【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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お久しぶりです。

京炎戦争が終了した記念に、今回は我妻と千尋のお話を投稿致しました。

我妻(転生後)  イメージCV:雨宮 天  
千尋(転生後)  イメージCV:照井 春佳


番外編⑨

俺の名前は我妻京也。東北最大のマフィア、戒炎のトップ……だった男だ。

 

かつて数多の半グレを率いて京極組と抗争を繰り広げた俺は、壮絶な死闘の果てで守若冬史郎に敗北。滅茶苦茶に殴られ命を落とした。

 

「きゃー、アイさーん!」

 

死んだら愛する人に会える。そう信じていた……いや信じたかった俺は、それすらも死に際で守若に全否定された。……確かにそうだと当時は思った。裏社会にどっぷり嵌っちまった俺と、真っ当なカタギとして生きていた千尋。本来なら決して混じり合ってはいけない関係だ。住んでいる場所があまりにも違い過ぎる。奴の言う通り地獄で永遠に、そして孤独に過ごすべきなのだ。

 

……と思っていたんだが。

 

「何年も前から見てるけど、この人全然歳取ってないよね。本当に30代とは思えないや。いいなぁ、私もずっとアイさんみたいに綺麗でいたいよー」

 

残念だったな守若、どうやらこの点に関してはお前が間違ってたみてえだ。結局俺は地獄に落ちる事はなく、何故か見知らぬ男女の息子として第二の人生を享受している。現在は小学生、学校から家に帰る道中だ。

 

そして俺と並んで歩きながら、画面に映る最推しの大女優に夢中になっている少女。今生における俺の姉で、年は二つ上。

 

「……お前の方がずっと綺麗だよ」

「もう京也ったらー、嬉しい事言ってくれるじゃない!」

「事実を述べたまでだ。あと危ないから歩きスマホは止めろ」

「大丈夫だよ、京也が側に居てくれてるし! 何かあったら呼んでくれれば……」

「良いからマジで止めろ」

「あっ、私のスマホ!」

 

いくら注意してもやめない彼女の手からスマホを取り上げる俺。頬を膨らませジト目で此方を見てくるが、気にしない。

 

「ちぇっ、しょうがないなー。でも可愛い弟の頼みだし、お家に着くまで我慢しとくよ」

「それで良いんだ……千尋」

 

そう、あの千尋本人だった。

 

かつて死に別れた俺たちは姿形を変え、奇跡の再会を果たしていた。ただ何の偶然か、名前は二人とも前世と全く一緒だった。姓は別になっちまったけど。

 

 

 

 

 

「――なあ千尋」

「何、京也?」

「お前の言う通りだったよ」

「何が?」

 

その後、殆ど一方的に話す千尋に相槌を打つだけだった俺は、唐突に前世に関する話を切り出した。

 

「千尋は俺に言ったよな? 『組織を大きくしたら、恨まれて俺が殺されるかもしれない』ってよ」

「……そういえば、うん。言ったね。京也の身を案じたのと、生まれてくる子供の為に早く足を洗って貰おうって思ったから……その様子だと私の懸念通りになっちゃったみたいだね」

「……すまん」

 

悲しそうな顔をする千尋に俺は気不味くなり、咄嗟に視線を地面に下ろす。

 

俺は千尋を失った時、彼女が殺された理由を組織が小さいからだと判断した。だから組織を大規模にすれば、もう誰も失わずに済むだろうと。だが、大きくすれば大きくする程敵は増える一方で、取り込んだ連中からも離反者が続々と現れる始末。当初俺はそういった輩を粛清する事で統制を維持しようとした。

 

恐怖による支配。あの城ヶ崎だって上手くやれていたのだ。コレで問題は無いと、そう思っていたが……逆に裏切り者の増加は勢いを増すばかり。それに対して粛清に粛清を繰り返し……その最中で京極組の守若とかち合い、敗死した。

 

「どうすりゃ良かったんだろうな……俺?」

 

……いや、結果が何であれ千尋がいない時点で既に手遅れだった。今にして思えば、俺はそうする事でコイツを失った苦痛を誤魔化したかっただけなのかもしれない。疑問と自虐を多分に混ぜ込んだ声を、息を吐くように溢した。

 

「――ねえ京也。私が言ったあの言葉の補足なんだけど」

「何だ、千尋?」

「別に組織を大きくする事そのものは全く問題じゃないんだよ?」

「……何を言ってやがる?」

 

千尋から意外な事を言われ、俺は目を丸くした。何故だ、組織をデカくしたら殺されるんだろ? だから俺は守若に殺られて、こうして此処にいるんじゃねえか。

 

「京也は組織を大きくする時さ、どんな手段で大きくしていったの?」

「そりゃあ……言う事聞かない奴を脅したり殺したり――」

「うん、それはアウトだね」

 

千尋は真剣な表情で俺を見詰め、此方の言葉をバッサリと切り捨てた。

 

「私が殺された時、京也はどんな気持ちだった? 辛い事を思い出させちゃうけど、正直に答えてくれる?」

 

……何だよ急に? そんなの……決まってんじゃねえか。

 

「泣いたよ、生まれて初めて。お前となら一緒に歩めるかもって期待して、愚連隊から足を洗うつもりだった……なのに」

 

なのに、なのに、なのに、なのに、なのに……!!

