【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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かぐや様(な、なんなのあの子、おっぱいデカッ!!?  ――それに比べてワタシハ……)ペターン


39話

「ハーイ、撮リマスヨ~……」

 

「あのマリアくんの担当カメラマンさん……? どうしてうちを死んだ目で見とるんやろ?」

「さあ?」

 

何故か一人だけ重苦しい雰囲気のかぐやさんに小首を傾げつつも、予定通りに撮影を始めた。

 

指示通り砂浜と海のギリギリの境界線におれ達4人は立ち、各々異なるポーズを取る。

容赦なく照り付ける真夏の日差し、そして涼し気な海風と程良く冷えた海水が体に当たり、丁度良い快感を齎す。

 

(コレが終わったら次は一旦バラけて単独撮影か……)

 

共演とは銘打ってるものの2人以上で被写体になる回数は少ない。母さんの魅力を見れば分かると思うが、複数人で一緒に撮影するとオーラが最も強い人間に意識が向いてしまう為だ。そうなると他の被写体の、厳密には彼等の衣服を読者に見て貰えない。つまり、宣伝効果が薄くて満足に売り上げが出なくなる。

 

これは利益を求めるメーカー側からすれば面白くない。故に向こうからの意向で今のような撮影方式になったのだ。

 

「やっぱ母さん(アイさん)は凄いや」

 

そして間を置かずに単独撮影へ移行する。予想通りというべきか、母さんがおれ等4人の中で突出して魅力的だった。

 

「良いですよーアイさん、そのままそのまま~」

「はーい♪」

 

ネイビー色の水着にベージュの上着を羽織った姿で海の上に立つ母さんに、ミヤコやかぐやさん等一部を除く全員が恍惚とした顔で彼女に注目する。魅惑的な格好が大人の色っぽさと子供の無邪気さを両立させたような美貌と見事にマッチし、何より菫色の瞳に宿る真っ白な二つ星が、見る者に目を逸らすという選択肢を自らの意思で放棄させる。彼女が着ている服がバカ売れする未来は、ほぼ間違いなくやって来るかもしれない。

 

でも……

 

「ありがとうございますアイさん。次はみなみちゃんの番ですね」

「分かりましたー、宜しくお願いしますー」

 

今回ばかりは母さんよりも……みなみに興味を惹いた。

 

(恥ずかしくて目を逸らしたい筈なのに、それ以上にみなみが気になって目を離したくない……何故?)

 

みなみも十二分に綺麗でカワイイ女の子だけど、残念ながら母さんには未だ及ばない。それでも今のおれにとっては母さんよりずっと魅力的に映っていた。ホワイトベースのフリル付き水着が、それに拍車を掛ける。

 

(日差しを浴び過ぎた所為かな? ちょっと胸があったかい……)

 

家族以外に特別な意識を向ける。そんな初めて体験する感覚に、おれは戸惑わずにはいられなかった。

 

「――マリアくん?」

「え、あ、はいッ……!」

「ボーッとしてないで、次は貴方の番ですよ? 海の上に立って貰えますか?」

「わ、分かりました」

 

だが何時までもそうはしていられない。3人目の撮影も終わり、いよいよおれの順番が回ってきた。いけないいけない、今は仕事中だ。心を一旦空っぽにして、集中、集中っと。

 

「はーいマリアくーん。笑って笑って~!」

 

さて、おれは撮影で笑顔を要求された時、どんな事を考えてそれを出力しているでしょうか。

 

(……海か)

 

答えは簡単。楽しい事を考える。それだけ。

 

(今度は仕事じゃなくて、家族みんなでプライベートで行ってみよう)

 

じゃあ具体的にどんな事を想像しているかと言うと、大好きな家族と一緒に過ごしている光景だ。

 

水着姿で水を掛け合ってはしゃぐ母さんとお姉ちゃん。砂浜に敷いたシートに腰を下ろし、立てた日傘の下で難しい本を読むお兄ちゃん。其処へワンピースに着替え終えたおれが戻ってきて、3人に手招きされて合流する。その後は読書中のお兄ちゃんを横から覗き込んだり、母さんやお姉ちゃんに混ざって海水浴を堪能したり……

