【裏社会の悪魔の転生先は、完璧で究極のアイドルの子でした】(本編完結)   作:Woudy

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水曜日のバグ大で城ヶ崎母のお話があるようで、楽しみにしています。


77話

ゾロゾロと、今ガチ製作陣のスタッフが会議室へ入ってくる。その最後尾を歩く男性は、おれやお兄ちゃんにとってよく知る人物であった。

 

(鏑木さん……)

 

この『今ガチ』と、パイセンとお兄ちゃんが出演した『今日あま』のプロデューサー、『鏑木勝也』。この場における最高責任者だ。

 

――そして何より、過去に母さんと関わりを持った人物の一人でもある。父親を追跡するにあたって彼に情報提供を求めたおれ達は、交換条件としてこの今ガチに出演する流れとなった。その彼は説明役ではないようで、出口の近くの壁に寄り掛かり事の成り行きを見守るつもりらしい。

 

「皆さん。本日はお忙しいところ、急な要請で集まって頂きまして誠にありがとうございます」

 

多くの番組関係者が集う中、鏑木さんに次いで地位の高いディレクターが挨拶もそこそこに本題へと移る。

 

「実は今後の番組運営に関してお話したく思ったのですが――我々スタッフは当番組の打ち切りも視野に現在検討しております」

 

やはり予想通りだったか。それを聞いたおれやお兄ちゃん以外のメンバーは驚きを隠せない。

 

(マーくんの言うてた通りや……)

 

みなみが不安そうに隣の席に座るおれを見る。おれは彼女と目線を合わせてコクリと頷き、みんなの騒めきを遮るように言葉を続けるディレクターへ耳を傾ける。

 

「理由につきましては、やはり例の拉致事件です。現状の皆様の心情を考えれば番組続行は難しいと思っています。――そこで我々は出演者の皆様の希望を窺いたいと考え、この場に集まって頂いた次第です」

 

製作陣としても注目を浴びている現状は最高の稼ぎ時。本音ではおれ達が降りなければ続行したい。だが被害者達の意思を無視して強引に続ければ非難などのリスクも発生する。なので此処でおれ達の意思をハッキリさせてくれ、そう彼等は言ってるのだ。

 

まあ、少なくともおれ個人はどうしたいか決まってるけどね。

 

「私は……このまま続けたいです」

 

その事を伝える為に座ったまま挙手しようとして――その前に黒川の発言に遮ぎられた。メンバー一同、本日2度目の驚愕だ。炎上に誘拐、立て続けに不幸に見舞われた彼女がいの一番に続投を表明したのだから。

 

「明日の撮影にすぐ出れるかというとちょっと難しいですが……最終的には番組へ復帰して、ラストを迎えたい考えています」

 

そう言って黒川は周囲に座っているメンバー全員にそれぞれ視線を送る。

 

「私には心から心配してくれて、助けに来てくれた仲間達がいますから。本当は怖いけど……みんなと一緒なら最後までやりたい」

「あかね……」

「あかねちゃん……」

 

両側に座る鷲見とみなみに見詰められながら、黒川は真剣な表情で宣言する。

 

「それに私はもっと凄い女優になりたいと、今まで頑張って演劇を続けてきたんです。大変な事になっちゃいましたけど……ここで降りてしまったら、きっと私は後悔する。絶対に。だから――辞めたくありません」

 

その時の彼女の両瞳が、一瞬だけ六芒星の光を発したように感じた。

 

大人しそうな外見にして、その実中身は高い向上心と野心で満ちている。最高だ、気に入ったよアンタ。やっぱ猛者はトコトン高みを目指してこそ、だよね。

 

(黒川あかね。彼女は是非とも苺プロに欲しい人材だ)

 

おれが脳内で黒川の移籍の算段を立てていると、彼女の宣言に呼応して仲間達も続投の意思を上げていく。

 

「俺も、このまま最後まで行きたいと思います!」

「私も! ここまで来て打ち切りなんて嫌ですよ!」

「俺も可能であれば、最終回まで続けたいと考えます」

 