 

なのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのになのにナノニナノニナノニナノニナノニナノニナノニナノニナノニナノニナノニ……!!!

 

それを園部の野郎が……彼奴が千尋と子供を奪いやがった……!!!

 

「あの屑が……今でも憎い。一度殺しただけじゃ……千尋に再会出来た今でも、全然殺し足りねえと思ってる!」

 

忘れる訳がない。あの屑に凌辱されて俺に助けを求める千尋の声、既に事切れた彼女の苦痛に満ちた顔、すっかり冷えた肌。俺にとって漸く得られた理解者、希望。それを無慈悲に奪った彼奴が………憎い!!

 

「京也」

 

「!? ……あ、いや」

「手を怪我してる。包帯巻くからちょっと見せて」

「あ、あぁ……」

 

無限に溢れ出る怒り、憎しみ、殺意。それらに呑み込まれ我すら失いかけた俺だったが、千尋の冷静な声で現実に戻された。感情が昂って自身の両手を握りしめ過ぎて血が出ていたようだ。その治療を受けながら、話を続ける千尋。

 

「……辛かったでしょ、悲しかったでしょ? 何より、殺した相手を恨んだんでしょ?」

「そうだ。園部はお前を……俺の大切なものを奪った」

「……じゃあ、こういう考えには至らなかった? 京也が殺してきた人たちにも、大事な人がいたって事にさ」

 

千尋の口調は人を叱る親兄弟のように感じた。これが他の人間だったら未だ耳を貸そうとしなかったかもしれないが、千尋が言っているとなれば俺は素直に話を聞けるようだ。

 

「その人たちも、今の京也と同じ気持ちだったとは思わない? 京也に大事な人を奪われて、悲しくて辛くて……そして京也を恨んだ人も出てきた筈」

「……」

「京也を殺した人……その人は京也に対して何か言ってなかった?」

 

 

 

 

――イガ親父の恨みぃいいいいいいいい!!!

 

 

 

 

「――あ」

 

目を潰される直前の守若の姿が脳裏に浮かんだ。常に何処か貼り付けたようなヘラヘラとした笑顔が、あの時だけは激しい怒りと憎しみに歪んでいた。そして、俺が奴から奪った連中の名前を一人一人挙げながら、俺に致命傷の連打を叩き込んできた。

 

そう、あの男も憎くて仕方がなかった。愛する家族を奪い、親を泣かせた元凶たる俺の事を。

 

「京也の為に敢えて厳しくハッキリ言わせて貰うけど……貴方がやった事は、その園部って人と何も変わらない。自分と同じ苦しみを、他人にもいっぱい与えちゃっただけ」

「………俺を殺した奴も言ってたよ。八つ当たりすんなって」

「そりゃ恨まれて、当然だよ……でもさ」

 

治療を済ませた千尋はそのまま俺をギュッと抱き締めた。

 

「千尋……?」

「どうしてなのかは分からないけど、生まれ変わったお陰でそういう恨みや憎しみは全部リセットされた。裏社会からも足を洗う事が出来た。……やり直すチャンスに恵まれたんだよ、京也」

「でもどうやって……やれば良いんだ? 誰からも恨みを買わずにお前を守る方法なんて、俺よく分からねえぞ」

「私が側で一緒に考えてあげる。今のお父さんとお母さんだって、きっと協力してくれる。だから京也――」

 

千尋は泣きそうな顔をしていた。組織を拡大するなと、そう忠告してきた時と同じ表情で。目に涙を溜めて見下ろしつつ、懇願してきた。

 

「もう誰も傷付けないで?」

 

……大切な彼女の願いを、俺は無下にする事など最早出来ない。

 

「――分かった。その為に力を貸してくれ」

「勿論、任せて」

 

もう千尋の泣く姿なんて見たくない。腹の子に会えないのは残念だったが、こうして千尋と再び巡り合えた。今度こそ真っ当に強くなって、彼女には何時も心から笑顔でいさせたい。

 

(あぁ……漸く少しだけ理解出来たかもしれん)

 

大事な人の幸せを願う。これが”愛する”って事なんだな。

 

 

 

 

 

「――さぁ京也、早く帰ろ! またお味噌汁作ってあげるから、それ食べながらアイさんのドラマ見よっか!」

「味噌汁を肴にドラマ鑑賞するなんて初めて聞いたぞ……」

 

千尋は無垢な笑顔を俺に振り撒きながらルンルン気分で歩みを進める。俺はそれを何処か穏やかな気分で眺めていると――。

 

「きゃっ!?」

「わっ!?」

 

角から現れた人間と千尋がぶつかってしまった。すかさず俺は千尋の元へ駆け寄る。

 

「千尋、怪我は無いか?」

「うん、平気。それよりも相手の人は……?」

 

「いてて……ごめんね、大丈夫?」

 

千尋を立ち上がらせてから相手を観察する。俺等より年上で、超が付く程の美少女……いや美少年だ。あの制服は……陽東高校の学生だな。

 

……って千尋? どうして震えてんだ?

