【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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5話

俺の名前は城ヶ崎賢志。日本最大のマフィア、『羅威刃』のボス……だった男だ。

 

「~♪」

 

俺が星野マリアとして生まれ変わってから1年が経過した。俺等3人の誕生会を開こうとアイがリビングで準備をしている最中、俺は隣の寝室で奴に気付かれない様に隠れつつ、スマホである事を検索していた。

 

「……やはり壊滅していたか――羅威刃。思ったより早かったな」

 

それは俺が前世でトップに立っていた半グレ組織、『羅威刃』のその後についてである。俺の死から僅か数週間で傘下の半グレたちが次々と離脱。奴らが至る所で暴れる過程で、日本最大規模にまで膨れ上がった巨大組織の瓦解が表社会にも知れ渡っていた。

 

ただ、京極組との抗争とその結果の崩壊という、より詳細な部分は一切引っ掛からなかった。廃れる運命にある化石ヤクザにしては、大した隠蔽工作である。

 

「長くても1年足らずで自然に瓦解するとは思ってたが……」

 

これはまぁ予想はしていた。元より俺一人に依存しきっていた組織だ。俺が死ねば、真面に金稼ぎも出来ない下っ端共だけで巨大化した羅威刃は維持出来ない。況してや武闘派が多数残る京極組と戦争中だ。長くは持たなかっただろう。

 

東雲、秋元。あの二人はどうなったのだろう。特に東雲は歪んだ羨望とそれに相反する殺意を常に俺へと向けてきていた。何処となく俺を殺して成り上がろうとする魂胆が見え隠れする男だったが、俺が死んだ事で発狂でもしてるのだろうか。

 

「……クソどうでも良い事だ」

 

俺は即座に興味を無くした。別に思い入れなど全く無い。裏社会を支配する上でより大きな母体が必要で、羅威刃が偶々丁度良かっただけの事。

 

羅威刃のボス、城ヶ崎賢志は死んだ。今の俺は表社会を生きる星野マリアという餓鬼に過ぎない。今はただ第2の人生が前世より少しでもマシなものとなるよう、思考を巡らす事が最重要だ。

 

「撮れてるかな? ――うん、こういうの残しておくのも良いと思ってね~」

(まずい、来たか!)

 

そこへビデオカメラの取り付けが終わったアイが寝室を訪れる。咄嗟に俺はスマホを放り出し、布団の上で横になって寝た振りを実行する。その隣ではアクアとルビーが本当に夢の世界へと旅立っており、俺含めて3人は纏めて抱き上げられた。

 

そのままアイはリビングのソファーに、俺たちを起こさない様にゆっくりと腰掛ける。周囲にはウサギやクマなどの動物のぬいぐるみや風船が置かれ、壁や天井などが電飾で彩られていた。

 

後ろの壁を見ると、”AQUA&LUBY&MARIA. HAPPY BIRTHDAY.”の文字が掲げられている。

 

(そういえば俺……誕生日にこうして祝って貰うのは初めてだったな)

 

前世では俺の為の金など一銭も使いたくない屑親父の方針で、誕生日祝いなんて一度も経験した事がないからな。その後の愚連隊や羅威刃時代にも、勿論そんな行事は経験していない。こういう表現は変かもしれないが、俺にとっては生まれて初めての誕生日パーティーである。

 

アイは俺を膝に乗せ、腹に寄り掛かるように座らせる。その俺の両脇では、奴に片手で抱えられたアクアとルビーが寝息を立てていた。多分暫くは起きないだろう。

 

唯一俺だけは起きている事に気付かないまま、アイは話し始めた。今日の思い出を、先の未来へ残す為に。

 

「――大人になった時、これ見ながら一緒にお酒でも飲めたら良いなぁって。流石に私はその時にアイドルやってないとは思うけど……あっ、その時は君たちがアイドルになってるのかもね~?」

 

こっそり目を開けてアイの顔を見上げる。本当にコイツは、俺たちの事を語る時だけは目を輝かせまくってやがる。普段はよく周囲の人間に嘘を吐く癖に、少なくとも俺たちに対しては濁った光を全く見せない。

 

「私の子だし、全然ある話だよねぇ」

 

アイが俺たちを纏めて抱き寄せる。大事な存在であると主張せんばかりに力強く、そして宝物を扱うかのように優しく。奴とアクアたち3人の温もりが俺を包むが……不思議と嫌では……なかった。

 

「ふふ……。なんにせよさぁ――元気に育って下さい。母の願いとしては、それだけだよ」

 

嘘偽りなき本心が、俺の耳元で囁かれた。

 

……あぁ、まただ。またしても……アイと母さんの顔が重なって映った。

 

 

 

 

――ごめんなさい、ごめんなさい……

 

 

 

 

(……母さん、どうしてだよ?)

 

アンタは俺の事を本当に愛していたのか。愛していたのなら、何故あれから一度も俺の前に姿を見せてくれなかったんだ? クソ親父から逃げ出す勇気があったなら、何故もっと早く俺を連れて逃げてくれなかったんだ? 逃げ出した後、何故俺を探そうともせず20年以上も一人でいたんだよ……!? 

