【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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第一戦:かぐや様VS肉蝮


41話

――肉蝮(にくまむし)

 

前世にて羅威刃と深き因縁を持つ最凶のチンピラ。カツアゲ目的で構成員を次々と襲い、俺達は奴と幾度も殺し合いを繰り広げるも遂に倒せなかった。

 

コンクリ付きのバールを手拭いのように片手で回し、人間すら砲弾の如く投擲する常人離れのパワー。ドスで刺そうが100㎞近いスピードの車で轢こうがピンピンしている圧倒的タフネス。俺が遭遇してきた中でもダントツのフィジカルモンスターだ。

 

しかし何よりもヤバいのは、己を律せず欲望のままに生きる狂暴性と残虐性。このまま奴の近くにいるのは非常に危険だった。何時誰が目を付けられ、理不尽を強いられるか分かったもんじゃない。

 

俺は肉蝮の一挙一動を睨むように観察しつつ、母さんやスタッフのみんなに逃げるよう叫ぶも。

 

「おらよ……」

 

その前に、奴が空高く跳躍した。着地先は――

 

「とッ!」

 

「「ぐああああああッ!!!」」

 

折り重なるように倒れる半グレ2人だ。超重量物の衝突音と半グレ共の断末魔。周囲に立ち込める砂煙。それが晴れると砂浜に体を沈めた男達と、連中を満足そうに見下ろす肉蝮の光景。

 

(おいおい、今ので背骨折れちまったんじゃねえのか?)

 

アウトローとはいえ、あんな怪物に目を付けられちまうとはな……流石の俺も同情した。

 

「おし、こンだけ埋もれりゃあもう逃げられねえだろ」

 

相変わらず狂った野郎だ。半グレ共を躊躇なく重体にし、得意気に笑う様は裏の人間視点でも異常過ぎた。滅茶苦茶だ、イカれてやがる。

 

「………」

「…………」

 

「……あ? 何だお前等、見せもんじゃねえぞ?」

 

肉蝮が周囲にいるスタッフ達を見回す。奴のあまりにも人間離れした動きと凶行に彼ら彼女らの脳は処理が追い付けず、結果その場で黙って立ち尽くす者が殆どだった。いや逃げろよアンタ等。

 

「んぁ、なんだありゃ? カメラがいっぱいあるな」

 

そんな置き物みたいな状態の人間達よりも、少し離れた場所に停車してあったワゴン車――正確にはその中に保管されている撮影機材に興味を移す。つい先程物理的に潰した眼下の半グレ共すら、あっさり忘れて。

 

「どれもこれも高そうだなあ。その格好といい、お前ら撮影の真っ最中だったのか? ……ちっ、んだよ鍵が掛かってやがる」

「あ、ちょっと! 何してるんだよアンタ!」

 

車に近付き、中の機材を物色しようと扉に手を掛ける肉蝮。残念ながら鍵が掛かって開く事はなく、車全体をガタガタと揺らす。其処へ硬直していた1人の男性スタッフが再起動し、奴を咎めようとする。

 

「おい止めろ! そいつから離れるんだ……!」

 

当然、注意なぞに耳を貸すような男じゃない。寧ろ邪魔するなど悪手だ。即座に警告を発した俺だったが、

 

「おっ、気が効くなぁお前! 鍵代わりに丁度良い」

「へ?」

 

それよりも早くスタッフの頭部を掴み、

 

「おらぁッ!!!」

 

「ぎゃあああああああああああッ!!!?」

 

扉のガラスへ猛烈なスピードで叩き付けた。木っ端微塵に砕けるガラス。あまりの衝撃に大きく歪んだ扉。そして男性の断末魔。彼の血が飛び散り、車や砂浜に赤い染みが作られた。

 

「きゃああああああ!!」

 

一人の女性スタッフの悲鳴を皮切りに、あたりは騒然となる。

 

「~♪」

 

そんな喧騒も何処吹く風、肉蝮は鼻唄混じりに車内の機材を取り出し弄くり回す。その様子を見て誰もが奴のイカれっぷりを理解させられる。話の通じない猛獣だと。

 

「……あぁん?」

 

