【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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最新136話読了。本当のアイが垣間見えた事で、彼女はより城ヶ崎と似ている人間だと思いました。

親に裏切られ、捨てられ。もう誰も信用出来なくて、みんな大嫌いだった。でも独りぼっちは嫌で、本当は愛されたかった。本作11話でマリア(城ヶ崎)の悲痛な叫びを正面から受けたアイは、きっと自分の幼少期やニノに拒絶された時の姿と重なって映った筈です。

そんな似た者同士な城ヶ崎とアイの唯一違う点。それは愛されるような事をしてきたか否かです。
アイは自身の苦しみを奥底に押し込み、アイドルとして大勢に(嘘でも)愛情を振り撒く事で愛されようと頑張ってきました。
対する城ヶ崎は他人を暴力で支配し、奪う行為を繰り返してきました。私にはこの部分が八つ当たりをしていると同時に、自分を愛してくれる誰かを手元に置いておきたかったようにも見えます。無論、こんな事をしても愛して貰える筈がありません。寧ろ憎まれ、恨まれる一方です。

根底の願いは同じでも、正反対の道を進んだ二人。その末路も正反対となってしまったのは、ある意味当然だったと思います。

もしアイが己の不満を他人にぶつける行為へ走ってしまえば、おそらく城ヶ崎程ではないにしろ、悲しい結末を迎えていたかもしれません。


前置きが長くなりましたが、マリアVS肉蝮(後半戦)です。どうぞ。


43話

さて啖呵を切ったは良いものの、残念ながら戦闘力……特にパワーやタフネスは未だ全盛期に届いていない。眼前の怪物はその時点すら殺しきれなかった強敵。倒すのは非常に困難だろう。

 

「今日がテメエの命日だ小娘! あのモヤシ野郎と関わった事をあの世で後悔するんだなッ!」

「だから城ヶ崎って野郎と俺は無関係つってんだろうが」

 

唯一前世より今が優れている点は、小柄で華奢な体格から生まれたスピードのみ。幸い俺が居る場所は松林の中。環境を味方に奴を翻弄し、道具なり何なりで人体の弱点を突く。これを警察の到着まで繰り返す事が現状における最善手。

 

「もう一度視界を奪ってやるから大人しくしとけ」

「ぐおッ……!?」

 

高速で迫る肉蝮の顔に、素足で蹴り上げた砂をお見舞いする。諸にそれを受けた奴は目に走る激痛で動きを鈍らせた。

 

「また目潰しか! 小賢しい真似しやがって……!!」

「どんな手も使う。それが戦いってもんだろ?」

 

俺は駆け出し、一瞬で奴の間合いに入る。近くに捨てられていた壊れた傘を片手に。

 

「その声もさっきから耳障りなんだよ。一旦声帯潰れてろ」

「ごぼぉ!!?」

 

殺しはしないが手加減もしない。それをやって無力化できるような相手ではない故、容赦なく傘の先端で喉に強い衝撃を与えてやった。

 

「この餓鬼ぁ! テメエこそ全身潰れてろ!!」

「あっぶね……!!」

 

視界を一時的に失い、喉を突かれて咳込みながらも頭上から剛腕を振り下ろす肉蝮。紙一重で躱した際に肌で感じた衝撃波。直撃すれば大ダメージは必須だ。

 

「掠っただけでもヤバいねこれぇ……!」

 

奴の攻撃は絶対に当たってはダメだ。暫くまともに動けなくなる。そうなったら捕らえられ、一方的な殺戮劇になる可能性が高い。

 

「モヤシ眼鏡と同じやり方で地獄に落としてやるよ」

「いや、何処から出してきたんだよそれ?」

 

いつの間にか肉蝮はコンクリの付いたバールを2本も握っていた。一本でも相当な重量なのに、それを二刀流の刀のように軽々と振り回してくる。

 

「骨という骨を木っ端微塵だ!」

「うぉっと……!?」

 

大重量物が雷のように振り下ろされる攻撃を後ろに飛んで躱す。多少機動力が落ちたようだが、それでも前回衝突した時よりずっと速い。バールのリーチを読んでなかったらヤバかった。

 

「素人が……そんなもんで俺を仕留めれるかよ!」

 

とはいえ、奴は京極組の六車謙信のような剣術の達人ではない。ただ闇雲に2本の得物を振り回してるだけなので動きは単調。次の攻撃を予測しやすいのが幸いか。今もこうして2本同時に振り下ろして盛大な隙を生んじまってる。

 

「よっと」

「うおっ!?」

 

