【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
俺の名前は城ヶ崎賢志。日本最大のマフィア、『羅威刃』のボス……だった男だ。
「さ! オンエアーだよ。結構撮ったからね」
「ママの演技、楽しみ!」
復帰から一年。ここ最近のアイは順調に仕事を増やし、知名度や人気も加速度的に上がってきていた。
その集大成とも言えるのが五反田という監督の処で行った、ドラマ撮影である。当時の俺はルビーに強引に連れられ、アイの撮影を遠巻きに眺めていた。
あと1歳児相手にも容赦なく締め出すと言った五反田に対し、社会人全開な対応をするアクアの姿には少し吹き出してしまった。何もあそこまで慌てふためなくても良いじゃねぇか。お陰でアクアは五反田に目を付けられちまった。
因みに五反田は俺とアクアを纏めて『早熟ボーイズ』と呼んできやがった。確かに側から見れば異常なまでの早熟なので、その点が印象深かったのは分かる。まぁ別に呼び方なぞどうでも良いので、好きにしろとは言っといたが。
収録自体は無事終了。それから1月が経過した今日、彼女が登場するドラマを家族4人で視聴している。
ただ――。
(果たしてどれだけ映ってるかだが……)
俺には一つ懸念点があった。撮影中、アイは主演女優を差し置いてかなり目立っていた。目が星みたいにキラキラして人目に付きやすいからだけじゃない。単純にルックスもやば過ぎるのだ。多少の演技の拙さなど塗り潰してしまう程の。
別に母親自慢という訳じゃないが、コイツは世界レベルで通用しような美女である。主演女優も上位に位置する外見だが、アイとは比べるべくも無かった。
そして懸念は現実のものとなった。
「あっ、ママだ!」
「もっと大きく映せ!!」
アイの登場シーンが流れる。……が、たったの一回。それも離れた場所から主役に挨拶する程度。それ以降は全く登場する事なくニュース番組へ入った。これでは視聴者も『凄く可愛い奴が居たな』くらいの認識で終わっちまうが、主役を主役たらしめる点で言えば正解の判断である。
「えっ、これだけ!?」
「ワンシーンちょびっとじゃん!!」
当然、推しの人物に対する扱いにアクアとルビーは不満爆発。アクアはスマホと名刺片手にリビングを後にした。恐らく五反田にクレームを入れるつもりなのだろう。
「私、演技下手だったのかなぁ……?」
「そ、そんな事ないよ!」
同じソファーに並んで座るアイの顔に影が差す。ルビーはそんな彼女を励まそうと必死だ。
「……やっぱこうなっちまったか」
「ちょっとマリア! アンタ、ママの演技が下手だったって言うの!?」
「いや、演技は普通に上手かったぞ? 文句の言いようもなかった」
「じゃあ何で!? ママ、あれだけ目立ってたのに……!!」
「だからだよ」
取り敢えず俺はアイとルビーに説明する。多分今頃アクアも五反田から同じ話を受けている事だろう。
「あくまで主役はあの若手女優だ。なのにそれ以上の美女が同じ画面内にいたらどうなる? アイの方を主役で、若手女優を脇役と視聴者は認識してしまうだろ? おそらく上の意向……大人の事情ってやつでカットされたんだろうな」
「そんな……」
ルビーは納得できないと言った顔で俯いた。
「しゃーねぇよ、芸能界もあくまでビジネスだ。莫大な金を掛けている以上は、納得できない事だって山ほど起きるもんさ」
「う~ん、じゃあ今回は仕方ないと諦めるしかないって事ねー」
「そういう事だ」
「……はぁ」
アイは残念そうに溜息を吐いた。その様子に俺は自然と奴を励ます言葉を紡いでいく。
「……安心しろ。さっきも言ったが、アンタの演技は目を惹くものだった。今回の件でアンタの事が業界で噂になっているのは間違いないだろう。その内主演としてオファーが来ると思うから……まぁせいぜい期待しながら、今の仕事を一生懸命頑張りな」
これ程の逸材。それに対し何もせず腐らせる様では愚の骨頂だ。折角のビジネスチャンスを不意にするような奴じゃあ、魑魅魍魎蔓延る芸能界では上には立てない。必ずアイをメインで使いたがる有力者が出てくると、俺は半ば確信していた。
「……そっか、そうだね、うん。ありがとうマリア、お陰で元気が出てきたよ。マリアの言う通り、今は出来る事を精一杯やってみるね?」
「……フン、その様子ならもう大丈夫そうだな。――おい、撫でるな頭を」
アイは俺の頭に手を乗せ、慈母の如く笑い掛けた。中身がアラサーな男の俺にとって撫でられる行為は恥ずかしいだけだ。少し……顔が熱くなる。
それをルビーはニヤニヤと笑いながら見ていた。
「……何を笑ってやがるルビー?」
「別に~? マリアって普段はママに対して塩対応してばかりで少し酷いなって思ってたけど、ちゃんとママが大事なんだって知れたから」
「俺は別にそんなんじゃ……」
「何言ってるのルビー? マリアは何時だって良い子だよ? 勿論、ルビーとアクアもね?」
「えへへ、ありがとうママ!」
「……頼むからアンタはそろそろ手を離してくれ、アイ」
「そう言う割には満更でも無さそうじゃん? ――ところでさぁマリア、何で最近私の事”姉さん”って呼んでくれないの? 呼んで欲しいな~?」
「すぐ調子に乗るから断る」
「え~?」