 

 

 

 

――母さんは、また賢志に会えるかな……? 母さんは……ずっと一人だったから……

 

 

 

 

アンタは俺と最後に会ったあの日……そう言ってたじゃねぇか!! 親父と言う檻から解放されたアンタなら、俺に愛情が注がれるのを邪魔する屑から解放されたアンタなら、俺を見付けて迎えに来る事だって出来たんじゃねぇのか……!!!? そうしてくれたら、俺は地獄そのものの日々を過ごさずに済んだんだ……!!! あんな闇の奥底まで、転げ落ちる事もなかったんだろうが……!!!

 

「――あれ? マリア、起きてたんだ?」

 

その時、母さんへの罵詈雑言がアイの言葉で止められた。俺が起きている事に気付いたようで、己の綺羅星の輝きを俺の黒い綺羅星へと注ぐ。

 

「もしかして今の言葉聞かれちゃった? あはは、ちょっと恥ずかしいなぁ」

 

アイはそう言って少しだけ照れた様子で笑った。先程までは母親の顔だったが、ここでは年頃の少女らしい無邪気な仕草だった。

 

コイツが天涯孤独の身だとはミヤコから聞いている。親を知らない、何よりまだ親が必要な年頃の奴が、何故そこまで本当の意味で母親になれるのか。自分の子供というのは、誰であろうと親にしてしまう力を秘めていると言うのか……? ……だが、それだとクソ親父は該当しない。だから俺には理解出来なかった。

 

「それにしても――3人とも無事に生まれてくれて良かった」

 

再びアイの顔が母親のそれに戻る。奴は俺に出産した当時の事を語り始めた。

 

「覚えてる……訳ないと思うけど。マリアはアクアやルビーより成長が遅くてさ、生まれた時は二人よりずぅっと体が小さかったんだよ? 三つ子だからアクアもルビーも普通の赤ちゃんよりは小さかったけど、マリアはそれ以上に小さかったなぁ」

 

俺が何故アクアとルビーより体格が小さいのか、その理由が明かされる。妊娠当時、奴の子宮は上の二人が大半を占有していた状態で、俺が大きく成長する余地が殆ど無かったという。多胎妊娠は胎児の生育環境が制限されやすいのは知ってたが、俺はその影響を諸に受けてしまったらしい。

 

「それでね? 生まれた後もマリアだけは全く泣いてくれなくて。脈もとても弱くて、何度呼び掛けても反応が無くて……私たちはすぐ引き離されて、マリアは治療室へ運ばれたの。……生まれてきたばかりなのに、もしかしたらこのまま死んじゃうんじゃないかって……そんな未来を想像して、凄く怖かった……」

 

アイは今にも泣きそうな表情で、より強く俺たち3人を抱き締める。それをしないと大事な子供が何処かへ行ってしまい、永遠に戻って来なくなるのではないかと。

 

(……そうか。だから意識が覚醒した後に、またすぐに意識が飛んじまってたのか)

 

俺は母体の中で十分に育たないまま生まれ、それ故に直後から危険な状態に陥っていた。最悪俺は訳も分からない内に、2度目の人生を終えていたのかもしれない。

 

「だから必ず帰ってくるって信じ続けた。嫌な事が沢山頭の中で流れ続けても、それでも。アクアとルビーと一緒に、信じ続けた。――”帰って来てね”って、信じ続けた」

 

同じだった。この辛そうな顔は、母さんに捨てられた後もその帰りを待ち続けた俺と……全く一緒だった。

 

(この女も、俺みたいな不安と恐怖に苛まれた事があったんだな……)

 

俺はアイの気持ちが痛い程理解出来た。両親に捨てられたと知った時の絶望は、俺にとっては計り知れないものだった。そして彼女が俺と同じ絶望を味わわずに済んだ事に、何故か心の底から安堵した。

 

「――そして君は無事に戻ってきて、こうして今も私の子供として生きている。きっと私たちの祈りが神様に届いたのかもしれないね。……この時に知ったんだ。君たち3人が元気に生きていく――それが私にとって、これ以上ない幸せなんだって」

 

アイは俺たち3人の頬にキスをした。俺はそれを拒否しようとは考えず、黙って受け入れた。

 

「だから何度でも言うよ――元気に育って下さい」

 

アイは俺等を抱き上げ、ソファーから立ち上がる。そのままビデオカメラに近付いて、その画面を家族4人でいっぱいにした。

 

「最後に改めまして。アクア、ルビー、マリア」

 

自らの子供たちの名前を一人ずつ呼び、ラストは画面へ向かって本日一番の笑顔を浮かべた。その時のアイの満面の笑顔と美しく輝く瞳の星を、俺はきっと忘れないだろう。

 

「お誕生日、おめでとう」

 

この理想的とも言える家族の姿が何時まで続くか分からない。先行きがあまりにも不明瞭過ぎて、やはり俺は完全に信用する事は出来なかった。

 

だが、それでも想像してしまう。成人した俺等と、30半ばにも拘わらず今に近い若さと美貌を保つアイが、一緒に酒を飲みながらこの動画を楽しく見ている光景が。そんな未来が訪れる事を俺は僅かに……期待してしまったようだ。

 

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