【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
私がマリアへこの質問を行った事には理由がある。
『壱護、あの子達は?』
『例の婆さんと対面中だったぜ。俺はちょっと外の空気吸ってくる』
『分かったわ。出発の時間が近いから早めに戻ってきて頂戴ね?』
『おう』
キッカケは数週間前。困っていたマリアを助けてくれたらしい年老いた女性が亡くなり、その葬儀が開かれた日。女性は天涯孤独の身であり、恩返しも兼ねて星野家が主宰として葬式を開く事になった。アイからの要請で私と壱護が参列しても、僅か6人の小さく寂しい葬儀だ。
私達夫婦にとっては全く面識の無い人間。それでも一人の人間が亡くなったという事実は、例え赤の他人でも気持ちが沈むものである。それが独り身で、私達がいなければただ火にくべられて灰になるだけならば尚更。だから決めた、せめて自分達だけでも見送ってあげようと。これもまた縁だと思うから。
私は壱護と一旦別れ、アイたちに出棺の準備が整った旨を伝えるべく葬儀会場に辿り着く。其処で目にしたのは、アイとアクアとルビーに寄り添われながら、件の女性が入れられた棺に縋るマリアの姿。
『マリア……』
マリアは泣いていた。今にも泣き叫びたい気持ちを無理矢理抑えているかのように、途切れ途切れの声を漏らして。永遠の眠りに就く女性に語り掛ける。
『……何処で間違えちゃったんだろうね。もっといっぱい話し合っておけば、もう少しマシな未来が訪れたかもしれないのに……』
生前の女性とマリアは相当仲が良かったのだろう。私の知らないあの子の一面を垣間見えた気がした。
『貴女の想いはちゃんと受け取ったから。もう絶対に間違えない。この家族と一緒に幸せに生きてみせるよ。どうかそれを天国で見てて欲しい。そして良い事をいっぱいして、おれもそっちへ行けるようになるから……そしたら、また一緒に暮らそう?』
マリアにとっては永遠ではなくしばしの別れ。女性の組まれた手に触れながら、そう再会を約束していた。
『またね――母さん』
『……え?』
その中でも彼が最後に放った言葉は、特に印象的なものだった。
「な、何の話かな?」
「だから、葬儀会場であの女性を”母さん”と呼ぶ貴方を見たのよ。どうしても気になってね」
マリアは顔を引き攣らせ、目が泳いでいた。動揺しているのが見て取れる。何か隠し事をしていても普段ならもっと上手く誤魔化せる筈なのに、今回ばかりはあまりにも下手っぴだ。
「――貴方が誰かの生まれ変わりなのと関係ある事かしら?」
すかさず私は追い打ちをかける。マリアは分かりやすい程に驚いていた。
「生まれ変わり……どういう事……?」
「貴方が3歳の時にね、アイとの会話を偶然聞いちゃったのよ」
お握り事件――関係者の間ではそう呼ばれている――で、片付けを済ませた私はアクアとルビーに新しいお握り作りを任せ、お手洗いの為にリビングを後にした。トイレに行く為には当時アイとマリアがいた部屋を通過する必要があり、その帰りに二人の会話を聞いてしまった。怒った様子でカミングアウトするマリアの声が、扉越しにいた私の耳にもしっかりと届いた。
「おいミヤコ、一体何の話をしてんだ? 生まれ変わりがどうとか、俺にはサッパリなんだが……」
「それはこの子がこれから説明してくれるわ……多分ね」
壱護は状況が全く読めないと言った様子で此方を見てくる。彼は私のようにアクア達の異常性に直に触れた事がないので、当然の反応だけど。
そんな時、観念したかのように大きく溜息を吐くマリア。
「……そっか、あの話を聞かれちゃったんだね。ミヤコ達が近くにいたのに、迂闊だったよ」
項垂れていた顔を上げると、真剣そうな彼の表情が目に入る。それは、これから語る内容が嘘偽りなき事であると言外に示していた。
「二人にもそろそろと思ってたところだし、良い機会だから聞いてくれるかな? ちょっと休憩時間が延びるかもだけど」
「構わないわ、話してくれるかしら? 私たちは貴方たち三つ子の事を、まだ殆ど知らないもの」
私は姿勢を正し、マリアの話に耳を傾けた。
結論から言うと……あまりにも絵空事過ぎて脳が事実を受け入れるのに時間を要した。その間は軽い頭痛に苛まれる事になった。
「二人とも大丈夫? やっぱり信じられないよね、こんな奇天烈な話は」
「いいえ、転生云々の方は寧ろ納得だわ。赤ちゃんが喋る現象の理由としては十分なくらいよ」
「ま、まぁ……お前はこういう時に冗談や嘘を言う性格じゃねえのは分かってるからな。未だに半信半疑ではあるが、俺も受け入れるぜ」
話し終えた後、額に手を当てて難しい顔をする私たちは、マリアが用意してくれた冷たい水の入った紙コップを受け取り、喉の奥へと流し込む。内から外へ広がる冷気により、火照った頭部の熱が幾分か和らいだ気がした。