そして猛獣は別の物事に関心を寄せる。奴の瞳に映るはモデルやスタッフの女性達ばかり。直後に鋭い歯を見せ付けるように口角を上げる。

 

「なんだ、よく見たら良い女だらけじゃねえか。選り取り見取りだぜ」

 

……思い出した。確かコイツは数多の女性を手に掛けたレイプ魔で、その罪で何度も刑務所行きになった前科者である事を。

 

「――よぉしお前等、全員俺が遊んでやらぁ」

 

獲物を捉えた肉食獣のような目。母さん以外の女性陣で肉蝮の意図を理解できない者は一人もいなかった。

 

この化け物は今から自分達を凌辱する気だと、誰もが顔面蒼白になる中……

 

 

 

 

 

「――でしたら最初に私と遊びましょうか?」

 

「ぐおッ!!?」

 

「かぐやさん……!!」

 

強烈な跳び蹴りを肉蝮の側頭部に喰らわせる人物――かぐやだ。騒ぎを聞いて駆け付けたらしい。

 

「このアマぁあああああああ!!!」

「フンッ!」

 

一瞬で頭に血が上り、空気を震わせ咆哮する肉蝮。即座に巨岩のような拳を突き出すも、最小限の動きで華麗に躱される。武術を会得してるだけあって攻撃も回避も無駄が全く見られない。

 

「膂力は相当ですが、俊敏さは今ひとつのようですね。ケダモノさん?」

「うるせえ、何が遊んでやるだッ!? テメエみてえな絶壁はお呼びじゃねえんだよ!!」

 

 

は???

 

 

ゴゴゴ……という効果音を耳にする。かぐやから。周囲の人間も肉蝮より彼女にビビっている。

 

「もっとグラマスになってから出直して来いッ、貧乳女!!」

 

更なる禁句と同時に、持っていたカメラをかぐやへ投げ付ける肉蝮。だが当然そんな物が当たる筈もなく、あっさり回避されてしまう。……あぁ、高そうなカメラが地面にぶつかってバラバラに。

 

「あらあらぁ、女性に対するデリカシーすら持ち合わせてないとは。……これは徹底的に教育して差し上げませんと」

「喧しい!! 女は黙って俺にケツ突き出しときゃ良いんだよ!!」

「……トコトンお下品な事」

 

かぐやの真紅の瞳が怪しく光り、全身からは赤黒いオーラが放たれる。コンプレックスを刺激されて怒りのボルテージが急上昇したようだ。上品な言葉使いとは裏腹に、凄まじい威圧感である。

 

「何をしてるのです!」

 

その勢いのまま未だに避難しようとしない俺達に声を発する。威厳に満ちているが、それでいて非常に透き通った声が周りに響く。

 

「この男は私が引き受けます! 皆さんは怪我人を連れて此処から離脱し、警察と救急車を!」

 

宛ら女王の如し。誰もが彼女の指示に異論を唱える事なく、慌てながらも動き出す。男性陣は一部が大怪我した男性スタッフと半グレ達を抱え、残りが女性陣を先に肉蝮から逃す。

 

「行こうアイ! ミヤコもボウっとしてないで!」

「えぇ! アイ、立ちなさい!」

「で、でもかぐやさんが……!」

「あぁ見えてあの人は武術の達人だ! きっと問題ない!」

 

とは言うものの、相手は肉蝮だ。例えかぐやでも持ち堪えられるかどうか……母さんたちを安全圏まで逃がしたら、俺も参戦しなくては。

 

「おいテメエ等、誰に断って俺から離れようとしてんだ……?」

 

離脱しようとする俺達をギロリと睨み付けた肉蝮は、ひしゃげた車の扉を片手で軽々と引っぺがし、

 

「逃げんじゃねえ!!」

 

まるで手裏剣のように投げ付けようとしてくる。あんな物が当たったら怪我どころじゃない。

 

「この私がそれを許すとお思いで?」

「ぐッ……!?」

 

だが、それもかぐやが近場にあったパラソルで奴の腕を突き、強制的に中断させる。

 

「邪魔ばっかしやがって! テメエから先に潰してやるよ!!」

「大振り、そんなものが当たりますか!」

 

