【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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74話

「アクア、ルビー、マリア」

 

温かく和やかだった雰囲気が一瞬で凍り付いた。

 

その場のほぼ全員の表情が強張り、滝のような冷や汗を流し、まるで金縛りに遭ったかのように動けない。そんな中で名前を呼ばれたお兄ちゃんとお姉ちゃん、そしておれの三人は、壊れた人形みたいにギギギと首ごと視線を動かす。

 

三つの視線が交わる点に、誰もが見知った女性が一人。

 

「良かったー、みんな無事だったんだね♪」

 

いつの間にかみんなの側に立っていた母さんが、それはそれは優しい声でニッコリと笑い掛けてきた。何時もなら実子であるおれ達ですら魅了して止まない美しい笑顔も、今だけはトラウマレベルのホラーと化す。

 

「え、あ……」

「あい……さん」

 

「呼びました?」

 

「「「「貴女じゃないです(でしょ)」」」」

 

この場で何事もなく動ける数少ない人物のボケに、かぐやさん含めた四人で鋭くツッコミ。

 

(早坂さん……この状況でよくボケられますね。おれ達三つ子は欠片も生きた心地がしないのに……)

 

いや、寧ろガッチガチになった場の空気を少しでも溶かそうとしてくれたとか? まあ全くの無駄みたいですけど。

 

「いやー、それにしてもビックリしたよー! 三人がすっごく危ない事してるって聞いてさー」

 

うっすらと開かれた両目に宿る漆黒の六芒星は、目から漏れんばかりに黒い光を放つ。

 

ひぇ、滅茶苦茶怒ってらっしゃる。一昔前に有名になったSIRE○のBGMが脳内でガンガン流れてきちゃう勢いだよ……。

 

「……黙ってちゃ分からないでしょ? 聞いてるの三人とも?」

 

「「「は、はい……!」」」

 

「あ、あわわわ……」

「え? ホントにあのアイさん……アイさん、なの……?」

 

なまじ絶世の美女故に本気でキレた時の姿は途轍もなく恐ろし気で。直接怒気を当てられてない他の人達まで顔を蒼褪め、一部の女の子達は涙目で震える始末である。本来なら歓声と尊敬の眼差しをもって迎えられる筈の国民的大女優の登場に、誰もが真逆の意味で目を奪われてしまう。

 

「「―――きゅう」」

 

あ、井伊野さんと石上さんが泡吹いた。しかしそれを気にする余裕など無く、

 

「今からちょっと大事なお話があるから、ね?」

 

「「「分かりました……」」」

 

おれは生まれて初めて母さんに“恐怖”を覚えた。

 

「ちょ、ま、アイ! 変装くらいはしとけお前……!」

「急にいなくなったと思ったら、先に行ってたんですね!」

「三人ともー、無事かしら!?」

 

その時、廊下の奥から現れ近付いてくる三つの影。社長にミヤコさん、そして紅林だ。どうやら母さんと一緒に此処へ来てたらしい。

 

「はぁ、はぁ……取り敢えず今からでもこれ付けとけ」

 

おれ達の元に辿り着いた社長がキャップとサングラスを突き出すも、母さんの態度はまるで変わらない。

 

「佐藤さん、今はアクア達と話してるの。静かにして?」

 

「ッ!?」

「うぉおおお……(アイさん、なんて威圧感だ。伊集院さんの圧にも負けてねえぞ……)」

 

それどころか紅林も委縮するレベルの圧をぶつけてきた。肉蝮ですらビビっちまう程だ。如何に歴戦の猛者である紅林とて、真正面から受けて正常な精神を保つのは難しいだろう。

 

男二人が真面に動けない状況で、唯一最後に追い付いたミヤコが母さんの肩に手を置いて語り掛ける。

 

「アイ、気持ちは分かるけど今は抑えなさい。みんな怖がってるわ。続きはお家に帰ってからにしましょう?」

 

「……………分かったよミヤコママ。我慢しとく」

 

重苦しい空気が霧散する。

 

あ、ありがとうミヤコ……血の繋がりは無くても貴女は母さんの立派な母親だよ。同時におれ達三つ子は帰宅後の地獄が確定しちゃったけど、それでもほんの僅かに肩が軽くなった気がした。

 

「本当に本物のアイさんだー!!」

 

直後、今までのホラーは嘘だったと言わんばかりにハイテンションなMEMちょが母さんに迫った。まるで押さえられていた蓋が内部からの圧力で一気に吹き飛んだが如く。

 

「あ、君の事は知ってるよ! MEMちょだよね、Youtuberの」

「ひゃい、そうでしゅッ! いや、いやー私アイさんの大ファンれして! 何時かこうひてお会いひたかったんです!」

「め、MEMちょ、アンタ喋り方呂律が回ってないわよ……?」

「しょ、しょんにゃ事ないにょ有馬ひゃん!」

 

……いや、よく見ると小刻みに震えながら母さんと応対している。物凄く怖い、けど憧れの人とお話ししたい、そして少しでも場を和ませたい。MEMちょの中にある複数の感情がごちゃ混ぜになって出力され、傍から見るとヤバそうな状態だ。

 

