【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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今回はルビー視点メインで進みます。

今回は難産だった……


8話

私の名前は星野ルビー。前世では不治の病で12歳の時に死んだ『天童寺さりな』という女の子であり、現在は推しのアイドル『星野アイ』の娘だ。

 

「うんうん! 今日も3人とも可愛い! 可愛いよー!」

「まぁトータルではママの方が可愛いけどね」

「何の対抗意識?」

「……」

 

私たちが生まれて3年以上が経過し、今は2度目の幼稚園児として日々を過ごしている。健康的な身体のお陰で、友達と一緒に走り回ったり遊具で遊んだりするのは本当に新鮮で、凄く楽しい。

 

2年前にアクアも出演した映画に出て以降、それが切っ掛けだったのかママはかなりの勢いで仕事が増えた。クイズ番組のレギュラーや写真集のモデルなど、挙げたらキリが無いくらいに。今やママは絶賛売り出し中のアイドルタレントと呼んでも良い。

 

そんな毎日多忙を極める中でも、私たち子供の為の時間を作って少しでも一緒に居てくれる。本当に素敵で、自慢のママだ。

 

因みにアクアもあの撮影を切っ掛けに本気で役者の道を目指していて、よく五反田監督の所へ赴いて色々と勉強しているらしい。何でも迷っていたところをマリアが後押ししてくれたんだとか。兄想いの優しい弟でお姉ちゃん嬉しいぞ? 

 

「――そういやお前って生まれ変わる前は何してたの? 本当は何歳?」

 

今日も幼稚園で遊んでいると、そのアクアからこんな質問が飛んできた。

 

ちょ、ちょっと! ここでそれを聞いてくるの!? っていうか、もし私が年下だったら……

 

――んだよ、やっぱ餓鬼だったか。これからはアクア()の言う事ちゃんと聞けよ年下。

 

――やっぱ”姉さん”と呼ぶの止ーめた。寧ろアンタがマリア()を”お兄様”と呼びやがれ。

 

という未来が訪れるのかもしれない。特にマリアから”お姉ちゃん”と呼ばれなくなるのは絶対嫌ああああああああああ!!! 

 

……まぁでも”お姉ちゃん”って親しみの籠った呼び方は一度もされてないけど。”姉さん”呼びすら普段から滅多に無いけれど。

 

「わ、私……オトナの女性なんだけど! 女性に年齢を尋ねるなんてデリカシーの無い餓鬼ね!」

 

咄嗟に自分の実年齢を誤魔化した。

 

(この反応……多分中身子供だなこの子)

(目が濁った。やっぱ餓鬼だったか)

 

アクアにもマリアにもバレバレだと気付かずに……

 

「ていうか前世とかどうでも良いし! マリアにも言われたでしょ!? 余計な詮索しないで!」

「それもそうだな……ごめん、また配慮が足りなかった」

「っ……ま、まぁ別にそこまで気にしてないけどさ」

 

アクアは申し訳なさそうに私に謝ってきた。確かにアクアは一切何も聞いてこないマリアと違い、今回みたいに前世の話題を挙げる事が度々ある。悪意が無いのは分かってるけど、もうちょっと考えてから発言して欲しい。

 

ただそれでも私にとっては初めてで、且つ唯一のお兄ちゃんだ。優しくしてくれる事も多いし、役者の道を目指して頑張る姿とか格好良いし、嫌いどころか寧ろ大好きである。マリアよりデリカシーが足りない点はマイナス要素だけど、ちゃんと謝罪してくれるから別に大丈夫だ。

 

「……あれ、どうしたのマリア? そんなにボーっとしてさ」

 

直後に私が気付いたのは、まるで魂が抜けたかのようにその場に立ったまま、遊び回る園児たちを眺め続けるマリアの姿。私より短くアクアより長い金髪をローポニーテールにしている為なのか、名前通り本当に女の子に見えてしまう。変わらず私たちより身長は低いし、このまま成長したら漫画に出てくるような”男の娘”になりそうだ。

 

……そう言えば入園してからずっとこんな感じで幼稚園を過ごしてる気がするね、この子。

 

「……幼稚園って何するトコなんだ?」

「え、どういう事?」

「こう言った場所入った事がなくてよ、何をすれば良いのか全く分からねぇんだ」

 

それは前世で幼稚園に通った事が無いって意味? それらに通わず小学校から集団生活を始める子も居ない訳ではないけど、マリアはそんな珍しい家庭で育ったらしい。

 

「そうなの? じゃあ小学校に上がるまでは家族の人たちが傍に居てくれたんだね!」

 

職場が家に近かったとか家でする仕事をしてたのかな、マリアの前世の両親は? 羨ましいなぁ、私のお母さんやお父さんもそうだったら、もっと一緒に過ごせたかもしれないのに……………何で最期まで一度も会いに来てくれなかったの……? 良い子でいようと演技()を吐き続けたのに……。

 

「……………そんなところだ」

 

ん? 一瞬だけマリアの顔が暗くなったような気がするけど、気のせいかな? 

