【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
通常時のマリアの性格は、幼い城ヶ崎が母親と一緒に父親から逃げて真っ当な人生を歩めた場合をイメージしたものです(要はバグらなかったif)。きっと家族想いの優しい人間になれた筈でしょうね(バグ大動画でのifイラストを見て)。
紅林に弟子入り志望するシーンの内容を変更しました(番外編⑥)。どうやら紅林は伊集院が拷問ソムリエである事を知らないみたいなので、あの会話は不自然なのです。
夜、おれは一緒に寝ている母さんに宥められていた。母さんの温かい腕で包まれるのは心地良くて、ホッとする。
「大丈夫だよマリア、みなみちゃんは別に君を振った訳じゃない。ただ沢山の人が見てる中で突然告白された事が恥ずかしかっただけ」
「そうなの母さん?」
「告白ってね、順序や雰囲気ってすっごく大切な事なんだよ? それに焼肉屋さんでやるのは、ちょっとムードがないかなー?」
「むぅ……思えば『兎に角告れば良い』って考えだった」
おれだって大勢の前でそんな事されたら恥ずかしい。自分の想いを伝える事ばかり意識してしまい、みなみがどんな気持ちでいるのか全く考慮出来てなかった。
「……」
彼女がおれを好いているなのは間違いない。この目でこの能力で確かめたのだから。……だからって告るにしても時と場合というものがある。
相手の意思を絶対的なものと誤認し、当人が望まない行動に走って迷惑を掛ける……気付いていた筈なのに、能力の弱点にモロに嵌ってしまうなんて。みなみには申し訳ない事をしちゃったなぁ……
「私が見る限りだとみなみちゃんはマリアの事が気になってる。だからちゃんと謝って、もう一度トライしてみて?」
「分かった、頑張ってみるよ」
ただ相手に好意を抱く事だけが、相手の事を想う行為じゃない。その人となりや思想、趣味……相手の様々な面を考慮した行動ができてこそ意味がある。
……母さんにアドバイスされ、励まされ、今度こそ失敗しないようにしよう。そう思っていたおれだったが、現実は中々上手くいかないもの。
学校でも――、
「おはよう、みなみ」
「ひうっ!!? ま、まままマーくん! ごめん、今は忙しいから先行くけん後でな!?」
「あ……」
そして翌週の今ガチでも――、
「みなみ、ちょっと良i」
「あ、あかねちゃん! この間話してた件だけどね向こうで話そうや!」
「えっ!? う、うん……?」
「………」ピシッ
「ライトくんが石に!?」
みなみはおれと顔を合わせた途端、必ずと言って良いほど慌てて何処かへ去ってしまう。自業自得とはいえ、気になる女子からのこの対応はゴリゴリと心を削られていく。
「みなみちゃん、あからさまにマリアくんの事避けてるよね? クラス中で噂になってるよ?」
「うぅ……どうしてこんな事に……」
時間はお昼。おれはクラスメイト達からの好奇の目から逃れ、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そして偶々仕事が無く登校できた不知火の4人で屋上に移動していた。
因みにみなみは中学時代の友人達と昼食の為、一般科へ赴いている。何時もならおれ達と一緒に食べているのに……明らかにおれから遠ざかってるとしか思えない。
「今ガチでも2人とも殆ど会話が無かったし、本当に痴話喧嘩でもしたの?」
「いや、それは番組がそれっぽく編集してるだけだから……でもやっぱり間違いじゃないかも?」
「どっちなの?」
「みんなで焼肉を食べている最中にド直球告白したみたい。突然の事だったからみなみちゃん、気分悪くなって帰っちゃったみたいでさ」
