【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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52話

私の名前は有馬かな。

 

『ぴえヨンブートダンス、1時間付いてこれたら素顔出してヨシッ!!』

 

殺風景なスタジオでスパルタなダンスを繰り広げる中、酸素に想いを馳せる自称アイドルだ。

 

(きっつ……!!)

 

覆面筋トレ系名乗るだけあって、しっかりきつい! このふざけたお面被って1時間踊れって、殺す気か……!?

 

『鳴けないセミのぽおおおおずっ!!』

 

サンケツ!!

 

『眠らないクモのぽおおおずっ!!』

 

オネガイ、サンソノコトモチョットハカンガエテッ……!!

 

どうしてこうなったのか。

 

企画段階では寝起きドッキリをやる予定だったけど、嘘を吐いてデビューするような内容にルビーが強く反対。更にマリアも私達の魅力を生かせない(要約)とルビーに賛同し、最終的には私も折れて攻めの企画に変更した。

 

ここまでは別に良い。すぐに忘れられるような薄い印象しか与えられないなら、やっても殆ど意味なかっただろうし。

 

……でもさ、だからって”コレ”かよ!!!

 

(極端過ぎるわっ!!)

 

私は走り込みしてるから耐えられるけど、ズブの素人のこの子は……

 

「あははきっつ、きっつうっ……! 紅林師匠に鍛えられてるけど、追い付かないくらいきっつ……! 死んじゃうってあははっ……!」

「……っ!」

 

マスク越しでも分かるくらい楽しそうに踊っていた。まるで今までの退屈な日々から解放され、自由を謳歌しているかの如く。

 

 

 

 

 

(――良かったな、さりなちゃん)

 

親に放置され体も満足に動かせず、一人寂しく病室で過ごしていたあの子が、辛そうだが心底楽しくダンスをしている。前世における彼女の生き地獄を側で見ていた俺にとって、その姿は何かが込み上げてきそうだ。

 

その時、隣で一緒にルビー達を見守っていたアイが俺の頭に手を置く。

 

「……アイ?」

「アクア? 泣いてるの?」

 

心配そうな顔付きで優しく頭を撫でてくれる今生の母に、俺は正直に話す。

 

「あぁ、ルビーの姿が眩し過ぎて、嬉しくてな」

「――そっか、せんせーにとっては感慨深い事だもんね」

 

察したアイが穏やかに笑い掛けてくる。

 

ルビーと恋人に至る過程で、アイには俺達の前世を明かしてある。転生そのものについてはマリアの事もあり落ち着いた様子で耳を傾けていたが、俺が雨宮吾郎と知った途端声を張り上げんばかりに驚いていた。

 

尚、死んだ経緯に関してはルビーがいる手前、事故だと誤魔化したが。

 

俺は出産当日に立ち会えなかった事を謝罪した。しかしアイは気にしてないと許してくれて、俺がいたからこそ元気な子供を産めたと逆に感謝してきた。

 

『マリアにはもう言ったけど、君達の前世が誰だろうと関係ないよ。3人はママにとって、これからもずっと愛しい子供だからね?』

『私がママの子になれたのも、せんせーとマリアにまた会えたのも、全部せんせーが頑張ったお陰だよ! ありがとう、せんせ!』

『おれからも、3人の家族にしてくれてありがとう、お兄ちゃん?』

 

アイとルビー、そしてマリアにそう言われ、少し泣きそうになったのは内緒だ。

 

またルビーとの関係性も知ったアイは、寧ろ積極的な様子で彼女との恋愛を後押ししてきた。ルビーが感激のあまりアイに抱き着いたのを覚えている。

 

「ルビーならきっとドームまで行ける。アイすらも超える存在になり得ると、俺は確信している」

「私もだよ、ルビーはアイドルで終わるような子じゃない。勿論アクアとマリアも、将来は私以上のスターだと思ってるから」

「あぁ、その気で頑張っていくつもりだ」

 