肉蝮は最優先目標を逃げる女性陣からかぐやへ変更。持っている扉で彼女をペシャンコにしようとするが、これも紙一重で回避される。

 

「ヒラヒラ避けやがって、紙みてえな奴だな……グシャグシャに丸めてゴミ箱にポイしてやる」

「やってご覧なさい、返り討ちにして差し上げますわ」

 

両者一瞬の睨み合いの後、砂煙を舞上げ激しく衝突した。

 

 

 

 

 

「此処まで離れれば良いか。アイ、怪我は?」

「うん、大丈夫だよ」

 

そしてかぐやが肉蝮の相手をしている隙に、俺は母さん達の避難を終わらせた。百メートル先、海の家が立ち並ぶ浜辺に連続で立ち上る砂煙。それが激しい戦いを物語っている。

 

(グズグズしてられねえ。急いで援護に向かわないと)

 

其処へ慌てた様子で駆け寄ってくる一人の女性。キャノンファイアのスタッフだ。

 

「すいません! こっちでみなみちゃんを見掛けませんでしたか!?」

 

彼女はみなみの行方を探していた。俺がみなみと一緒にいたのは周りの連中も知っていたので、尋ねに来たのだろう。

 

「みなみなら、さっきジュースを買いに行くって――」

 

そこで俺はハッとなり、勢いよく戦場へ首を振る。

 

「まずい……」

「マリア……?」

 

首筋を一滴の汗が伝う感覚。

 

恐らくみなみは今回の騒ぎをまだ知らない。俺達が食事した場所に戻ってくるとなれば、あの怪物と鉢合わせてしまう。奴にロリコンの気があるかどうかは知らないが、そも奴は大量レイプ魔。最悪も事態も在り得る。

 

「みんな、此処から絶対に動くな! ちょっとみなみを迎えに行って来るから!!」

「ちょっと、待ちなさい!」

「マリア、行っちゃダメッ……!!」

 

呼び止める母さんとミヤコを背に、俺は元来た道を全力疾走した。

 

 

 

 

 

「――単純過ぎ、欠伸が出るわね」

「ぬぅ、ちょこまかとネズミかテメエ! 全身の骨粉々になれッ!!」

「だから無駄だと言ってるでしょうに……フンッ!!」

「がほぁッ!!?」

 

車の扉を片手で振り回す肉蝮の攻撃を華麗に避け続け、その度に出来た隙を突いて頭部や腹に蹴りを繰り出すかぐや。

 

「あぁあああああ、クソ鬱陶しい!! 壁みてえな胸の癖に舐めやがって……!!」

「さっきから壁だの貧乳だの! ホント失礼な男ね……!!」

 

(まだ倒れないなんて、どれだけ頑丈なのよコイツ!)

 

しかし肉蝮の桁外れの耐久力を前に攻めあぐねていた。高校時代より数多の武芸に秀でていた彼女だが、社会人になった後も親友兼元侍従(何故か声が俺と似ているらしい)や一番下の兄に鍛えられ続け、相当なパワーアップをしている。だが、それを持ってしても奴の防御の壁を突破できないでいた。

 

「事実を言って何が悪い!! テメエじゃ俺を満足させられねえんだよ! もっと肉付きの良い女連れて来い!!」

「お生憎様、私の夫は毎夜私で大満足してらっしゃいますわ」

「あ? 趣味の悪ぃ野郎だなソイツ。目が節穴なんじゃねえのか?」

「……私の体どころか最愛の主人まで侮辱するとは。もう容赦しないわ!!」

 

怪物の頭部へ更なる一撃。その並のチンピラなら一撃でノックアウトな打撃も、せいぜい怯ませる程度。すぐに強烈な反撃が飛ぶ。

 

「おらぁ、上下真っ二つになれやぁ!!」

「ちぃッ……!」

 

今度は扉を水平にして、まるで剣のように横凪ぐ。突然の攻撃パターンの変更に少し反応が遅れたかぐやだったが、バックステップで辛うじて躱してみせる。近場にあったウッドデッキの手摺が綺麗に切断された様子に、流石の彼女も息を呑んだ。

 

「相当どころじゃない、なんて常人離れしたパワーなの? 当たったら最悪即死ね……」

 

こんな化け物を他の所へ行かせる訳にはいかない。しかし、純粋な力ではまるで勝負にならない。ならどうするか……?