「お姉ちゃん、言わないでよ……」
「うん、デリカシーもムードもまるでないわね」
「もう散々そう突かれてます……主に女性陣から」
「悪いなマリア、これに関しては男の俺でも擁護できそうにない」
「お兄ちゃんまでこれだし……」
『痴話喧嘩か!? 星野マリアと寿みなみの間に漂う険悪ムード!』。最新の放送分はこんな内容のキャッチコピーで締め括られていた。
これにより”マリみな”が再びトレンド入り。沈静化していたおれとみなみの話題が視聴者達の間で再び急上昇する事に。
おれとみなみの変化を見逃さなかった制作サイドは、数字アップのチャンスを逃すまいと色々と誇張して編集し番組を放送。質の悪い事に当事者目線でもあながち間違っていないと思える程度の内容に抑えてある為、真っ向から否定したくても出来ない状況である。ムードもへったくれもない告白でみなみの気を悪くしてしまったのは事実だし、だから彼女はおれを避けているんだとしか思えなかったから。
「なんとかしてみなみと仲直りしないと……」
「まあ諦めずに頑張るしかないね。みなみちゃんだって何時までもこのままで良いと思ってる筈がないだろうし」
「いっそ私やおにいちゃんが代わりにマリアの気持ちを伝えてあげよっか?」
「いや、大丈夫だよお姉ちゃん。こういうのは自分で直接謝らなきゃいけない事だと思うし」
自分の不始末くらい自分で出来なくてどうするのか。お姉ちゃんの提案をおれはやんわりと断る。
「取り敢えず、今はお昼ご飯を楽しみましょう」
「そうだね、不知火さん」
みなみの件は一旦置いておく事にして、おれ達は食事を始める。隣に腰を下ろした不知火が持参した弁当の包みを解き、豪華絢爛な中身を披露する。それにお姉ちゃんが目を輝かせて喰い付いた。
「わー! フリルちゃんのお弁当、すごく美味しそう! これってフリルちゃんの手作り?」
「ううん、姉さんの。毎日忙しいのに、必ず私の分まで作ってくれるの」
「女優なんだよな? 不知火さんのお姉さん」
「えぇ、『不知火ころも』って言うんだけど」
「知ってる知ってる! すっごい人気の女優さんだよね! 良いなー、姉妹揃って超有名人だなんて!」
「そこまでかな? 流石に貴方達と同じ事務所の”アイ”には劣るけど」
「いや、比較対象のレベルが高過ぎるよ……」
不知火ころも。確か秀智院学園の元生徒で、ミコさんや石上さんが同期だって言ってたっけ。元アイドルで現役の人気女優ってところが母さんと共通していて、会った事もないのに親近感が湧いてきそうだ。
「――どうしたんだマリア、ボーッとして?」
「え? んーん、何でもないよお兄ちゃん」
おっと、何時までも考え事してたら昼休みが終わっちゃう。おれも母さんお手製の弁当を頂くとするか。
「マリアくんのお弁当、凄い数のお握りね」
おれが蓋を開けた弁当箱の中身に興味を抱く不知火。彼女の視線の先にあったのは――綺麗に敷き詰められていた5個のじゃこお握りである。
「あぁ、これ? 母さんが作ってくれたちりめんじゃこ入りのお握りだよ。おれの一番の大好物なんだ」
かつてはトラウマを抉る程に恐ろしい存在だった筈のコレは、今や愛する二人の母達との思い出が詰まった最高の料理だと思っている。母の味は何かと問われれば迷わずコレと答える程に。あまりにも大好き過ぎて、おれのお弁当からこのお握りが無かった日は一度もない。
尚、ほぼ毎日食べているにも拘わらず、おれの身長が150㎝から1㎜も伸びる事はなかった。何故……
「――美味しそうだなぁ」
不知火が物欲しそうな顔でジーと見詰めてくる。大して表情筋は動いておらず無表情に近かったが、それでも非常に絵になる姿をしていた。
「不知火さんも食べる? はいどうぞ?」