前世から続く関係故、未だに気恥ずかしくて名前呼びのままだが……何時かはちゃんとアイの事、”母さん”と呼べるようになれたら良いな。マリアのように。

 

……そういえば。

 

「マリアがいないぞ?」

「ちょっと用事があるから席を外すって。30分くらいで戻るって言ってたけど」

 

マリアの事だ。何か仕込んできそうな気がした。

 

 

 

 

や、やっと終わった……。

 

「つかれたぁ……」

「ギブ、ミィ、さんっそぉ……」

 

私とルビーはきっかり1時間踊りきってみせた。もうヘトヘト……同時に床にへたり込み、不足した酸素を少しでも多く補充しにかかる。

 

『はいお見事! 着ぐるみ取って自己紹介どうぞ!』

『い、いちごプロしょぞく……星野ルビー……じしょう、アイドルです!』

 

今の私達は全身汗だく。シャツは素肌に張り付き、ボディラインがくっきりと強調されている。美少女のそんな姿は、はっきり言って凄く艶めかしい。対するぴえヨンは欠片も疲労しておらず、汗の一つも掻いていない。化け物めぇ……

 

『はいそっちも!』

 

あぁもう! こうなりゃヤケよ……! 

 

『有馬かな! 自称アイドルですこんにちは!!』

『はいはい名前は聞き覚えがあるネ!』

 

聞き覚えだけかよ!

 

『お2人とも、とても素晴らしいダンスでした。スポーツドリンクをどうぞ?』

『えっ、あぁ……ありがとねマリア』

 

息を整え終えたところで、背後に立つメイド服姿のマリアからドリンクを受け取ると、一気に体内へ流し込んだ。あぁ、冷たくて美味しい……生き返――。

 

『ブフウウウウウウウウッ!!?』

『メイドさんだあああああ!!?』

 

『吐かないで下さい、勿体ないじゃないですか』

 

な、なんなのアンタその恰好は……!? あまりにも自然な流れ過ぎて一瞬反応が遅れちゃったじゃない!

 

「マリアきゃわー!!」

「お前席外して何してたのかと思えば、本当に何やってるんだ……?」

 

アイさんはメイド姿のマリアに興奮状態。その隣でアクアが呆れている。

 

『私の担当カメラマンの御友人から、好意でメイド服を頂いたのです』

 

ぐったりしているルビーに酸素吸入器を取り付けつつ答えるマリア。本物のメイドなんて見た事ないけど、恐ろしいくらい様になってるわね。喋り方も立ち振る舞いも、正に出来たメイドって印象である。

 

『いや凄い凄い。ホントは編集して1時間やった事にしようと思ってたんだけど、マジでガチったネ』

 

全力でやってこそ私は強く輝ける。それにアイさんやアクア達が見ているし、何よりルビーはあんなに頑張っていたのだ。手を抜くなんて選択肢は、最初から存在しない。

 

『視聴者には伝わらん事だけどサ、やっぱ現場の人間は見てるワケで。――僕は君ら好きヨ?』

『っ! あ、ありがとうございます……』

 

アクア達を除けば久々だった。誰かから認められるというのは、何故こんなにも嬉しい気持ちになるんだろう。

 

『そういえば君達、まだユニット名決めてないんだよネ?』

『『……あぁ』』

 

それ私が候補を上げてはあれじゃない、これじゃないとルビーが却下しまくるから、全然決まってなかったのよねー……

 

ジッと見詰めてくるルビーに、私は決定権を譲る。

 

『ルビー、アンタの好きな名前にしなさい』

『良いの!?』

 

するとルビーの顔がパーッと明るくなり、カメラに向かって力強く答えた。

 

『じゃあユニット名は――B小町!!』

 

え、それ大丈夫なの? そう思って元B小町のセンターに視線を向けると――。

 