恥ずかしく思いながらも、俺は頭に乗せられたアイの手を振り払おうとしなかった。どうしてなのかは……分からない。
そんな時だった。戻って来たアクアから映画の仕事の件が伝えられたのは。
あれから更に時間が経ち、今日は五反田がアクア経由で伝えた映画の撮影日だ。
どうやら予想以上に五反田はアクアを気に入ったらしく、アイはアクアのバーターとして映画出演させて貰う事になった。母親が息子のバーターなぞ変な話ではあるが、早速舞い込んできた仕事にアイは気合十分な様子だった。
「ママぁああああ!! ママぁあああああ!!!」
但し、アイは此処に来ていない。撮影日が別々だからだ。俺たち3兄弟はミヤコに連れられ、こうして現場へ到着した訳だが……
「ママのどごがえりだい!! なんでママいないの!!?」
「うるせぇ……」
控室で待機中。朝からずっと寝ていたルビーが目を覚ました途端アイの不在に気付き、ぐずり出したのだ。
「アイとは撮影日が違うんだよ。別の仕事が入ってるし、仕方ないだろ?」
「いやだ!! 早く帰ってバブりたい!! ママの胸でオギャりたいよぉおおおお!!!」
(……うわぁ)
さっきからずっとこの餓鬼の泣き叫ぶ声が俺の頭を揺らしていた。いくら前世が餓鬼でもそれなりの年になってる筈だろ、お前。俺は今世の姉の暴走に割とマジでドン引きしていたが……あぁ、クソ……あまりにも騒がしくてイライラしてきた。
「私をオギャバブランドに返してー!!!」
「……おい、いい加減に――」
俺はルビーに対し少し強めのプレッシャーを掛けようとした、その時……
「ちょっと!!」
バンッとテーブルに物を激しく叩く音。その発生源には赤毛の少女が仁王立ちし、俺たち3人を睨んでいた。年は俺等より1つくらい上ってところか。
「ここはプロの現場なんだけど、遊びに来てるのなら帰りなさい!」
少女は丸めた台本を突き付け、そう叫んだ。誰かは知らないが、ルビーを黙らせてくれたのは有難い。
「あぁ、すまねぇな。うちの馬鹿姉貴が迷惑を掛けちまったみたいで」
「ちょっとマリア! 馬鹿は無いでしょ、馬鹿は!!」
抗議の声を上げるルビーを無視して、俺は少女に謝罪の意を述べた。直後にアクアが彼女に質問する。
「えと……君は?」
「有馬かな! 今日の共演者よ!」
名乗って貰ったところ申し訳ないが、俺は少女が何者か全く見当が付かなかった。そこへルビーが何かを思い出したのか口を開く。
「……あっ、この子あれじゃない?」
「あれ?」
「えっと、なんだっけ……?」
ルビーは暫く考え込んだ後、彼女の正体について答えた。
「………”重曹を舐める天才子役”?」
「”銃創を舐める天才子役”?」
舐めたって傷は回復しないぞ? ちゃんと闇医者で治療を受けろ。
「”10秒で泣ける天才子役”!! 後、そっちのアンタ!! もっとズレた事考えてるでしょ!?」
「過去に鉛玉を喰らう子供の役をやった事は……?」
「無いわ!!」
「……マリアってよく物騒な事を考えるよな」
「もうちょっと平和的な発想しようよ……? あとアクアも人の事言えないでしょ?」
悪いな。伊達に長い事裏社会で
「ドラマでの泣きっぷりが凄いって皆言ってるの! 凄いんだから!」
有馬……何だっけ? 銃創で良いか。銃創の自慢話には欠片も興味無いので俺は右から左へと聞き流す。
「私、この子あんま好きじゃないのよねー……。なんか作り物っぽくて生理的に無理」
「辛辣だな」
「たまに子役に対して異様にキビシー奴っているよな。なんでなん?」
ルビーから嫌そうな視線を向けられても銃創は一切気にした様子はなく、ふんっと鼻息を鳴らして声を張り続ける。
「知ってるわ! あなた、コネの子でしょ!?」
どうやらアクア、そしてアイに対して不満がある様子で、二人がコネの力でゴリ押ししたと考えてるらしい。此方の言い分を遮って非難の声を浴びせてきた。
別にアイに限ってはコネなのは間違いない。今まさに銃創から文句を言われている奴の息子のコネとも言えるが。
「――それにあのアイドル! こないだ監督が撮ったドラマ見たけど、全然出番なかったじゃん? どうせカットしなきゃいけないほど、へったくそな演技だったんでしょ?」
「「あ゛?」」
その時、控室の空気が変わるのを感じた。銃創がアイを罵倒したところで、アクアとルビーがどす黒いオーラを纏ったからだ。
「媚びを売るのだけは上手みたいだけど!」
言いたい事を言い切った銃創は控室を後にした。その際大荷物を運搬中の女スタッフに鞄を運べと命令しながら。
(おいおい、そんな傲慢な態度を取ってたら二度と現場から呼ばれなくなっちまうぞ? これだから子役って奴は……自分が選ばれた人間と思い上がって調子に乗りやがる)
まぁ、仮にそうなってもそれは奴の身から出た錆だ。奴がどうなろうと俺の知った事ではない。それよりも――。
「……お兄ちゃ~ん?」
「あぁ、分かってる。相手は餓鬼だ……殺しはしない」
「……程々にしといてやれよ?」
「無論だ」
母親を馬鹿にされ、瞳の星が黒く染まっているアクアとルビー。放っとくと頸動脈でも切りに行きそうな気がしたので一応釘は刺しといた。
……だが、止めるつもりはサラサラなかった。いくら餓鬼とは言え、何も知らない奴がアイを侮辱した事に…………俺も思うところはあったから。