【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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65話

買収した下っ端ヤクザが操る車に乗り、風見組の本拠地へ向かう俺達。因みに気絶させた他のヤクザ諸君には丁重にご降車頂いた。今頃道の端っこで居眠りしながらサツの御縄に付くのを待っている事だろう。

 

「みなみ、みんな。待ってろ、今行くからな」

 

「……」

「………」

 

何故かみーんな冷や汗流して沈黙したまま座席に座っていたが。主に有馬やMEM、森本がである。

 

「……お前容赦ないな」

 

お陰でアクアの呆れた声が狭い車内によく響く。

 

「何がだよアクア? ……おい、遅くねえか? もっとスピード上げろ」

「は、はいぃ!!」

 

助手席に座る俺はこうして時折ヤクザに指示を飛ばしながら、アクアの言葉にも反応する。すると有馬が声を張り上げツッコミをしてきた。

 

「ちょっとちょっと! このヤクザやけにアンタに従順ね!? ってか凄くビビってるし!? 頭も変なハゲ方してるし顔も痣だらけだし! どう考えてもアンタの仕業でしょ!?」

「だからどうした有馬」

 

対する俺は冷静に言葉を返す。

 

「コイツ等は一度ならず二度も俺の仲間に手を掛けた。内臓を売るなんて悍ましいシノギの為にな。挙句この俺まで誘拐しようとしたんだ。これでも落とし前としては優しい方だと思うが? ……なぁ?」

「はいっ! この程度で済んで心底感謝してございますぅうう!!」

「ヤクザの人の日本語がおかしい事になってるぞ……」

「ま、マジでアンタ、このヤクザをここまでボロボロにしたのね……」

「さっきのヤクザさん達もマリりんが全部倒したって事だよね……? 捕まった状態からこれって凄くない……?」

 

……あちゃあ、やっぱ怖がられちゃったか。確かにやり過ぎではあったけど、仲間からのこの反応は少し辛いな……

 

「みんな」

 

その時、丁度真後ろの座席に居たルビーが、俺の頭に手を置いて優しく撫でてきた。そして俺の今の心情を読み取ったかのように言葉を紡いでいく。

 

「マリアの事、どうか誤解しないでくれるかな? この子はね、ゆきぽん達の為に必死だっただけなんだよ。今だって攫われた仲間を追い掛けて助け出す為に、自分に出来る事はないか考えを巡らせている最中なんだから」

「ルビー……」

「確かに怒ると凄く怖いし、乱暴なところもあるけれど……大好きな家族や仲間を想ってるからこそ、こうなっちゃう時もあるんだ」

 

ルビーは笑った。母さん譲りの美しい顔に、彼女のような慈愛に満ちた笑みを仲間達に振り撒く。全員がそれに釘付けにされ、静かにルビーの話に耳を傾けるしかない。

 

「怖がらないで……までは難しいかもだけど、分かってあげて? この子は家族想いで仲間想いな、とても優しい子だって」

 

……俺は幸せ者だよな。こんなに素敵な人達と家族になれたのだから。

 

「すまねえなルビー」

「友達の為に頑張っているだけなのに友達が怖がって離れちゃうとか、そんな悲しい事になって欲しくないからね」

 

天真爛漫にルビーが笑う、年相応の少女らしく。……アンタはそうやって何時までも純粋なままでいてくれよ、姉さん。

 

「俺からもだ。マリアは本当に悪い奴にしかこれだけの事はしない。それだけは信じてやって欲しい」

「アクア……ありがと」

 

この人達は俺の前世での所業を理解して尚俺の事を愛してくれている。今だって、こうして俺がみんなに嫌われないように精一杯のフォローをしてくれるのだ。それが途轍もなく嬉しくて、彼等を守りたいという意思が更に強くなった。

 

