女海賊【泣跡の鬼神】   作:なゆさん

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遅れてすみません。
腹切って詫びます。多分。


7話

「クソ!! てめぇ!! なんで俺らの邪魔をする!?」

 

新世界序盤にあるとある島。そこで私はある海賊団を壊滅させていた。

 

「黙れ。不愉快だ」

 

そして私はその男に刀を振り下ろした。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

話は数時間前に遡る。

私は鍛錬を終え、酒場で程よく休んでいた。酒場は騒がしくあまり休息には適さないが、自分の船だと歯止めが効かず酒を飲みすぎて金が底をつきかねないのだ。

その時、ある会話が私の耳に届いた。

 

「―――だからよぉ、マジなんだって!!」

「でもよ~、あいつに喧嘩売るのは得策じゃあねえだろ?」

「せっかく見つけた()()()()()()()の弱点だぜ!? あの野郎のせいで俺らがどんな目にあったか忘れたのか!?」

「まぁ、それはそうだが……」

「今日はヤツはここからかなり離れたところで目撃情報があったらしいから帰るには明日の朝まではかかる筈だ。今日しかねえんだよ!!」

 

どうやら、海軍大将『黒腕のゼファー』の話のようだ。私はあったことはないが、大将なだけありかなりの実力者だと聞いている。眉唾でも、弱点の情報なら知っておいた方がいいな。

 

「だがよぉ、あのゼファーの家族だぜ?」

「大丈夫だって! 警備も弱えし貧弱な女とガキしかいねえんだ、殺すのはわけねえ」

「うーむ、それなら……」

 

どうやらゼファーではなく、ゼファーの家族を狙っているらしい。

 

「……チッ、小物共め」

 

ゼファーに復讐したいけど、勝てないから、弱い家族を狙う。それは負け犬の思考だ。ゼファーが憎いなら、強くなれ、策を練れ。

復讐の一貫で家族を狙うならまだよかった。他人の復讐だ。私の関与するところではない。だが、こいつ等は家族を殺す事で復讐を終えようとしている。向上心がない。弱者を殺し、私腹を満たす骨のない雑魚。

そんな雑魚共がこの海にのさばっている。私と同じ海賊を名乗り、弱いまま自由を謳歌しようとしている。

―――不愉快。

 

「不愉快、ああ不愉快だ」

 

最近の消化不良の戦いの数々。それらで蓄積されていたイライラが溢れてくる。弱いくせに、この海にのさばり自由を履き違えて弱者から搾取する雑魚共。弱いくせに、私の逆鱗に触れるのだけはいっちょ前なゴミ。

 

――ああ、殺すか。あいつら全員。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

そして、今に至る。

 

「チッ、腐っても新世界に居座っていた海賊。少々時間がかかったか」

 

夜を狙い、奴らが恐らくはゼファーの家であろう屋敷を襲おうとしたところを皆殺しにしたのだが、数が多い上にそこそこ腕の立つ海賊だったため時間がかかってしまった。どうやらもう随分と朝が近づいてきていたようだ。

海軍の気配が集まってきた。そこには、一際強い気配もある。恐らくゼファーだ。

 

「離脱は……間に合わないか」

 

目の前には海賊の死体とゼファーの屋敷。こちらは無傷だが返り血で汚れている。更にはせっかく音をたてていなかったのにヤツが最後に叫んだせいで無駄になった。

ヤツの声を聞いた海軍は恐らく警戒している。気配は隠しているがゼファーには気づかれるだろう。戦闘なしでの離脱は現実的ではない。通常ならばゼファーと戦う機会に感謝するところだが、今は徹夜明けで正直状況が悪い。

 

「はぁ、帰ったらゆっくり寝よう」

 

ため息を一つつき、私は戦闘に意識を切り替えた。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

大量の海兵を引き連れた、紫色の髪をした男がいる場所へ躍り出た。

 

「お前は……【泣跡】だな? ここで何をしている!!」

 

男―ゼファーは、威圧的に、しかし冷静に私に問う。

 

「本当は今すぐにでも飛び出して家族の安否を確認したいだろうに、大将というのは随分不自由なものだな。ん? 黒腕のゼファー」

 

私は余裕を見せつつそう返す。

 

「貴様まさか!!」

「安心しろ。お前の家族などに興味はない。用は済んだし、今から帰るところなんだ。心配なら今からでも家に帰って家族の無事を確かめるといい」

「……お前を捕えた後、そうさせてもらおう」

 

ゼファーが拳を構える。それに対して私は、

 

「いいだろう。だが、雑兵は邪魔だな」

「――っ、まずい!!」

 

ゼファーを含む海兵達に全力の覇王色をぶつけた。

見聞色で感知した気配では、ゼファー以外に耐えられるものはいない。

 

「さぁ、始めようか!」

 

瞬間、私は刀を抜き、ゼファーへ迫る。

 

「【天刃(てんじん)】!」

 

小手調べの斬撃は余裕をもって躱される。

――やはり強い。気配でわかっていた事だが、かなり洗練された見聞色だ。未来視まで達しているかもしれない。

 

「ぬん!!」

「がはっ――!」

 

ゼファーからのカウンター。黒い拳が私の横腹に重く突き刺さる。

カウンターを予測して武装色でガードした筈なのに、吐血し、吹き飛ばされてしまう。

その武装色の練度は、チンジャオの頭やガープの拳を彷彿とさせた。いや、あれらを上回り得る硬さだ。

 

「まだまだぁ!!」

「チッ――舐めるな!!」

 

刀と拳が激突する。刀を持つ腕にすらダメージを与える程、ゼファーの拳は重かった。

 

(これが海軍の最高戦力、『大将』の実力か!)