 

(きっと楽しいだろうなあ……)

 

するとホラ。嬉しくて、楽しくて、それらが柔らかな笑みとして顔から溢れてくるんだよね。少し強めの海風に帽子が飛ばされないよう両手で押さえつつ、キャミソールワンピースは風に揺らすがまま。そんなポーズでかぐやさんが構えるカメラのレンズに、ウインクしながら思った。

 

みんなで一緒に遊ぼうよと、そう目で訴えるかのように。 

【挿絵表示】

 

母さんと同じ、菫色の瞳に宿る綺羅星を輝かせて。

 

瞬間、誰もが目を奪われる。おれが海上に立った時点で熱を帯びていた視線が、より強いものへとなる。このまま仕事も何もかも放棄して、自分も遊びに参加したい。そんな欲求に駆られる者が出そうな勢いだ。

 

カメラから視線をずらして辺りを観察する。大半は惚気にも近い表情でおれを見詰める人間が多かったが、一部は違った反応を示していた。

母さんは慈愛に満ちた表情で。かぐやさんは不敵な笑みを溢してシャッターを切り。ミヤコは感心した様子で笑って。

 

そして――。

 

(マリアくん、凄いわぁ。どうやったらココまでみんなを虜にできるん?)

 

みなみは周囲の人達を見回して驚愕し、その後は興味津々な様子でおれを眺めていた。

 

……何故か彼女に見られていると思うと、ちょっと顔が熱くなる。

 

 

 

 

 

午前の撮影は恙なく終了し、お昼の時間を迎えた。

 

「はい、マリアくん」

「ありがとうございます」

 

おれはスタッフから弁当を受け取り、苺プロの休憩スペースに戻ってくる。其処には母さんにかぐやさん、ミヤコ。更には――。

 

「やっほー、マリアくーん」

「あれ、みなみさん。どうしたの、こんな所で?」

 

何故か3人と一緒にみなみもいて、弁当を柔らかそうな太腿に乗せて座っていた。キャノンファイアの待機場所なら少し離れた所にある筈だが、一体何故?

 

するとモジモジしながら言葉を紡ぐみなみ。少し緊張している?

 

「いやあ何て言うべきやろ……? ほら、マリアくんとちょっとお話したいと思うてなー」

「おれと……?」

 

途端に落ち着いてたおれの鼓動が早くなり、不思議と舞い上がりそうな錯覚を抱く。まるで向こうもおれに興味があった事に体が嬉しいと主張しているようだ。

 

「かぐやさん、かぐやさん。ちょっと……」

「――あら、妙案ですねアイさん」

 

母さんにかぐやさん? 二人だけでヒソヒソ話してどうしたんすか? ――って、ちょっと!?

 

「さあマリアくん、此処が空いてますからどうぞ?」

「そーれ♪」

「わひゃッ!?」

「え、え、何を!?」

 

無理矢理みなみの隣に座らせないでよ! ま、待って、くっ付きそう、くっ付きそうだってば……! ほら、みなみも困惑してるじゃないか!

 

「ねえミヤコさーん、私たちは別の所でお昼を食べようよ~!」

「……ふむ、そうね。ここは若い子同士の方が話も弾むでしょうし、行きましょうか」

「待ってよ3人とも、何処行くの!?」

「いやあ良い機会だし、邪魔したら悪いなあって思ってね♪」

 

引き留めようとするおれを軽くいなすと、母さんがみなみへコッソリ耳打ちする。――えーと、近くにおれが座ってるからバッチリ聞こえてるんですが……

 

「みなみちゃん頑張れ☆ 応援してるよー」

「え」

 

一瞬フリーズしたみなみだったが、台詞の意味を理解した途端慌てふためく。

 

「――いやいやアイさん!? うち、そういう意味で此処へ来たんじゃなくて!」

 

母さん!? 何故良い事したって顔してんの!? 息子の恋の成就を後押しできたとか、そんな感じ!? ちょ、ちょっと待っててば……!