「た、確かに言われてみれば……あくまで鷲見達を助けようとしてるだけだよな?」

「そうだよね……ごめんマリりん。私、ちょっと君の事を恐ろしいって思っちゃって……」

「別に良いさ。悪党とはいえ流石にやり過ぎたかなって俺も思ってたし」

 

でも、いざ同じ状況に立たされたらまた相手をズタボロにしそうである。どうも俺の敵に対する苛烈さは前世から殆ど変わってないらしい。いや、決して殺そうとしない時点で寧ろ丸くなってはいる方なのかも。

 

(だからって仮にも堅気がここまでするかよ普通……)

 

ヤクザ野郎が何か言いたげだったが、ひと睨みしたら運転に集中してくれた。

 

「分かったけどさ……それでも敵の本拠地へ向かう必要ってあるの? もうじき警察だって逮捕に動くんだし」

 

有馬がもっともな疑問を投げ掛けてくる。まあ俺達が直接狙われなければ、それでも良かったかもだけどさ。 

 

「有馬。この場合で一番危ないのは誰だと思う?」

「え、それは……」

「熊野だよ。連中にとって状況的に最も扱いが雑になるのは彼奴だ」

 

ここで何故男である熊野の名前が真っ先に出るのか。本拠地の奥に押し込まれているみなみや黒川の方がヤバいのでは? そんな表情を浮かべる一同に詳細を語る。

 

「奴等の狙いは少女だ、野郎じゃない。なら邪魔立てしてきた熊野の生き死になんか考慮すると思うか? 悠長にサツを待っていれば手遅れになるかもしれない」

 

だから一番の救出対象は熊野になる。こうしてすぐに追い掛ければ、酷い目に遭わされる前に助け出せるだろう。そう話しているところで、下っ端化石が慌てた様子で反論してきやがった。

 

「そ、その辺は大丈夫かと……! 誰であっても殺しは絶対にするなって、親っさんや兄貴達から厳命されてますんで……!」

「はあ? 少女の内臓を狙ってる輩が”殺しはするな”だ? そんな矛盾した話を信じる訳ねえだろうが? 馬鹿にしてんのかテメエ?」

「ホントです! 本当にそう命令されてるんです……!」

 

ふむ、目は全く濁ってない。マジかよ。

 

「つまり熊野も含めて俺の仲間は全員命の保証はされてると……?」

「はいっ、その通りでございまする……! 内臓も片方の腎臓しか取ってないので死ぬ事は「ボケが」アダダダダッ!?」

 

俺は巫山戯た事を抜かしやがる化石の左腕を掴み、万力を込める。ミシミシと悲鳴を上げる左腕からの激痛にヤクザの顔は醜く歪んだ。

 

「少女達の意思をガン無視してる時点でアウトなんだよ。それに腹切るって事はどう言う意味か分かってんのか? 消えない痕が残るって事だ。まだまだ人生これからって時に大きなハンデ背負っちまうんだぞ?」

 

母さんも大変だったからよく分かる。ストーカーによる刺し傷に開腹手術の痕。それにより腹を露出する仕事に大きく支障を来たしてしまったのだから。まあ、そんなハンデをモノともしないでトップタレントに上り詰めた母さんは確かに凄いけど。

 

「お前等、彼女達の体だけでなく心も傷付けて何がしたいんだよ? 腕折ってそいつ等の苦しみを分からせてやろうか?」

「イデデデ、ごめんなさい! やめでください……!!」

「おいマリアやめろ、運転中だ!」

「なーに、片腕健在なら運転は出来る」

「マリア、良いから止めてあげて? このヤクザさんを責めたってどうにもならないでしょ?」

「……分かった」

 

骨を粉々にしようと力を込めたところでアクアとルビーが止めに入る。俺は兄姉の言葉に素直に従い、掴んでいた手を離した。

 

「それよりも今朝みんなにGPSを渡してあっただろ? そっちに反応はあるのか?」

「ん? ……問題ない、反応ありだ」

 

