【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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推しの子って、芸能界版ヒューマンバグ大学みたいだと思った。

芸能界の光と闇、アクアを始めとしたバグりまくる登場人物たち、クソみたいな大人たち。本当に同一の世界だとしても違和感が全くありませんね。


31話

(……此処に来るのも15年ぶりか)

 

かつて羅威刃の支部が存在した貴凛町は今も変わらず繫栄している。訪れたメインストリートには様々な店が立ち並び、大勢の観光客で賑わっていた。未だお昼と呼べそうな時間帯、大半の人が食事を目当てに飲食店へ集まっている。

 

「見て見ておにいちゃん! グルメサイトに載ってた例のお握り屋、物凄い長蛇の列だよ!」

「アレがルビーの行きたがってた店か。かなりの人気だな」

「でもあの様子じゃこれから並んでも1時間以上かかりそうだね。母さん、今は目的のメロンパン屋を目指そう? 此処から1キロ進んだ街外れの公園にあるみたい」

「そうだね。他にも面白そうなお店も多いし、寄り道しながら先を進もっか」

 

途中かき氷屋や石鹸専門店(?)など色んな店を回りつつ、『うりゅうのメロンパン』がある貴凛公園へ向かった。

 

 

 

 

 

さて幸いにもお客は一人もいなかったので、おれたちはすぐに焼きたてのメロンパンにありつく事が出来た。

 

「――お待ちどう! フルーツと生クリームを挟んだ新作メロンパンだ!」

 

明らかに只者ではない、武闘派のアウトローと同じ雰囲気を纏っている謎の夫婦二人組。男性はメロンパン屋の店長である職人さん、猫耳を付けた女性はその助手にして看板娘である。

 

「はいイケメンくん? 格好良い君には特別にもう一個サービスしてやるじょー」

「あ、ありがとうございます……」

 

お兄ちゃんのルックスには女性も例外なく虜にされたのか、無料で同じメロンパンをもう一つ渡しながら至近まで迫っていた。

外見は20代後半だが、おそらく一緒にいる職人さんとほぼ同じ40歳前後と思われる。母さんもこんな感じに年を取っていくのかな?

 

当然、その様子を見て面白くないのはお姉ちゃんだ。嫉妬マシマシに素早くお兄ちゃんの腕をとり、満面の笑顔で女性を牽制する。

 

「あ、その猫耳可愛いですねー。……良い年してそうなのに」

「あはは。一言多いぞ、シバかれたいのか乳臭い小娘め」

 

「醜い女の争いが始まりそうな予感……」

「二人とも仲良しだね♪」

「コレを仲良いと見做せるアイ(星野さん)は凄いなホント……」

「はいはい、二人ともそこまで! イケメン君、ものゴッツ居心地悪そうにしてるから……!」

 

女性とお姉ちゃんの間にブラックホールが形成されつつあった。このまま放っとくのは危険だと判断した店長さんが慌てて仲裁に入り、事なきを得る。

 

お姉ちゃんへ最後に一睨みかました後、女性はおれの元にもメロンパンを持ってくる。

 

「ほーら美少年? 君にも追加でサービスだじょ」

「ありが……え、何で男だって分かったんです?」

「お姉さんの目は誤魔化せられないよー」

 

誰が見ても少女にしか見えないのに、この女性はあっさりとおれが男だと見抜いてみせたのだ。そしてそれは、メロンパン屋の店長も同じ。

 

「にしても少年、その姿まるで違和感がないな。殆どの人間ならあっさり騙されてしまいそうだ」

「あ、あはは。同じ事を別の人にも言われましたよ……」

 

どうしよう。段々恥ずかしくなってきた。だが持ってきた服はこの女物の服だけ。着替える事もできない。

そこへ母さんが自慢げな様子で語り出す。

 

「分かります? この姿なら少女役としてドラマに出て貰っても全く問題なさそうですよね!」

「おや、もしやお嬢さんは役者か何かですか?」

「はい、女優をやってまして、名前を星野むぐっ!?」

 

うっかり己の正体を口に出しかける母さんを抑えるおれたち。全く、母さんは有名人なんだから名乗るのは危険だっていい加減理解して欲しい。

 

「なんと女優さんでしたか! 名前は……まあ名乗ったら不味いですよね? どっから聞かれてるかも分からないですし」

「え~、どんなドラマや映画に出てるかだけでも教えて欲しいじょ~」

「止めてやれカリン。折角の休日らしいし、野次馬に囲まれる事になったら迷惑だろ?」

「むぅ、分かったわよ……」

 

幸い店長さんは此方の事情を察してくれたようで、カリンという女性を宥めつつそれ以上は詮索しないでくれた。理解のある人で助かった。

 

「さあさあ、それよりも冷めないうちに召し上がって下さい」

「はーい! いただきまーす!」

「「「いただきまーす」」」

 

店長さんに促され、おれたちは話題のメロンパンを口に含んだ。

 

「「「「!!!?」」」」

 

瞬間、口の中がこの世のモノとは思えない美味に襲われる。熱々ふんわり食感のメロンパン、絶妙な甘みの生クリーム、程良い酸味の柑橘類。それらが喧嘩する事なく互いの利点を最大限に引き立て合い、極上の旨味へと昇華させる。

 

――はへ?