 

後にマリアから前世を聞いた私は、この時の自分の発言を酷く後悔する事になる。アクアをデリカシーが無い奴と怒ったけど、私だって人の事言えないじゃないか……と。

 

「じゃあ、幼稚園2度目のお姉ちゃんが手取り足取り教えてあげるね! ほらっ、まずは滑り台から! 行くわよマリア!!」

「え、ちょ、待て。俺は別に」

 

私は少しでもマリアを喜ばせたくて、彼の手を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

マリアを連れて遊び回った後、部屋に集められた私たちは先生からお遊戯会の話を聞かされた。

 

……私は怖くてその場から逃げ出した。だって踊りなんて一度もした事ないから。

 

「――ルビー、何で逃げ出すのさ?」

 

庭の樹の下で蹲っていると、そこへアクアとマリアが心配そうな顔付きで私の所へ来た。

 

「私、ダンス下手だから……っていうかした事ないし」

「そうなのか……学校で劇やダンスとかやった事はないのか?」

「ううん、やった事ない。そもそも運動自体やれなかったもん……」

「え? それって――」

「アクア」

 

アクアと話していたところで、マリアがアクアを招き寄せる。

 

「おそらくだが、ルビーは病気で子供の時に死んだ可能性がある」

「何? じゃあ運動そのものがやれなかったってのは……」

「そういう事、だろうな」

 

小声で何か話していた二人だったけど、やがて私の前に立ち、

 

「じゃあ俺たちと一緒に練習しよう。なぁ、マリア?」

「仕方ねぇから出来るまで手を貸してやる。そんな辛そうな面を何時までも視界に入れてると俺まで気分が悪くなるからな」

 

そう言って二人が差し出してくれた小さな手は、とても大きく頼もしそうに映った。アクアは優しく微笑みかけながら。マリアは変わらず仏頂面で上から目線で……でもその言葉の端々に不器用な優しさを含めて。

 

「……うん」

 

私は嬉しくて目に涙を浮かべながら、二人の手を掴んだ。

 

 

 

 

 

その日家に帰った私たち3人は夕飯を食べた後、早速レッスンルームに移動。其処でお遊戯会の練習に入った。

 

「――わっ!?」

「おっと」

 

倒れそうになる度に、アクアとマリアが両側から私を支えてくれた。常に私の両隣でスタンバイしてくれて、万一にも怪我なんて絶対にさせないと言う強い意思を感じる……私は本当に素敵な兄弟に恵まれたんだなって、思った。

 

「大丈夫か、ルビー?」

「うん、大丈夫だよアクア。……それよりもごめんね、また倒れそうになっちゃって」

「謝るなよ、兄弟なんだから当然じゃないか」

 

アクアは問題ないって言ってくれるけど、それでも段々悪い気がしてきた。二人だってダンスは慣れてなくて練習が必要なのに、殆どの時間を私の為に割いてくれている。それがとても申し訳なくて、迷惑を掛けたくなくて。

 

「ううん、もう良いよ。ここまで付き合って貰って悪いけど……私やっぱり出来そうにないかも。向こうで座って見てるから、あとは二人だけで練習して頂戴」

「ちょ、ちょっと。ルビー!」

 

そう言ってアクアたちから離れ、部屋の隅に腰掛けようと歩き出す……その時。

 

「おい待て」

 

何時の間にかマリアが先回りし、私の眼前で通せんぼしていた。その顔はこの世のものとは思えない程の怒りに満ちていて、私は思わず小さく悲鳴を上げた。

 

「ひ、ま、マリア……?」

「まだ練習を始めて1時間かそこらだぞ? 何簡単に無理だと結論付けて諦めてんだよ? ふざけてんのか、あ゛ぁ゛??」

 

その瞳の星は底の見えない落とし穴の様に真っ暗で、私の視線はそれに嵌って抜け出せない。この子の怒りを真正面から受けるしかない。

 

