【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
アイはアクルビ(というよりゴロさり)が芸能界で大成させる為の遺伝子提供者にして母体に過ぎなかったのでは?と疑問になったりします。ただ、これだとアイが不憫過ぎるので、最終話辺りで(ツクヨミの言動に反して)転生した彼女が現れそうな気がしました。
俺の名前は星野マリア。
「……なんだ、このゴミ同然のコメントは? 番組の連中、やりやがったな」
無知で暇人なクソ共の所為で朝っぱらから半グレモード全開な、前世がアウトローの高校1年生だ。
「ヤバいよぉ、おにいちゃん……マリアから出てるオーラがいつにも増して凄まじいよ……」
「気持ちは分かる、仲間が謂れの無い口撃に晒されてるんだからな。俺だって不愉快だ」
アクアやルビーと一緒に登校中、俺はスマホの画面に映るコメント欄に殺意を籠った目線を注いでいた。うっかりスマホにヒビを入れちまいそうだ。
「こうなる事は予想していた。だが、それでも相手はまだ子供。少しくらいは躊躇する気はあるだろうと期待してみたが……非常に残念な結果だ」
いや、寧ろ子供だからか? 黒川の事を右も左も分からない世間知らずの餓鬼だと舐めてかかってるから、フォローしないどころか平気で視聴率向上の糧に出来たのだろう。全くもって巫山戯てやがる。
「笑えないねえ……」
学生間で起きたちょっとしたアクシデント。既に当事者同士は仲直りしてるのに、放送では黒川が悪意を持って鷲見の顔を傷付け、何の謝罪もなく去っているかのような内容に改悪されていた。
コレは、自室のパソコンに保存しといた仕込みを使う必要があるかもしれねえな。
「うわ何これ、ホントに酷い……。みんな何も知らないで好き勝手ばっかり! あかねちゃんもみなみちゃんも良い子なのに!」
「全くだ。仮に画面越し通りの人物だったとしても、ここまで人を貶したり暴言を吐いたりする事が正しい訳がない」
「私、2人の事が心配だよ……大丈夫かな?」
黒川と、そしてみなみに対する誹謗中傷の嵐に、アクアとルビーも怒りを露わにしていた。そう、黒川だけじゃない。彼女をフォローしたみなみまで炎上してしまったのだ。
コメントに暴言を投稿する有象無象曰く、”性悪女の味方をする性悪クソビッチ”。どっから見ても最低なレッテルである。黒川が本当に嫌な奴なら、みなみが助けに入る筈がないのによ。
「みなみ……」
俺は彼女に申し訳なさを感じていた。コメントの中にはみなみが俺を避けている件についても言及されていて、彼女が全て悪いという空気が形成されていた。俺が空気を読まない告白をした所為で、彼女に対する誹謗中傷を更に悪化させてしまったのだ。
(避けられてるとか関係ねえ。何がなんでも謝んねえと)
家族ではない一人の少女をここまで気にかけるなんて、前世では考えられない事だ。
やはり俺は……本当にみなみの事が好きになっちまったんだな。
一方、俺たちより先に教室へ辿り着いていたみなみ。炎上の件はクラスメイト達も知っている為、現れるや否や彼女のところへ集まっていく。
「みなみちゃん大丈夫? 炎上中だもん、大変じゃない?」
「ありがとなぁ皆。でも問題あらへんよ。事務所がすぐに炎上対策に動いてくれてな、暫くはコメントを見るなってスマホも預けさせられてるんや」
「スマホが使えないのは不便だよなあ……まあ仕方ないけどさ」
「仕事用の携帯を貸して貰っとるから、連絡には困らんで? 暫くはこれ使うつもりさけん、手間やけど電話帳に登録してくれます?」
「えぇ、勿論よ。教えて教えて」
コメント欄のような事をほざく者は一人もいない。彼女自身が優しい性格をしている事もあるが、数字的に美味しくなるように事実からズレた編集を行う場合もある事を、若くして芸能人になった彼等は熟知している。誰もがみなみを本気で心配していた。
「あとなぁ、今ガチで共演している黒川あかねさんって人なんやけど……」
「分かってる、みなみちゃんが助ける人が悪い人な訳ないじゃん。モデルの鷲見ゆきを傷付けちゃったのも、彼女の本意じゃないんでしょ?」
「うん。彼女すごく真面目でな、あの日もとても焦ってったんや。それがあの事故に繋がっちゃって……放送されてないけど謝って仲直りも済んでるねん。コメントに書かれてるような悪口は全部嘘っぱちやけん、誤解しないでな?」
「分かったよ、当人同士で決着が付いているなら、私達からは何も言う事はないから」
「おおきに」
「おはよう」
「おはようみんなー!」
「おす」
そこへ教室へと入ってくる俺達三つ子。あれだけ喧騒に包まれていた室内は一瞬で静まり返り、全員が此方に注目する。
「ま、マーくん……」
俺の姿を捉えた瞬間、あれだけ俺と話をしようと考えていたみなみの決意が大きく揺らぐ。あかねのフォローに入った事で自分も炎上した。同様に自分が俺と接触し過ぎれば、俺にまで飛び火する可能性があると。
考え過ぎかもしれない。だが、もしそうなってしまったら……みなみとしては俺を巻き込む事なんて望んでおらず、故に躊躇してしまう。
「ごめん、ウチちょっとトイレ……」
しかし逃げる事は不可能だ。
「みなみ」
「!?」
何故なら一瞬で俺は彼女のサイドに回り、その手を掴んでいたから。
「悪いが少し話がしたい。一緒に来てくれ」
「え、ちょ、マーくん……!?」
