【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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マリアの挿絵を新たに追加しました(落書き程度ですが)。これが『死ねば肉になるだけ』と言っていた、あの裏社会の悪魔の生まれ変わりか……藤原千花がリアル男の娘と認識する訳だ……

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53話

おれの名前は星野マリア。

 

「――こうなっちまった以上は仕方ねえ……有馬、この件はくれぐれも外部に漏らさないように」

「は、はい。分かりました」

 

おれ達三つ子と母さんの関係がパイセンにバレてしまい、難しい顔の社長に彼女が釘を刺されている様子を眺める、苺プロのモデルだ。

 

その脇ではションボリ顔のお姉ちゃんが母さんに慰められていた。

 

「ごめんなさいママ、みんな……」

「ルビーはあんなに激しいダンスをした後で酷く疲れてたんだし、オギャっちゃうのも仕方ないよ? 大丈夫だって」

「ママ、オギャるとか言わないで……」

 

疲労困憊で意識が朦朧とする中、最推しにして最愛の母の癒しはとても心地良いものだったのだろう。気が緩んでうっかり家でするような接し方になるのも無理はない。

 

「全くマリアったら、どうしてすぐに暴力的な手段に出てしまうの? ぴえヨンさん、未だに目を覚さないわよ?」

 

そしておれはパイセンと社長から離れた所で正座させられ、同じく正座するミヤコから有難いお叱りを受ける羽目に。現在メイド服を着用中のおれ。宛ら女主人からお小言を食らう召使いの図だ。

 

「ごめんなさい、つい。一応アレは気絶してるだけだから」

「ついじゃないし、そういう問題じゃないでしょ?」

「もっともです……」

 

苺プロの最重要機密がバレた事に焦ってたとはいえ、流石に何の落ち度もない堅気に手を出すのは不味かった。アレで本当に記憶を飛ばせたか保証も無いし。

 

「兎に角そう言うのは意識して控えなさい。貴方はもうアウトローじゃないの、普通の人間なんだから」

「はーい……」

 

普通の人間、か。周りからもちゃんとそう思われてたんだね。なんだか嬉しい。

 

その後、仕事が残っている社長とミヤコはスタジオから退室し、話を終えたパイセンがおれ達の元へ歩いてきた。その表情は衝撃的事実を交通事故の如く知ってしまった割には、随分落ち着いてる感じがする。

 

「まさかアイさんがアンタ達の本当の母親だったなんてね……吃驚を通り越して寧ろ冷静になっちゃったわ」

 

人間、あまりにぶっとんだ話になると逆に驚けなくなっちゃうのだろうか。

 

「すまなかったな有馬。だが俺達家族の関係性が公になるのは色々と危険なんだ。何度も言うがこの事は内密で頼みたい」

「言える訳ないでしょアクア? 仮に言ったところで逆に私が『嘘付くな』ってバッシングされかねないわ」

 

でも、と言っておれ達親子を交互に観察するパイセン。

 

「……今までよくバレなかったわね。社長夫妻とは苗字も違えば顔も似ていないし。なのにアイさんとは顔立ちが非常にそっくりで。――周りから不審に思われなかったの?」

「そういや無かったな、一度も」

「先入観が働いたんじゃないかな? 母さん程のアイドルが16歳で3人の子供を産んだ事実そのものが、周囲にとっては想像の埒外だったんだろうね」

「まあ普通はそこまで考えが及ばないのでしょうけど……今更ながら16歳で三つ子を出産って、字面で表すと凄い響きだわ……」

 

それは確かに。パイセンに言われるまでもなく普通じゃないのは分かりきってる事だ。

 

すると母さんが前に出てパイセンと向き合う。身長がほぼ同じなのもあって、母さんの煌めく視線がパイセンの瞳と真正面からぶつかる形となった。

 

「かなちゃん、驚かせちゃってごめんね? ……でも、これだけは知っていて欲しいの」

 

