【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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人数が多いので、マリアなど一部のキャラ以外は影が薄いです(特に高校生組)。


63話

――日本の美少女の健康な内臓を売ります。

 

普通の人間になって16年も経ったせいだろうか? 最初、おれの脳みそは風谷の発した台詞の内容を理解出来なかった。高校生組は勿論、大半の秀知院OB勢も似たような反応だ。ただしかぐやさん、早坂さん、そして龍珠さんの3人のみ、即座に不快感と憤りの混ざった表情を浮かべていたが。

 

風谷は自身のスマホを手早く操作し、全員に見えるようテーブルに置く。画面内では特殊な条件を揃えなければ入れない裏サイトが映っており、彼が発した言葉と全く同じ内容の文章が浮かび上がっている。

 

「海外の顧客に対して連中がネットを通じて発しているキャッチコピーだ。これが最近多発している少女失踪事件の真相さ。既に情報屋界隈ではかなり有名になっている」

 

場が凍り付いた。

 

攫った女の子から内臓を取り出し、海外へ売り捌く。あまりにも非現実的で悍ましい所業に誰もが顔を蒼褪め、絶句するしかない。漸く発した言葉も激しい動揺が見て取れた。

 

「え、あ、え……何、それ? 内臓……? 映画の世界……?」

「すんません……ちょっと、いや全く理解が追い付かないんですが……」

「じょじょ冗談ですよね……? まさかみなみちゃんとあかねが同じ目に遭ってるって訳じゃ……」

 

「残念ながら本当だ。君達の仲間を攫った黒フードの集団、他に誘拐された少女達を襲った奴等と特徴が合致している」

 

しかし風谷はお構いなしに恐ろしい真実を突き付ける。否定したがる彼等の心情をバッサリ切り捨てるように。……その瞳はどこまでも透き通ったまま。どうしてこういう時くらいは濁ってくれないのか。

 

「何処の仁義外れだ!!?」

 

『!!?』

 

ダンッ、とテーブルが乱暴に叩かれる音。此処に居る面子の大半が吃驚して視線を変える。龍珠さんがわなわなと震え怒り心頭に声を荒げた。

 

「年端もいかねえ少女を拉致って内臓を取るだぁ? 人の道に外れてやがる……!」

 

((((((こ、こええええええええッ!!))))))

 

流石は巨大ヤクザのトップの娘。本職にも負けない濃密な深紅のオーラが立ち昇っている。……それに当てられたおれとお兄ちゃん以外の高校生組は全員怯えてるけど。

 

「龍珠先輩、子供達みんな怖がってますよ。抑えて抑えて」

「……すまん」

 

御行さんに宥められてオーラを収めた龍珠さんだが、その顔に宿る凄みは寧ろ増していた。

 

「続けるぞ? ――今回の犯人は主に2勢力。一つは誘拐役が集めた内臓を引き取り海外へ売り捌く『ナックル・アイ』。タイに拠点を置く巨大マフィアだ」

 

ナックル・アイなら知っている。16年以上前に、あの天羽組の和中に1支部を壊滅させられたマフィアだった筈。奴等のシノギは子供を拉致して腕を切ってから富裕層に販売する……だったっけ? 他の海外マフィアの例に漏らず残虐性の塊である。

 

しかしコイツ等の役目は内臓の輸出と販売まで。誘拐犯、つまりみなみと黒川を攫った連中は日本の裏社会組織に属する別勢力だ。一体誰だ、おれの仲間をこんな目に遭わせるクソ共は……?

 

「そしてもう一つは極道組織――『風見組』。コイツ等はナックル・アイを通じて海外の顧客が指定した少女の誘拐役を担当している。内臓を抜く役目も、奴等お抱えの闇医者だ」

 

―――は? 風見組だぁ?

 

 

 

 

 

『城ヶ崎。黙って風見組に入れ。俺の誘い、断ると怖いぞ?』

『従わねえなら殺す。本職舐めんじゃねえぞ?』

 

 

 

 

 

蘇る記憶。飯田という化石ヤクザがこの俺を脅迫してきた時の記憶だ。

 

「風見組……? 確か1年前に先代組長が亡くなって、その実の息子に代替わりしたと聞いている。少し前まではシマの治安も守れない程に弱体化していた筈だが、2代目以降から突然盛り返してきていたな。まさか――」

「その通りだ龍珠さん。この恐ろしいシノギこそ、風見組復興のカラクリの正体だ。日本人は海外で高値で取引され、内臓だけでも相当な値が付く。それが美少女の健康的なものとくれば、相場より高い金を払ってでも手に入れたがる物好きは多いのさ」

「クソッ、仮にも任侠者が下衆な商売に手を染めやがって……!」

 