最後はおれだけど、勿論答えは決まっている。

 

「――僕もです。中途半端な形で終わりたくはありませんから」

 

「……そう言って頂けると有難いです。では番組は続行、という形で行きましょう」

 

最終的にメンバー全員が続行を希望し、製作陣からは安堵の声が漏れ聞こえた。

 

……さて、ここからだね。まずはポッケに手を入れて、服に仕舞っていた装置を起動させてっと。

 

「ところで皆さん、僕とお兄ちゃんから御提案があるのですが」

 

挙手し、立ち上がったおれは全員から視線の集中砲火を浴びる。鍔の付いた帽子を被った男性――ディレクターさんが代表して聞き返す。

 

「提案、とは何だいマリア君?」

「はい。本番組のイメージ回復の為に、僕達出演者による”僕達目線の今ガチ”動画を作成し、公式チャンネルに投稿したく思います」

 

このタイミングで、おれは全身からほんの僅かに威圧感とオーラを滲み出す。これにより全員が圧を掛けられているという自覚すら抱けないまま、おれから視線を外せず、耳を傾けるようになる。持ち前のプレゼンテーション能力があれば必要のない処置だけど、念の為だ。

 

何せ今のおれは大人相手にビジネスを持ち掛けている、生意気な子供でしかない。とはいえ途中で遮ろうとしても許さないが。みなみと黒川を食い物にしたんだから、反論も文句も言わずに黙って聞いてて貰うよ。

 

「再確認ですが、今ガチにて僕達タレントが出演中に撮影した映像や写真は、同番組公式チャンネルであればアップ可能である。そういう契約内容でしたね?」

「あ、あぁ。それで間違いないよ」

「つまり僕達がそれらを使って動画にしたものを投稿しても問題無い……という意味ですね?」

「そういう事になるね」

 

よし、言質は取った。今の発言はボイスレコーダーで録音しといたので、後で知らぬ存ぜぬしても言い逃れは出来ない。

 

「皆さんも既にご存知でしょうけど、現状今ガチの評価は低いと言わざるを得ません。炎上に拉致事件。この2つの問題により悪いイメージが良いイメージを上回っている状況です」

 

隣でおれを見上げるみなみと黒川の表情が少し暗くなる。いやホントにごめん2人とも! でも、ここで言っとく必要があるんだよ! 2人を救う為にもさ!

 

「僕にとって今ガチは初めての出演番組であり、此処に居る素敵な仲間達との出会いの場でもあります。それが印象の悪いまま終わってしまうと考えると、我慢出来ません。これに関してはお兄ちゃんも同じ想いです」

 

おれの言葉に反応するようにお兄ちゃんも頷く。

 

それにしても、一番の被害者でもあるみなみと黒川が続投の意思を示してくれて本当に良かったよ。もし番組が中止になったら、今ガチという舞台を使ってこの子達の悪いイメージを払拭出来ないし。

さっきもあったように、契約上今ガチでタレントが撮影した映像や写真をアップして良いのは、同番組公式チャンネルにのみ。中止とは即ちチャンネルの閉鎖、つまり”例のシーン”を世に出す事が不可能となる事を意味し、おれが不測の事態を予期して用意しておいた”代案”すら殆ど使い物にならなくなる。

勿論、打ち切りになった場合の別の手段は考えているけど、やはり今ガチで広まった悪い印象は今ガチで吹き飛ばした方が一番だろう。

 

「動画編集はお兄ちゃんのアクアが、映像や楽曲の提供はそれ以外のメンバーで行うつもりでいます。タレントによる、タレント目線の今ガチ。これを持って今ガチの印象を回復したく思います――如何でしょうか?」

 

そこでおれは大人達を見回し、人懐っこくニコッと笑みを浮かべてみせた。しばしの沈黙。しかしゴクリと息を呑む声がところどころから聞こえてくる。

 

(……何だこの子。全く目線を逸らせない。黙って耳を傾けようという気しか湧かない)

