【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
45話
おれの名前は星野マリア。
「――それでも、光はあるから」
お兄ちゃんとおれの活躍?により、大好きな演技に全力で臨めるようになったパイセンを満足そうに見守る、苺プロ所属の芸能人兼マネージャー見習いだ。
「すまんマリア。上手くいったよ」
「殆どお兄ちゃんのお陰じゃん。おれはほんの少し手伝っただけ。それよりおれの前触れのない援護射撃を上手く演技に取り込むなんてさ、驚いちゃったよ」
「監督と紅林さんには感謝だな。どっちの指導も欠けてたら、あれ程周囲に恐怖を引き出す演技は難しかったかもしれん」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、危険を察知する能力はもう常人離れだね。これも母さんの血筋かな?」
今日が雨の日でホントに助かった。建物の外から窓越しに雫を一粒、眼前にて超高速で通過させた直後の鳴嶋の震え上がった反応……リアル過ぎてちょっと吹き出しそうになったな。そのリアルさを出す為にお兄ちゃん以外にはバレないような横槍を入れたのはおれだけど。
さて、おれ達兄弟は現在『今日あま』の撮影現場を訪れている。前にパイセンからの依頼をお兄ちゃんが受けて、悪役としてドラマの最終回に出演する為だ。おれはお兄ちゃんのマネージャー見習いとして、そしてパイセンの演技の本質を確かめる為だ。
たった1日で撮影から納品までやると聞いた時は流石に閉口したけど。
「アクア!」
無事に今日の仕事を全て終わらせ、おれ達の元へ駆け寄るパイセン。
「今日は本当にありがとう。アンタのお陰で久々に全力を出せた気がするわ」
「あぁ、最初に会った頃みたいにとても輝いてたよ」
「ホント? 私、良い感じだった?」
「元々有馬は小柄で可愛い外見なんだ。そんな奴がキラキラした笑顔を見せたら誰だって魅了されるだろ?」
「可愛い……そうなんだ、えへへ」
……お兄ちゃんったら、よくもまあそんな恥ずかしい事をズケズケと。聞いてるコッチの顔が熱くなりそうだよ。
「マリアも助かったわ。本当にありがとね?」
「おれは何もしてないよ? パイセンが本気出せる下地を作ったのはお兄ちゃん」
おれが謙遜すると、パイセンはジト目で此方に顔を近付けてきた。な、なんなの……?
「……嘘仰い。さっき鳴嶋メルトの目の前を光か何かが凄いスピードで通過してたわ。明らかに自然現象で起きる事じゃない。光が飛んできた方向にはアンタしかいなかった。つまりは、そういう事なんでしょ?」
「あ、アレが見えてたの……?」
「これでも動体視力は優れてる方だからね」
おれがぶん投げた水滴は非常に小さく、弾丸並のスピードだ。一般人ならば見る事など到底不可能で、絶対に気付けない筈だ。
それをパイセンは捉えていただと……? 優れているなんてレベルじゃない。裏社会の猛者達に引けを取らない動体視力だ。
「おいマリア」
「あ、ヤベ」
裏工作をうっかり溢してしまい慌てて口を塞ぐおれに、パイセンはニコッと笑い掛けた。そして周りに聞こえないよう、小声でおれ達に囁く。
「大丈夫、誰にも言わないわよ。アンタの横槍もあったから私は演技を本気で楽しめたんだから」
「……よかった。記憶を飛ばす手間が省けたよ」
「笑顔で怖い事言うな! 昨日の打ち合わせを思い出すじゃないの……!」
パイセンが顔面蒼白でツッコんできた。だってたかがマネージャーが撮影を邪魔したようなもんだよ。バレたら苺プロに、ひいては母さん達に迷惑が掛かっちゃうじゃないか。
それにね――。
「有馬、言っとくが俺はテメエが家族に暴言吐いた事を忘れないからな? 絶対に」
「わ、分かってる。あの時はホントに言い過ぎたと思ってるから。その顔もやめて、怖いってば……」
「マリア、もうその辺にしてやれ」
「はーい、お兄ちゃん!」
「この子、普段と怒る時のギャップが凄まじ過ぎよ……温度差で風邪ひきそう」
何の話かと思う人もいるだろう。これは前日にお兄ちゃんとパイセン、そしておれの三人で打ち合わせの為にカラオケボックスに集まった時の話なんだけど。その際にお姉ちゃんがパイセンの演技に抱いた疑問をお兄ちゃん経由で伝えたら――。
『うっさいわねー! そんな事言ってたのアンタの妹!? 死ねよアイツ!』
……このクソ銃創。母さんを目の前で失いかけた俺達にそんな暴言、よくもまあ吐き出せたもんである。
『ヒィッ!?』
なので持参していたヤスリを眼前に突き付けてやった。更に敵の半グレを脅す感覚で盛大に圧も掛け、睨み付ける。
『お前、俺の姉に対して今”死ね”だと? ――削るぞクソ餓鬼?』
『何を!? ごめんなさいごめんなさい……!!』
『おい止めろマリア、どうしてヤスリなんて持ち歩いてんだよ? それはこっちで預かっとくからな?』
『……分かったよお兄ちゃん。はいどうぞ』
まあ即座にアクアに武器を没収されて、震える銃創を宥める羽目になっちまったが。
そんな事を思い返して少し苛立ってきたところに。
「――で、マリア。私の演技について何か分かったかしら?」