すかさず肉蝮の巨木のような太い腕に飛び乗り、続けてもう一度大ジャンプ。両足を揃えて奴の頭頂部を狙い撃つ。

 

「地中に沈んどけ」

「ごおおおおおッ!!」

 

天空から全体重を乗せた一撃。そこそこ効いたようで、さっきよりも声が荒く大きい。

 

「舐めんなよ小娘ぇ……」

 

ただやはりと言うか、すぐに態勢を立て直してくる。俺は奴の頭部を踏み台に再び跳び上がり、追撃が来る前に距離を稼ぐが、

 

「叩き落してやるッ!!」

「イッ!?」

 

片方のバールが飛翔中の俺目掛けて投擲される。精密な対空攻撃だ。避けるのはまず不可能だろう。咄嗟に俺は持っている傘を自身とバールの間に滑り込ませる。

 

「くっそッ、耐えてくれよ……!」

 

直後にバールのコンクリ部分と傘が衝突。バキバキという嫌な音と共に傘は一瞬でへし折れ、そのまま俺の胴体側面に直撃した。

 

「がはッ……!?」

 

傘が間に入った事で幾分か和らいだ衝撃は、それでも華奢な身体を激しく揺さぶった。腹の中に溜まった空気を強制的に吐き出されながらも、俺は勢いを利用して肉蝮から離れた場所へ綺麗に着地してみせた。

 

「マーくん……!」

「大丈夫だ! 大した事はねえから!」

 

攻撃を喰らう一部始終を見てみなみが叫ぶ。俺は彼女に問題ない旨を伝えながら、飛び掛かってくる肉蝮から目を離さない。

 

「隙ありだ! 盛大に死ねえ!!」

「今ので隙を作ったつもりかよ、御目出度い頭しやがって……!」

「ちいッ!!」

 

突き出されたバールが至近に迫った直前に体を沈めて回避。そのまま肉蝮の開いた両脚の間に滑り込んで後ろに回り、折れて鋭くなった傘の先端をアキレス腱目掛けてぶっ刺した。

 

「一旦足に穴開けとけよ」

「ぐおッ!!?」

 

よし、流石に足へのダメージはそれなりに通じるようだ。動きが更に鈍化しやがった。

 

「もう一方の足もお揃いにしてやる」

 

すかさず俺は追撃を繰り出す。この攻撃が上手くいけば奴は倒れるだろう。

 

「テメエも視力を失っとけ、モヤシ小娘ぇ!!」

「ぐっ、う……!!?」

 

――そう思うのは楽観的過ぎたらしい。肉蝮はバールを大地に叩き付け、立ち上った砂を俺の顔面に叩き付けてきやがった。地面に寝そべっているような状態の相手に砂掛けは効果抜群で、砂の入った両目からの激痛で奴を視界に捉えられなくなる。いってえな、もう……

 

「今度こそチェックメイトだ!」

「まだ終わんねえよロリコン野郎!」

 

だが他の感覚は健在だ。気配や音、肌で奴の居所を再特定し、バールが叩き付けられるタイミングを読んで徐々に後ろへと下がっていく。

 

「クソが、何で当たらねえ!?」

「一流の戦闘者は目潰しを受けた場合の対処も得意なんだ、よッ!」

 

一行に当たらない状況に声を荒げて追撃を続ける肉蝮と、それを全て避けつつ少しずつ後方へ移動する俺。必然的に奴も俺を追って前進と攻撃を繰り返す。

 

やがて――。

 

ガッ!

 

「あ」

 

何かを抉る鈍い音と、怪物の間抜けな声。

俺を殺す事に夢中になっていた肉蝮は、振り回したバールを俺の後ろに立つ巨木にぶつけてしまう。バールは木の幹に深くめり込み、引き抜きまでの間に大きな隙を作ってしまった。

 

「馬鹿が、もっと周りを意識しろってんだ」

 

戦闘のプロは環境も利用する。当然の事だ。

 

「ほら、バールから手放さねえと危ねえんじゃねえか?」

「いってえ!!? やりやがったなテメエ……!?」

 

反応が遅れた肉蝮は傘による突きをもう片方の足に受ける。漸く視力が回復した目で確認すると、バールを諦めて後方に退避した奴の姿が。両足首から出血し、足元付近のズボンが赤く染まっていた。常人ならとっくに激痛で立っていられない筈のダメージ。

 

「この服お気に入りだったのによぉ……テメエの財布からクリーニング代を貰うからな」

「……何で平気そうなんだよ? 痛覚ねえのかテメエは」

 

