【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結) 作:Woudy
アクア……アクアぁ……。
こっからどう完結へ繋がるんだよ……
今回は難産でした。どうぞ。
――その日の夕方、少女連続失踪事件のニュースが全国放送された。事の顛末と全貌が白日の元に晒され、犯人グループの非人道的な所業に日本中が震撼した。
内容を大まかに要約すると以下の通りだ。
13歳から19歳の少女22名が風見組に拉致され、みなみと黒川を除く20名が闇医者で腎臓を摘出されてしまう。その内の16人分の臓器がナックル・アイを通じて海外輸出、風見組は合計で1億5300万円もの儲けを出していた。
術後、少女達は薬で眠らされた上でベッドに拘束され続けた。中には3ヶ月近くもそのままにされ、点滴のみの栄養補給の影響で痩せていた子もいたとか。
結局風見組は彼女達をどう処理するつもりだったのかと言うと、取り寄せた麻薬が到着次第彼女達に打ち、意識を混濁させてから解放する事で足が付かないようにするつもりだったようだ。
まさかの薬漬けとは呆れる……何が殺しはしないだよ。これじゃあ以降の人生を半ば壊されるようなもの。ほぼ殺すのと変わらないじゃん。
その風見組には拉致・監禁・傷害の容疑が掛けられ、主犯にして組長である風見健次郎を含む47名の逮捕者を出した。無論、多額の報奨金に目が眩んで連中に協力した闇医者達も同時に御用である。
だがナックル・アイの60名、そして連中と取引中だった組員40名が行方不明のまま。警察は引き続き行方を追うそうだが、おれは別の反社の恨みを買って消されたと踏んでいる。多分、警察の調査は徒労に終わると思う。
何れにしろ本事件により風見組は完全崩壊。70年以上も続いた老舗組織は、最後のトップのやらかしが原因で歴史に幕を下ろす事となった。
少女達は全員保護され、現在は世界的名医の田沼正造が院長を務める『田沼総合病院』で治療を受けている。余談だが、其処へ輸出されなかった4人分の腎臓が匿名で送られてきたらしい。
――風見組本部前、刑事の芹澤さんの誘導でパトカーに乗り込むおれ達5人。丁度同じタイミングで、手錠を掛けられた佐和田が警官隊に連行されるところだった。彼はおれ達の姿を捉えると、憑き物が落ちたかのように穏やかに笑い掛けてきた。
犯行規模からして、親の風見は無期懲役がほぼ確実視される。奴よりは幾分か罰は軽くなるかもだけど、それでもヤクザである事を加味され20年以上の牢獄暮らしとなるだろう。
『もし出所の機会に恵まれたら、今度こそ真面に任侠を貫いてみせるさ』
……例えどれだけ先になってもやり直す。それが佐和田裕二の偽り無き本心だった。
「――成程ね。帰宅途中でヤクザに襲われて仲間二人が誘拐。君自身も連中のターゲットだったらしく、その時一緒に攫われてしまったと」
現在、おれ達は警視庁の一室で芹澤さんから事情聴取を受けている。
5人並んでパイプ椅子に腰を下ろし、灰色のテーブルを挟んで彼女と書記担当の警官に経緯を説明していた。
「車内でスタンガンを向けられた君は、会得していた護身術で抵抗し窮地から脱出。風見組本部の前でヤクザの集団リンチに遭ってた仲間を助けた後、そこの女の子達が捕まっている情報をヤクザから得たので本部に進入した……纏めるとこんな感じかしら?」
「はい、そんなところです」
実際のところ護身術と呼ぶには程遠い、殺意マシマシな戦闘術である。子供がそれ程の戦闘力を持ってるとは流石に芹澤さん達も想像出来ず、運良く逃げ出せた程度の認識だったけど。
「……全く、なんて無茶を」
話を聞き終えた芹澤さんは深く溜息を吐く。声色には若干怒りが含まれており、それを感じたみなみと黒川が咄嗟に庇おうとする。
「け、刑事さん。あんまマーくん達を責めないでやって下さい。三人が助けに来てくれなかったらウチとあかねちゃん、一体どうなっていた事か……」
「わ、私からもお願いします! 三人は私達の恩人なんです……!」