 

「あーー!! 星野マリアさんだ!!」

「千尋、声がデケェよ……」

 

急に驚いた様子で叫ぶ千尋に対し、咄嗟に耳を塞ぐ俺。あまりにも大声過ぎて奥がキーンと鳴る。

 

「もしかして、おれの事を知ってるの?」

「はい、人気モデルの天使王子さんですよね!? そのルックスと魅力で多くのファンの性癖を歪ませてるって評判の! 私、大ファンなんです! これにサイン描いて貰えますか?」

「え゛、何その評判? 初耳なんだけど……まあ良っか、ちょっと待ってて」

 

……おい、千尋。なんか俺といる時より嬉しそうに見えるぞ? そんなにこの女男がお気に入りにかよ。何故か知らんがムシャクシャしてきた俺は、そのモデルとやらの男に殺気を放っていた。

 

「!?」

 

すると男は疑問と驚きに満ちた表情を浮かべやがった。まさかオーラが見えるとでも言うのか?

 

「マリアー!」

「大丈夫かー!?」

 

其処へ更に同じ制服を纏った少年少女が現れる。年齢は目の前の男と同じくらいで、ソイツに負けない美男美女だ。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃんお姉ちゃん」

「え!? マリアさんのご兄弟ですか!? うわー、凄い美人!」

「マリア、この子たちは?」

「おれのファンだってさ。ちょっとサインを頼まれちゃったから少し待っててくれる?」

「うん、分かった!」

「いや、俺は別にファンじゃないんだが……」

 

そんな俺を余所に、千尋は3人と楽し気に談笑してからサインを受け取った。若干蚊帳の外な俺に気付いた千尋が、少し慌てた様子で寄り添ってくる。

 

「あ、ゴメンね京也! もう大丈夫だから帰ろ?」

「あぁ、行くか」

 

「え」

 

その時、モデルをやってる件の男が更に驚いた様子で此方を見てきた。一体全体何に驚いてやがるんだ、コイツは?

 

「ありがとうございます! これからも応援してますから、頑張って下さい!」

「うん、ありがとねー千尋ちゃん」

 

「京也京也! 千尋ちゃんだって! あのマリアさんに名前覚えて貰っちゃった!」

「いいから帰るぞ、早く」

「……もしかして、ちょっとジェラシー?」

「ちげーって」

 

揶揄う千尋を手に取り、俺は急いでその場を後にした。

 

……千尋は誰にも渡さねえし奪わせねえ。一生俺の物だ。今度こそ守り抜いてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――む~、良いなあマリアは。早く私もアイドルになって、『ルビーさん、サイン下さい!』って言われたいよー」

「もう高校生になったんだ。苺プロもそろそろデビューさせてくれる筈さ」

「高校に入ってからってミヤコさん言ってたもんね! 帰ったら早速催促しないと。グズグズしてたらホントに行き遅れちゃう……」

「大丈夫。お姉ちゃんならあっという間におれより人気者になれるって」

「ありがとー、マリアー!」

 

お姉ちゃん、不知火フリルに認知されてなかった事がよっぽどショックだったみたい。まあでもお姉ちゃんからは凄まじい才能を感じるし、デビューすればすぐにトップアイドルになれるだろうとおれは確信している。

 

……それよりも。

 

(あの男の子から感じた殺戮オーラ、見覚えがある。それに千尋ちゃんが言ってた”京也”って名前……)

 

10年近く前に崩壊した裏神(うらかん)というマフィアを通じて、戒炎の滅亡も表社会の知るところとなっていた。裏神も戒炎も壊滅した原因は不明とされたが、連中の活動領域が黒焉街や花宝町付近であった事を考えると、おそらく京極組か獅子王組に潰されたのだろう。

 

”あの男”がトップを務めた戒炎が壊滅したと言う事は、つまりそう言う事かもしれない。

 

(まさか……さっきの餓鬼……)

 

自分たちが”こう”なのだ。他にいないとも限らない。

 

(まっ、仮に”そう”だったとしても――)

 

「どうしたのマリアー? 急に立ち止まってさー?」

「何か考え事か?」

 

「ううん、特に大した事じゃないよ。早く行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺には関係ねえ事だ。

 




145話がツクヨミの話ですし、進展があったら彼女メインの話を次回やろうと思います。
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