【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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38話

うちの名前は寿みなみ。大手事務所『キャノンファイヤ』でグラドルをやっとる女子中学生や。

 

あ、関西弁話してるから勘違いされやすいけど、これでも出身は神奈川やで。これは所謂……ノリ? まあ、よろしゅうなー。

 

現在、うち等は事務所が懇意にしとる某衣料メーカーから受けた仕事の為、神奈川県某所の浜辺へワゴン車で目指している最中だ。久々の帰郷やで〜。

 

「いよいよね、あの“アイ”に会える! 緊張してきたー」

「天上のお人ですもんね。撮影中もずっと平常心保ってらせるか心配やわー」

 

車内では彼の伝説のアイドルの話題で持ち切りやった。一緒にモデルをやるお姉さんだけやない、スタッフたちも”アイ”との共演に興奮を隠せなかった。

 

でも……

 

「うちは”アイ”よりも、この子の方が気になるわ」

 

取り出した資料に載っている少年の写真。……そう、実は少年なんやてこの子。あはは、はっきり言って今も信じられへん。だってお人形さんみたいやし、あの”アイ”に負けんくらいの美人さんで、何度見返しても見目麗しい女の子としか思えへんかったわ。

 

「どんな子やろうなぁ、楽しみやねー」

 

男の子の服も女の子の服も抜群に着こなし、ルックスも圧倒的。特に笑顔が凄くカワイイ事で知名度を上げてきてるモデルの美少年。

 

”天使王子”、星野マリアくん。君とは一度会って話してみたかったんや。

 

なんたって君は、うちの“推しの子”やからね。

 

 

 

 

 

おれの名前は星野マリア。

 

「かぐやさん、コレ……やっぱ女物の服なんですね……」

「貴方が今回の撮影に選ばれたという事は、そういう意味なのですよ。観念なさい」

「はーい……」

 

純白のキャミソールワンピースを渡され、『ここ最近男物より女物の方が増えてね?』、と訝しんでいるモデル兼中学3年生だ。

 

今のおれは某海水浴場でキャノンファイアの面々と合流した後、着替えやメイクの為に貸して貰った海の家にいる。相手事務所の共演者は先ほど到着して隣の家に入ったとの事で、まだ顔合わせはしていない。

 

因みにお兄ちゃんとお姉ちゃんはお留守番。久々に二人っきりだし、今頃はデートの真っ最中かもしれない。

 

「わ~、なんだよこの美少女……おれだけど」

 

ワンピースを着込み、ポニーテールを解いて緩くカーブを描く金髪が肩に触れる。そこへ鏡に映る男要素ゼロの自分の姿に溜息一つ。

 

女の恰好ばかりされられる事に思うところはあるが、今回は母さんとの共演。文句を言わず着替えて待機場所に戻った。

キャノンファイアから手伝いとして派遣された女性スタッフが数名待っており、彼女達から羨望の眼差しを受ける。

 

「うわー、マリアくん凄い綺麗ー。まるで妖精みたい! 髪もフワフワで柔らかそ~!」

 

まあ、褒められて悪い気はしないけどね。

 

「ありがとうございます。似合ってなかったらどうしようと思ってたので、安心しました」

 

清楚でちょっと大人っぽく、でも子供らしいあどけなさも残した少女……というコンセプトだ。

 

「いつも写真集見てるけど、これで男の子とか嘘でしょ……やっぱ性別偽ってる?」

「いやいや、本当に男ですって」

「あ、あとで一緒に写真撮って良いかな? 私の友達も君のファンなの!」

「はい、休憩中や撮影を終えてからでしたら構いませんよ?」

 

役者に必要なスキルはコミュ力。

 

幼少期に五反田がお兄ちゃんへ放った言葉だ。そしてそれは役者に限らず。

スタッフや他のタレントと仲を深めれば仕事の幅が増えるし、相手の知り合いを紹介して貰う事で人脈を広げられる。巡り巡って母さん達の躍進に繋げる為にも必要な事だ。

思わぬ形で芸能界デビューしたがラッキーだ。存分に活かさせて貰うとしよう。

 

「じゃあマリアくん。ちょっとだけお化粧するから此処に座ってくれるかな?」

「分かりました、お願いします」

 

勿論、そういう打算的な思惑以外にも単に仕事は楽しくやりたいから。少なくとも友好的に接してくる人達とは良好な関係を築きたいと思う。

 

(他人を駒として使い潰してきた半グレが、よくここまで変われたもんだなあ……)

 

それだけ感性や倫理観が親に捨てられる以前に戻ってきてるのだろう。もうおれはアウトローじゃない。”普通の人間”なんだと実感できる。

 

「お待たせしましたー! あっ、マリアくんすっごく綺麗! 良いところのお嬢様みたいだね!」

「アイさん、ありがとうございます」

 

顔に軽く化粧を施して貰っていると、其処へ水着に着替えた母さんも戻ってきた。

……30過ぎても母さんの美貌に陰りは無く、今でもアイドル体型のまま。10代後半の美少女にしか見えない。

 

「……」

「………」

「……」

 

空気が一変し、スタッフ達は恋心を抱いた乙女の如く無言で母さんを見詰める。皮肉にもこの状況を齎した当人は気付いてないが。

 