GPSの位置情報は自分のスマホに表示されている。熊野と鷲見に渡した分はある場所で静止していた。

 

「鷲見達を誘拐した連中はもう目的地に着いているっぽいな。此処から約1キロ、かなり近いぞ」

 

あ、今通過した居酒屋。飯田のクソ野郎を俺が傀儡化したチンピラ使って暗殺した所じゃねえか。となると、やはり風見組の本部で間違いなさそうだな、鷲見達の現在地は。

 

「しかし妙だ、二人とも全く動いていない。位置的に道路のど真ん中な筈だが……まさか」

「まさかって何なの、マリりん?」

「熊野の奴、もしかしたらリンチされてるのかもしれん」

「り、リンチですって……!?」

 

有馬が言葉を失う。流石に有り得ないのではと。だが熊野は鷲見に本気で恋をしている。彼女が連れ去られた時も体を張って阻止しようとする程に。きっと今も好きな女を守る為に暴れ、そしてヤクザ達の暴力を受け続けているのだろう。

 

「も、もうじき風見組の本部前です!」

 

ヤクザ野郎の叫びで前方に視線が集中する。間を置かずに無駄に豪勢な屋敷が現れ、その入り口前の道路に人影らしきものを捉える。

 

「……ちっ、やはりか」

 

視力5.0の俺には見えた。ワゴン車から降ろされた熊野が数人のヤクザから集団リンチを受け、その側で拘束された鷲見が泣き叫ぶ様子を。

 

直後、俺の中で何かが色々と切れた。

 

「おい化石くん」

「かせっ……!? は、はい何か?」

「このまま加速して」

「はいぃ!!?」

 

俺が発した命令に素っ頓狂な声を上げる下っ端ヤクザ。当然だ、目的地まではもう目と鼻の先。寧ろ停止しなければ入り口に屯ってる人間と正面衝突だ。

 

「で、寸でのところで停車しろ。ヤクザ共をビビらせて隙作りたいから。あと間違って仲間轢いたら許さん」

「そんな無茶な……!」

「1時間だけ肉になってみるか?」

「(何それ!?) やります……!」

 

しかし反論も異議も認めない。男は俺の指示に従ってアクセルを思いっきり踏み込んだ。ワゴン車は悲鳴を上げながら加速する。

 

「ちょちょちょマリりん、大丈夫なの!?」

「いや危なっ、やめなさいってば……!!」

「大丈夫だ、信じろ」

 

みんなが手すりや窓枠などに捕まりつつ叫ぶが、心配は無用である。

 

「止めろ」

「はいぃ……!!」

 

そしてタイミング良くブレーキが踏まれ、車体は急減速。慣性の法則でフワリと浮き上がる感覚を感じながら、ワゴン車はヤクザ達の眼前で停車した。

 

「な、何だよ、あっぶねえな!!」

「こりゃあ後発組の車じゃねえか! 連中、星野マリアって餓鬼は攫ってこれたのか!?」

 

しつこく抵抗してくる熊野をボコボコにしていたヤクザ達の意識は、当然ながら自分達を轢くギリギリで止まった同胞の車に向く。

 

しかし助手席のドアが開いた瞬間、

 

「ぶぐっ!!?」

 

奴等の内の一人が宙高く舞っていた。よく見るとソイツの顔は一部が大きく凹んでいる。

 

「え? え?」

 

何が起こったのか誰一人として分からない。ヤクザは勿論、ボコられながらも意識を保っていた熊野も、彼の側で縛られ涙を流していた鷲見も。誰もが呆然とする。

 

「邪魔するぞ〜?」

 

静寂に包まれる中、この場に似つかわしくない、とても可愛らしい声が木霊する。その発生源に全員が目を向けると人影が一つ。

 

「お前等全員、俺の経験値になってくれ」

 

風見組にとっては標的な筈の小柄な美少年が、濃い紫のオーラを携え恐ろしげなスマイルを浮かべていた。

 

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