【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
アクアがやりたい事を告白するシーンが死に際のアイと重なって涙が……でも死んだら結局みんな不幸になる。彼等の幸せはアクアの存在が大前提なのですから(特にルビーは)。
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「なんだ、カチコミか!?」
「餓鬼が何で極道にカチコミしてくんだよ!?」
「一人は中坊じゃねえか!?」
乗り込んできた連中がどう見ても子供なので動揺するヤクザ達。ってか誰が中坊だ、俺は高校生だっての。
――それにしても。
(初動が遅い。仮にも裏の人間が敵を目の前に暢気なもんだ。――まあ、こっちとしては好都合だが)
コイツ等は知らない。戦いは俺が扉を蹴り破った瞬間から始まってる事を。
「おい、敵が姿見せた瞬間に照準合わせねえとダメだろう?」
実は蹴ったと同時に、ズボンの裾に仕込んでいた搦め手の一つが放物線を描いていたのだから。
「俺が殺す気でいたらお前等今頃全滅だぞ?」
ボンッ!
「わっぷ!?」
「え、煙幕だ!」
「ゴッホッ、ゴフッ!?」
瞬間、周囲を白く濃密な煙が覆い尽くす。
「マリアったらズボンの中にあんなもの仕込んでいたの?」
「相変わらず用意周到な奴だ。ってか煙玉なんてよく用意出来たな」
「自家製の煙玉だよ。広い範囲をあっという間に侵食する程のな」
あ、忘れてた。いけないいけない。
「二人とも、これを持っとけ」
「おっと」
「うわとととッ!? ……何これ、瓶?」
投げ渡した細長い入れ物をマジマジと見詰めるルビーとアクアに、軽く説明する。
「閃光弾だ、危なくなったら迷わず使え。他にも便利なアイテムを山ほど持ち込んどいたから、楽しみにしてろよアクア、ルビー」
俺は二人が並ぶ後ろに振り返り、ニヤリと笑った。
「まさかその体に山ほど!? 人間武器庫ってヤツ!?」
「そのうちバズーカ持って突貫しそうだな……」
「いやあんなマッチョ野郎と一緒にすんなよ」
俺はちょ~っと警戒心が強いだけの、ただの高校生なんだからさ。
「あんの餓鬼共ふざけやがって! 何処だ、何処にいやがる……!」
「おい待て、ナイフなんか出すな! 殺しはするなって厳命されてんだぞ!?」
「いってッ、俺のオニュウの黒靴踏んだの誰だ……!?」
そんな中でも煙に包まれたヤクザ諸君への警戒は怠らないが、どうやら未だ混乱から回復出来ていないらしい。既に20秒近くも経つが、冷静さを取り戻す兆しすら感じられない。俺が殺意を持ってたら果たして何回殺されてただろうか。
「……呆れた」
溜息が溢れる。所詮は汚いシノギで伸し上がってきた連中って事か。俺達レベルからすればたかが知れてる。
無論、少女を食い物にするような奴等に同情は一切しない。暴力の世界で生きている以上、自らが喰われる側になる覚悟が無いとは口が裂けても言わせねえ。
「ケジメ、ちゃんと取れよ? じゃねえと理不尽に遭った奴等が――」
手始めにさっき拾っといたアスファルトの破片をポッケから取り出し、細かく握り潰す。圧倒的な握力を間近で見ていた兄姉が唖然となる。
「まるで報われねえから、なッ!!」
