【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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46話

結論から言おう。パイセンの移籍は左程揉める事なく完了した。

 

パイセンの所属事務所としてはもう少し使いたがったみたいだが、パイセンに助言して上層部の彼女に対する酷い発言を録音させ、それを聞かせたら気まずそうに目線を逸らした。

 

「子役でなくなっても私を置いてくれた事には感謝しています。ですが現状における扱いは不当としか思えません。何より皆さんの私に対する認識がこの発言通りなら、私としてはこれ以上皆さんと一緒にやっていくのは耐えられないと考えています。これが私が本事務所を辞め、苺プロへの移籍を希望する理由です」

 

パイセンが辞めるにあたって上層部と交渉する際、壱護社長に苺プロ顧問弁護士、そしておれの三人が同席した。その場でパイセンが無能な上層部を相手に、己の意思を伝える様子をおれ達は見守り続けた。

 

「――――私はもっと輝きたい」

 

不当扱いの証拠を押さえられた上、パイセン本人にここまで言われては連中も諦めざるを得なかった。元より絞れるだけ絞れた為、そろそろ厄介払いしたいという認識もあったのだろう。手続き自体はあっさりと済み、用済みとばかりにおれ等を追い払いやがった。

 

……ムカつく。銃創を苦しめたのはテメエ等だろうが。舐めやがって。

 

取り敢えず連中が裏でやっていた他の不正行為の証拠をこっそり入手したので、匿名で警察に通報してやった。いくらトイレに行くだけだからって、子供相手にも監視役を付けなかったのが運の尽き。

 

後日、件の事務所ではちょっとした騒ぎと化す。噂だと社長含む経営陣の一部が立場を追われ、それなりに風通しが良くなったようだ。

 

まぁ俺には関係ない事である。

 

 

 

 

 

ポンッ

 

「――これで貴女は今日から正式に苺プロの所属になるわ。改めてようこそ、有馬かなさん?」

「はい、宜しくお願い致します」

 

退所したその日に、おれ達はパイセンを苺プロに連れて契約を結んで貰った。

 

「それにしても……アクアもマリアも、貴方達はスカウトマンとして雇うべきだったかしら。まさかこれ程の逸材を連れて来るなんてね、一体どんな手を使ったの?」

 

少し呆れたような感心したような視線を送りつつ呟くミヤコ。

 

「普通に勧誘しただけだよ? パイセンの才能を無駄にしたくないからね。このまま燻らせるなんて勿体無い」

 

これでも猛者を懐に入れるのは得意な方である。大金を使わない純粋な勧誘は初めてやったけど。

 

「別に大した事じゃない。泣いてる女の子を放っとくなんて出来ないだろ?」

「!? あ、アンタって奴はアクア〜! そんなキザっぽい事をよく真顔で言えるわねー!」

「事実を述べたまでだ」

「もうっ……!」

 

パイセンは顔を茹蛸のように赤く染め、そっぽを向いた。でも満更でも無さそうで、口角が上がったり下がったりを繰り返してる。……もしかして褒められる事に弱いのかな? 悪い奴の口車にアッサリ乗せられそうでちょっと心配。

 

(いっそ紅林の修行を受けさせて自衛能力を高めて貰おうか)

 

その時、事務室の扉が勢いよく開いて泣きそうな顔のお姉ちゃんが飛び込んできた。そのままミヤコに抱き付く。

 

「ミヤえも〜ん!」

 

「その呼ばれ方ちょっと前にもされたわね。どうしたのよルビー?」

 

お姉ちゃん曰く、偶然YouTubeで人気アイドルグループのライブ映像を見たらしい、リアルタイムのやつの。それで焦燥感に駆られ、アイドルデビューの催促をしに来たと。

 

「ルビー、もう一度言うけど即立ち上げ、即オーディションは難しいの。ちゃんとしたグループを作るには、ちゃんとしたスカウトを雇ったり手続きが要るのよ?」

「分かってる……分かってるけどさぁ……!」

 

何せ母さんに次ぐ最推しの不知火フリルに認知されてなかったどころか、「頑張って」と憐れむようなエールまで送られたのだ……自分だけ。多かれ少なかれ仕事にあり付けてる他生徒と比較して焦るのも仕方ない。

 

「何? アンタ、アイドル志望なの?」

「え、ロリ先輩!? もしかしてホントに苺プロに……!?」

「そうよ、宜しくね。……あとロリ言うな顎揺らす……ぞ……?」

 

パイセンと彼女の存在に気付いたお姉ちゃんとの間で交わされる遣り取り……どうしたのパイセン? 急に思い出したかのようにビクッて震えておれを見てさ。

 

「ごめんなさい、言い過ぎました……」

「何が?」

 