もっとも、ほぼ全員がMEMちょの意図を察して止めようとはしなかった。別に母さんが怖くて話し掛ける勇気が無かったので、体よくMEMちょを生贄にしたかった訳では無いと思う……多分。

 

内心MEMちょに南無と唱えていると、おれの側にみなみが寄ってきて小さく声を掛けた。

 

「なんかアイさん、単なる事務所仲間にしてはかなりマーくん等と親しいな? それに帰ってからって言うてたけど、一緒に暮らしとるん?」

「アイさんは両親の養子なんだよ。おれ達が生まれる前からね。だから年の離れたお姉ちゃんでもあるんだ」

「そうやったんやな。あのアイさんと家族なんて……羨ましいわぁ」

 

確かに日本屈指の大女優が身内というのは凄い事だろうね。みなみに限らずほぼ全ての日本人が彼女と同じ感想を溢すんじゃないかな?

 

「……まあ、それもあるにはあるんやけどな」

「……?」

 

そう返答した時のみなみの反応は、おれをジッと見詰める事だった。暫く脳みそをフル回転させたところ、彼女の意図に見当が付いてボッと頬を赤く染める。

 

「……あぅ、そ、それって」

「…………まだ分からんよ。未来がどうなっとるかなんて」

 

みんなが母さんとMEMちょの遣り取りに気を取られている中、おれとみなみだけはドキドキしながら互いのみを意識していた。

 

「まずはその第一歩を、今ガチの最終回に……な?」

「……うん、そうだね」

「あと、改めて言いたい事があるんやけど」

「……?」

「――助けてくれてありがとう。とってもカッコ良かったで、マーくん?」

 

「~~~~///」

 

吸い込まれそうな笑顔から思わず目を逸らし、照れ顔をレディース・ジャケットで隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その後、おれは社長夫妻に母さん、お兄ちゃんにお姉ちゃん、紅林、そしてパイセンと一緒に社有車に乗って移動していた。

 

「はぁ、憂鬱……」

 

これから自分達は最愛の母からのお叱りが待っている。そう思うとまるで生きた心地がしなかった。隣に座ってた故におれの小さな愚痴を聞き逃さなかったパイセンが、何故かニヨニヨしながら弄ってくる。

 

「そりゃ仕方ない事よね。安心して、骨は拾ってあげるから」

 

あはは、他人事だからってクソ銃創。今度の走り込みは2時間追加でやらせてやる。

 

「おら、着いたぞ?」

 

おれが細やかな報復に思考を働かせていたところに届く社長の声。気が付けば自宅のマンションに辿り着いていた。

 

「行くよアクア、ルビー、マリア?」

「あ、あぁ……」

「はーい……」

「うん……」

 

車から降り、お兄ちゃんもお姉ちゃんも死んだ目で母さんの後を付いて行く。

 

「じゃあ社長、ミヤコ、パイセン。また明日ね」

「おう……まあ頑張れ」

「アイが怒るのは当然よ。説教は甘んじて受けなさい」

「分かってるよミヤコ……」

「マリア~、ファイトだぞ~♪」

 

「……ピーマン体操」

 

「ゴボッ!!?」

 

挨拶を済ませて車のドアを潜ろうとした時。先に降りてドアを開けてくれた紅林が擦れ違い様に小声を漏らす。

 

「あまり親御さんを心配させてやるな」

 

意外だと思った。あの紅林がその一言でお咎めを済ませるなんて。

 

「……俺もお前と同じように特攻するに決まってる」

 

そうだった、アンタは曲がった事が心底大嫌いだったね師匠。要はあまり強く言える立場じゃないと。

 

「お前は俺から得た力を弱きを救う為に使った。そこは褒めてやるべきだと思ってる。――立派になったな、城ヶ崎。お前は自慢の弟子だ。勿論、アクアくんとルビーちゃんもだ」

「……ありがと。じゃあな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まったく有馬さんも、ああいう揶揄い方はするものじゃないわよ?」

「ごめんなさい……ちょっと羨ましかったんです。私の親は、心配して怒ってくれた事とか殆ど無かったんで」

 

星野家を見送って再発進した車内で、ミヤコがパイセンに先の行動を咎めていた。それに対し、パイセンはバツの悪そうな顔をする。

両親から純粋に身を案じて貰えた事がないパイセンにとって、おれ達家族の姿は自身の考える理想に近かった。それが羨まし過ぎて、つい何時もの口の悪さが発揮されてしまったのだ。

 

「いっそ貴女も母として接すれば良いじゃない。アイもそれを望んでいるみたいだし」

 

ミヤコのその一言にギョッとするパイセン。

 

「な、何故それをご存知で……?」

「アイから直接相談されたのよ。”ママ”って呼んでも良いのにまだしてくれないって」

「で、ですが……いくらなんでも恥ずかしいんですよ」

 

そして己の中に渦巻く羞恥を吹き飛ばす勢いで話題を変えに動く。彼女の視線の先には前の座席にいる紅林だ。

 

「そ、それよりも紅林さん! ルビー達を鍛えてるって仰ってましたよね!?」

「え、あぁそうだが」

「実は……紅林さんで良ければお願いがありまして――」

 

何時何処で牙を剥くか分からない理不尽。それを容易に吹き飛ばしてしまう圧倒的な力。それらを目の当たりにしたパイセンは一つの決断を下す。

 

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