そして一斉投擲。こっちも煙で敵の姿を捉え難いが、足音や声を頼りに放てば良いので問題無い。紅林並のパワーを得た今や、単に投げただけの物体すら凶器となる。とはいえ徹底的に手加減しているが。
「グ!?」
「ゲ!?」
「バッ!?」
それでも額や腹に喰らって意識を飛ばす奴、腕や足に当たった激痛でのたうち回る奴。あまりにも速い攻撃。しかも煙幕に視界を奪われては多くのヤクザは躱せず、無惨にも倒れていく。
「行くぞ、銃とナイフには気を付けるんだ」
「あぁ、分かった」
「全員ぶっ飛ばす!!」
俺達3人は白煙の中へ突撃する。当然視界は不良だが、音を頼りに敵を一人ずつ無力化していく。
「みなみちゃんとあかねちゃんを返せゴミ野郎!!」
「ごべばッ!?」
「ルビー、声は控えろ。居場所を特定される」
「あ、ごめんつい」
大声を発して相手を遠くへ殴り飛ばしたルビーを咎めるも、その声を聞き付けた気配の一部が此方へ接近してくる。
「いたぞ、あそこだ!」
「極道舐めやがってー!」
武器は持ってない。買収した運転手やさっきの連中の会話から考えると、素手で俺達を無力化するつもりのようだ。
狙いは声の発生源でもあるルビー。俺は即座に飛び掛かってくるヤクザ共を迎え撃とうとして……その役を譲ってあげた。
「妹に手を出すな」
「もごッ!?」
「むぐッ!?」
アクアは咄嗟にルビーの前に飛び出すと、両手を横に広げて二人のヤクザの間を走る。そうする事で、アクアの両腕がヤクザ連中の首根っこと衝突する算段となる。
「フンッ!」
「ドベッ!?」
「ガベラッ!」
それだけでは終わらず、奴等を拘束したまま勢いよく地面に叩き付けた。ダブルラリアット。紅林から教えられた技の一つだ。ヤクザ達は目を回し大地に転がる。
「ふう」
最愛の妹兼恋人を狙った不届き共を無力化し、ゆっくりと立ち上がるアクア。ルビーはそのあまりにも魅力的な後ろ姿に目を輝かせる。正に恋する乙女の顔だ。
「きゃ~せんせー♥ カッコ良過ぎもが」
「だから黙って戦え馬鹿姉貴。位置を捕捉されるぞ」
「もがが、もがもがもがッ!!(こらマリア、口塞ぐな! あとお姉ちゃんって呼びなさい!)」
「言われたかったらちゃんとしろお姉ちゃん」
「なんで分かるんだ?」
「家族だからに決まってんだろ?」
視界を奪われてる現状、ヤクザ連中だって音を頼りにしてくるのは当然だ。なのにこのアホ姉は戦闘中に恋人の戦う姿に魅了されやがって……帰ったら紅林に鍛え直して貰うとしよう。
こんな感じで余裕そうな態度を崩さず、俺達は次々と敵を打ち倒しながら長い道のりを突き進んでいく。みなみ達を救出した後に無事脱出出来るよう、健在な連中が再度襲ってくる可能性を少しでも減らす為に。
本部屋敷が眼前まで迫っていた。俺が生み出した煙はほぼ消滅し、敵が焦りも含めた荒い声を携え向かって来る。
「クソったれ! あの餓鬼共、もう入口に迫ってるぞ!」
「お前等! 此処が風見組と知っての悪巫山戯か!」
「そうですが何か?」
こちとら元マフィアなんだ。今更極道如きにビビる訳ねえだろうが。
あ、あとこれも言っとかねえと。
「おい化石共、どうして俺まで誘拐しやがった?」
「ぐぼばッ!!」
コイツ等のターゲットは少女のみの筈だ。男である俺まで誘拐とは、綺麗で若けりゃ何でも良いってか?