そして何故か怯えた表情でおれに頭を下げてきた。何かを察したお姉ちゃんがパイセンに寄り添う。

 

「マリア、何があったか知らないけどあまり先輩を虐めないであげてよ?」

「ただでさえお前は怒ると見境ないんだからな? もう少しセーブしとけ」

「??? 分かったよお兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

お兄ちゃんまで加わって注意してくるし、ホントに何なんだ……? 愛する兄姉のお叱りなので素直に従うけどさ。

 

「――とそうだった。ルビーはアイドルになりたいのよね?」

「うん。でもまだ仲間が一人もいなくて、グループを立ち上げたくても立ち上げられないんだ……」

 

しょんぼり顔なお姉ちゃんの悩みに耳を傾けていたパイセンは、何らかの妙案を出そうと真剣な表情で考え込む。暫くして「よしっ、やってみるか」と決意を露わにし、

 

「じゃあなってあげましょうか? アンタが作るアイドルグループの一員に、私が2人目のメンバーとして」

 

意外な事を口にしたのだ。当然、その場にいる全員が驚いていた。

 

「え、せ、先輩が……? どういう……?」

「言葉通りの意味よ? アイドルになってあげるって言ったの」

 

同じ事をもう一回告げられてもやはり疑問符が尽きなかった。役者志望のパイセンが、アイドルを目指そうだなんて予想外だったから。確かにパイセンはアイドルとしてのポテンシャルを秘めていると感じていた。故に可能であればなって欲しいとは考えてたけど。

 

「まぁその……有り体に言えば、恩返し? 何、私がアイドルになるのは嬉しくないの?」

「いや、寧ろ俺としては願ったり叶ったりだが……良いのか? 役者とアイドルの両立は大変だぞ? 演技に使う時間を取られるし、万一失敗すれば役者生命にもダメージが……」

 

普通に考えれば在り得ない。若手役者としての時間を代償にしてまでアイドルの仕事を取った場合、真面に開花しなければ降り掛かるリスクが大き過ぎる。正に二兎追う者一兎も得ずな結末になりかねないのだ。長くこの業界にいるパイセンがそれを理解出来ない筈がない。

 

「えぇ、そうするって私が決めた事だから」

 

それでも承知で借りを返したいと言うなら、かなり義理堅い性格なようだ。

 

「それに決して恩返しの為だけじゃない。私自身にもメリットになり得ると判断したからよ」

「メリット……?」

「マリア、アンタは言ったわよね? 私が最も輝くのは自己主張の激しい時だって。アイドルなんて正に自分を主張しまくりの存在じゃない? 自分の魅力を売り込むのに都合が良いと思ったからよ」

「本気? パイセンは役者志望の筈じゃなかったの?」

「無論、役者が第一よ。でも、役者もアイドルも人を惹き付ける点では根本は一緒じゃない? そういう意味でもアイドル活動は、役者としての腕を磨くのに十分プラスに働くと考えているわ」

 

どうやらパイセンは、アイドルを大物女優へ成長する為のステップアップの場にするつもりらしい。

 

「やらせて。アンタ達が私を助けてくれたように、今度は私がこの子を助けてあげたいの」

 

何よりこんな固く決意に満ちた目を向けられたら、その意思を尊重してあげるしかないじゃないか。

 

「せんぱーい!!」

「わぶっ!?」

 

お姉ちゃんが感極まった様子でパイセンに抱き着き、まるで子犬のようにじゃれつく。

 

「ありがとう! コレでアイドルとしてのスタートを切れるよ!! 大好き! 女神様!」

「ふふん、優しい私にもっと感謝なさい! あとアンタの兄と弟のお陰でもあるんだから、二人にもお礼を忘れない事ね」

「うん、分かってる! おにいちゃんもマリアも、ホントにありがとう!」

「どうやら無事にアイドルを始められそうだ、良かった」

 

お兄ちゃんは微笑まし気にお姉ちゃんを見詰めていた。天童寺さりなだった頃から抱いていたお姉ちゃんの夢が実現に近付いたのだ。彼の中の雨宮吾郎もきっと喜んでいるに違いない。

 

「さてさて、忙しくなりそうだね」

 

お姉ちゃんとパイセンのアイドルデビューに、おれとお兄ちゃんの『今ガチ』への参加。紅林との修行もある。マネージャー見習いとしても芸能人としても、そして戦闘者としても、やる事はかなり多め。だが、これ程やりがいの感じる仕事は今までに無かった。

 

おれは気合を入れ直し、これからの大変だが楽しい日々に備えるのだった。




原作と違い、重曹ちゃんは自分の意思でアイドルを選択。なのでモチベーションもしっかり維持していきます。

さぁ、待ちに待った『今ガチ』。そろそろ入っていけそうです。
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