【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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66話

「クソが……ゆきを離し、やがれ……!」

「いい加減に、しろ……!」

「ぐっ……!?」

 

「ノブ……!」

 

私、鷲見ゆきは無力だ。

 

「もうやめて! 言う通りにするからノブに手を出さないで……!」

 

私を助けようと必死にヤクザにしがみ付くノブと、そんな彼を何度も蹴って引き剥がそうとするヤクザ達。それを見て叫ぶ事しか私には出来ない。

 

「馬鹿野郎……! コイツ等、お前の体切り刻んで内臓を奪う気なんだぞ! 好きな女が傷付けられるの分かってて何もしない訳にはいかねえんだよ!!」

「でも……!」

 

既にどれだけ暴行を加えられたのか。ノブの整った顔立ちはアザだらけで、服もボロボロで汚れてて……それでも彼は私を助ける事を諦めない。

 

ふと、ヤクザたちの顔を見ると奇妙な事に気付く。

 

「……ねえ、アンタ達はどうして嫌そうな顔でノブを殴るの?」

 

「「「………」」」

 

「ぐ、が……! ゆき、今、助け……!」

 

ヤクザ達は私の問い掛けにバツの悪そうな顔で沈黙したまま、ノブを殴り蹴り続ける。私は我慢出来ず声を荒げた。

 

「そんなに嫌なら止めてよ!! このままじゃノブが死んじゃう……!」

 

「……ここで邪魔される訳にはいかねえんだよ。どうしても金が必要なんだ」

 

漸く一人が口を開いたかと思えば、出てきた台詞はお金の為。でも何故お金が必要なのかまでは話さず、なおも妨害を続けるノブの頭を踏み付ける。

 

「ぐッ!」

「早くその子を中へ連れて行け」

「了解です!」

 

「ノブ……!」

 

私は縛られたまま一人のヤクザによって無理矢理立たされる。痛い、苦しい、怖い。こんな辛い事を、みなみちゃんとあかねも味わっているのだろうか。きっと自分達の末路を聞かされて、今も震えているのかもしれない。

 

(友達を助けたいのに……なんてザマなんだ私は) 

 

「待て……!」

「しつこいんだよ! 諦めろ……!」

「がっ……!?」

 

身動きを封じられ、目の前で好きな男の子を傷付けられ、友達の命が奪われるかもしれない状況。あまりにも絶望的だ。

 

(私はどうなっても良い。せめて……せめてノブ達だけでも助かって……)

 

もう私には神様に縋る他なかった。

 

 

 

「ごぼぉ!!?」

 

 

 

「……え?」

 

その時、黒塗りのワゴン車が滑り込んできたかと思えば、次の瞬間にはヤクザの一人が回転しながら飛んでいった。

 

 

 

 

 

助手席から降りた瞬間に稲妻の如く加速、最も近い化石の顔面に紅林直伝のパンチを喰らわせる。

 

……すげえ飛んでったな。まるで交通事故に遭ったみたいになってら。顔も俺の拳に合わせて凹んでるし、奴が金剛石に例えるのも納得の威力だ。おぉ怖い怖い。

 

「邪魔するぞ~?」

 

さてさて風見組~、20数年ぶりだなー? お前等が舐め腐った男が生まれ変わって再び現れてやったぞ。今度こそ確実にトドメを刺してやる為にな。

 

「お前等全員、俺の肥やしとなってくれ」

 

え、前話と台詞違うんじゃないかって? 細かい事は良いだろうが。

 

あ、そうそう。

 

「ホラよ報酬だ。持っていけ」

「うわととと……!?」

 

俺は残りの50万を運転席目掛けて投げ込んだ後、ぶっ飛ばされた同胞を呑気に眺めている極道諸君に攻撃を開始した。

 

「おい俺の仲間に何してやがる?」

「ごべばッ!!?」

 

視界に入るは化石連中にボロボロにされ、地面にうつ伏せに倒れている熊野。そして側で後ろ手に縛られ、今まさに連行されようとしている鷲見。まずは命を奪われるリスクが最も高い熊野の方からヤクザを引き剥がす。

 

「俺の拳は軽自動車並だ、遠慮せず味わってくれ」

「ぎゃべらッ……!!?」

「ぐべほぉ……!!?」

 