母さんはとても真剣そうに、自身の想いを語る。

 

「私は決して生半可な覚悟でアクア達を産もうと決めた訳じゃないって。家族がいなかった私はね、家族が欲しかった。三つ子を宿した時なんて、とっても賑やかで楽しい家族が出来るって思ったくらいだもん」

「アイさん……」

「そういう事。おれ達は母さんに望まれてこの世に生まれてきた、それだけで十分。何の不満もないんだから」

 

おれに続き、お兄ちゃんとお姉ちゃんも強く頷く。誰もがこれ以上ないくらい今が幸せだと、信じて疑ってない。パイセンはおれ達家族を見て、どことなく寂し気な表情でボソリと呟いた。

 

「……いいなぁ」

「かなちゃん?」

 

それはおれ達を羨むような言葉だった。

 

「私はお父さんもお母さんも私から離れていっちゃって、時々自分は2人から望まれて生まれてきたのか疑問に思う事もあったから。あの人達にとって都合の良い商品でしかなかったのかなって……」

 

実質家族から放置されている彼女は、家族を求めていた母さんの気持ちがよく分かる。そして家族として当たり前の幸せを享受しているおれ達が、とても眩しいものに見えていた。

 

「そっか、君も大変だったんだね」

 

事情を察した母さんが、慈愛に満ちた顔で彼女の柔らかな赤毛にゆっくりと手を置く。パイセンはキョトンとしたまま母さんを見詰める。

 

「私にかなちゃんのご両親の代わりは出来ないけどさ……かなちゃんで良かったら、私の事を頼ったり甘えたりしてきなよ? 私は何時でも受け止めてあげるから、ね?」

「アイさん……で、でも、良いのでしょうか?」

「うん、遠慮しないで正面からドンとね? 寂しさを紛らわすくらいしか出来ないかもだけど」

 

なんて言うものの、おれには今の母さんがパイセンの母親のようにも映っていた。寄り添い味方でいるべき立場にも拘らず、用済み同然に我が子を見捨てた彼女の実母なんかより、よっぽど。

 

「っ……いえ、そう言って頂けるだけで十分です。ありがとうございます、アイさん」

 

パイセンは少し涙目になっていて、しかし嬉しそうな様子で頷いた。

 

「気にしないで。私も家族の事で辛い思いをしてきたから、かなちゃんの気持ちがよく分かるもん。あ、そうだ! 折角だしかなちゃんも私の事、“ママ”って呼ぶ?」

 

両手を広げて受け入れるような態勢を取りながら、母さんが凄い事を提案しだした。当然、パイセンは目を見開いて動揺する。

 

「ふぁっ!!? いやいやアイさん、そこまでは流石に……!」

「は? ママが”ママ”って呼ばせてくれるなんてご褒美でしかないじゃん? それを嫌がるなんて先輩どうかしてる」

「何故そこまでキレんのよルビー……」

 

この日、おれ達と秘密を共有する仲間がまた一人増えた。

 

「――ところでマリア、アンタどうしてメイド服なんか着てチャンネルに出たのよ?」

「そりゃあ、おれだって芸能人だよ? もっと知名度は欲しいもん」

「マリアに対する世間の認識を考えたら、人気上げるネタとしては悪くないかもな……」

「でしょうお兄ちゃん。おれ可愛いもん」

「うんうん、とっても可愛いよマリア。そうだ、写真撮らせてくれる? 待ち受けにしたいんだ」

「良いよー母さん!」

「ホント……幸せ家族ねぇ」

 

余談だが、暫くして目を覚ましたぴえヨンに確認を取ってみたところ、お姉ちゃんが母さんを”ママ”呼びした場面の記憶は綺麗さっぱり失くしていた。マスクに付いた作り物の目であっても嘘を見抜く能力は使えたので、彼が秘密を覚えていないのは確かだろう。無論、忘れたなら忘れたで改めて教えてあげるつもりはない。