「そ、そんな事言われても……出来ないもんは出来ないんだよ……」

「だから結論を早めてんじゃねぇよ。何故転びやすいのか、どうしたら転ばずに済むのか。自分の動きを見返して分析して……この部分を改善しようって考えねぇのか? 何故ずっと傍に居る俺たちに、アドバイスを貰おうって発想すら湧かねぇんだよ?」

「お、おいマリア」

「お前は少し黙ってろアクア」

 

見兼ねたアクアが止めに入ろうとするけど、マリアから放たれた殺気の様なプレッシャーで黙らされてしまう。

 

「で、でも……これ以上私の為に時間を使わせたら、アクアとマリアにも迷惑を掛けちゃうよ。多分、二人とも全く練習出来なくなっちゃう……」

「俺等を頼らずに諦められる方がよっぽど迷惑だ」

 

私の顔をマリアが両手で挟み込む。目線だけで人を殺せそうな瞳だ。

 

「アクア、お前から見てルビーの動きはどうだった? お前の方が俺よりも分かりやすく説明出来そうな気がするんだ。だから代わりに教えてやってくれ、この馬鹿姉貴に。どうすれば転ばずに済むかをな?」

 

突然飛んできた質問にアクアがビクッと震えたが、すぐに口を開く。

 

「あ、あぁ。どうやらルビーは動く時に受け身を取る癖があるみたいなんだ。……何て言うか、転ぶ事を前提にした動きに見えてさ。本来なら踏ん張る為に重心を移すところを、そのまま倒れる方向へ手を出して身構えてる感じがした」

 

……そうだよ。だって、体の自由がまるで利かなくて、何時も何時も倒れてばっかりだったから。受け身を取らないと、怪我しちゃうから……。

 

「ならすべき事は決まったな。ルビー、まずはその受け身を取ろうとするのを止めろ。転びそうになったら倒れる方向に片足を出せ。それである程度は改善される」

「え、そんな……! 簡単に言わないでよマリア!」

「簡単じゃねぇのは当然だろ? 染み付いた癖を直すってのは並大抵の事じゃない。無理矢理にでも意識して変えるしかねぇんだよ」

 

そんなの……言われなくったって分かってる。慣れてしまった行為から抜け出す為には、意識して別の動きを繰り返さなければいけない事くらい。

 

「でも……でも……怖いんだよ! 何度も倒れて! 硬い床に体が叩き付けられる度に痛くて……! 受け身取っても怪我は無くならなくて……! そう思うと身体が固くなって言う事を聞かないんだよぉ……!!」

 

私は大粒の涙を流して泣いた。折角健康的な身体に生まれてきたのに、結局前世での苦い思い出が私の身体を縛り付ける。本当に……嫌になっちゃう。

 

でも、そんな暗いところへ沈みそうになった私を引き上げてくれたのは、自分を厳しく叱咤していたマリアのこの一言だった。

 

「――お前は一人じゃねぇだろうが!!」

 

その言葉を聞いた時、私は泣き叫びそうになるのをピタッと止めてしまった。

 

「言っただろ、出来るまで手を貸してやるってよ? 転びそうになっても俺等が傍に居れば、怪我の心配をする必要は無いだろうが……!」

「あ……」

 

確か前世で転ぶ時って……何時も私一人の時だったっけ? でも、その心配をする必要が無い時があったのを思い出した。何で忘れていたんだろう……せんせ。あの人が歩く練習に付き合ってくれた時だけは、何時も感じていた筈の倒れる恐怖が薄れて、安心して挑む事が出来たじゃないか。

 

「ルビー」

 

そうそう。こんな風に支えてくれてさ。懐かしいなぁ、この温もり………………え?

 

「大丈夫だ。マリアの言う通り、俺たちがこうして最後まで支え続けてあげるから。もう少しだけ頑張ってみよう?」

 

アクアが私の身体を労わる様に支えてくれていた。

 

……いや、それよりも。この優しい手付き、その柔らかな表情……私はしっかりと覚えている。忘れる筈がない。だって、これは………………

 

 

 

 

「――ゴローせんせ……」

 

 

 

 

私の呟きを聞いたアクアは一瞬呆けていたが、それが見る見るうちに驚愕へと変貌していった。

 

 

 

 

「――え? さりな……ちゃん……?」

 

 

 

 

今度は私も混乱した。だって”ゴローせんせぇ”って呼ばれて、私の前世の名前を呼ぶ人なんて……この世界でたった一人しかいない。

 

「え、嘘だよね……だってせんせは……宮崎の病院で……」

 

でも、信じられなかった。だってそれは、せんせが死んでいる事を意味するから。あぁ確か、何らかの理由で失踪したってママが言ってた筈。……じゃあせんせは誰にも気付かれないまま死んじゃったって事?