度重なる修行で俺のパンチも紅林クラスに成長した。並大抵の奴ではこれを喰らって意識を保つ事はまず不可能。ヤクザ達は面白いくらいに次々とぶっ飛ばされ、地面に転がるか屋敷の塀を突き破るかの何れかとなる。

 

「テメエ、いい加減にしねえと「目覚めの1発ぅ! 悪い事しちゃダメでしょー?」ぐべへぇッ!!?」

 

熊野を踏んでアスファルトに押し付けていた奴は地面へ殴り付けといた。あまりの威力にアスファルトが砕け散る。お、ラッキー♪ 武器ゲットだぜ。

 

すると鷲見を拘束していたヤクザがナイフを抜き、刃先を彼女に向ける。

 

「待て! この餓鬼がどうなってもボハッ……!?」

「きゃっ……!?」

 

が、そんなものは無駄。人質など俺には無意味である。

 

「遅い、俺が指弾を撃つ方が遥かに早いじぇねえか」

 

無謀な勇者は俺が指に乗せて撃ったアスファルトの破片を額に受け、頭を強引に後ろへ曲げられ意識を飛ばした。桁外れのパワーを手にした今、単なる指弾ですら喰らえばタダでは済まない。

 

「ひ、ひぃいいいいい!!?」

 

熊野達を酷い目に合わせていた悪者6人を撃破したところで、悲鳴と共にタイヤの擦り切れる音が鳴り響く。買収したヤクザが一方的に同胞を蹴散らしてく俺の姿に恐怖が爆発し、全力でワゴン車を操り走り去っていったのだ。

 

「マリア、あのヤクザ逃げてしまったけど、どうする?」

「あの怯えようじゃ脅威にもならん、ほっとけ」

 

アクアの問いに俺はそう答える。味方は全員降りてるし、遅かれ早かれ奴もサツに捕まるだろうから放置でいっか。せいぜい逮捕されるまでに頑張って100万使い切ってみせろ。

 

おっと、腰抜けの化石なんかどうでも良い。

 

「熊野、鷲見、大丈夫か?」

 

攫われ酷い目に遭わされた仲間達の方が遥かに心配だ。幸い熊野の意識はハッキリとしていた。怪我はしているものの、起き上がって返事するくらいの元気はあるようだ。

 

「あ、あぁ……ありがとうライトくん、お陰で助かったよ。……ってか、お前強過ぎない? あんな出鱈目な威力のパンチなんて見た事ないんだけど」

「いや、これでも大事なものを守るにはまだまだ足りないと思ってる。鍛錬不足を痛感したね」

「これ以上強くなってどうすんだよ……」

 

もっと強ければ誘拐される段階で食い止める事も出来た筈だ。どうやらもっと修行が必要らしい。帰ったら紅林にはより厳しい訓練をお願いするとしよう。

 

「ノブ!」

 

そこへルビー達に縄を解かれた鷲見が熊野に抱き付く。普段はクールで狡猾な彼女も、今は年頃の少女らしく泣きじゃくっていた。

 

「無事で良かった! ごめん、私の所為で、こんな、怪我……!」

「気にすんなってゆき。結局手柄は全部ライトくんが持ってってしまったからな。お前こそ無事で良かったよ」

 

熊野は鷲見を抱き締め、そのサラサラとした黒髪を優しく撫でてあげた。みんなも二人の側に寄り、再会と無事の喜びを分かち合う。

 

「なんの騒ぎだ!? って何だこりゃ!?」

「おい、しっかりしろ! 誰にやられた!?」

 

しかし悠長にしている暇はない。壁を突き破って敷地内まで飛ばされたヤクザを発見した敵が警戒し始め、塀の向こう側に集結しつつあるようだ。

 

「お前等、熊野と鷲見を連れて此処から離れるんだ。俺はみなみ達を助けに行く」

 

無論、俺に撤退の選択肢は無い。逃げた化石の話では、みなみと黒川は風見組の本部に囚われいるとの事。

 

「こっから先は俺一人で十分だ」

 

助けなくてはいけない好きな女と仲間が眼前の屋敷の奥で待っている。ならば前に進むだけだ。

 

「ダメだよ」

 

しかしそこでルビーが待ったをかける。

 