 

鏑木さんは冷静そうな表情とは裏腹に心は驚き一色で、冷や汗が頬を流れ伝えていた。自分達プロ相手にビジネスの観点から議論を仕掛けてくる16歳の少年。それも実年齢より幼そうで愛らしい外見の小さい子供が、自分含む全ての者達の中心となり支配している状況。

 

(まるで……アイ君みたいだ)

 

そんなおれの姿が、鏑木さんには一瞬だけ母さんと重なって映った。

 

(プロデューサー……)

 

チラリと鏑木さんを見るディレクター。その視線に気付いた鏑木さんがコクリと頷くと、彼は沈黙を破るように口を開く。

 

「まあ良いんじゃないかな? 写真や映像単体なら兎も角、タレント自身が一から動画作成を手掛けるのは初めての事だけど、確かにイメージアップに繋がりそうだし。こっちとしては別に構わないよ?」

「ありがとうございます」

 

ふぅ、取り敢えず動画投稿は受け入れられたね。

 

……でもまだ安堵するのは早い。あとは”これ”を許してくれるかどうか、大人達が子供を想う心が少なからずあるか、それを確かめる為にも再び口を開く。

 

「――では動画制作にあたって、製作陣の皆様に一つお願いがあります」

「お願い……?」

「はい」

 

「――――黒川さんが誤って鷲見さんに怪我させちゃったところのシーン、その映像や写真をお借りしたいのですが」

 

直後、会議室の空気が凍り付いた。

 

「あの時、カメラマンさん達のカメラは止まってましたけど、定点カメラだけは回っていました。そこの部分を使って黒川さんを元気付ける寿さんと、黒川さんを抱き締めてあげてる鷲見さんのシーンを動画に組み込みたい」

 

映像は無いなんて誤魔化される可能性は先に潰しといた。あるだの無いだの遣り取りする時間なぞ無駄でしかないし。

 

「先程も申し上げた通り、この番組が悪い印象を持たれている要素の一つが炎上です。ただ僕達が楽しくお喋りしているだけの動画を投稿したところで、視聴者に対するインパクトは薄いでしょう。イメージ回復は限定的になるし、炎上への終止符足り得ない。炎上を片付けて強いインパクトを与えるには、『みんなは黒川さんと寿さんの事を誤解しているんだ』と、視聴者に伝える事が一番効果的だと判断しています」

 

そうメリットを交えながら伝えてみたが、製作陣の表情は優れないままだ。というより、難しそうな顔をしている者の方が多い。その内の一人であるディレクターがバツの悪そうな表情で声を発した。

 

「……申し訳ないんだけど、それを渡すのはちょっとなぁ」

 

…………ふーん、やっぱそう言うんだ?

 

「ですよねー。出演者達を悪党に仕立て上げる演出をしてた事がバレる可能性高いですし」

「……理解が早くて助かるよ。僕等がやっているのは『リアリティーショー』というエンタメだ。誰もがリアリティーのあるイザコザが楽しみで番組を見ている。僕等はあかねに何も強制していない。あれはあかねの選択であり、僕等は視聴者に向けて分かりやすく演出してるだけだ」

 

「……」

 

黒川は更に顔を暗くし、膝に置いた両手で裾をギュッと掴みながら俯く。それを両隣にいる鷲見とみなみが寄り添い、縮こまった背中を優しく擦ってあげた。

 

確かに焦って鷲見に怪我させてしまったのは黒川のミスだ。その事実は覆しようがない。でも、だからって悪者みたいに描写され、終わりの見えない誹謗中傷に晒され続けるなんて間違ってる。やらかした事に対して罰は釣り合うべきだ。

彼女を見ろ、今だってこんなに苦しそうにしてるんだぞ。なのにお前等は苦しむ本人の眼前で保身に走るのか? おれの仲間だと承知の上で?

 

……つまり俺を舐めてんだな?