 

「行ってもうたわ……」

 

母さん達が去った後、おれとみなみだけがポツンと残された。

 

うぅ、母さんと一緒に昼ご飯食べたかったのに……いや、今はそれよりも。

 

「なんかゴメン、みなみさん。おれの事務所の人たちが迷惑掛けちゃってさ」

「ええよ、気にしとらんから。この際やし、ご飯食べながらお話しようか?」

「そ、そうだね」

 

全く母さん達ったら、余計に平常心を保てなくなっちゃったじゃない。さっきの事でみなみもコッチを妙に意識してるっぽいし……チラチラ横目で見てきて、明らかに落ち着きを失ってるし……

 

(だからってこの場から離れたら彼女に失礼だ……もうこの気まずい中で一緒に過ごすしかないじゃん……)

 

こんなに美味しそうな弁当も、今は緊張で喉を通れるか自信無いよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――良いから金寄越しやがれ! 生活費がねえって言ってるだろうが……!!!」

 

「ひ、ひぃいいい!! やめてくれグベッ!!」

 

その頃……

 

「ぐかかかか……」

 

「おぉ、結構持ってンじゃねえか」

 

真夏に真冬の恰好という、あまりにも季節外れな姿をしている巨漢が奪った財布を物色していた。元の持ち主は彼の前で血塗れで地面に転がっており、その近くにいる2人の人間も似たような状態だ。

 

「合計30万。これで暫くはマシな暮らしが出来そうだぜ」

 

偶然危ない草の匂いを感じ取った男はとあるアパートに押し入り、其処で見るからに違法な植物を栽培している半グレ共を捉えた。突然の侵入者に無論連中は襲い掛かったが、大男の力はあまりにも常軌を逸していた。

 

荒事に慣れている筈の半グレ達は全員外に放り投げられ、顔が腫れ上がる程にぶん殴られた。その後、大男は全滅させた連中に容赦なく金を要求し、抵抗した相手の顔面をアスファルトに叩き付けてから財布を奪う。その行為には罪悪感や躊躇といった、およそ人間が当たり前に持つべき価値観が完全に欠落しているように見られた。

 

「……そういや此処は海に近かったな」

 

潮の匂いに鼻をくすぐられた大男は、少し離れた場所にある海へ視線を向ける。

 

「折角だ。泳ぎにでも行くか」

 

そして3人の半グレを軽々と抱え、アパート前に駐車中の軽自動車まで連れて行く。

 

「この車はお前等のだろ? 海に遊びに行きてエから運転しろ」

「え……で、でもこれは俺等の車じゃ」

 

実はこの車は別の人間の持ち物。故に半グレ達は鍵すら持っていない。

 

「グダグダうるせえッ!! 俺の都合も考えろッ!!!」

 

「あがあああああ!!!?」

 

しかし狂人には至極真っ当な反論すら通用しない。意見しようとした一人は車のサイドガラスに容赦なく叩き付けられ、その勢いでガラスが粉々に砕け散る。車内に頭を突っ込んだまま痙攣する仲間を目の当たりにした他2人は背筋が凍り、悲鳴すら上げられない。

 

「お、中に鍵あったぞ。ラッキー」

 

意識を飛ばした男を車から引き剥がした巨漢は、運良く車内に転がっていたキーを発見する。それは残る半グレ達にとっては死刑宣告にも似た事実だった。何で鍵を置きっぱにしてるんだよこの車の持ち主は、と。まあ鍵が無かったところで悲惨な結果は変わらなかっただろうが。

 

「おい、鍵があったぞ。運転しろ。――それともコイツみたいになりてエのか?」

 

「い、いえいえ!」

「運転させて頂きます……!」

 

拒否権なんて無かった。半グレ達は満身創痍の仲間を放置せざるを得ず、巨漢に言われるがまま海辺へ車を飛ばすのだった。

 

 

 

 

――そう、途轍もない脅威がおれ達に迫っていたのだ。

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