「何がダメなんだよルビー? あのヤクザが言ってただろ? みなみ達がこの建物の中にいるってよ。言っとくが俺は止まる気はないからな?」

「そうじゃなくて、マリア一人で行かせるなんてお姉ちゃん心配でしかないの。だから私達も一緒に行くね?」

 

ね、おにいちゃん? そう言うルビーにアクアもまた頷く。

 

「本当は兄として姉として危ない事はさせたくないが、こうなったお前は何言っても無駄なのは百も承知だからな。ならせめて手伝わせて欲しい」

「そうそう! 三人寄れば文殊の知恵って言うでしょ?」

「それ、この場合は表現として適切なのか?」

「細かい事は良いでしょおにいちゃん! 一人より三人の方が成功率は絶対跳ね上がるんだし!」

 

あー、こりゃ断っても着いてきそうだな。特にルビーってこういう時はかなり強情になるし、仕方ねえ。

 

「……絶対に無理だけはするなよ? 死ぬのは特に許さん」

「お前がそれを言うのかマリア」

 

うるせえぞアクア。お前もルビーもまだ銃弾躱す訓練の最中だろうが。死ぬリスク高い状況になったら必ず俺の指示に従って貰うからな?

 

「ちょっ、移動中もそんな事を言ってたけど、マリりん達本気でヤクザにカチコむつもりなの!? 危ないよ!」

 

そんな物騒な会話を団欒時のような感覚でする俺達に、当然みんな唖然とする。MEMちょも慌てた様子で止めようとするが残念、ここまで来て帰るなど有り得ない。

 

「悪いなMEMちょ、みんな。今もみなみ達が危険に晒されていると思うと居ても立ってもいられないんだ。……それに今まで見ただろ、俺の実力を。こうなるまでに物凄く頑張って修行してきたんだ。ヤクザなんか物の数じゃないレベルになる程にな」

 

全員がこの俺の圧倒的な戦闘力を見せ付けられている。それが説得しようとするみんなの意思に躊躇を生み出す。

 

「……俺が鍛えるようになったのは、大事な人を目の前で奪われかけたからだ」

 

俺にとって何よりも大切な、二人の大好きな母さん達。前世の母は暴力親父になす術なく連れ去られ、今生の母も後一歩遅かったら永遠に失うところだった。当時の俺はあまりにも無力で、あの人達を助ける事が出来なかった。

 

「そして今も大事な人達が奪われようとしている。ここで助けに行かずにみなみ達が苦しい目に遭ったら……きっと俺は一生後悔する」

 

もう失う辛さを味わいたくない。今こそ取り戻した力を発揮させる時だと思う。

 

「だから悪い、無理を承知で行かせてくれ。必ず全員で帰るから」

 

誰かを傷付け奪う為でなく、守る為に力を振るおう。これが俺の考える、俺を救ってくれた母達へ報いる真っ当な生き様だ。

 

 

 

 

 

「……あいつ等には申し訳ない事したな」

 

怪我をした熊野を病院に連れて行く為、MEMちょと鷲見、森本、そして有馬は風見組本部を後にした。誰もが不安そうに後ろを振り返りながら。

 

残ったのは俺達三つ子だけ。

 

「みんなお前の事が心配なんだよ、勿論俺とルビーもだ」

「俺の意地に付き合ってくれて、本当に嬉しいよ」

 

最終的にみんなの方が折れた。かぐや達へ連絡を入れる事を条件に。

きっと母さんにも連絡はいくだろう。……実子が危険地帯へ飛び込もうと言うのだ。またあの人を泣かせちゃうんだろうな。

 

だからこそ、せめて誰一人欠ける事なく平凡な日常へ戻らねえと。

 

「アクア、ルビー……絶対にみなみ達を助けて、みんなで帰るぞ」

「当然だ」

「うん、行こう!」

 

遂に動き出す星の子供達。その中で最も強い末っ子が正門の扉を蹴り飛ばす。

 

「ごえッ!?」

「ドゲボッ!?」

 

紅鬼に鍛えられて得た異次元のパワーは巨大な扉を軽々と飛ばし、その際に何人ものヤクザを巻き添えにした。それでも二十人以上も健在だが、子供達は一人として悲観しない。

 

「宅急便でーす! 確実な破滅をお届けに参りましたー!」

 

「何で敬語?」

「余計に狂気を感じるね」

 

サツの到着まで、あと2時間。

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