 

ガープやセンゴクばかりに目が行っていたが、この男もそれに匹敵する実力者だ。

 

「オオオオ!!」

「ハアアア!!」

 

押し合いは互角、いや、こちらが押されている。

 

「ぐっ!!」

 

押し負ける前に、力を受け流し飛び退く。刀を握る手は、衝撃で痺れて痙攣していた。

 

「どうした、その程度か?」

 

ゼファーは余裕の表情で私を見据えている。その姿に油断は欠片も存在していない。

 

「……いいだろう。眠気も覚めてきたところだ。」

 

ゼファーに大きく踏み込み、全力の覇気を刀に乗せる。

 

「【天斬(てんざん)】!!」

「ぬ!?」

 

ゼファーは咄嗟に武装色を纏いながら身を捩るが、私の刀はゼファーの肩を切り裂き鮮血を舞わせた。

 

「チッ! 浅いか!」

「……少し侮っていたか。」

 

傷を負わせた私は苦い顔をし、傷を負ったゼファーは驚いているものの余裕のある顔をしている。

事実、全力で不意をついて殺しにいった私に対し、ゼファーは私を捕らえようとしているだけだ。それでも形勢は依然として私の不利。

腹立たしい事に、それほど大きな力の差がゼファーと私にはある。更には私のコンディションは万全とは言えない。今の私の勝機など、欠片程しか存在しないのだ。

 

「家族が待っている。すまないが、本気でいかせてもらうぞ。――フッ!!」

 

瞬間、ゼファーが私の横で拳を構えていた。ガープ同様凄まじい練度の【剃】だ。咄嗟にガードする。

しかし、

 

「むん!!」

「ガハッ――!!!」

 

ガードの上からとてつもない重さの拳が私を襲った。

一瞬で意識が持っていかれそうになり、内臓が飛び出すような錯覚を覚える。ガープの、あの覇王色を纏った投げに匹敵する凄まじい威力だ。

 

「ぐっ……ハァ…ハァ……クソ…!!」

「まだ立つのか…!」

 

脳が揺れている。視界がぼやける。血の味が消えない。

気を抜けば一瞬で意識が飛んでしまうだろう。身体の感覚は既にほとんどなかった。

 

「……満身創痍だな。そんな様で立ち上がるとは、その年でとんでもない女だ。――ならば俺も油断なく、この一撃で決着としよう!」

 

ゼファーが拳を構えるのが見える。反射的に、私も刀を構えた。

 

「行くぞ!!」

「ガアアアアア―――!!!」

 

ゼファーと私が同時に踏み込む。

その時、()()()()()()()()()()()()

 

「何!?」

「アアアア―――!!!」

 

一瞬怯んでしまったゼファーに、黒い稲妻を纏った一撃がまともに入った。

 

「ガハッ!!」

 

ゼファーは吐血しながら吹き飛んでいった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……チッ。仕留めきれなかったか」

 

土壇場でようやく形になった覇王色纏い。最高の一撃をまともに当てた。だが、手応え的にまだ気絶すらしていないだろう。相応のダメージは受けているだろうし、かなり遠くまで吹き飛ばしてやったが、このまま戦えば普通に負ける。

 

「……帰るか」

 

疲労感を押し殺し、手持ちの薬で最低限動けるまで回復してから、私は全力で船に走った。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……逃げたか」

 

ゼファーは、見聞色で先程まで戦っていた【泣跡】と呼ばれる齢12歳の少女、アマナの気配が遠ざかっていくのを感じた。

 

「それにしても……」

 

ゼファーは改めて目の前の光景、いや惨状を見る。

ゼファーが吹き飛ばされた先は、ちょうどゼファーの屋敷の前だった。そこには、何十人もの武装した海賊が血の海に沈んでいた。妻や子供の気配はある。

そこに倒れ伏す海賊達には、覚えのある顔がいくつかあった。

そいつ等がここに武装をしてやって来る理由。家族が無事であるという事実。先程の少女が何故返り血を浴び消耗していたのか。

 

「守って…くれたのか…?」

 

理由は分からない。あの少女にはメリットなどない筈だ。俺に恩を売る気なら先程の態度はおかしいし、戦って分かったがそんな事をする人物ではない。

――しかし、理由はどうあれ家族の命を救ったのは事実。彼女がいなければ今頃ここで自分は……家族の遺体を抱いていたかもしれない。

 

感情がぐちゃぐちゃになる。少女への感謝、その少女は海賊であるという苦悩、家族を自らの手で守れなかった不甲斐ない自分への怒りと家族が危険にさらされたことへの怒り……。

 

「俺は…弱いな……」

 

ゼファーは一瞬悲痛な顔でそう呟き、一つ息を吐いて家族の待つ我が家へ歩いていった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

――翌日

 

「引退する!?」

 

海軍の英雄と呼ばれる男、ガープは目の前の男の言ったことに驚愕し、そう叫んだ。隣にいる大将、センゴクも同じように驚きを隠せない顔をしている。

 

「あぁ。俺は、大将の器じゃなかったようだ」

「そんな事は――」

「すまん。もう決めた事だ」

「……ゼファー、一体何があった?」

 

センゴクもガープも、ゼファーという男のことはよく知っている。断じて弱くなどないし、彼が大将であることに不満を持つものなど、海軍には存在しない。そんな男が引退して前線から離れるというのだ。はいそうですかと納得できる訳がなかった。

 

「自分の身の程を知っただけだ。安心しろ。前線は退くが、次は教官として海軍の正義に貢献していくつもりだ。3歳の息子もいる。あいつが俺の後を継げるように鍛えていくさ」

 

そう言って元帥の部屋へ向かうゼファーを、結局二人は止めることができなかった。




ちょっとゼファーさんのキャラが違うかもしれませんが家族が死んでなくて心に余裕があるってことで、納得してほしい。
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