白銀御行の注意もそこそこに再び声を荒げる龍珠桃だが、もはや高校生組に彼女の怒りを怖がる余裕は無かった。

 

「何だよこりゃあ……性質の悪い夢かよ……」

「ど、どうしよう……! みなみちゃんとあかねが殺されちゃう!!」

「みなみちゃん、あかねちゃん!!」

「あかね……」

「み、みんな、ちょっと落ち着いて……」

「友達が殺されるかもしれないのに落ち着ける訳ないじゃないですか……!?」

 

男子は先程以上に動揺し、女子は涙を流して震える者が続出する。割と強気で図太い性格なルビーや有馬、鷲見も。この面子で最も大人びているMEMちょやアクアですら冷や汗を隠せない。黒川とみなみが置かれている絶望的な状況を聞かされ、どうして真面に思考が出来るだろうか。

 

「……風見組は少女達を殺さず、生かしたまま闇医者の所で入院させているそうだ。何故かは知らんが、それでも予断を許さないのは確かだろう」

 

中々にカオスな状況でも風谷は淡々とした振る舞いを崩さず、更に不安を助長させる情報を繰り出す。

 

しかし妙だな。普通は足が付かないように口封じをする筈。下衆なシノギに手を染めている連中が、そんな中途半端な事をする理由は一体……?

 

「ナックル・アイとの取引場所は不明だが、風見組の本部と支部、それから闇医者の拠点はここに書いてある。攫われた少女達はこれらの場所に監禁されているとの情報だ」

「ちょっと貴方!!」

 

伊井野ミコが声を張り上げ、勢いよく立ち上がる。

 

「そこまで知っててどうして警察に告発しないのですか!!? 犯罪を発見したら通報する! 国民の義務ですよ!」

 

彼女は最高裁判所の裁判官。司法に従事する人間として秩序を乱す者に激憤し、情報を掴んでいながら通報しなかった風谷を睨み付ける。

 

しかし、風谷は諦め混じりに溜息を吐くしかない。当然だ、通報出来てればこんなにも苦労はしていない。とっくの昔に解決している。

 

「情報屋が集めた情報は証拠能力を持たない。明確に奴等がやったという動かぬ証が得られた訳じゃないからな。サツに持ち込んでも門前払いだ」

 

他者からの伝聞、噂、目撃情報……基本は人伝てに得た曖昧なものばかり。情報屋が持っているものにガセネタが多いのもコレが理由だ。無論、本当かどうか予め確かめる者もいるが、中には金だけを目的に碌に真偽も調べず、依頼者に出鱈目な情報を渡すだけの者が圧倒的に多い。風谷みたいに依頼者へ積極的に寄り添うような情報屋は、稀有な存在なのだ。

 

「じゃ、じゃあ貴方が今伝えた話も、本当かどうか証明出来ないって事じゃないですか?」

「伊井野、心配はない。この男の情報収集能力は本物だ。うちの組だけでなく、他の多くの組織や一般人まで利用する程度には正確な情報を集めてくれる。信用してくれて構わない」

「龍珠先輩……」

「ミコちゃん。私も直感なんだけどさ、この男の人が嘘を吐いているようには見えないんだよね。信じても良いと思うな」

「こばちゃんまで……でも、証拠能力の無い情報じゃ警察は……」

 

そう、普通ならサツを動かせられない。”普通”なら、である。

 

「だから龍珠さんからアンタ等秀智院学園の卒業生が集まっていると聞いて、渡りに船だと思ったよ」

 

風谷がスタジオを訪れたのも、単に距離が近かったからとか、お得意先の人間の依頼だったからとかだけじゃない。

 

「会ってみて安心した。アンタ等は俺が今まで見てきた薄汚い権力者達とは違う。俺の情報を戯言と切って捨てるような人間ではないとね」

 

一部を除いて、サツを無理矢理動かす事が可能な権力者が揃っているからだ。四条眞妃が代表して風谷の意図を確認する。

 

「……つまり風谷さんは、私達に犯人を捕まえるよう警察へ圧力を掛けろと?」

「俺だって風見組やナックル・アイの悪魔のような所業には怒り狂ってる。だが、残念ながら俺は情報を集める以外は無力でしかない。どうしても力を持った人間の協力が不可欠なんだ」

 

すると風谷は大人組に向けて深々と頭を下げた。

 

「どうか少女達を助けてやってくれ。アンタ等だけが頼りだ」

 

正義感の強い男だった。裏社会の理不尽を目の当たりにした彼にとって、善良な権力者達との出会いは救いの手を差し伸べられたのも同然に違いない。

 

「――分かりました。我々に任せて下さい」

 

そんな彼の想いを、この中で最もお人好しな男が無下にする道理は無い。そして白銀御行に負けず劣らずな善人達も同様に願いを聞き入れる。

 

「御行さんがそう言うなら、私達も力を貸すまでですわ」

「だね、かぐ姉!」

「女の子達を助けて、悪い奴等をボッコボコにしてやりましょう!」 シュシュシュッ!