 

「何もかんがえられなくなってきた……」

「花丸いっぱいぞうていしまーす」

「んぁ、俺はどこ……? ここはだれ……?」

「ん~、おいしー♥」

 

気が付けば母さん以外全員、アホになっていた。

 

「……コレを食べて普通のリアクションを取れる女優さんは凄いわね。みんな例外なく一度はアホ面になるのに」

「喜んでくれたようで何よりだ」

 

ヤバい。こんなヤクより危険そうな甘美な食物。果たして二つも食べて、お兄ちゃんとおれは正気を保てるだろうか……?

 

 

 

「死龍、カリン。こんにちは」

「こんにちは。またメロンパンを買いに来たよ?」

 

 

 

そんな感じで余韻に浸っていたところ。徒歩で現れるは40歳くらいのイケオジと、8歳程度の幼くも美しい少女。

 

「鶴城! それにツクヨミちゃんじゃないか! お前たち二人が一緒とは、珍しい組み合わせだな」

「従業員の子に店を任せて此処へ向かってたら、彼女と偶々出会ってね。目的地は同じだし、試作のおにぎりを食べて貰おうと思って一緒に来たんだ」

「成程。――注文は何時も通りで良いかな、ツクヨミちゃん?」

「えぇ。私の分を一つ、この子と仲間たちの分で二つの計3個。新作の商品を頂戴」

「毎度あり、ちょっと待っててくれ!」

 

イケオジの方は鶴城。店長の瓜生さんやカリンさんの知り合いらしい。

そして彼に連れられた少女の名はツクヨミ、このお店の常連のようだ。何故か彼女は肩に1羽のカラスを乗せていたが、ペットだろうか?

 

ん……?

 

「…………」

「……どうしたの? おれの顔に何か付いてる?」

「いえ、別に。可愛い人だなって思っただけ」

「?」

 

瓜生さんがメロンパンを焼いている最中、ツクヨミは少し離れた場所でアホになっていたおれをじっと見詰めてきた。一足先に元に戻ったおれが問い掛けるも、彼女は涼しげな態度でクスリと笑みを溢すだけ。見ていて不思議な存在である。

 

「あ! あの人、例のお握り屋の店長さんじゃん!」

 

次いでアホモードから回復したお姉ちゃんが鶴城さんの姿に驚く。

グルメサイトに載っていた貴凛町一の有名店、『つるのおにぎり』。彼は其処の創設者にして店主である。

 

「カリン、あの人たちはお客さんかい?」

「女優さんと、そのお連れの人らしいわよ」

「へぇ……」

 

お姉ちゃんの声を拾った鶴城さんがおれたちに穏やかな笑みを携えて近寄る。

 

「――初めまして。『つるのおにぎり』の店主、『鶴城史之舞』と申します。どうやらウチの店をご存知のようで」

「この子が貴方のお店のお握りを食べに行きたがってたんですよ」

「そうでしたか。でも生憎まだお客さんでいっぱいです。今から行っても数時間は待つ事になるでしょう。申し訳ない」

「流石の人気っぷりだな。下手すれば日が暮れるまで待つ必要があるかもしれん」

「そ、そんな~!」

 

とても楽しみにしていたからか、お姉ちゃんは見るからに落ち込んでいた。そこへ鶴城さんが救いの手を差し伸べる。

 

「そうだ、実はお握りを作り過ぎてしまいましてね。良かったら食べてくれませんか? まだお店にも出してない新作ですよ? お代も結構です」

 

取り出された包みには沢山のお握りがズラリ。お姉ちゃんも一転して目を輝かせる。

 

「い、良いんですか、それもタダで!?」

「勿論、味について感想を頂けたらそれで十分です。試作品は2種類ありまして、まずはコレ――白身魚を大葉で包んで蒸したものが入っています。どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

おれたちは鶴城さんから受け取ったお握りを、早速食べてみる。

米の硬さ、具材である鱈の大葉包みの塩梅が絶妙で、瓜生さんのメロンパンにも匹敵する旨味が脳を全身を駆け巡った。

 