 

事実上ぴえヨンだけ除け者みたいな扱いだが、あまり秘密を知る者を増やす訳にはいかないので、これは仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ぴえヨンとのコラボ企画を終えてから更に数週間後。

 

「私、もう『今ガチ』辞めたい……」

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

今ガチ収録中の教室。勉強机に腰掛けつつ項垂れる鷲見から出た、衝撃の告白。目の濁りが一切無かったので、本心だと理解したおれも他のメンバーと同様に驚いた。

 

「こんな途中で!?」

「なんでそんな事言うんだよ!」

「待て待て2人とも、鷲見さんが話し辛くなるだろ?」

「あ、あぁ」

「ごめん、アっくん……」

 

森本と熊野が少し声を荒げて詰め寄ろうとするのをお兄ちゃんが嗜める。

 

鷲見の話によると、最近学校で男子にからかわれる事が増えてきたらしい。芸能人が多数集まる陽東高校と違い、彼女の通う高校は所謂普通の学校。その中に一人だけ有名人が混ざっているとなれば、どうしても目立ってしまう。

 

「自分の『好き』って気持ちを皆に見せるって、こんなに怖い事ないよ……。始めるまで全然分かってなかった。大勢の人に注目されるって良い事ばかりじゃない……」

「メムも自分のチャンネルでバカやってるから……分かる……。皆私の事バカだと思って……まぁ実際バカなんだけどぉ」

 

鷲見に同意したMEMちょも普段の明るさが鳴りを潜め、その顔に暗い影が差す。おれ達は有名人。それ自体が大多数にとって異端となり得る要素だ。況してや学生ともなれば最悪虐めの理由にもなりかねず、事実そのような辛い子供時代を送ったと語る大物芸能人達もいる。鷲見の悩みは決して他人事ではないのだ。

 

「俺が何時でも話聞くからさ! ゆきが辞めるなら俺も辞めるからな!」

「ノブ君……」

「そんな事言わないで続けようぜ!」

 

カッコいいが日常で使うには恥ずかしい発言をする熊野。しかしその言葉には強い感情が乗せられていた。目も濁っておらず、心の底から鷲見を元気付けようとしているのが分かる。何度か出演して分かったけど彼、本気で鷲見を意識してるみたいだ。

 

「……うん、ありがとう」

 

彼の本心に気付いているかどうかは分からないが、鷲見はまるで彼にときめいているかのように朗らかに笑った。

 

果たして鷲見ゆきは番組を降りてしまうのか。そんな視聴継続の意欲を掻き立てるようなナレーションを最後に、今週分の撮影が終了した。

 

 

 

 

 

「ゆきちゃん……本当にこの番組辞めちゃうの?」

「そんな悲しそうな顔しないでよあかね、辞めるつもりはないから。まだ契約も残ってるし」

 

一仕事終えて一段落する中、絞り出すような声で問う黒川に対する鷲見の返答がこれだった。あれ、辞めたいのは本心の筈なのに何故……? 首を傾げつつおれは続けざまに質問してみる。

 

「でもゆきさん、さっきは辞めたいって言ってなかった……?」

「あれはちょっと自分の気持ちを膨らませて話してるだけ。学校でイジられて悲しかったのはホントだし、辞めたいって思った事もホント。――だって初回の顔合わせ以外ずっと朝一収録なんだよ?」

 

もう眠くて眠くて……と鷲見はあくびをしながら答えてくれた。

 

(……まさか、おれの能力にこんな弱点があったなんて。今まで全然気付けなかった)

 

相手の目の濁りで嘘を判別する能力も決して万能ではない。鷲見のように本心を語っても、その本心に沿って動くとは限らないからだ。逆もまた然り。誇張して表現された場合は能力の信頼性が著しく低下してしまう。

 

