【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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75話

さて、当たり前の事だが此処は自宅であり、この場には星野家の人間しか居ない。

 

「――三人とも、正座」

 

「「「……はい」」」

 

つまり心置きなく素の関係で振る舞える訳である。……母さんが無茶な真似をした我が子等を母として堂々と叱る事も。

 

リビングに移動し、荷物をソファーに置き、敷かれたカーペットの上に正座で並ぶおれ達。それを確認してから母さんも同様に正座して正面から此方を見据える。

 

「どうしてこんな危ない事したの?」

 

闇をそのまま切り取って貼り付けたような六芒星が、おれ達の姿をガッチリと捉え続ける。今度はまるで人形のように無表情で、笑顔と黒星のセットとは違った意味で恐ろしい。しかし心配を掛けた罪悪感もあり、誰一人として目を逸らせない。

 

警視庁にいた頃はだだっ広い空間で、且つ何十人も集まっている状況だった。そのお陰で幾分かマシになってた空気も此処では期待出来ない。母さんの恐ろしいまでの怒気を、冷たく鋭い目線を、おれ達三つ子だけで正面から受け止めなくてはならないのだ。

 

「マリア」

「ひゃいッ!?」

 

真っ先に糾弾の対象となったのはおれである。前科があった為、今回の件が発生した経緯は大方見当が付いてたからだろう。

 

「君でしょ? 先導したのは」

「……はい」

 

言外に”嘘を吐くな”と常時圧を掛けられた状況で誤魔化しなど出来る筈もなく。おれは素直に首謀者である事を認めた。

 

「私、巨人さんが襲ってきた時にも言ったよね? 危ない事に首を突っ込まないでって。それなのに、またやっちゃったんだね? しかもアクアとルビーまで巻き込んで」

「……本当に申し訳なく思っています」

 

母さんはおれ達三人へ、一人一人視線を注ぐ。

 

「君達が強いのはよく知ってるよ。巨人さんの時も、城ヶ崎さんを見送った後に悪い人達が襲ってきた時も、ウチの子達凄いなぁって私思っちゃった」

 

ずっと無表情だった顔が崩れ、次第に悲しそうになっていく。

 

「……でも決して無敵になった訳じゃない。ナイフでお腹とか刺されたら本当に御陀仏かもしれないんだよ?」

 

声も震え、弱々しくなっていく。

 

「私には君達しかいないんだよ?」

 

「もし死んじゃったりしたら、どうするの?」

 

「お願い……もう無茶をしないで」

 

「アイ……」

「ママ……」

 

真っ白な星に戻った菫色の瞳から零れる涙は、おれ達の胸を強く締め付けた。

 

(……あぁ、おれは結局またこの人を泣かせてしまった)

 

静寂なリビングでは母さんのすすり泣く声がよく聞こえる。それが更に罪悪感を強め、深く後悔させる。孤独の辛さを十二分に受けてきた人に、世界一大切な人に、なんて思いを味あわせてしまったんだ、おれは。

 

本当に……ごめんなさい。

 

「……母さん。おれ、怖かったんだ」

 

だからこそ伝えなければならない。おれの偽り無き本心を。

 

「また大事な人が奪われるんじゃないかって」

 

みなみが攫われた時に脳裏に浮かんだのは、愛する二人の母が理不尽に奪われる光景。前世の母は父親に取られてしまった。今生の母は父親が仕掛けたであろうストーカーで命を失いかけた。

 

そんな死よりも恐ろしい地獄が容赦なく脳内で再生された瞬間、何かに突き上げられるような感覚に支配されたおれは、気が付けば反射的に体を動かしていた。

 

「最初は我慢しようとしたんだ。かぐやさん達のように信頼できる大人に協力して貰えて、警察もすぐに動く事になったから……でも」

「ま、マリア? 手が震えてるよ」

「大丈夫、ちょっと嫌な記憶を思い出しただけだから」

 

おれは”恐怖”で震える両手で両膝を強く掴み、心配そうな母さん達の視線を浴びながら続けて言葉を紡ぐ。

 

「そのすぐ後にヤクザに襲われちゃってさ……鷲見や熊野まで目の前で誘拐されてしまった。それを見た途端、もう自分で自分を抑えられなくなっちゃったんだ……」

 

想像しただけでも恐ろしい。もしあの時すぐ動かなかったら? 何もせず警察を待ち続けてたら? 内臓を奪って売る外道が不殺を主張していたとして、どうして信用出来るだろうか。事実熊野は一方的なリンチを受けていて、それを警察が来るまで何時間も続けられていたら本当に命を落としてたかもしれない。あの男が鷲見を諦めるなんて絶対に有り得ないのだから。