「うん! 私達の後輩としてこれ程相応しい名前は無いと思うなー! 全然オッケー♪」

「やったー、アイさんありがとー!」

 

秒で了承して下さったわ。

 

『マリアくん。最後に一言、お願いできるかナ?』

『承知致しました』

 

マリアが綺麗な足取りで画面の中央に躍り出る。

 

『――皆さん、如何でしたか? 2人の頑張り屋さんなところが皆さんにも伝わっていたら幸いです。 これからもB小町の事を、どうか宜しくお願い致します』

『ありがとう! では今回の動画はここまで! 興味がある方は是非チャンネル登録をお願いしまス! それじゃあ――またネー!!』

『『またねー!!』』

 

そして撮影は無事(?)終了。緊張の糸が切れたのか、はたまた疲労の溜まり過ぎが原因か。限界を迎えて床に倒れ込もうとするルビー。

 

「おっと。ルビー、よく頑張ったね。えらいぞ~?」

 

その前にアイさんが素早く彼女の体を支え、いっぱい褒めてあげた。するとルビーはまるで幼子のようにアイさんを抱き締め返し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え」

「ピヨ?」

 

る、ルビー? アンタ今、アイさんの事を”ママ”って……よくよく見ればアイさんとルビーってかなり似てない? ま、まさか……

 

「ビヨ゛ッ゛……!!?」

 

「!!?」

 

その時スタジオに響いたのはぴえヨンの断末魔(?)。振り返ると、あの激しいダンスでも余裕だった巨漢が膝を付き、そして床にうつ伏せで倒れる。

 

「な、なにが……っ!?」

 

彼のすぐ後ろに立つのは、この世のモノとは思えない程美しいメイドさん。彼女――いや彼はニッコリと私に微笑んだ。

 

……が、すぐに三日月状に口角を上げる。半端ない圧とセットで。漆黒の綺羅星に射抜かれ、全身を恐怖が駆け巡る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「大丈夫だよ有馬ぁ? 次目覚めた時には綺麗さっぱり、忘れてるから」

「いぃぃぃぃぃやぁああああああああああッ!!?」

「だ、ダメだってマリア!」

「マリア落ち着け! 流石にそれは不味い!!」

「ふぇ~?」

 

暴走するマリアを彼の家族(ルビーは疲労で動けない)が必死に止める中、私は部屋の隅に縮こまって嵐が過ぎるのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――同時刻。

 

「むっ……ぐっ……」

 

東京某所では、近道の為に裏路地を歩いていた女子高生が謎の黒フード集団に襲われていた。ソイツ等は背後から女の子を羽交い絞めにして口を布で塞ぎ、

 

「殺しはしねえ、用が済んだら解放してやる」

「ぎゃあッ……!?」

 

改造スタンガンで意識を刈り取った。そしてそのまま少女の体を引き摺り、待機していた黒塗りのワゴン車に乗せる。

 

「誰にも見られてないよな?」

「はい、問題ありません。――しかし、何故こんな事をしなければならないのです? いくらなんでもこれは……」

「だから一線だけは超えないようにしてるだろ? 俺達は戻るんだ、輝かしかったあの頃に」

 

ワゴン車がゆっくりと走り出す。その車内では如何にもアウトローな男達がフードを取り、次のターゲットについて話していた。

 

「顧客からの指名だ。()()()()が欲しいんだとよ」

 

一人の男がタブレット端末を仲間に見せる。

 

 

 

 

そこに映っていたのは――――今ガチメンバーの集合シーンだった。




という訳で、かなちゃんにアイと三つ子の親子関係がバレてしまいました(主に口封じを図ろうとしたマリアの所為で)。最初にやらかしたのはルビーですが、彼女は疲労困憊で意識も朦朧としていたのです。どうか許してあげて下さい。


そして最後。不穏な気配が少しずつ漂ってきています。誘拐された少女は名無しのモブですが、これにより男達は敵を増やす結果となりました。
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