「確かにマリア君達の行動は称賛すべき点もあるわ。もしこの子達が動かなかったら手遅れになってたかもしれない」
「じゃ、じゃあ――」
「でもね、今回はたまたま誰も傷付かなかっただけよ。犯人達はナイフや銃で武装していた。そんな連中の巣に突撃なんてすれば大怪我したり、最悪死んじゃってたかもしれない。それは絶対に有り得ないと、君達は自信を持って断言出来る?」
「「……」」
ぐうの音も出ない正論を叩き付けられ黙り込むみなみと黒川。
芹澤さんからすれば、相手は少女を傷付けて内臓を売り飛ばそうとした鬼畜な犯罪者。本拠地に乗り込んできた人間を、子供という理由で傷付けない保証は何処にも無いのだ。
「友達を助けたい気持ちは私にもよーく分かる。だからこそ、そういう時は私達のような専門家の助けを直ぐに呼ぶ事が最善なの。素人だけで無理に解決しようとしても、下手すれば二次被害を招きかねないのだから――良いわね?」
一応おれ、戦いのプロなんだけどな……なんて事をここで言っても更にややこしくなるだけである。それに芹澤さんは心の底からおれ達の身を案じて叱ってくれているのだ。その優しさを無下にする程おれは冷たい奴じゃない。
「「「はい、ごめんなさい……」」」
でも……きっとおれは繰り返してしまうだろう。大事な人を奪われる”恐怖”がこの魂に深く刻み込まれていて、もはや取り除く事は不可能になってしまってるから。
お兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に謝罪したところで、おれ達5人の事情聴取は終了。迎えが来るまで廊下で待機する事に。
「2時間近く前に苺プロへ連絡を入れたらしいから、もう少ししたら到着するだろうな。あかねと寿さんも親御さんには連絡が行ってるんだっけ?」
「うん、実家は神奈川やから一番遅いとは思うけど」
「こんな事になっちゃうなんて……お母さん、怒ってるかな……?」
お姉ちゃんやみなみと一緒に長椅子に腰を下ろしている黒川。結局愛する母親に多大な迷惑を掛ける事になってしまい、その俯いた顔を暗くどんよりとさせていた。
「怒ってると言うより、心配してるんじゃないかな? だから黒川さんに出来る事はお母さんが来た時に、元気な姿を見せて安心させてあげる事だと思うよ?」
「……そうだね、マリアくんの言う通りだよ。これ以上お母さんを泣かせたくないし、私頑張って笑ってみせるね」
そう言って顔を上げた黒川は少しだけ表情を緩ませる。少し歪ではあるが、終始暗いままでいるよりは大分マシだろう。
「――貴方達って子は……。百歩譲って熊野君や鷲見さんの場合は仕方なかったとしても、そこからは警察や私達に一報を入れるべきだったわ」
「全くだ。MEMって餓鬼から風見組に突入したって聞いた時は肝を冷やしたぞ?」
「大変ご迷惑をお掛けしました……」
危険行為を働いた以上、当然ながらおれ達三つ子は多くの人から有難いお説教を受ける事となった。今も駆け付けてくれたかぐやさんや龍珠さんからお叱りを受けている最中だ。
特に龍珠さんなんか威圧感満載なオーラを立ち昇らせており、今にも怒鳴り付けてきそうな勢いである。此処が警察だから静かにしてるに過ぎない。
「あかね……!」
「良かった、全員無事みてえだな!」
「アクたん達~!」
そこ少し遅れて鷲見、熊野、森本、MEMちょ、そしてパイセンの5人が、井伊野さんや石上さん達に連れられ姿を見せた。鷲見はおれ達を見付けた瞬間、一直線に黒川へと駆け出し、
パンッ
その頬を思いっきり叩いた。
「ゆきちゃん……?」
黒川が呆然としたまま眼前の鷲見を見ていると、彼女の目尻から涙を浮かべているのを捉えた。
「しんぱい、したんだからね……! 台風のなか、飛び出したりなんか、して! どうしてそんな! グスッ、危ない事したの……!?」
嗚咽を漏らしながら怒鳴る鷲見が黒川に抱き着く。
「辛いなら相談してよ、馬鹿ぁあああッ!!」