しかし、それでも全く倒れない。最早うんざりしかねない程に非常識なタフネスである。

 

「言っとくが、もう同じ手は通じねえぞ。木に隠れても無駄だ、纏めて叩切ってやる」

「……はったりじゃなさそうだな」

 

目が濁ってない、マジらしいね。奴は回収した車のドアを持つ手に力を籠め、ドアはメキメキと嫌な音を立てていた。そして一瞬も目を離すまいと、此方を磁石のようにピッタリと捉え続けてやがる。

 

(警察は……まだサイレンが聞こえてこない。だがすぐ其処まで来てる筈だ)

 

通報から到着まで考えればあと2~3分程度。これでも肉蝮が俺を倒してみなみ達を襲うまで十分な時間だ。出来れば野郎にはこのまま俺と牽制し合って欲しいところだが……

 

「――なあ、軍艦がミサイルを撃ち落とす時よぉ、どうやるかテメエ知ってるか?」

「まあ大人しく待ってはくれねえか……何だと?」

 

急に話題を振られた俺は嫌な予感がした。急いで身構えた瞬間、肉蝮が扉の一部をバキッと折った。何を……?

 

「弾幕と破片効果で……撃ち落とすんだよ!!」

「っ!!?」

 

そう言って扉の破片を俺目掛けて投げ付けてきやがった。質量が軽いからか速い。新幹線並みかもしれねえ。即座に躱した俺だったが、外れた破片が後ろの木を貫通する様子に驚愕する。

 

「マジかよ、なんて威力だ!」

「おら次々いくぞ! 下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるだ!」

「な、テメエ……!?」

 

肉蝮は破片を作っては投げる動作を高速で繰り出してきた。1発を避けてでもすぐに次が目前に迫ってくる為、集中力を上げて被弾しないように努める。

 

「だが慣れれば大した事はないな! 所詮単発から連射になっただけだ。この程度で俺を捉えられると思ってんのかよ?」

「だったらコイツはどうだ?」

 

全弾回避しながら反撃のタイミングを窺っていると、肉蝮が攻撃パターンを変更してきた。ガラスの破片を握りしめて粉々にし、散弾銃の如く放つ。流石にこれは避け切れないと判断。顔を両腕で覆ってガードする。

 

「いてて! クソ、この美顔を傷付けてんじゃねえよ……!」

 

数発のガラス片が腕を掠る。直撃からの貫通がなかったのは不幸中の幸いか。切り傷から多少の出血はあるが、まだまだ戦えそうだ。

 

(一旦障害物に隠れた方が良さそうだ……)

 

俺は弾幕から逃れる為、一旦みなみ達がいる公衆便所の影に隠れようと走り出した―――――が、

 

「ッ!!?」

 

突如右足から発生した激痛により転倒してしまった。

 

「い゛、あ゛! なに、が……?」

 

熱を帯びた痛みに歯を喰いしばって耐えつつ観察すると、さっき肉蝮が投げたガラス片の一部が足裏に深々と刺さっていた。

 

「こ、コイツ。まさか……」

「――やっと止まりやがった」

 

ゆっくりとした足取りで近付いて来る肉蝮。奴はまるで仕掛けたトラップに獲物が掛かって喜ぶ狩人のように笑っていた。

 

「俺に投げ付けるように見せかけて、地面にまきびしみたいにバラ撒いてやがったのか……俺が動く過程で破片を踏んづける事を見越して……」

「テメエが靴を履いてないのを見て思い付いた。さっきの攻撃がどんな副次的効果を生むのか考えなかったのかよ? ――裸足だったのが仇になっちまったな?」

「……チッ、靴くらい履いときゃ良かった」

 

しくった。敵の攻撃を意識し過ぎてその辺を見落とすとか、全盛期だったら絶対にやらないミスを犯しちまうなんて。何よりコイツにそこまでの知恵が回る事を、俺は想定してなかった。肉蝮は単なるフィジカルモンスターではない、頭も回る厄介な怪物だと。

 

「マーくん、大丈夫!?」

「み、みなみ!? こっち来んな、隠れてろ!」

 

其処へ血相変えたみなみが物陰から飛び出し、俺の側に駆け寄る。おいおい、蝮野郎はお前も狙ってんだぞ!

