案をしてきた。

 

「そうだ。今着ている服で行ってみては如何ですか?」

「え゛、この格好でですか……!!?」

 

現在、おれは某衣料品メーカーの宣伝モデルとして女装中だ。

白の長袖シャツの上から被った格子縞模様のキャミドレス、レースフリルの白い靴下にブラウンのコンバットブーツ、そして白百合の花をモチーフにした飾付きのヘアピン。どっからどう見ても超が付く美少女の姿をしている。これで男だと言うのだから読者たちは驚きだ。

 

美少女としか思えないのに正体は男。その凄まじいギャップも相まって、着実におれはモデルとして名を上げていっていた。

 

「で、ですけど、これって借り物じゃありませんか! もし汚したら大変ですよ!?」

「大丈夫。それはメーカーさんが是非とも貴方にって譲ってくれた衣装ですから。そのまま持ち帰って貰っても問題ありませんよ?」

「そうなんですか……い、いや! 街中を女装して歩くなんて流石に――」

 

偶々女顔で体も華奢故に似合ってしまったおれの女装姿。そこから女物の服の宣伝役もやろうって話に繋がっただけであり、おれは別に男の娘になったつもりはない。あくまで仕事上、仕方なくってやつだ。この格好で街を練り歩くなど男としてのプライドが許さないし、何より猛烈に恥ずかしい。

 

「でもお母さんに見せたらきっと褒めてくれますよ? 可愛いって」

「それじゃ行きますね! 失礼しまーす!」

 

瞬間、母さんの喜ぶ姿が脳裏に浮かぶ。早く見せに行こうと判断したおれは矢継ぎ早に挨拶を済ませ、飛び出す勢いでスタジオを後にした。

 

「――相変わらず、お母さんを引き合いに出せばチョロ……素直な子ですね」

 

おれが出て行った扉をジッと見詰めながら、かぐやさんはカメラを持ったまま上品そうなポーズを取る。

 

「お可愛いこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、その恰好のまま此処まで走って来たと」

「SNSに投稿されたマリアの姿、メッチャバズってるよ? 『全力疾走する超絶美少女目撃す!』、だってさ」

「ホントに何してんだおれ……今更ながら恥ずかしくなってきた……」

 

苺プロ事務所の外では、母さんたち3人がおれの合流を待っていた。お兄ちゃんとお姉ちゃんは一般的な余所行きの服装だが、母さんは有名人なので帽子とサングラスで変装を忘れない。

 

「凄く可愛いよ~マリア! 君はどんな恰好でも滅茶苦茶似合ってるよね~!」

「ありがとう母さん」

 

えへへ、母さんに褒められちゃった。嬉しいなあ。恥ずかしい気持ちはあるけれど、母さんが喜ぶならこの姿で一日過ごしても良いかもしれない。

 

そんなおれに、お兄ちゃんは少し呆れ気味だ。

 

「必死に否定してた割にはノリノリで女装してるよな、結構」

「ん~……最近は段々悪くないと思い始めてるみたいでさ。徐々に毒されてる気がする……」

 

そのうち指摘されても涼しい顔で肯定しそうな気がして、ちょっと怖い。慣れとは恐ろしいものである。

 

「おっ、丁度出掛けるところでしたか」

「あ、紅林さん」

「はい、そんなところです」

 

其処へ事務所の中から紅林が現れる。100㎏近くの大荷物を軽々と持ち運ぶ姿は、最早苺プロへ属する者にとっては慣れたものである。誰一人として驚かず、何事も無かったかの如く仕事を続ける。

 

ふと紅林がおれの格好に気付く。苦笑いを浮かべ、リアクションに困っている様子だ。

 

「……本当に違和感ないな、お前」

「美人に産んでくれた母さんに感謝だよ」

「えっへん!」

 

ドヤ顔で胸を張る母さん。もう30歳を超えたにも拘らず、未だに外見年齢は20歳のままだ。子供っぽいところもあって、少女と紹介されても違和感が無い。

そんな彼女の事を、世間では人間を超越した何かだと囁く者が出始めていると聞く。周囲の評価はさておき、おれにとっては何時までも綺麗で自慢の母さんだ。

 

因みに母さんとおれ達の関係を紅林が知ってる事は関係者全員に話してある。無論、秘密を広めたおれは社長から有難いお叱りを受ける羽目になったが、事情を汲んで協力してくれる猛者の存在は大きいとの事で、最終的に許しを貰えた。

 

「確かどちらへ行かれるんでしたっけ?」

「貴凛町ってところで買い出しと、あと美味しいメロンパンを売ってるところがあるので家族みんなで食べてこようかなって」

「貴凛町……ですか」

 

母さんから行き先を告げられた紅林の表情が固くなる。何かを懸念しているみたいだが、それに関してはおれも十二分に分かってる。

 

「気を付けて下さいよ? 俺もその近くの志正町ってところの出身なんですが、あの辺りは極めて治安が悪い。半グレやチンピラに堅気が容赦なく難癖付けられてくる事も珍しくありませんからね」

 

貴凛町や志正町を始め、日本でも数少ない治安の酷い地域へ赴こうというのだ。日常的に一般人がアウトローに絡まれ、最悪尊厳を破壊されかねない危険地帯。そんな場所にとびっきりの美人家族が行けばどうなる事か、想像に難くない。おれも本来なら全力で止めているところだ。

 

それでも母さんが例のメロンパン屋へ行きたいと懇願してきたのだ。幼子みたいにちょっと泣きそうな顔で迫られては、自他共に認めるマザコンのおれに”NO”なんて言える筈も無い。

 

「アクアくん、ルビーちゃん、そしてマリアくん。いざという時は君等が頼りだ。お母さんをしっかりと守ってやりなさい。勿論、君たちも絶対に無茶はしない事。全員で逃げる事を前提に動くように。良いね?」

「分かりました、紅林師匠」

「これでも紅林さんの猛特訓に散々耐えてきたんですから! チンピラの2~3人くらい、余裕で返り討ちにしてやりますよ!」

「紅林さんの言う通り、三人とも無茶しちゃダメだよ? 君たちに何かあったらママ、悲しいからね?」

「あぁ、肝に銘じとくよ。アイ」

「そこはちゃんと気を付けるから、心配しないでママ」

 

おれの見立てだと、お兄ちゃんとお姉ちゃんも堅気としてはかなり強くなってる。武装した半グレ5~6人が相手でも、二人がかりなら一方的に叩き潰せそうだ。どうやら戦闘面でも天から授かった才能があったらしく、そう遠くない未来に銃弾を躱す術も取得出来そうである。

調子に乗って油断すると危険なので、その辺は紅林もおれも黙っておく事にしたが。

 

「あ、もう1時回ってる! じゃあみんな。時間も過ぎたし、そろそろ行こっか?」

「そうだねママ、行こう行こう!」

「では紅林さん、また後程」

「いってきまーす!」

 

本当に女の姿で行く気か城ヶ崎……まあ本人が楽しそうなら良いか。――はい、行ってらっしゃいませ」

 

紅林に別れを告げ、星野家4人は貴凛町へ足を動かした。

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