 

「え……本当にさりなちゃんなのか……?」

 

アクアも見るからに動揺していた。宮崎の病院と言う単語を聞いて、先程以上に目を見開き私を凝視している。

 

まさか……まさか……本当にアクアは……。

 

私はせんせが死んだ事にショックを抱きつつも、目の前の兄に確認を取らずにはいられなかった。

 

「お、おい……もしかしてお前等が前世で知り合いだったとかいう流れなのか、これ?」

 

傍で状況を把握できず固まっているマリアを無視して。

 

「……ね、ねぇアクア。そのさりなって子のフルネームは分かる?」

「――て、天童寺さりな」

「っ! ……で、その子は最後……どうなったの?」

「……退形成性星細胞腫……悪性腫瘍の一種で、あの子は12歳で亡くなった」

「その子が推しているアイドルは……?」

「星野アイ。今の俺たちの、母親だ」

「…………私が死ぬ時にせんせに渡した物は……?」

 

止まっていた涙が再び溢れてくる。辛さや悲しみによるものではない。これは喜びの涙だ。そしてアクアもまた……今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「……さりなちゃんがB小町のライブに行った際、ガチャで出したストラップ。内容は――”アイ無限恒久永遠推し”」

 

……あぁ、何故死んだのかとか、色々聞きたい事は山程あるけど。こんな奇跡が……本当に起こるなんて……!

 

「せんせ……せんせぇえええええええええ!!!!」

 

「わっ、さりなちゃ……!?」

 

私はアクアに、お兄ちゃんに……せんせぇに抱き着いて床に押し倒した。愛する人との思わぬ再会に、私は大声を上げて泣いた。

 

「なんれ……なんれぇ……! 一体、何があったの……!? せんせぇ、本当に死んじゃったの……!?」

「う、うん。アイの出産日に崖から転落しちゃってね、そのまま……」

「っ!? そ、そんな……!!」

 

行方不明って聞いてたけど、まさか事故死だったなんて。どうりで何年も経過しているのに見付からない訳だ。

 

「……嘘だな。まぁでも伝えたくない事でもあるんだろう。このまま黙っとくか」

 

マリアが小声で何かを呟いていた気がしたが、せんせとの再会に意識が向いていた私は内容まで分からなかった。

 

「でも大丈夫。俺はこうして君の側に居る。雨宮吾郎としては死んでしまったけど、星野アクアとして生まれ変わって君と再び巡り合えた。――本当に久しぶりだね、さりなちゃん」

「せんせ……せんせぇ……うああああああああああああああああん!!!」

 

せんせに抱き締め返された私は、その温かな腕の中で更に泣き続けた。

 

「ど、どうしたの皆!? 今、凄い音が聞こえたんだけど……! ってアクア、ルビー、大丈夫……!?」

 

動きやすい服装に着替えたママが血相を変えた様子で駆け付けて来たのは、そんな時だった。

 

 

 

 

その後、私はせんせ――アクアやママ、そしてマリアと一緒にダンスの練習を続けた。さっきの事は転んで泣いてしまったと誤魔化し(あながち嘘でも無いけどね……)、ママからの的確で優しいアドバイスのお陰で、私はもう転ぶ事はなくなった。

 

凄いなぁ私のママは。あっという間に克服しちゃって、あそまで踊れる様になるなんて。

 

「せん……アクア、マリア。ありがとう」

 

でも、私が挫けそうになっても支えてくれたのはこの人たちだ。だからママ以上に、二人には感謝している。最高に素敵で、そして優しいお兄ちゃんと弟だ。

 

「無事に克服出来てよかったよ。まぁアイが殆ど持ってった感じだったけど」

「ううん、二人が傍に居てくれなかったらすぐに諦めていたと思う。二人が私の兄弟で良かった!」

 

図らずともアクアとの前世がバレてしまった形になったけど、胸のつっかえが取れた様で今までよりずっと気持ちが楽になった。

 

何れはママにも私の秘密を話そうと思ってる。ママに対して何時までも演技()を吐き続けたくないし、ママならきっと受け入れてくれるって信じてるから。

 

「俺もさりなちゃんとこうして再会出来て、家族になれて嬉しいよ。改めて宜しくね、さりなちゃん?」

「うん……うんっ!!」

 

せんせがその温かな手で私の頭を優しく撫でてくれた。もう、せんせったら、そんな事言われるとまた涙が出てきちゃうじゃない。(マリア)がジッと私たちを見ていて恥ずかしいんだからね?