俺は彼女の返答を待たずに教室の外へと連れ出した。アクアとルビー、そしてクラスメイト達が出口のところまで追い掛け、俺達二人が廊下の奥深くへ消えていく姿を見送る。
「ねえせんせー。マリア、ちゃんとみなみちゃんと仲直り出来るかな……?」
「大丈夫だ、さりなちゃん。きっと何時も通りの姿で二人とも帰ってくるさ。俺達は信じて待とう」
「……そうだね」
「――ごめん」
屋上へ辿り着いたおれは、開口一番にみなみへ頭を下げた。みなみは此処に来るまでずっと困惑している。
「ま、待ってなマーくん。謝るなら寧ろウチやろ? あの日からずっと君の事を避けてばっかで、辛い思いさせてもうたんやから……」
「ううん、元はと言えば食事中に大勢の前で告白して、恥ずかしい思いをさせたおれがいけないんだ。気を悪くしてしまっても仕方ないと思ってる。しかも視聴者に炎上の理由を提供する形になってしまったんだ。みなみは何も悪くないのに悪者扱いされて……叩かれるべきは、おれなのに……」
みなみが叩かれている原因の一端はおれの行動にもある。あんなデリカシーのない告白さえしてなければ、彼女に降り掛かっている誹謗中傷も多少はマシになってたかもしれない。
「マーくん、気を悪くしたって言うなら、それは君の勘違いや」
しかし、みなみは全く怒っている様子がない。それどころか落ち着きを取り戻してきた彼女の顔は慈しむようで、それでいて照れているようにも見えた。
「恥ずかしかったのは確かやけど、マーくんに告白された時、ウチ胸の奥が凄く熱くなっていったんやで?」
大きな胸に重ねた両手を当てて、頬は赤く染まっていく。
「それはもう心臓の鼓動がはっきり聞こえるくらいドキドキしてなー。マーくんの可愛い顔を見とると顔から火が出るような気分になって、マーくんの事が見たいのに見れんくなってしまったんです」
だから安心してと、みなみは笑みを溢す。
「マーくんの事が嫌いになった訳やない。寧ろウチ、最近になって漸く自覚出来たんや――君の事が好きなんやって。ウチを守ってくれた時のマーくん、とっても男前で素敵過ぎたわ。あの時点で胸のドキドキが止まらへんかったし」
男の人として、肉蝮から助けて貰ったあの時からおれを恋愛対象として見ていたのだと、みなみは正直に話してくれた。
「……おれ、あんな告白の仕方だったから幻滅されちゃったのかなって」
「全然そんな事あらへんから大丈夫。好きな男の子に告白されたんや、ホンマ嬉しかったわ。ありがとな」
「そ、そっか、良かった」
安堵したのも束の間、両想いだって理解した瞬間凄く恥ずかしくなってきた。でもここで逃げる訳にはいかない。何とか耐えてみなみを正面から見据える。
「――寿みなみさん。もう一度聞いてくれませんか?」
「うん、何やマーくん?」
これから飛んでくる台詞を察した彼女も、頬を赤く染めたまま真剣な表情で待ち構える。
「おれは――貴女の事が好きです。付き合って下さい」
誰もいない二人っきりの場所で、改めておれは彼女に告白した。暫く続く沈黙。実際にはホンの数秒程度だろうけど、おれもみなみも何百倍も長く感じた。その長い静寂を破ったのは、みなみだった。
「うん…………と言いたいところやけど、ちょっと待ってくれます?」
「え……」
両想いは確かなのにどうして? まさかまた知らない内に気を悪くさせてしまった……?
「ちゃうちゃう。嫌とかそういう意味やないでマーくん? ――ただ、今ガチももう終盤が近いやん? 最終回は何があるか君も知っとるやろ?」
それって……
「告白、タイム」
「その時に改めて君の気持ちに答えさせてな? 折角やし、大勢の人たちに知らしめたいんや。君とウチが好き同士の関係やって」
「……大勢の前で言われるのは恥ずかしいんじゃなかったの?」
「せやけどムード的にはそっちの方がええやろ? 前回は流石に焼肉食べてる最中やったさかい」
「ぐへ」
あぁ……やっぱみなみもあれはムードが無いって思ってたんだね。本当に申し訳ない……
「それにな――きっとその時には、もっとマーくんの事が好きになってるかもしれへんから」
「……どうしよう不安になってきた」
その間に好感度が下がるような事態が起きて、いざ告白回で断られたら耐えられる自信がないかも……
「そんな悲観的にならんでも大丈夫やって。少なくとも嫌いになるとか、そういうつもりはウチには全然あらへんし」
「そ、そう? 良かった」
こうして安心するのも、おれがみなみに好意を抱いている証の一つだろう。嫌われても気にしない相手なら、こんなにも不安を抱く筈がない。
その時、学校のチャイムが鳴り響いた。HR開始の合図である。
「――遅刻、しちゃったね」
「マーくんと仲良く二人でな?」
思わず吹き出して楽し気に笑うおれ達。母さんと”俺(僕)”のように擦れ違ったりせず、無事に告白前の状態へ戻れて本当に良かった。
「じゃあ改めて、今ガチ最終回でね」
「うん、楽しみにしてますー」
おれはみなみの手を引いて屋上を後にした。
その後は遅刻の事をみなみと一緒に教師から注意されたり。行く時と戻る時で手を繋いでいたおれ達を見たクラスメイトが詳細を根掘り葉掘り聞いてきたり。仲直り出来た事を知ったお兄ちゃんとお姉ちゃんから頭を撫でられたり。
色々あったけど、今ガチとも炎上とも無縁の学校生活を過ごせたと思う。
「――――お母さん、社長、マネージャー、みんな……みなみちゃん……」
私の所為で迷惑をかけて……本当にごめんなさい。
次回、炎上騒動に無関係な横槍が入ります。