「確かに天使みたいな美少女にしか見えねえけど、よっ!」
「ゴゲバッ!?」
追加で二人のヤクザが顔面と腹を凹まされ、高速回転しながら宙を舞った。
「快適な空の旅へボンボヤージュ♪」
なんて秋元の野郎が言いそうな光景である。
「美少女って自分で言うのかよ」
「まあ初見じゃ女の子と勘違いしても仕方ないよね」
「可愛く産んでくれた母さんに感謝だ」
敵が残っていないか入口近くでチラリと振り返り確かめる。周囲は正に阿鼻叫喚な光景が広がっていた。二十数人もの大部隊は僅か三人の子供により全員が無力化され、目を剥いて地面に転がっているか、壁に埋もれている者ばかり。
「よし、全滅だ。さっさとみなみ達を救出して撤退するとしよう」
「分かった」
「うん、急ごう! この人達が起きる前に!」
俺達は伏兵に注意を払いながら風見組本部屋敷に突入する。入って玄関を抜けた先には、非常に広大かつ荘厳な雰囲気が漂う和室があった。
「うわ何此処、すごく広いねー」
「何か催し物でもあった時に使う部屋か?」
「多分襲名式とか盃を受ける時の会場だろうな。……にしても無駄に広い部屋だ。悪いんだろうなあ風見組」
ホント世の中間違ってるぜ。真っ当に生きてる奴や頑張ってる奴に金は集まらず、悪事を働いたり上から踏ん反り返ってるような連中が、こんな豪華な屋敷で贅沢な暮らしをしてるんだからよ。
……なんて一年で億単位の金を稼ぎまくってる星野家の人間が言うなと突っ込まれそうだが、俺達は悪人と違い正攻法で大金を得ているのだから勘弁して欲しい。
「無駄に立派で悪かったな」
「「「!?」」」
其処へ俺達以外の声が響く。間を置かずその主が反対側の襖を開けて現れた。その出で立ちにアクアとルビーは身構えるが、俺は構えを取らないまま興味深く観察する。
「……へえ、少しは骨のある奴もいたんだな」
現れたヤクザは身長180㎝はあるだろう鍛え上げられた体型。紅林並みに筋肉の付いた体から漏れ出るオーラは濃厚で、俺は一目で男が相当な武闘派であると見抜いた。
「子供が極道相手に何の用だ? まさか親父の首を狙いに来た訳でもあるまい」
風見組突撃隊長にして組一番の戦闘者、佐和田裕二。それがこの男の名前だ。
「お前等の親の首なんて1ミリも興味ねえよ。――アクア、ルビー、これ持ってみなみ達を探して来い。コイツは俺が引き受ける」
俺は二人に更なる戦闘支援グッズ(ほぼ全部自家製)を渡し、みなみ達の救出を指示する。
「……無茶するなよ。と言うのは、お前に対しては野暮か」
「任せてマリア! 絶対にみなみちゃん達を助け出してみせるから!」
「ああ、頼む」
アクアとルビーは信じて俺にこの場を託し、足早に大広間を後にした。佐和田は彼等を背中から狙う絶好のチャンスでありながら何もせず、俺と二人っきりになるのをただジッと待っていた。
「ほぉ? 意外だな、不意打ちしてくると思ったぞ。律儀な奴だ」
まあ狙ったりしたら即座に阻止できるように構えてたけど。
「背中を向けた子供を撃てと? そんな仁義外れな真似はしない」
「……はあ? どの口がほざくんだ誘拐犯が」
子供を攫って内臓を取る下衆が何寝惚けた事抜かしてやがんだ。とっくに仁義外れな癖に今更高貴ぶってんじゃねえよ。
「……確かにそうだったな、済まない」
すると佐和田は何故か軽く頭を下げてきた。……何だコイツ? やけにあっさりと失言を認めたな。拍子抜けした俺は沸騰しかけた頭が一気に冷えていく。
「友人を助けに来たのか?」
「他に理由があるか?」
お前等の汚いシノギに彼女達が付き合う義理も理由も無い。二人とも返して貰うからな?