友達が危険な真似をした怒り、死んじゃうかもしれない恐怖、そして助かった喜び――様々な感情が涙となって鷲見から溢れて頬を伝い、雫となって黒川の頬を濡らし、小さな川を作る。その川に黒川の涙が合流したのは直ぐだった。
「ごめん、ごめんなさい……ゆきちゃん、みんな……」
「あかねも、みなみちゃんも! 無事でホントよがった……!」
「うん、ありがとう……!」
「おおきに、ゆきちゃん」
暫くの間抱き締め合う鷲見と黒川。それ以外の面子は微笑まし気にその光景を眺めていた。みんなが無事を喜び合う中、おれは熊野に話し掛けていた。
「熊野、怪我の具合はどうかな?」
高校生組で唯一実害を被った熊野。ミイラ男……とまではいかないけど、全身至るところが包帯でぐるぐる巻きと痛々しい姿をしている。それでも平気そうな様子で笑い、応対してくれた。
「見ての通り、打撲と擦り傷だらけで包帯塗れさ。でもこうして普通に歩けるから大して問題はねえよ。ライトくんこそ怪我とかしてねえか? ヤクザの本拠地へ突撃したんだしよ」
「こっちはほぼ無傷。運が良かったんだろうね」
高城クラスの佐和田相手に実質優勢だったおれと違い、素人の彼では下っ端ヤクザですら力負けしてしまう。連中が不殺を貫いたからこそこの程度で済んでるようなもの。もし殺す事に躊躇が無かったらと思うとゾッとする。
その会話を耳に拾った鷲見が、黒川を抱き締めたまま熊野へジト目を向ける。
「……ホントに生きた心地がしなかったから。ノブが死んじゃうかもって」
「悪かったなゆき。でも惚れた女を見捨てるなんて選択肢は取れねえよ」
「ッ!? も、もうッ……!」
そんな如何にもな格好付けた台詞も、実際に自分の為に必死だった姿を見ていた鷲見には効果ありな様子。瞬間湯沸かし器みたいに赤くなった顔を明後日の方角へ向けていた。
あ。
「ほほう? やっぱりお似合いじゃありませんかーお二人さん?」
「ゲッ!?」
「面倒な人に聞かれちゃった……!」
「酷っ、そこまで言います……!? 流石の私でも泣いちゃいますよ!?」
「藤原先輩の身から出た錆でしょ?」
「石上君にだけは言われたくないですよ……!」
あらら、対象Fさんに絡まれちゃったよ。
「あかね!!」
しかし鷲見と熊野の羞恥地獄が始まる前に、黒川を呼ぶ女性の焦り声がそれを中断させてくれた。
「……お母さん」
黒川の母親が、廊下の奥から血相を変えた様子で走ってくる。
「ほらあかね。ちゃんとお母さんに元気なところを見せないと」
「う、うん……」
鷲見に背中を押され、黒川は自らの母と対面する。親子にとって1日ぶりの再会だ。
「お母さん……あの、私……黙ってた所為で余計迷惑を」
「良いのよ、貴女が無事でいてくれればそれで。……私こそ、貴女が炎上で苦しんでいるのに全然気付けなかった……本当にごめんなさい」
「……あはは、やっぱダメだ。お母さんを泣かせない為に笑って待つつもりだったんだけどなあ」
そう言ってポロポロと涙を溢す黒川を、母親は優しく抱き寄せて頭を撫でる。
「泣いたって良いじゃない、私は貴女のお母さんなんだから。そうやって弱いところも全部見せて欲しいのよ。苦しむ子供を助けるのは、親として当たり前なんだから」
「ッ……うん。ごめんなさいお母さん……そしてありがとう、みんな……!」
炎上により心が擦り減っていた黒川は漸く強がるのを止め、自らを愛してくれる人々に囲まれながら号泣する。彼女は前世のおれと違って独りぼっちじゃない。自分を大切に想ってくれている人がこんなにもいる事を、彼女は改めて理解出来た。
廊下に大きく響き渡る泣き声を咎める者は、誰一人としていなかった。
マリア「ってか『ナックル・“アイ”』だと……? 母さんの名前使いやがって(怒)」
アデン「いやこっちが先に使ってたんですが……」
マリア「でも早坂さんの事は好き! 下の名前母さんと同じだもん♪」
早坂「だから初対面で結構慕われてたんだね、私。まあ別に良いけど」
ミン(何だこのマザコン野郎……)