「藤原先輩、あくまで捕まえるだけですよ? こんな密集してるとこでボクシングしないで下さい」

「よし、取り敢えず警察上層部にいる小島に話を通すとすっか」

 

小島とは龍珠桃や田沼渚と同じ、秀智院学園の元VIPの一人だ。龍珠とは犬猿の仲だが根は良い奴らしく、今回の訴えも決して無下にはしないだろうとの事。

 

「でしたら龍珠先輩、私や四条財閥の名前も是非使って下さい」

「眞妃ちゃんがそのつもりなら、私達も経団連と田沼病院名義で通報しますね?」

「いっその事、此処に居る全員の名前で警察に”お願い”しましょうか?」

「そうだな、かぐや。――という訳で龍珠先輩、白銀製薬の依頼という事で小島先輩に伝えて頂けますか?」

「お前等すまねえな、助かるぜ。これなら小島の奴も即座に実行部隊を出動させられる筈だ」

 

……俺達高校生組は完全に置いてけぼりである。先程までのカオスぶりは何処へ。みーんなポカーンとした面のまま、大人組が圧倒的な権力を振るう様子を眺める事しか出来ない。

 

「これが権力者……」

「怖いよぉ……」

 

証拠が無くても国家権力を利用して気に喰わない相手を潰せる。そんな人種が確かに存在する事に恐怖を覚える者もいた。

 

(終わったな、犯人共)

 

奴等にとっては予想外だろう、VIP含む秀知院学園OB勢の猛攻。海外マフィアのナックル・アイは日本の活動拠点が潰される程度だろうが、風見組の完全消滅はこれで決定的となった。

 

「大丈夫よみんな。私達が全力で友達を助けてみせるから」

「は、はい」

「お願いします……」

 

かぐやの言葉はあまりにも頼もし過ぎて、誰もが素直に頷く他なかった。この国で現代貴族を敵に回してはいけない、そう心に刻む子供達だった。

 

(……本当は俺が直々にカチコミへ向かうつもりだったんだけどな)

 

舐められる位ならば相手を潰す。それが前世から続く俺のルールだったが、前にミヤコが俺に言った台詞が脳裏を過ぎる。

 

『貴方はもうアウトローじゃないの。普通の人間なんだから』

 

(……そうだ、普通の人間は裏の組織を襲撃したりしない)

 

一刻も早くみなみを助けたい。風谷の話では生かされている可能性が高いが、だからってアウトローに囚われている状況で安心なぞ出来る訳がない。

 

だが不幸中の幸いか、多くの有力者達が解決へ動いてくれたのは極めて大きい。大量のサツが連中の拠点へ乗り込むなら、単独でカチコミをかけるよりも安全かつ確実にみなみ達を救出出来るだろう。

 

(ここはかぐや達やサツに任せるのがベストかもしれん)

 

しかし僅か数時間後、俺はその判断をあっさりと覆す事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報を伝え終えた風谷はスタジオを後にしていた。

 

「――という訳です。風見組と闇医者の拠点に向かうのはオススメしません。あの様子だとカチコミのタイミングと重なる可能性が高い」

 

自宅へ戻る道中で、風谷はある組織と連絡を取る。

 

「ただ、ナックル・アイの拠点に関しては不明と嘘を吐いておきました。龍珠組の御令嬢を中心に情報収集が行われるでしょうが、皆さんならサツが到着する前にケリを付けられるでしょう」

『無論だ、5分で済ませる。すまねえな、風谷』

「えぇ、ではこれで」

 

電話を切った風谷は振り返り、白銀スタジオがある建物の方角を暫し見詰めた。

 

「――それにしても、あの3人の餓鬼が例の”紅鬼の弟子”か。彼の不幸体質が移ってなければ良いんだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風見組の連中もブチ殺したいところだが、サツが乗り込むんじゃ仕方ねえ。――だがナックル・アイ、コイツ等だけはサツにも龍珠組にも渡さん」

 

風谷の通話相手、白スーツに身を包んだ眼鏡の男が殺意を滲ませる。空龍街の堅気を食い物にした外道共に、彼は必ず地獄を見せると誓った。

 

「誰だろうと、コロシの天羽組を舐めた奴は死ぬんだよ……!」

 

天羽組の武闘派極道――小峠華太も動き出す。




マリア「……そういえば風谷の奴、ナックル・アイの話をする時一瞬だけ目が濁ったような……まさか拠点を知ってるのか? 確認しとけば良かったな……」



次回。襲撃、風見組。
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