【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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『寿みなみとの共演』編、ラストです。



44話

遠くから聞こえてきたサイレンの音が、徐々に近付いてきている。

 

「いってえ……何度も人の頭蹴りやがって……」

 

「!?」

「嘘でしょ……? 綺麗に決まった筈なのに」

 

頭を擦りながらむくりと起きる肉蝮に、俺達は度肝を抜かれる。母さんが俺とみなみを庇うように抱き締め、その3人の前にかぐやが臨戦態勢で立つ。

 

……が、肉蝮から殺意が霧散していく。

 

「サツか。どうやら潮時みてえだな」

「……逃げられると本気でお思いですの? 大人しくお縄に付きなさい」

 

パトカーの群れがそこまで迫っている。普通に考えれば逃走なぞ不可能だ。俺等からすれば、この期に及んで悪足掻きをしているようにしか見えない。

 

「こっちは楽しみてえ事が山積みなんだ……」

 

すると肉蝮は懐から黒い球体を取り出し、

 

「この辺で退散させて貰うぜ」

 

思いっきり地面に叩き付けた。

 

「ぐ……!?」

「ごほ、ごほっ!?」

「煙幕か、くそったれ!」

 

立ち昇る煙で視界がいっぱいになる。肉蝮の姿もその中に呑み込まれ、此方にその居場所を掴めさせない。

 

「小娘、テメエはいつか必ず殺してやる……首を洗って待ってやがれ」

 

そんな捨て台詞が聞こえた直後に煙が晴れると、奴の姿は影も形も無かった。まるで最初から居なかったかのように。

 

「消えた……?」

「一体何やったの、あの男の人……?」

 

今まで戦闘が起きていた事が嘘のようだ。狐に包まれたような気分で、俺達は奴が立っていた場所を呆然と眺める事しか出来なかった。

 

パトカーと救急車が到着したのは、丁度その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の肉蝮は、半グレ共に運転させた車を操って現場を後にしていた。

 

「――何なんだあの黒髪女、気味悪ぃな。正直二度と会いたくねえ」

 

奴は母さんの事が少なからず苦手になっていた。あの黒い星の奥から感じた底無しの怒りと狂気に引き摺り込まれ、飲み込まれる錯覚。肉蝮は人生で数える程度しか感じた事のない”恐怖”を覚えた。

 

力では自分が圧倒している筈なのに、どうもあの目を視界に入れるとガッチリと体を固定されたような状態になり、動かせる自信が無い。そのまま一方的に何かされそうな気がしたので、かぐやが介入してきた時には安堵すら抱いた程である。何れにしろ、彼女との遭遇は成るべく避けた方が良い。

 

「……それよりもあの小娘に貧乳女め。今回は邪魔が入っちまったが、次見つけたら確実に地獄に落としてやる」

 

そして肉蝮は俺やかぐやへのリベンジを誓うと、再び軍資金集めの為に裏社会へと潜り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生、肉蝮の野郎! 逃げ足だけは速い奴だ!」

「まあまあ、警部。そう遠くへは行ってない筈ですし、付近を捜索すればきっと見つかりますって。犠牲者が出なかっただけマシだと思いましょう?」

 

到着した警察と救急隊員を中心に後処理が始まった。

 

足を怪我したおれ、顔面血塗れの男性スタッフ、そして半グレ2人は病院行き。おれ以外の3人は重傷ではあるものの、幸い全員命に別状は無いらしい。スタッフの何人かは警官と共に現場検証や事情聴取を受け、残りはおれ等への付き添いや散らかった現場の後片付けとなる。

 

ただ、肉蝮の脅威から解放されて一件落着……とはならない者もいた。

 

「あの怪物に巻き込まれたのは同情するが、それはそれとして“これ”はアウトだ」

「治療が落ち着いたらじっくり話を聞かせて貰うからな?」

「ひ、ひいい……」

「そんな……」

 

搬送直前で麻薬所持がバレた半グレ共は、見せ付けられたブツにガックリと項垂れる。奴等は退院と同時に御用が決まった。近い将来、関係組織も連中に証言により破滅する事になるが、おれ等にとってはどうでも良い話なので詳細は割愛させて頂く。

 

「あぁ……車が……カメラも……」

「もう、いったい幾らすると思ってんのよ……」

「あの怪力男め……」

 

またキャノンファイアも金銭面で少なくない損失を出す事となり、数名のスタッフが大破したワゴン車の前でこの場にいない肉蝮に呪詛を吐いていた。南無。

 

「マリア」

 

救急車後部に腰掛けて応急処置を受けていたおれは、隊員が離れたタイミングで母さんに呼ばれる。腰を下ろし、自分と目線を合わせて次の言葉を発そうとする彼女の顔は、見るからに怒っていた。

 

……いや、目だけは泣いていた。瞳を揺らし、大粒の涙を流している。

 

「心配したんだよ? 急に飛び出したりして……あんな危ない人のところへ行こうとして……こんなに酷い怪我まで……! もし、死んじゃったりしたら、どうするの……!? おねがい、だから……! もうこんな事、しないで……!」