 

「お言葉ですが……子供の未来が周囲の誤解で潰えるのは如何なものかと」

 

『!!?』

 

あ、ヤバい。舐められるとマフィアの顔が徐々に出てきちまう。抑えてあったオーラの量が増え、大人達はみんな少しビビっている様子。しかし俺は構わず言葉を連ねた。

 

「先に黒川さんは自身の夢を語りました。そして寿さんからも僕は夢と目標を聞いています。そんな彼女達が悪い奴という印象を持たれたままな所為で、もしかしたら夢が叶えられなくなるかもしれない。そんな仲間の姿を僕は見たくありません。だから僕等目線の今ガチを作ろうと、思い至った訳です」

 

勿論、番組のイメージアップも含めて、と付け加えとく。

 

「マーくん……」

「マリア君、私達の為に……」

「アクアやみんなも、だぞ。2人とも」

 

ガタッと、勢いよく椅子が後ろに擦れる音。黒川とみなみがそちらを向くと、鷲見が真剣そうに大人達へ訴え始めた。

 

「私も、友達がこんな辛い目に遭わなきゃいけないなんて納得出来ません! お願いします、私達に友達を助けさせて下さい!」

 

「ゆきちゃん……」

 

鷲見だけではない。彼女を皮切りに、熊野、MEMちょ、森本が次々と立ち上がり、保身に走ろうとする大人達と対峙する。

 

「俺もライト君やゆきと同じ気持ちです! どうか協力してくれませんか!」

「私なら最高にバズるタイミングで動画を投稿して、番組のイメージアップにも大きく貢献出来ます! お願いです、映像データを頂けないでしょうか!?」

「楽曲なら任せて下さい。提供して頂けたシーンを最高にエモく演出させてみせますから」

 

「……皆さん、あかねは17で、寿さんは16なんです」

 

最後にゆっくりと立ち上がったアクアが怒気を滲み出し……しかし、それを無理矢理抑えつつ努めて冷静に言葉を投げ掛けた。真っ当な大人なら、いや普通の人間ならば当然の役目を伝える。

 

 

 

「ここで大人が子供守らなくて、どうするんですか」

 

 

 

黒川もみなみも、まだまだ失敗も間違いも起こしやすい、大人が守るべき子供に過ぎないと。

いざという時に守られなかった子供がどんな未来を歩み、どんな末路を辿ったのか、俺自身がよく知っている。きっと裏に生きる者達全てがそれを知っているだろう。

現実は子供でも逆に傷付けるような大人ばかりで、俺達みたいな連中は今も増え続けている。それが少しでも減れば世の中はもう少しマシになるかもしれない。

 

そんな大人と子供の攻防を、当の彼女達は困惑した様子で見ていた。

 

「実は2人には内緒で事前に打ち合わせしといたんだ。みんなお前等を助けたいって、喜んで協力を申し出てくれたよ」

 

俺からそれを聞いた黒川は涙を流し、嗚咽を漏らした。

 

「そうだったんだ。みんな……ありがとう。ホントに、ありがとッ」

「良かったなあ、あかねちゃん」

「うん……」

 

みなみも嬉しそうな様子で、そんな彼女に優しく寄り添うのだった。

 

「――それは、言えてるね」

 

未だに判断を渋る大人達の中で、鏑木が納得したように頷いた。

 

「良いじゃないか。この子達に映像データ、提供してあげなさい」

「鏑木さん……宜しいのですか?」

「あぁ、僕としてはその方が全部ハッピーになると思えたからね。子供も、番組も、全てだ。万が一の時は、僕が責任を取る」

「は、はあ……分かりました。ではそのように致します」

 

最高責任者がそう判断した以上、製作陣は従う他なかった。

 

『ありがとうございます!』

 

おれ達子供組は嬉しさを押し殺しつつ仲間達と顔を見せ合ってから、大人達に頭を下げる。

 

大人と子供の戦いは、事実上子供の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これですべき事はあとは一つだね。最高の動画を作り上げて、みなみ達を助けなきゃ。

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