おっといけない。パイセンの演技を確かめる事も目的の一つだったのに、忘れるとこだった。
「そうだね……パイセンの演技が最も輝く時を一言で表すなら、自己主張が激しい時だなって感じたよ」
「自己主張?」
「”私を見て”って想いを強く念じている時とも言えるかな? その想いが演技に直結して、結果周囲を魅了する程の輝きに昇華している」
「自己顕示欲の強い演技って事?」
おれの話に耳を傾けるパイセンの顔には、心当たりがあると言った感じである。というより別に難しい話じゃない。昔の彼女が散々やった演技方式について改めて説明してるようなものだし。
「そういや最初に俺達と会った頃の有馬の演技は正にそれだったよな」
「成程ね。長い事周囲に合わせた演技ばかりしてきたから忘れかけていたけど、やっと思い出したわ。要は子役時代のやり方に戻れって意味ね」
「うん。このドラマではパイセンが主人公。でも上の求めている事がモデルの宣伝でしかなく、モデル達の演技の質は低レベル。お陰で本来全力で出せる筈の演技力を抑える羽目になった」
「そりゃあね、私だけ上手に演技したら他の役者達のブリ大根ぶりが目立ってしまうもの。……上が私に求めてるのは演技力じゃない、コミュ力だから」
「……でも本音では全力を発揮したい。だからお兄ちゃんに白羽の矢を立てた」
「アクアなら、きっと自分をそこまで引き上げてくれると信じていたから」
「……俺はお前の役に立てたか?」
「勿論よアクア。だって、あんなに全力を出せたのは久しぶりだもん。――ずっとずっと周りの期待通りにネームバリューを利用されるばかりで、誰も私の能力そのものには目も向けてくれなくてさ……」
パイセンは目尻から涙を溢していた。演技としての涙ではない。辛く苦しい日々の積み重ねと、そこから一時的でも解放された喜びからくる、本物の涙。
「昨日偶然聞いちゃったんだ、今の事務所の社長や重役達の会話を。『”有馬かな”が退所しようとしても上手く引き留めろ、あの名前はまだまだ使えるから』……ですって」
「なんだよそりゃあ……」
おれとお兄ちゃんが休憩中に聞いた事と、似たような内容だった。
パイセンの所属事務所は俳優部門も存在するが実態は窓際部署に近く、基本的に子役を中心に扱っている。既に子役として旬が過ぎているパイセンを未だに在籍させている意図が不明だったが、まさかネームバリューの為だけに生かさず殺さずの状態にしていたとは。
「仕事が減っていって、ファンもいなくなった。お父さんはお母さんと離婚して出て行って、そのお母さんも田舎に逃げちゃって……」
頬を伝う涙を拭いつつ己の苦しみを吐露するパイセン。それをおれとお兄ちゃんは遮ったりせず、しかし真剣な面持ちで耳を傾ける。
「そんな中でも事務所は置いていてくれて、この人達だけは私をちゃんと見てくれてるんだって……だから頑張ってこれたのに……結局あの人たちも興味があったのは私の名前であって、私自身じゃなかった」
パイセンの才能に気付かず、好きな事もさせてあげず、ただ利益の為だけに使い潰し彼女の貴重な時間を浪費させたって事か。
「ゴメン、急にこんな話……アンタ達には関係無い事だったわ。そもそも私自身の傲慢さが招いた事でもあるし……」
確かに子役時代のパイセンは周囲から嫌われるような態度ばかり取っていた。でも彼女自身の落ち度を差し引いてもコレは理不尽だと思う。
今も尚両方の瞳から流れる大粒の涙。彼女にとってこの十数年は、どれだけ精神的にキツかった事だろうか。
(……ははは、これ程の天才相手にクソみたいな待遇とか……随分と舐めてやがるな連中)
半グレ時代だったら全員ぶっ殺してるところだ。
「有馬」
お兄ちゃんがハンカチでパイセンの涙を拭った。キョトンとした様子で見上げる彼女に、お兄ちゃんは真剣な表情で告げる。
「苺プロへ来い」
「え……?」
「もう分かっただろ? そんな事務所に居たって未来はない。こっちにはキチンとした役者部門もあるし、あの女優のアイの影響で所属タレントの質も高い。お前が好きなように演技したいと望むなら、苺プロに所属するのが一番だ」
パイセンは未だに目を瞬かせてる。おれもお兄ちゃんに続いた。
「お兄ちゃんの言う通り。こっちで一緒に芸能人をやろうよ? パイセン程の天才なら、絶対にウチの主力タレントになれるって!」
「……アンタ達、本気で言ってるの? 私自身を評価した上で?」
「じゃなきゃ1億払ってでも雇おうとシミュレートしないでしょ? お兄ちゃんもおれも、パイセンの事をそれ程までに高く買ってるんだから」
それだけの価値がパイセン自身にある。おれはそれを遠回しに伝えた。
「有馬、もう一度言う」
そしてお兄ちゃんも、もう一度パイセンの顔を正面に見据え、口を開いた。
「俺達のところへ来い」
パイセンの涙は完全に止まり、代わりに二つの瞳が太陽の如く輝いていた。最後のシーンで見せた演技よりも、ずっとずっと。
だってその輝きは、
重曹ちゃんが苺プロに入るかどうかは、次回で軽く描写します。
事務所の重曹ちゃんに対する扱いですが、バグ大の人食い伊能と宝華組の関係を逆にしたようなものです。
章タイトルにもありますが、前世での敵がマリア達に襲い掛かってきます。