 

「胸だけじゃなく全身壁になれぇ!!」

 

となれば攻略方法は時間稼ぎしかない。

 

「同じ手が通用するとでも!? 転びなさい!」

「うおっ!?」

 

肉蝮が扉を両手で大きく振り上げた瞬間、ガラ空きになった懐へかぐやは肉薄する。そして奴が振り下ろす力を利用し、前方へ向けて1回転半させた。

 

「ぐへはッ……!!」

 

肉蝮は受け身も取れず、砂浜に全身を叩き付ける。顔に至っては先に地面に落ちた扉と正面衝突だ。

 

「やはり凄まじいパワーですね。合気道との相性が良い」

 

警察が到着するまでの僅かな時間、かぐやは己が最も得意とする柔術により肉蝮を翻弄する事に決めた。わざわざ倒さなくても、応援が来れば実質彼女の勝利となるからだ。

 

しかし、そんな彼女を想定外が襲う。

 

 

 

「――マーくん、お待た……え、何やこの状況?」

 

 

 

そう。何も知らないみなみがドリンクを抱えて戻ってきてしまったのだ。

 

「何してるの……!? 此処から逃げなさい!!」

「え、何、どういう事……?」

 

慌てて警告を発するかぐやにみなみは困惑しかできない。

 

そしてそれは奴に対して大きな隙となった。

 

「きゃっ!?」

「お姉さん!!」

「……つーかまえた♪」

 

肉蝮に脚を掴まれたかぐやは逆さまのまま宙ぶらりんにされる。奴は鬱陶しいコバエをやっと確保できた事が嬉し過ぎて、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「くっ、放せ、ケダモノ!!」

「知ってるか? ス○ブラで○リオが使う技」

 

かぐやの声を無視し、肉蝮は彼女の両脚を両手で掴む。そして自らを軸にして、コマのように回転を始めた。

 

「ぶーん、ぶーん、ぶーん♪」

「うわあああああああああああ!!!」

 

強烈な遠心力がかぐやを襲う。脳が激しくシェイクされ、意識が飛び掛けようとした刹那、

 

「壁が飛ぶ~♪」

「きゃあああああああ!!?」

 

変な替え歌が終わるのに合わせて彼方へぶん投げられた。彼女は松林の中へ吸い込まれていき、

 

「がはッ……!!?」

 

松の木に叩き付けられて気を失った。

 

「お、お姉さん……」

 

その一部始終を目撃したみなみは顔面蒼白、全身が震える。

 

「おい」

「ひ」

 

当然、かぐやが無力化されれば近くにいたみなみに標的が変わる。自らを陰で覆い尽くす程の巨漢に正面から見下ろされたみなみは金縛り状態になり、抱えていたペットボトルと落とした。

 

「んだよ、まだ餓鬼か? ふーん……だが体は大人顔負けのエロボディじゃねえか」

 

舐めるような視線が全身のありとあらゆる場所に突き刺さる。みなみは理解する。この男は凌辱の対象として自分を品定めしているのだと。

 

「よし、特別にお前で遊んでやる」

「あ……あ……」

 

そして今、女性としての尊厳を踏み躙られる未来が確定する。変わらず自分を獲物として捉え続ける獣欲に満ちた目。逆らえばかぐやみたいに痛め付けられるだろう。みなみは絶望と恐怖で涙を溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、何なんやこの人……? 怖いよ……。

 

嫌や、誰か助けて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだロリコン野郎!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐばッ!!?」

 

その時、目前の少女に意識を向けるあまり警戒を怠った魔獣は、後頭部に凄まじい蹴りを許す事となった。

 

「マーくん……?」

 

純白のワンピースに身を包んだ、少女と見紛う小柄な少年。まるで聖女のように清楚で神秘的な美しさを感じさせる。

 

「みなみ、大丈夫か?」

 

”天使”のように舞い降りた”王子”に、その瞳の中で輝く白き双子星に、少女は心奪われた。

 




髪下ろしマリアは金髪に染めたコッコロに近い外見です(尚性別)。
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