 

「今回の件で分かっちゃった……おれの中のトラウマは相当根深いものなんだなって。――だから、ごめんなさい母さん。きっとおれは……これからも止まれない。貴女を泣かせるなんて本当は嫌だけど、でも奪われるのはもっと嫌なんだ」

 

これは母さんの訴えに真っ向から対立するものだ。危険な事からは遠ざかって欲しい母さんと、襲い来る危険からみんなを守らずにはいられないおれ。どちらも失いたくないという願いは共通していながら、その実まるで相容れれない。

 

「俺もマリアと同じ気持ちだったかもしれない」

「おにいちゃん……?」

 

ここでお兄ちゃんがおれの側に回って声を上げた。母さんと、おれを挟んで正座しているお姉ちゃんを交互に見ながら。

 

「……人は簡単に死ぬ。誰かが悲鳴を上げたら、すぐ動かなきゃ手遅れになる。だからマリアを止めようとせず、一緒に無茶をやったんだと思う」

「せんせ……」

 

お兄ちゃんの脳裏にフラッシュバックする二人の人間の記憶。血を大量に流して死にゆく母さんと、不治の病で息を引き取った天童寺さりな。専門は違えど医者でありながら何も出来なかった無力感、それがお兄ちゃんの心を支配していた。最推しの二人とこうして家族になれた、今でもだ。

 

「マリア、アクア……」

 

事実上の反抗に母さんは驚くでもなく、怒るでもない。況してや悲しむでもない。愛する者を失う”恐怖”に苦しむ我が子等を心配そうに見詰め、頭を優しく撫でてあげた。

 

「……どうしても止まれないんだね、マリア?」

「……ごめんなさい」

 

そしておれを見据え、改めて意思を確認する。母さんのお願いを聞けない以上、おれに出来る事はこれしかない。

 

「だから母さん、今ここで約束するね」

 

おれは母さんの手を取ると、真っ直ぐな目線を彼女にぶつける。

 

「――おれは絶対に死なない。例え何があろうと、生きて必ず貴女の元に帰ってくると誓うよ」

 

わざわざ危険に飛び込む理由はただ一つ、みんなを救う為だ。おれだって死にたくはない、みんなと一緒に幸せに生きていきたい。心の底から家族と仲間を愛しているからこそ、おれは誰も欠ける事なく笑い合える未来を強く望む。

 

「おれ自身も貴女も、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、社長にミヤコに仲間達も……そしてみなみも。誰一人死なせはしないッ!」

 

「ッ!」

 

この残酷で理不尽だらけな世界で、おれはおれとみんなの幸せの為に戦い続ける事を宣言する。そのあまりにも強過ぎる意思に母さんは勿論、お兄ちゃんとお姉ちゃんも一瞬気圧されてしまった。

 

「マリア……そこまで言うなら分かったよ。君の意思は物凄く固いみたいだし」

 

母さんは理解してしまう。きっと何を言っても無駄だろうと。おれが決して止まる事はないだろうと。だから彼女に出来る事は大きく一息吐き、小指のみ出した右手を前に持ってくる事だけだった。

 

「約束だよ? 破ったら許さないからね?」

「破らない、絶対に」

 

真剣な面持ちで指切りを求めてきた母さんに、おれは力強く頷いて小指を差し出した。小指同士を絡めたところで、母さんが残る二人にも声を掛ける。

 

「アクアとルビーも……マリアと同じならちゃんと約束してね?」

 

「……分かったアイ、俺も誓おう。俺は死ぬつもりはないし、誰も死なせるつもりもないってよ」

「私もだよママ。あと、もしマリアが死ぬような無茶まで始めたら、私達が引き摺ってでも止めてみせるから」

 

「うん、お願いね」

 

この日、星野家では一つの約束事が交わされるのだった。

 

 

 

 

 

「じゃあ今日は家族みんなで一緒に寝よっか」

「うん、分かったよ母さん」

「やった! 久々に全員一緒に寝れるなんて楽しみ!」

「いや待ってくれアイ、俺は……」

「拒否権はありません。ママを心配させた罰です。みんな今日は一晩中離さないから覚悟してね?」

「……はい」

 

……その日の夜、三つ子全員で母さんに温もりを提供してあげた。




マリアの魂には失う恐怖が深く刻み込まれています。故に条件反射に近い動きで危険へ飛び込もうとします。これは最愛の母ですら止める事は出来ません。

だから必ず生きて帰ると約束する。今回はそういうお話でした。





さて、次話では炎上問題へと切り込んでいきます。

……とその前に番外編を一つ入れるかもしれません。かぐや様視点で失踪事件の後処理に関する話となります。
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