「状況から考えてアクアとルビーも同じなんでしょ?」
「あの二人に関してはおれの口から話す事は出来ないね。悪いけど本人に直接確認してくれる?」
「えぇ、そうさせて貰うわ」
生まれ変わり――そんなものが本当にあるなんてね。でもこれで三つ子達が異様に大人びている訳が漸く判明したわ。彼らは生まれた瞬間から無垢ではなく、既に成熟した人間の魂が宿っていたのだ。
不意にマリアに目をやると、少し悲しそうな様子で此方を見詰めている。前世の”所業”まで話してしまったから、私達から拒絶されたり軽蔑されないか不安なんでしょうね。だから私は伸ばした手を彼の頭に乗せ、柔らかな金髪が乱れないように優しく撫でてあげた。一転してキョトンとした顔になるマリア。
「ミヤコ……?」
「話してくれてありがとうマリア。あと……辛かったでしょう? 誰も信用出来なくて、ずっと独りぼっちで。此処には貴方に酷い事をする人間はいないから、安心して頂戴」
「……嫌われると思ってた。おれは半グレで、多くの人間の命を奪った殺人鬼だから」
「確かに前世で貴方が行った悪事の肯定は出来ないわ。でも、今の貴方は家族や誰かの役に立とうと頑張ってる。それを私達はずっと間近で見てきた。少なくとも私達にとってマリアは、思い遣りのある優しい子でしかないわ」
「ミヤコの言う通りだ。前世は前世、今は今だろ? 俺達のお前に対する愛情はこれからも揺るがねえ。今後も困った事がありゃあ遠慮せず頼ってこい」
「……ありがとう、社長、ミヤコ」
マリアの表情が柔らかさを取り戻していく。不安要素が取り除かれ、とても安心した様子で微笑んだ。全く、右に出る者はいないレベルの可愛さねえ、この子。外でも常にこの顔でいたら男女問わず堕としまくってたに違いないわ。
「しかし”羅威刃”ねえ。かなりデカい半グレ組織が芸能界にも進出したって当時の業界で話題になってたが、まさかそのボスの生まれ変わりがウチで芸能人をやってるとはな」
壱護によると、羅威刃は傘下を含めて構成員が3000人規模になる巨大組織らしい。そのトップとして毎日幾千人もの人間を上手く回していたのなら、マリアの経営能力が高いのも納得ね。
「社長は羅威刃を知ってたの?」
「俺等クラスの人間なら殆ど知ってたと思うぜ? 芸能界って所は、遥か昔から反社との関わりが強い。その手の情報は上の奴ほど入りやすいんだよ。多額の金を捻出できる立場だからな。噂じゃ○×プロダクションが羅威刃と関与してたとか……」
「――あぁ、あそこか。タレントの個人情報晒してる奴を消してくれって依頼されたよ。契約金6億円でね。戦争中だったから後回しにして、結局やらず終いだったけど」
「……マジでやってやがったのか連中。前々から黒い噂が絶えない所だったが」
「ところで、その事務所は結局どうなったの?」
「他の反社との繋がりも発覚して、10年以上前にぶっ潰れたぞ」
「ふーん」
マリアは心底興味が無いと言わんばかりに短く返答し、残っていたコーヒーを飲み干した。まあ、この子からすれば苺プロとは無縁の事務所。反社の力に依存して破滅した人間達なんてどうでも良いのだろう。
「さっき戦争中って言ってたよな? お前等何処かの勢力と争ってたのか?」
「京極組ってヤクザを知ってる? そこと抗争中だったんだ。……で、最終的に負けておれは殺され、組織も瓦解した」
「報道にあった謎の壊滅はヤクザに滅ぼされたからか……」
「連中の隠蔽工作は予想以上に優秀だったみたいだね。表社会には抗争の情報が全く漏れてなかったし――あぁ、もうこんな時間かぁ」
相当長く話し込んでいたらしい。気が付けば休憩開始から30分以上経過していた。そろそろ業務に戻った方が良いかもね。
「社長、ミヤコ。おれが片付けとくからコップ頂戴?」
「おう、サンキュ」
「お願いね」
両手をコップで塞ぎながら給湯室へ向かうマリア。
「そうそう」
その途中で立ち止まると、振り返って無邪気そうに笑い掛ける。
「言うのが遅くなっちゃったけどさ……おれは二人の事も家族だと思ってるから。血の繋がりはなくてもね」
マリアはそれだけ告げると事務室から出て行った。
「そう思ってくれて私達も嬉しいわ、マリア」
「さて、休憩は終わりだ。今日中に仕上げる案件がまだまだあるからな。さっさと済ませちまおうぜ?」
「えぇ、そうしましょう」
私と壱護はソファーから立ち上がり、休憩前よりも軽くなった気分で各々の仕事を再開した。
今後はどんな番外編を書いて欲しいですか?
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