「……いや、それとも恋人を助けに来たとでも言うべきか。寿みなみとお前は出来てるらしいからな、星野マリア」
「そんな事お前には関係な……何だと?」
コイツやけに詳しいな。もしかして今ガチの視聴者? あの番組かなり人気ではあるが、まさか裏の人間まで視聴していたとは。
「しかし疑問だ。何故彼女を助ける? どんな理由で喧嘩をしたのか知らんが、必死に仲直りをしようとするお前さんを彼女は邪険に扱っていたじゃないか」
「……貴様、何が言いたい?」
一度は沈静化しかけた怒りが再び湧き上がるのを感じた。
「余計なお世話かもしれんが、ハッキリ言ってあの少女は止めた方が良い。妬みで鷲見ゆきの顔に傷を入れた黒川あかねを庇うような子だぞ。怪我を負った方を心配せず放置してな」
コイツは番組やネットの情報を真に受け、みなみと黒川を悪人と見做していたのだ。ある意味で他者に振り回されてるだけの哀れな男だが、みなみの事を碌に知りもしないで決め付けてくるその態度に、俺は腸が煮えくり返る気分となる。
「そんな人の心の痛みが分からんような性格の子、無理して付き合ったところで君が傷付くだけじゃないか? 今からでも冷静になって考え直した方が良い。君みたいな優しい子なら、他にもっと素敵な相手が見付かる筈だ」
みなみはテメエ等が思うような性悪女じゃない。何処までも他人に寄り添える、優しくて良い女だ。一度悪魔にまで成り下がった俺とは全然違う。
「あの黒川あかねだってそうだ。自分の不始末から逃げようとして飛び降りを「もう黙れ」!!?」
最後辺りの台詞が上手く聞き取れなかったが、どうせ黒川に対する人格否定の言葉だろう。聞くに値しない。
俺は一瞬で佐和田の懐に詰め寄ると、血が出そうな勢いで握った拳を強靭な腹に突き立てる。
「何も知らねえ癖に、その口半永久的に閉じてろ」
「ぐぅううううう……!!!?」
怒りに満ちた猛撃を腹に喰らった佐和田が吹き飛び、壁に激突する。
「ゴハッ!!」
……しかし妙だ。雑魚共を殲滅してた時よりも手応えが少ない。
「お前、後ろに飛んで威力を半減させたな?」
「……咄嗟だった。本能的に喰らうのは不味いと判断したからな。ぐふ……腹が爆発したかような衝撃だ」
(……油断した。この少年、スピードとパワーが尋常じゃない。これは本気を出さねえとやられる)
佐和田は腹を押さえつつもすぐに立ち上がり、獲物を捉えた猫のように俺から決して目を離そうとしない。……この男、結構戦い慣れてるな。さっきまであった隙が一切無くなっちまった。
他の風見組構成員とはえらい違いである。コイツだけ突然変異したと表現しても変じゃない程に。
「驚いた。あの天使と謳われた癒しキャラが、これ程の怪物だったなんてよ」
「そのまま意識も爆散してくれたら良かったのに」
「生憎これでも突撃隊長を任せられてる身でな。君みたいな小さな子供に簡単にやられる訳にはいかないのさ」
「誰が小さいだ、ああ?」
コイツ、人のコンプレックスを。本気でボッコボコにしてやろうか。
……おっといけないいけない、頭に血が上ったら視野が狭くなって敵の思う壺だ。今一度冷静に、冷静にっと。
「そういう訳だ。風見組を舐めたツケは払って貰うぞ? とは言っても、軽く痛い目見る程度にしとくが」
「何が舐めただよ、人の仲間に手を出しやがって。そっちこそ、この星野マリアを舐めるなよ?」
両者の視線が正面からぶつかり合う。紫とオレンジのオーラが立ち昇り、奔流が大広間を駆け巡る。
敵側の武闘派はこの佐和田裕二、ただ一人。コイツを倒せば俺達の勝利はほぼ確定となる。そうでなくともアクアとルビーがみなみ達を助ければ、それでも勝ち。つまり俺の役目は、最低限この男を引き付ける事。
(みなみ、黒川。もう少しの辛抱だ)
肉蝮以来となる猛者との激突が、遂に始まる。
最近、逃げ上手の若君の時行がアイの三番目の子として生まれたらという話を考えてたりしています。
次回にでも天羽組の描写を入れようかな?