「……はなまるついかー」

「もう何もかんがえなくていいや……」

「クソ、ダメだ。正気を保て俺――うっまーい!」

 

再びおれたち3兄弟のキャラが崩壊する。お兄ちゃんが見苦しくも足掻こうとしたが、徒労に終わった。これは仕方ない、あまりにも美味し過ぎる。

 

「んー、美味しい! まるで飲み物みたい! スルスルいけちゃうよー!」

「優しさを強く意識して握りました。だからとても柔らかくて食べやすくなってます」

 

あの外道女の所為で米が苦手な母さんも大絶賛で、するりと言った表現でお腹の中に収めていく。鶴城さんの言う”優しさ”が、母さんの抱く”恐怖”を一時的に緩和してるのかもしれない。

 

「これなら大丈夫ですよ! 大人気間違いなしです!」

「良かった、喜んで頂けて何よりです。――ではもう一種類ありますので、是非ともご賞味下さい」

 

母さんから高く評価されて鶴城さんはご満悦の様子だ。そのまま鶴城さんはもう一つの包みを鞄から取り出し、おれたちの前に開いて見せる。

 

 

 

 

 

それはおれを一瞬で正気に戻した。何故ならそれは――。

 

 

 

 

 

「これって、じゃこのお握りですか?」

「はい、柚子果汁を加えて炒ったものを混ぜ込みました。さぁ、召し上がれ?」

「わーい、いただきまーす!」

 

母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。更に仕事を済ませた瓜生さんやカリンさん、そしてツクヨミにお握りが渡されていく。その光景を、おれは苦虫を嚙み潰したような顔で見ていた。

それに気付いた鶴城さんが、心配そうな表情でおれの前に来る。

 

「どうしたんだい君? じゃこは苦手だったかな?」

「……はい、ごめんなさい。自分は結構です」

 

おれは食べる事を拒絶した。おれにとってじゃこのお握りは前世の母の味であり、呪いのアイテムであり――そして母を許す贖罪そのものでもあった。食べる事は即ち、おれを捨てた母さんを許す事と同義。

 

あの女を許すつもりはない。少なくとも、現時点では。だから今まで同じ物が出されても、決して食べようとはしなかった。

 

「おいひぃ……」

「100点満点で言ったら……はなまるです」

「私、なにしようとしてたんだっけ……?」

「あはは~……」

 

アホになる者が続出するカオスな世界のど真ん中で、おれだけは辛く苦しい思い出に浸り続ける。早いとこ楽になりたいと思い、カリンさんから追加で貰ったメロンパンに齧り付こうとした――――その時だ。

 

「あ」

 

ツクヨミが連れていたカラスが急に飛び立ち、おれの髪飾りを嘴で奪取。そのまま何処かへ飛び去っていった。

 

「ちょ、そのヘアピンは貰ったばっかりなんだぞ! 持ってくな、返せ……!」

 

当然、おれはそのカラスを全力で追い掛ける。自分たちを置いて単独行動を取ろうとするおれに、母さんたちは慌てた。

 

「マリア! おい待て一人で行くな!」

「マリア、マリアってば! ――もう、ダメみたい。追い掛けよう!」

「すいません。私たちはこれで失礼しますね。お握りとメロンパン、ご馳走様でした」

「はい、お気を付けて。また来て下さいね」

「ウチの子がごめんなさいね。後でしっかり言い聞かせとくから」

「気にしないでツクヨミちゃん。じゃあまたね!」

「えぇ、また何処かで」

 

瓜生さんたちへの別れの挨拶もそこそこに、おれたち一家はカラスの追跡を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さあ、そのまま”彼女”の所へ案内してあげて?」

 

私は絶品おにぎりと新作メロンパン入りの袋を手に、おじさんたちやお姉さんに聞こえないよう呟いた。天へ放たれ自由に飛ぶカラスは、そのまま第3の星の子をある場所へと導く。

 

「”彼女”はずっと一人で生きてきた。贖罪としてはもう十分。最後くらい、ご褒美があっても良いでしょ?」




おまけ:その後のお話、毒舌師匠出現


師匠「おや、また来たのかいタガメの糞野郎?」

鶴城「こ、今度はタガメの糞って……」

師匠「あらあら貴女も毎回飽きないわね、このイキりメスガキ」

ツクヨミ「あ゛ぁ゛? 指先一つで魂ダウンさせっぞクソババア?」



瓜生「ツクヨミちゃん、急に感情豊かになったな」

カリン「中二病を早い段階で拗らせたようなキャラしてるけど、煽りに滅茶苦茶弱いみたいね」
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