「あれ? 皆さん、どうかしましたか?」

「い、いえいえ!」

「あまりにも綺麗過ぎて……つい見惚れちゃいました!」

 

ただ現れただけ、それだけで自分に集中していた目線の全てを母さんに持ってかれた。他の追随を許さない、なんと圧倒的なオーラか。

悔しいが母さんの魅力は凄まじい。今のおれじゃ万に一つも勝ち目は無い。

 

(流石母さん、みーんな虜にしちゃったよ)

 

だが同時にそんな母が誇らしかった。誰もが目を奪われる完璧で究極のアイドル様は、今も健在だ。

 

「アイさん、お腹のメイクをさせて頂きますね?」

「よろしくおねがいしまーす♪」

 

メイクアップアーティストの女性が……母さんのお腹の傷跡を消しに入る。

上がっていた筈のテンションが次第に下がっていくのを感じた。

 

「…………」

 

何度見ても悲しくなる、後悔してしまう。あの事件で母さんが負った傷は一生消える事はない。仕事上お腹を露出する機会は多く、その度にメイクで傷を隠す手間を掛けなければならなくなった。

 

「あれ、どうしたのマリアくん? 急に元気がなくなったみたいだね?」

「えっと、何でもありませんよ、アイさん……」

 

視線に気付いた母さんが首を傾げる。それに対して即座に誤魔化すおれ。

 

「……気にしないで」

 

しかし母さんはおれが何を気にしているのか察し、優しく言葉を紡ぐ。

 

「私はこうしてみんなと一緒にいる事ができる。それだけで十分。今はとっても幸せだから……ね?」

「……はい、ありがとうございます」

 

それでも、あの時こうやっていたら……と思わずにはいられない。そんなおれの暗い気持ちを吹き飛ばそうと、メイクを終えた母さんが待っていたおれの手を取る。

 

「あ、アイさん……?」

「ほら行こうマリアくん! 相手の子達が待ってるよ!」

「わわっ、は、はいっ!」

 

おれは母さんに引っ張られ、外へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

砂浜にはミヤコさん含む苺プロとキャノンファイアのスタッフ陣に、かぐやさん達カメラマンやその助手達。そして――

 

「キャノンファイアの〇〇××です」

「同じく寿みなみと申します。本日は宜しくお願い致します」

 

「苺プロのアイです。此方こそ宜しくお願いします」

「同じく苺プロ所属の星野マリアです。お願い致します」

 

本日の共演者である、キャノンファイアのタレント2名が待っていた。

おれは麦わら帽子(これも某衣料メーカー製)を被ったまま、母さんに続いてペコリと頭を下げる。

 

(この子が寿みなみ……)

 

おれと同じ中学3年生の『寿みなみ』という少女。写真よりもずっと可愛らしい女の子に見える。実際、隣で母さんと挨拶を交わすモデルの女性よりもずっと上の容姿だ。

 

「――ん?」

「!?」

 

直後、寿と目が合った。母さんに揶揄われた所為で変に彼女を意識していたおれは、咄嗟に目線を下げてしまう。

 

……わー、おっぱい大きいなあ。何カップあるんだろう? スイカみたい……じゃなくてッ!

 

(何考えてんだよおれ!? これじゃまるで変態――)

 

「どうしたん?」

 

あれ、さっきより胸大きくなってない……? ――え、ちょ。

 

「ひゃっ!?」

 

思考の渦に陥っていると、何時の間にか寿がおれの目の前に立っていた。数刻遅れてそれを理解した瞬間、驚いて後退る。女子みたいな情けない悲鳴を添えて。お陰で周囲からの注目を浴びてしまった。

 

「だ、大丈夫かいな?」

「う、うん……ごめん、何でもないよ?」

「こっちこそジロジロ見てもうてゴメンなー。君、めちゃ美人やったもんで……」

 

向こうは勘違いしているようだが、まさか胸を見てましたなんて言える筈も無い。

取り敢えず元の位置に戻って姿勢を正すと、それを待っていたかのように寿が先に自己紹介を始めた。

 

「ほな、今言うたばかりやけど、寿みなみ言います。あの天使王子くんと一緒の仕事ができて光栄やね。よろしゅー」

「星野マリアです。こちらこそ宜しく。……失礼ですが、寿さんって関西の人ですか?」

「ううん、出身は神奈川や。この喋り方は何と言うか……ノリってやつ?」

 

まさかのエセ関西弁である。機嫌悪くするからネイティブの前では控えた方が良いだろう。

 

「それよか敬語は無しでええで? あと呼び方も下の名前で……折角同い年なんやし、君とはもっと仲良くしたいと思うとるから」

「分かった。じゃあ改めて宜しくね、みなみさん」

「うん、おおきにー!」

 

みなみとおれは両手で握手する。その時彼女が見せた笑顔はとても朗らかで、仄かな花の香りと合わせて柔らかな印象を抱かせる。

 

(優しい笑顔だなあ……)

 

不思議と己の胸が少し温かくなるのを感じた。

 

 

 

 

――どうでも良いけど、やっぱ背丈でおれ負けとるわ……




戸狩「おう、嬢ちゃん。そいつはエセ関西弁ってヤツやな?」
渋谷「本場もんの前では控えなはれ? 微妙に不自然過ぎて不愉快に感じるさかい」

みなみ「は、はい……(誰やこのオッサン達?)」
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