「え、良いの?」
「まあ、そんな顔されちゃったらね。それに母さんの素晴らしさを他の人と共有したいってのもあるから」
本音では母親自慢をしたくて仕方がない。ただ残念ながら、おれ達三つ子が星野アイの実子であると直接教える訳にもいかない。でもこうして間接的な形であれば問題ない筈だ。
「……マリアくんって、実はマザコンだったりする?」
不知火はおれから受け取ったお握りを持ったまま軽く首を傾げる。彼女の疑問に答えたのはお姉ちゃんだ。
「ウチの弟、マザコンでシスコンでブラコンなんだ」
「そっか、家族の事が大好きなのね」
「へへん、世界一だと思ってるよ」
「ドヤ顔可愛い。写真撮らせて」 パシャ
「もう撮ってんじゃん」
それを聞いて不知火は欠片も不快感を示さず、寧ろホンの僅かに口角を上げて微笑した。パイセンなんかハッキリと”きもっ!?”ってドン引きしてたのに、良い人だなあ。
「さあさあ食べて! ほっぺたが落ちるくらい美味いからさ!」
「えぇ、いただきます」
おれに促されて不知火はお握りを口に含み、もきゅもきゅと咀嚼する。そしてゴクリと飲み込んだ後、”ふぁ~”と気持ち良さそうに溜息を吐いた。
「すごい、ただ美味しいだけじゃない……全体的にふんわりと柔らかで、口の中に含んだだけで米がホロホロと崩れていく。これ噛まなくても飲み物みたいにスルスルいけそうだわ」
「でしょう? だから何個でもあっという間に食べきれちゃうんだ」
鶴城さんの握り方と、前世の母さんの握り方。両者のお握りを食べて学んだ技術を併せ持ったのが、今生の母さんが作るじゃこお握りだ。最近はバリエーションも増えていて、前回はワカメと一緒に、今回は昆布ダシが使われている。女優業で多忙な日々なのに、おれの為にこんなにも多くの種類のじゃこお握りを考えてくれている。ホント母さんには感謝しかないよ。
「米は糖質の塊なんだからセーブして食べろよ? お前はモデルなんだ、体型には十二分に注意する必要があるんだからな」
「分かってるってお兄ちゃん。ちゃんと毎日体のチェックや運動は欠かさずやってるもん」
「ごめんマリアくん、もう一つだけ良い? 私の弁当のおかずと交換しよう?」
「うん、良いよ不知火さん」
「あっ、フリルちゃんのお弁当私も食べてみたい! 私ともおかず交換しよう?」
「えぇ、ルビーちゃんのお弁当も美味しそうだし――この卵焼きなんかどう? 姉さんの一番の得意料理なの」
「やった、ありがとう!」
楽しい昼食はあっという間に過ぎていった。
ここにみなみがいてくれたら、もっと最高なんだけどな……
「お前はクビになりたいのか!!? 最近あかねの出てるリアリティショーが人気出てるって言うから観てみたらなんだこれは!? 総出演時間15分以下じゃねぇか!?」
「頑張るだけじゃ金にならないんだよ! 他にもやりてぇって言う奴が大勢居る中で選んでやったんだ! 爪痕の1つでも残させろ!!」
「大丈夫。あかねは精一杯やってるんだ、気にしなくていい。ちゃんと俺が防波堤になるから……」
「……ごめんなさい」
このままじゃダメだ、このままじゃダメだ、このままじゃダメだ。社長やマネージャーに迷惑が掛かる。期待を裏切ってしまう。
何よりみなみちゃんに頼ってばかりで申し訳がない。こんなに地味で目立たない私の姿が放送されるのも、彼女が積極的に私に話題を振ってくれるからだ。それが無かったら――きっと私の出演時間は1分だって無かった筈だ。
でも、何時までもこのままで良い訳がない。
どうにかして自分の力で、爪痕を残さないと――。
みなみの助力で原作の10分未満から15分以下に増えたあかねの出演時間。しかしそれでもあかねに圧し掛かるプレッシャーは変わらず……