 

――でも良いよ、せんせ だもん。許してあげる。私もせんせ がお兄ちゃんになってくれて嬉しいから。

 

「マリアも本当にありがとね? 私の事、あんなに厳しく叱ってくれて」

「……姉さんがあまりにも情けなくて怒鳴り散らかしただけだ」

「それでも、だよ?」

「フン」

 

素直じゃないなぁ。でも私は知っているよ? マリアはただ不器用なだけで本当は優しい子なんだって。君はこれからもずっと、私の自慢の弟だ。……あ、久しぶりに姉さんって呼んでくれた。嬉しい。

 

「――ところで思わぬ形でお前らの前世を知っちまったんだが…………俺も前世について話した方が良いのか?」

 

マリアの顔は不安そうで、とても迷っている様子だ。それは年相応の幼い子供の様だった。

 

「言いたくないんでしょ? 別にマリアの前世が知りたくて自分たちの事を話した訳じゃなんだから」

「そうだぞマリア。さっきのは偶然そうなった様なものだ。無理に言う必要はないよ」

「……だがなぁ、それだと納得がいかねぇんだよ、俺自身が。――まぁ良いや、俺はもう寝る。知り合い同士、積もる話は腐る程あるんだろ? 邪魔しちゃ悪いからな」

 

そう言って部屋を出ようとするマリア。廊下へ出る刹那、彼は此方を振り返り、

 

「城ヶ崎賢志」

「え?」

「じょうが……? それって」

「俺の前世の名前だ。やはり俺だけ黙ってるのは気分が悪いからな、これだけは教えておく」

 

なんと自らの前世の情報を一部、私たちに伝えてきたのだ。城ヶ崎賢志……聞いた事のない名前である。

 

「あぁ、あとな……二人とも血の繋がった兄妹だって事は忘れんなよ?」

「「なっ!!?」」

 

赤面する私たちを余所に、マリアは去って行った。

 

「ったく、マリアの奴……」

「もう、何考えてるんだか……」

 

暫くの間、私たちは興奮冷めならないままだった。だってマリアのそれは、私とせんせ が仲良く(意味深)する事を前提とした発言だったから。

 

全くもって失礼である。少なくとも()()そんな事しないよ。身体小さいもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨宮吾郎に天童寺さりな……ね」

 

寝室へ向かう途中、俺は兄姉から教えられた二人の前世の名前を呟く。全く知らない名前だった。

 

「まさかアイツ等知り合いだったなんてな。……まぁ良いや。ルビーの奴、元気になって何よりだ」

 

放っておけなかった。あの時……隅っこで座り込むルビーの姿に子供の頃の俺を幻視したから。特に泣いて俺に訴えるところは、独りぼっちで震えながら母さんの帰りを待つ自分と重なり、思わず一人じゃないと叫んでしまった。――あぁ、そうだルビー。少なくとも今のお前は当時の俺と違って孤独じゃねぇ。母や兄が居るんだからな。

 

……俺? 俺はまぁ……そうだな。入れても良いかもしれん。

 

途中で現れたアイの存在に驚いたが、上手く奴を頼ってルビーに自信を付けさせる事が出来たので、何よりである。ダンスなどの専門的なもののアドバイスは、やはりその道のプロに頼るのが一番だろう。

 

 

 

 

――大丈夫だよ。ママを信じて。

 

 

 

 

……それよりも、その時に見せたアイのルビーに対する愛情の籠った瞳。俺はまたしても、それから目を離せなかった。

 

「信じて……か……」

 

きっとアイはアクアや俺にも同じように思っているのだろう。前世で良い年だった影響で、俺たちは余り奴を母として接していないからな。信用されてない、と思っていても不思議じゃないだろう。いや、ルビーの悩みを解決するにあたってアイを頼ったって事は、俺はアイを信じている……のか?

 

 

 

 

――ごめんね賢志……すぐ帰るから。

 

 

 

 

「そんな訳……あるか」

 

そうだ。誰かを信用するなんて恐ろしくて出来やしない。そうやって信じた結果……俺は裏切られたのだから。




第1章、了。


次からはマリア視点に戻ります。

原作にはないオリジナルストーリーです。マリア(城ヶ崎)がアイの事を本格的に信じていくまでのお話になります。
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