とはいえ、こと戦闘面に関しては頭の隅に置いておく程度で問題ないとも同時に結論付けた。仮に敵が本心から”殺したくない”とか伝えてきたところで、全身より滲み出る殺戮オーラまでは誤魔化しきれない。『殺したくないけど、それはそれとして殺す』なんてパターンは、このおれには通用しない。

 

寧ろ日常生活においてこそ注意すべき弱点だろう。相手の意思を絶対的なものと誤認し、当人が望まない結果となる行動に走って迷惑を掛けたり損害を出す……これは避けなければならない。

 

「なるほど……誇張して話すのが良いんだ」

 

そんな折、隣では何時も通り黒川が懐からメモ帳とペンを取り出し、忘れない内にと真剣そうな表情で書き残していた。それを微妙な顔でおれは観察する。

 

(ん~真面目なのは良い事なんだけど、そのメモが役立った試しが殆ど無いんだよなぁ……)

 

黒川あかね。劇団ララライのエースの一人で、演劇界ではかなり名の知れた役者である。ネットで調べる際に出演中の彼女の姿を沢山見てみたが、どの演技も強く目を惹くものばかりだった。彼女もまた紛れもなく天才、真の”モンスター”だ。

 

しかし、どんな猛者にだって得意不得意は存在する。

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄野田ああああああ!!!』

『ごげばああああああああ!!』

『1秒当たり30発、新記録です』

 

『噛むタイプのイエス・キリストです! デビルバイディング……!!』

『そんなの居なぐぎぃいいいいい!!?』

 

『目玉炙りまーす♪ 1000度の目玉焼き完成でーす!!』

『ぎゃあああああああ!!?』

 

『外道の肝臓グリングリーン♪ 喉越し最高のスムージーにしまあああああす!!』

『ジュースッ!!?』

 

上記の連中みたいにその道に特化した能力を持つが、例として日本刀に関しては彼等よりずっと得意な者達がいる。オールラウンダーな人間は一条や不知火など、おれの知る限りだが数える程度しか居ない。

 

何が言いたいかと言うと、黒川はリアリティーショーとの相性が悪い。舞台上で台本通りに動くのは得意でも、アドリブが求められる状況になると途端に弱くなってしまう。既に他のメンバーよりキャラが薄くなっている彼女。見るからに出番も減っており、内心はおれの予想以上に焦っている可能性が高かった。

 

「ほんま真面目やなあ、あかねちゃんは」

「あっ、みなみちゃん……」

 

そこへ現れたみなみが黒川の背後からメモを覗き込み、包み込むような優しい声色で彼女に話し掛ける。

 

「でもちょっと固くなり過ぎかなって思うわ。あかねちゃんも友達や家族と過ごす時は普通に話しとるやろ? ウチ等の日常生活を映しとるのがこの番組やさい、難しく考えずにこれからも一緒に楽しくお喋りしよう?」

「普段通り……って事?」

「せや。この番組で何を参考にすべきか言うたら、きっとそれだけで十分やと思うで? ウチはもっとあかねちゃんと色んな話題で語り合いたいんや。その姿をみんなに見て貰えばええ」

 

みなみのアドバイスを聞いた黒川は、まるで長年探していた物を漸く発見できたと言わんばかりに明るくなる。

 

「あ、ありがとうみなみちゃん! 参考にさせて貰うよ!」

「お役に立てて一安心や」

 

だが、アドバイス一つ受けた程度で改善されるのなら、こんなにも苦労はしていない。ここから巻き返すとなると相当な労力が要求されるだろう。黒川の苦難は今後も続きそうである。

 

「アッくん、ライトくん! 終わったら皆で飯食いに行こうぜ!」

 

思考を一時中断したのは、熊野が焼肉を食べに行こうと提案した時だった。

 

 

 

 

 

――そういえば何気に”ライト”呼びは熊野(+森本)が初だな。みんな”マリア”って呼ぶからちょっと新鮮。




次回、かぐや様ネタを出そうかと考えています。
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