 

「そういう訳にもいかへん! 足怪我して歩けへんのやろ? うちが向こうまで引っ張てくから逃げるで!」

「……無理だ。奴の方が速い。追い付かれちまう。お前とかぐやだけでもここから離れるんだ」

「マーくんを置いて行くなんて出来る訳ないやん! 殺されてまうよ! それに、うちを守る為に怪我したようなもんやないか! ほんまゴメンな!」

「良いから、俺の事は放っといて逃げろ! お前が酷い目に遭ったらそれこそ俺の努力が無駄になるだろうが、んな事も分かんねえのか……!」

「嫌や! 絶対に見捨てへん!」

 

俺が語気を強めて離れるよう促すも、みなみは聞く耳持たずで俺の体を引き摺って行く。しかし肉蝮の方が速く、とうとう俺等の前まで来てしまった。俺は射殺せんばかりに奴を睨む。

 

「……みなみに手を出すな」

「別に殺しはしねえ……先にお前をぶっ殺してから遊んでやるだけだ」

「!? 嫌、やめて……!」

 

肉蝮は俺の腕を掴むと、軽々と持ち上げてしまう。それを見て最悪の事態を想像したみなみは蒼褪めた顔で必死に肉蝮に縋り付くも、完全にスルーされる。

 

(ヤベエ、どうしよう……死にたくねえ)

 

迫り来る死に恐怖が増大する。かつて明日に何の期待も抱いてなかった俺は、平気で自分の命を投げ捨てて戦ってきた。それこそが俺の強さの根源の一つでもあったが、今はもう使えない……ヤダ、みんなと一緒にずっと生きたい。こんなところで死にたくない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――?」

 

そう思っていた俺は、側に立つ一人の人間の存在に気付くのが遅れた。

 

「――あ?」

「え?」

 

肉蝮とみなみも遅れて”彼女”を認知する。紫がかった黒いロングヘアに、非常に整ったプロポーションの持つ主。その圧倒的な美貌に誰もが目を奪われ、両目に浮かぶ星は万物全てを惹き付ける。今や伝説として語り継がれるに至った最強無敵の元アイドル様。

 

「アイ……さん?」

 

みなみが溢した名前こそが彼女の正体――星野アイ。俺の母さんだった。

 

(なんで母さんが……避難してた筈なのに)

 

まさか俺が心配で追い掛けてきたのか。不味い、母さんは滅茶苦茶美人だから絶対に肉蝮のターゲットになってしまう。何か打開策は無いかと思考を巡らせていると、

 

「……どうして?」

 

母さんが俯いたまま声を発した。その声は高くもなければ低くもなく、まるで機械のように何の感情も感じられない。

 

「どうしてこんな酷い事が出来るの?」

「あぁ? なんだテメエは?」

 

母さんの目には手や足裏から血を流している俺と、泣きながら俺を助けようとするみなみの姿が映っていた。そしてこの状況を齎した元凶に対して強い憤りを覚えたのだ。

 

「もうやめて。これ以上、この子達を傷付けるなら――」

 

ゆっくり、ゆっくりと顔を上げる母さん。無表情で、どす黒い綺羅星を宿した瞳でただジッと肉蝮を見つめる。

 

 

 

絶対に許さない

 

 

 

「ッ!? う、ぐ、あ……」

 

……あの肉蝮が冷や汗をかいて怯んだ、だと? 俺からの威嚇にも何の意にも返さなかった怪物が、母さんからの絶対零度の目線に気圧され、しかし目を逸らす事を許されない。

 

「ナイスです、アイさん」

 

そして身動きが取れなくなった奴の背後に、更なる人影が出現――意識を取り戻したかぐやだった。彼女は空高く跳び上がり、

 

「いい加減眠っときなさい、ケダモノが」

 

「ごおおおおおおおおおッ!!!?」

 

奴の首筋に強烈なライダーキックを一発。これは流石に効いたようで、怪物は白目を剥いて前のめりに倒れた。俺も奴の拘束から解放され、何とか地面に着地する。

 

「手古摺らせてくれましたわね……」

「……」

 

気を失った奴の背中に、しばし氷のような視線を送り続ける母さんとかぐや。そんな彼女達の姿が、ちょっと格好良いと思った。

 

「はは……すげえ人達だ」

 

何はともあれ、これで脅威は去った。肉蝮、第2の人生で戦った奴等の中でも最もヤバい相手だった。

 

「マーくん、良かった……!」

「マリア、大丈夫!?」

「わひゃっ!?」

 

安堵したのも束の間。すぐに飛び付いてきたみなみと母さんに押し倒され、俺は涙目で安否を窺う二人に何度も大丈夫と繰り返した。




戦闘シーンはやはり描写が大変ですね。今回は難産でした。

次回で共演編ラストとなります。
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