「っ」

 

おれは大馬鹿者だ。いくらみなみを助けたいからって、その為に母さんを泣かせて良い訳ないだろ。何やってんだか。

 

「……ごめんなさい、もう無茶はしないから」

 

素直に謝ると、母さんはおれの頭を優しく撫でて微笑みかけた。明るい笑顔に戻ってくれた事にホッとする。うん、やっぱり母さんは笑っている姿が一番素敵だよ。

 

「ぐす……無事で、よかった……」

「ん」

「でも、みなみちゃんを守った事は立派だと思う」

「ありがとう、母さん」

 

「マーくん!」

 

そろそろ救急車が走り出そうかという時に、此方へ駆け寄る巨乳の美少女が一人。みなみだった。

 

「あ、みなみちゃんだ!」

「お疲れ様です、アイさん。マーくんはこれから病院で?」

「そんなところだね」

「さっき救急隊員の人が来て、もうすぐ出発だってさ。ところでみなみの方は? 事情聴取は終わった感じ?」

「うん。だからマーくんが心配でこっち来ちゃった。怪我の方は大丈夫なん?」

「取り敢えず軽傷……ただ足の裏に関しては何針か縫うかもね」

 

止血され、包帯でぐるぐる巻きの右足に視線を下ろす。前世ではもっと深い裂傷や銃創でキツイ治療も散々受けてきた。数針縫うくらい大した事ではない。

最も、母さんやみなみにとっては重大事項だったが。みなみはみるみる顔色が悪くなる。

 

「ホンマにごめん! うちの所為でマーくんに怪我を――」

「気にすんな、それよりも無事で良かった」

「みなみちゃんの所為じゃないよ。悪いのは全部あの巨人さんなんだから」

「……そう言って貰えるなら有難いです。でも、ホンマに元気そうで良かったわぁ、マーくん」

 

ジッとおれを見詰める桜色の瞳は潤んでいて、凄く綺麗である。安堵した様子で浮かべる笑顔はとても魅力的で、見てるこっちまで安心感を抱きそうだ。

 

「みなみ……」

「改めて言うけど、助けてくれてありがとな。マーくん凄くカッコ良くて……うちドキドキしてもうたわ」

「あぁ……」

 

おれを意識してますという意味にも取れる彼女の言葉に、心臓の鼓動が加速する。もしかしておれ、ホントにこの子の事が好きなのか……? 

 

「マーくん?」

「あ、えと、その……」

 

近付いて覗き込むように見下ろすみなみに思わず視線を逸らしてしまう。あ、ヤバい、身体だけじゃなく頭まで熱くなってきた。脳の処理スピードが追い付かない。次に何て言えば良いか分からねえ……

 

「そうだ、みなみちゃん! 折角だし連絡先を交換しない?」

 

困ったところへ、おれとみなみが見詰め合う様子をニマニマと笑って見ていた母さんから助け舟が入る。そういえばまだしてなかったような……。 みなみもその提案にパーッと顔を輝かせる。

 

「それ良いですねアイさん! マーくんも、やろうやろう!」

「う、うん。分かった!」

 

フォローありがとう母さん! このままだと気になる子の前で恥をかくところだったよ!

 

その後、おれは母さんと一緒にみなみの連絡先をスマホに登録。それが終わったタイミングでキャノンファイアのスタッフが現れ、みなみに帰り支度をする旨を伝えてきた。ワゴン車は大破したので手配されたタクシーで、だが。

 

「ほな失礼しますアイさん、マーくん! また一緒に仕事しましょう!」

「またねー、みなみちゃん!」

「うん、楽しみにしてるよ」

 

手を振り去って行くみなみを見送り、そろそろ私達も出発だねと救急車に乗り込む母さん。

 

「良い子だったねえ、みなみちゃん。一緒に仕事していてよく分かったよー。――ママ、あの子なら娘として歓迎してあげるから、頑張れマリア♪」

「気が早いって母さん……」

 

結婚を前提で楽しそうに話す母さん。だから、まだ告白すらしてないんだってば。

 

(あ、プロフィール画像、子猫と戯れているところなんだ。カワイイ……)

 

でも、連絡先を得る事には成功した。双方忙しいから滅多に会えないだろうけど、何時でも気になる子の言葉が聞ける事実に、おれの体はおれが思っている以上に喜んでいた。

 

 

 

 

 

――どうやら本当に告白する時が来そうである。そして、その未来はあまり遠くないかもしれない。




――翌日の夜。星野家。マリアの自室にて。

マリア「見てよお兄ちゃんお姉ちゃん、これッ! みなみからメールが来たよ! 次の撮影も一緒だって!」 ←怪我の為自宅療養中。

ルビー「うんうん♪」 ワクワクッ

アクア「良かったな、マリア」

気になる女子からの返信を嬉しそうに報告する末弟に、同じくテンション爆上がりな姉と、微笑まし気に相槌を打つ兄だった。
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